第6話 無事カエル
土間に続く玄関の引き戸は、やはり開けっぱなしだった。
天道村の家の
「…ひいおばあちゃん、いる?」
「ああ
「え?…あ、ただいま……」
稔流がさくらと一緒に墓地から出て行ってしまってから、多分2時間くらい経っていると思うのだが、それでも神隠しの前例があるにしては
稔流は曾祖母が怒った所を見たことがないのだけれども、ちょっとは心配されるだろうし、母なら心配
「稔流ちゃん、そこ気を付けて。
「うわっ!」
稔流は、
稔流の後ろから、さくらがひょこんと
「この家の辺りに
都会っ子の稔流は、両生類も爬虫類も得意ではないが、さくらはカエルを
「ああ、稔流。コイツには触るなよ。毒があるから危ないぞ」
「思い切り触ってない!?」
「座敷童には
タタタ、とさくらは走って行ってしまった。
「ひいおばあちゃん、この辺りに手を洗う場所ってあるの?」
「台所で洗って
「えぇと、そうじゃなくて、外にある?」
「井戸があるよ。でも深くて危ないからこっちにおいで」
稔流はさくらの行き先を知りたかっただけなのだが、一応山道を歩いたり
「…ひいおばあちゃん」
「何だい?」
「
「
あれ、とは。土間に戻ると、まだいた。
「……このカエル?」
「そうだよ。カエルは『無事帰る』っていう
「…………」
そんな
「そうか、お前お
井戸から戻って来たらしいさくらが話しかけると、ヒキガエルはさくらの言葉を理解したかのように、ぺたりぺたりと歩き出し、外に出て行った。
「さ…」
むぐ、とさくらに口を
「私に話しかけるとひい
それまでずっと普通に会話していたから忘れていた。ひとりで
「ずっと手を
さくらは、髪に
「私が気に入らないものを押し付けるのは申し訳ないが、それも私の一部には
「…………」
赤い花びらは確かに稔流の手の上にあるのに、稔流とさくらにしか見えないのだろう。
そして、さくらは以前言っていた通り、本当に椿の花が嫌いなのだろう。
「どうかしたか?」
(…この花びら、
「どこでもいいよ。ポケットとやらでも」
(しわくちゃになりそう)
「しわくちゃでも
「…………」
さくらの一部なら、稔流は大事に持っていたいのに。たとえさくらが嫌いなものであっても。
「稔流ちゃん」
曾祖母が台所から戻ってきた。スイカを
「これでも食べていなさいな。稔流ちゃんが帰ってきたって
「…お父さんとお母さんが、こっちに来るの?」
「帰って来たって言うだけだよ。会いたなら呼んで来るよ」
「ううん」
稔流は首を
「会いたくない。何も…聞きたくない」
申し訳なさそうにする両親の顔を、見たくなかった。稔流が
でも、今まで
それでも、今の稔流には、両親が何を言っても取り
そして、大人の巧みな言い訳に、稔流はいとも簡単に傷付くことも、わかっていた。
だから、聞きたくない、何も――――
「そうかい。稔流ちゃんはゆっくり休んでなさいな。スイカも冷たいうちにお食べ」
曾祖母は全開の引き戸から出て行った。
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