第10話 童女神(一)
その少女は、幼いのに夢まぼろしのように綺麗で、美しかった。
夢でも幻でもない、その黒い瞳が確かに
「もう大丈夫だよ。稔流は私が守る。私が
そう優しく言ったのに、綺麗な女の子は立ち上がりぐるりと周囲を見渡して、打って変わって地を
「お前達…よくも稔流を
その瞬間、空を引き
――――逃げようとした。
「逃げられると思ったのか?…この、私から!!」
またピカッと金の蛇のような光が闇夜を走り、直後にもっと近くで落雷の音がした。雷とは違う輝きと共に、バリバリと大きな音を立てて大木が
「こんなに腹が立ったのは何年ぶりだろうな。…ふふ、百年思い返しても覚えがないよ」
少女は笑った。でも、稔流にはこの白く美しい少女が、言葉の通りにとても怒っているのだと伝わってきた。
――――かみさま、みたいだ――――
いつか、父が教えてくれたことがある。
神様は、心から
だから、人間は神様を大切にお
うやまう、という言葉は幼い稔流にはわからなかったが、この時稔流は、敬わなくてはならない理由ならば、わかったと思った。
白い少女は、とても優しい声と目をしていて、とてもあたたかくて、稔流を迎えに来てくれた。でも、今怒っている少女は、緑の子供やお面の子供が泣いて逃げ
恐ろしいのに、
「火の結界を張った。破れるのは姫神様か天神様くらいだろうよ。河童と狐ごときが、今更無事で逃げられると思うな。稔流を
「ちょっ…ちょっと待ってくれよ、なし!」
緑の少年が
「みのるは、狐の子だけじゃねーんだぜ?水の子だよ。オレ達と同じだから、オレ達だって気に入ってんだよ」
「…水の子?」
なし、と呼ばれた少女はビリビリとした圧倒的な空気を
「もう一回、言ってみろ」
「みのるって名前、
「…ほう、
少女の怒りに
「水の子だと…?
「うわあぁぁん!」
稔流と同じくらいの背丈の、幼い青い子供が座り込んで泣きながら訴えた。
「みのるは、おなじっていったんだよ。おさらも、こうらもないっていったんだよ。あたしたちのかおも、あおくないし、あかくないし、くちばしもないんだよ」
狐面の男の子もべそをかいた。
「みのるには、おれたちが狐のお面をかぶった人間に見えてるんだよ。着物を着てて2本足だって言ったんだよ」
「そうだよ、狐は誰もみのるを
「……は?」
白い髪の少女は、呆れたように
「河童と狐が人間の訳がなかろうが。ひとの姿を持っている私ですらそうでないというのに」
(人間じゃ、ない……?)
稔流には、思ってもみなかったことだった。
緑や青の髪色でも。どんなに走っても飛び跳ねても白い狐面が少しも動かず、本当の顔のようにぴったり貼り付いたままでも。
同じじゃないなんて、思わなかった。稔流だって、保育園の他の子供と違って金茶色の髪と金色がかった目をしていても、それでもともだちだったから。
稔流を助けにきてくれた、とても綺麗な女の子が、「敬わなければならない」小さな神様のように見えても。
――――同じじゃない、人間じゃないなんて――――
「稔流が
強い風に、少女の白い髪と赤い着物の
稔流は、自分の
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