第7話 お嫁さんが来た
「
とさくらが言った。
「うん…俺もそう思うよ」
今なら、声に出して話しても大丈夫だろう。
「あのさ…」
稔流は
「ひいおばあちゃん、スイカをふたつ持ってきたんだけど…どういう意味だと思う?」
「時々
さくらは稔流の
「えっ、本当に食べるの!?」
「だめなのか?」
「稔流がふたつ食べたかったのか?欲しければあげるよ。食べかけだが」
「そ、そうじゃなくて」
顔が赤らんだのは、食いしん坊と
「どっちもスイカが食べてあったら、ひいおばあちゃんどう思うんだろ…」
「稔流が食いしん坊だと思うか、でなければ『そういうこともある』とでも思うのではないか?
(そういうことも、あるかもしれないねえ)
そう言えば、稔流がさくらが残していった
シャク、とさくらがスイカを食べる音がした。この音を、曾祖母は聞いたことがあるのだろうか。
「天道村の人って、みんなひいおばあちゃんみたいな感じなの?」
「さすがに令和の
「本家って、うちのこと?」
「ああ、ここは
稔流は、不思議な気持ちがした。
多くの人々が見えている世界に重なるように、別の世界が同じ場所に存在していて、さくらはその両方の世界を当たり前に行き来している存在なのだ。
「……俺みたいに?」
「稔流ほど何でも
「さくらも寂しくなかった?」
「そうかもな。でも……」
さくらは、確かに物思う横顔で何かを言いかけたのに。
「何でもない」
口をつぐんださくらに、稔流はこれ以上
「じゃあ…人間が勝手に妖怪って言っているだけで、神様と同じなの?」
「そうとも言えるな。決して越えられない位や格の違いは当然にあるけれども。ろくな事はしない
「…………」
今さくらが言った『私達』とは、種類が違っても妖怪と呼ばれるものたちだ。
(私達も帰るとするか)
そう言って、手を差し伸べてくれたのは本当のことなのに。
『神とも言える』さくらが言う『私達』に稔流は含まれない。
人間は、決して神様にはなれないのだから。
――――神様になれない俺は、どうすればさくらと結婚出来るんだろう?
つい昨日さくらと再会したばかりで、思い出したばかりで、何も考えていなかったし何も知らなかった自分に気付く。
あどけない初恋のままに花嫁さんになって欲しいと言った、5歳の頃から変わっていない。
河童や狐は必ず守るという約束や誓いさえ、稔流は忘れ去っていた。
忘れていた
「また、難しいことを考えているな?」
むにーっと、両側にほっぺたを引っ張られた。結構力が強い。
「いらいれふ…」(痛いです)
「
ぱっとさくらがほっぺたを放してくれた。
「…今度はにまにま笑うのか。訳が分からん」
「何でもないよ」
未来が見えなくても、ふたりで一緒にいたいと想う気持ちは、本当だから。
「嬉しかっただけだよ」
「何よりだ。私には、稔流の笑顔が一番大切だから」
「…………」
「取り
「…………」
稔流は、げほごほとむせた。
「そう言えば、スイカも赤いな」
「…欲しいならあげるよ」
「私は、
……そうだね、と稔流もスイカをさくりと食べた。
「俺も、さくらが一番大切だよ」
笑顔の時も。そうでない時も。
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