第11話 許婚たち(二)
しゃらん、しゃらん、しゃらん……
しゃらん、しゃらん、しゃららん…
遠い遠い
ゆっくりと進んでゆく行列の人々が、皆白い狐の面をつけていたのも幼い日の記憶と同じだった。
朝の光に雨が混じる不思議な世界は、この幻想的な花嫁行列の
しゃらん、しゃらん、しゃらん……
しゃらん、しゃらん、しゃららん…
ふと、
以前見た時には、
「どうして…?」
大きな
あの日とは違って、花嫁は黒地の
座敷童ではなくなったあやめは、ひとりでどこに行くのだろう?誰に
「大丈夫だよ」
さくらが
「
花嫁行列が、ぴたりと足を止めた。その少し先には、軍服を着た若い青年が立っていた。多分、第二次世界大戦の頃の軍服だ。
(待たせて悪かった)
軍服の青年は、
(とても綺麗だよ。…あやめ)
花嫁の瞳が
走ると行っても、花嫁衣装では足さばきもちょこちょことしか進めない。
それでも花嫁は花婿の居る先へ
(ごめんなさい、
(違うよ。俺の帰りが
青年は、あやめの瞳から
(もう、兄と呼んでくれるな。俺はもう、あやめの夫なのだから。あやめは、俺の妻なのだから)
(はい…。
花嫁は、幸福そうに笑った。
せっかく花婿が目元を
しゃらん、しゃらん、しゃらん……
しゃらん、しゃらん、しゃららん…
鈴の音と共に、狐たちの行列が去って行く。
もう役目は終えたのだと、花嫁と軍服の花婿を残して遠ざかって行く。
花婿と花嫁もまた、
ゆっくり、ゆっくりと遠ざかり、そして幻の様に消えていった。
空は青く。雨が止んでいることに稔流は気付いた。
「…あやめさんは、好きなひとの花嫁さんになれたんだね」
「あやめは八十年待っていた。…やっと
「え…?」
八十年前といえば…稔流は頭の中でざっと計算した。第二次世界大戦の終戦が一九四五年。あやめを迎えに来たのは、軍服姿の青年だった。
「…少し、昔話をしようか」
そう静かに話し始めたさくらは、まだあやめが去って行った方向を見つめたまま、稔流の方を向こうとはしなかった。
「あやめは、
「え…?」
(善郎は、望んだ訳でもないのに長く生き過ぎた)
「
「ああ…稔流は
それは夢の中の出来事のはずなのに、でも本当の事なのだと稔流は自分でわかっていた。そのことを、どうしてさくらが知っているのかはわからなくても。
……そういうこともあるのかもしれない、
「年が少し離れているが幼なじみでもあったから、あやめは善郎を兄様と呼んでいた。幼いながらもあやめは善郎を
「………!」
「座敷童は、成人前の子供のなれの
「…………」
「死んだ子供の全てが座敷童になる
稔流は気付いた。さくらが、あやめの花嫁行列を見送りに行く気になったのは、まだ花嫁になれない座敷童である自分を悲しく思うことよりも、あやめという長年の友人の幸福を見届てやりたいという心を選んだからだ。
でも、稔流に付いて来て欲しいと言ったのには、もうひとつ、別の理由があったのだ。
それは、今まで稔流が気になりつつも無理に
――――さくらの正体を、俺に打ち明けたいと思ったからだ――――
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