第9話 数え十五(二)
コン、と足元で小さな鳴き声が聞こえた。そして、いつの間にかそこに
「…むすび?」
見覚えがある
「ここがお気に入りなの?」
「行っていいのかな…」
稔流は、
「ちっ…むすび。
あからさまに舌打ちされたので、やっぱり来てはいけなかったのかなと思いながら、稔流は庭でさくらと向かい合って立っている相手を見た。
「おい稔流…!」
「ちょっ…わあっ!!」
さくらがつかつかと歩み寄り、むすびを
「いっ…たたたた…、何するん」
だよ、を
「稔流お前…!
稔流は、視界がぐらんぐらんしながら思った。
「あらあら、さくら。
「月も星も上からしか照らさん。はだけても見えんわ」
「目を回してるわよ?お庭で気を失うのは
さくらは
「…さくら」
「何だ」
「俺、うっすら他人に
「馬鹿正直に
暗くてよく見えないけれども、今さくらは真っ赤なんだろうなと思うと少し
「さくらの知り合いで人間の姿なら、よその座敷童かと思ったんだけど…、座敷童とは全然違ったから
もしかしたら、本来は中学生くらいの見かけの『少女』なのかもしれない。でも、
「はじめまして、
「えっ…あの」
稔流は家を
「敬語じゃなくていいです…」
「では、お言葉に甘えて」
月光の下で、振袖という晴れ姿のあやめは、とても華やいで美しかった。でも――――
「どうして、私が座敷童ではない、と思ったの?さくらよりも、私が年長に見えるから?」
「えぇと…『年上に見える』のはそうなんだけど、もっと…」
稔流は、さくら以外の座敷童は見たことがない。あるのだとしても、記憶にない。
でも、
「――――さくらと、全然、
「全然…そうね。でも、何が違うの?」
何と言えばよいのだろう?稔流も
「…全部だよ。あやめさんは、さくらと違って『自由』だから。何を選んでもいいし、どこに行ってもいい。さくらが
稔流は言葉を
――――座敷童だったのに、今は座敷童じゃない…?
あやめは、さいごにさくらを訪ねてきた友人で、座敷童だった。
友人なのは今でも変わらないのに、座敷童ではなくなった――――?
あやめは、驚いた様子で稔流を見つめたが、…ふわりと
「だから、大人の
あやめは
座敷童ではなくなって、
でも同時に、この世の存在ではなくなりつつあるような、今にも月光に
「…ねえ、さくら。私を
「思わないよ。
「ありがとう。…言うと嫌がられるけど、やっぱりさくらは優しいわ」
「最後だ。私のことなど、思いたいように思って行けばいい」
さくらは淡々と言ったが、ふと微笑した。
「今日明日の『一番綺麗』は
「ありがとう。こんなに
音もなく、あやめは背を向けた。金糸と銀糸が織り込められた
お別れだというのに、あやめもさくらも、さよならとは言わない。
「…見送りにいかなくていいの?」
「
素っ気なく言って、さくらは
部屋に戻ると、さくらはごろんと
「さくら」
「子供は寝ろ」
「…それでも、俺とさくらには、もう別れは来ないんだって信じてるよ」
「…………」
ころりと寝返りを打って、さくらが稔流の方を向いた。
「うん…稔流。私も、信じてる」
さくらが、綺麗に笑った。
よかったと、稔流は思った。あっという間に、眠りに落ちていった。
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