第12話 天神様の細道
「…もう、苦しくはないか」
「え…?」
ぎゅっとしがみついていたはずなのに。いつの間にか、少女は
「うん…苦しくないよ」
体がとても楽だ。少女が飲ませてくれた不思議な甘い何かが、体にも心にも甘くあたたかく
「私達も帰るとするか」
「…あ!」
「何だ?」
稔流は、キョロキョロと
「お馬さんがいない!きゅうりのお馬さん、だいじなお馬さんなのに」
あのきゅうりの馬がないと、『ごせんぞさま』が帰って来られない。
「ほらほら…もう泣くな」
少女は苦笑して、赤い着物の
「心配いらないよ。あの馬なら、もう迎えに行った。そろそろ
「たいち…?」
稔流は思い出した。緑の少年が言っていた名前だが、誰のことかわからなかった。
「
「ひいおじいちゃん…」
(
(
「きつねのこ、ってなに?」
「河童め…
少女は、
「髪やら目やらがきつね色の者のことを、《狐の子》と呼んでいる。秋の
稔流は、ぼくも人間なんだけど…とちょっと困ったが、先回りするように少女は続けた。
「ああ、稔流は馬鹿ではないよ。
白い少女が
「さあ、もう帰ろう。稔流の
「…うん」
「無理をしなくてもいいぞ。
「い、いいよ!歩けるから!!」
「…ふふ、そういうことにしておくよ。…ほら」
差し出された白い手は、稔流と同じくらいの小さな手。稔流も色白なのに、少女の手はもっと白い。
「…ゆきみたい」
「髪か?まあ、稔流から見れば変だろうな。河童の緑の髪が許せるのなら、私の髪もそのようなものだと思っておけ」
「ち、ちがうよ!」
確かに白い手よりももっと真っ白だけれども、お人形のように整った顔の
「へんじゃないよ!ぜんぜん、そんなこと、ないよ!あのね、まっしろで、まっすぐで、きらきらしてて…!」
稔流は、
「きれいで…ゆきの、いとみたい」
雪の糸。
稔流は口にしてみて、本当にそうだと思った。
雪はふわふわ
きっと、光が
「そんな、それこそ綺麗な言葉は、初めて聞いたよ。稔流」
稔流の隣で、少女が綺麗に笑う。
「幼いうちから殺し
「ころし…?」
「ふふっ、心を
難しいことを言う。稔流は生まれつき小さくて、5歳の今でも周囲の子供の成長に追い着けていない。
稔流と同じくらいの
「…ねえ、なんさい?」
「女に
「どうして?」
「そういうものだ。理由はまだわからなくてもいい」
何だか、少女の口ぶりは大人が子供に対して言うような
「ぼく、5さいなのに…」
「知っているよ。
「知りたければ教えてやるが、私の見かけは多分数え五つくらいだ。稔流が5歳だという
「ねんしょうさん?」
「それは、幼い子供が
くすりと『多分数え五つくらい』の少女は笑った。
「違うよ。私は人間ではないから、そのような場所に
「…………」
稔流は、自分は
親がいない。自分より年下に見える女の子が、そんな事を言うなんて。
「気にするな。妖怪とはそういうものだよ。親から生まれるのではなく、川の水の
稔流は何も言っていないのに、心を読んだかのように少女は言う。
わからない。この子の言うことは難しすぎて。
手を
「…とーりゃんせ、とおりゃんせ」
(こーこはどーこのほそみちじゃ)
「ちーっととおしてくだしゃんせ」
(ごようのないもの とおしゃせぬ)
少女が歌うと、誰かが
「このこのななつの おいわいに」
(おふだをおさめに まいります)
「いきはよいよい」
(かえりはこわい)
「こわいながらも とーおーりゃんせ」
(とおりゃんせ…)
ふたつの歌声が
「近道だ。天神様の細道を行けば早く帰れる」
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