第5話 大人になったら
約束を思い出せなくてもいい、なんて。
そんな、いつか来る別れを
さくらなら、
「約束は、守る
実は、その約束を
稔流は、もう
「さくら、……大人になったら、俺の
「……………………」
つまり、足りないものは稔流の
最初の約束から、稔流は5年分大人に近付いたのに、今言う方が
神隠しの時の方が、見かけだけは、さくらと
でも今は、
(始めから、何も
そして、返事が欲しいくせに、その返事が
「稔流」
「…うん」
「手を
「…そうかも」
「いいから、男なら堂々と目を見て話せ」
格好悪くても、稔自身がまだ子供でも、男らしくなくても、
稔流は、深々と下げていた頭を上げた。
目線が、自分の方が高い。
稔流は、
さくらは、雪の糸のような髪も、同じ色の長い
稔流だけが、時間のままに流されて、さくらから遠ざかっていた。
「あの…、返事、欲しいんだけど」
「…ふむ。どうしたものか」
さくらは目を細めた。
「今のは、約束と言うよりも、今時の言葉でプロポーズとかいうものではないのか?」
「……………………」
うわああああああ、と稔流は
でも、今度はさくらは笑わなかった。
「大人になるのは、お前だけだぞ?稔流」
「私は、
子供の姿をしているのに、その口調も表情も、人間の子供のものとは違う。
稔流は確かに成長したのに、さくらは変わらないのに、追いかけても追いかけても追い着けない、そんな気がしてきゅっと
「俺は、さくらがどんな
「どうして、私に
この問いは、ただ
「人間は、人間と
「……
稔流は、はっきりと答えた。
「俺は、そうじゃない。俺のさくらは、ひとりしかいないから」
「…………」
またさくらが
だが、さくらはふふっと風の
「俺のさくら、か。悪くない」
「…………」
稔流は
「稔流がそう言うなら、そうなのだろうな」
さくらは
「…さくら」
「何だ?」
「俺は、からかわれるのは好きじゃないんだ。勇気を
「…………」
「さくらから見れば、俺は
こんな
「俺は、どうせ傷付くなら『嫌だ』とか『無理だ』とか、はっきり
小さなお姉ちゃん、みたいな少女の思わせ
「三度目の正直だよ。四度の勇気はないから」
稔流は、ゆっくりとひと
「さくら。俺が大人になったら、結婚して。俺が知っているような結婚にはならなくても」
そして、さくらは返事をした。
「喜んで」
「……………………」
「何故、
「だ、…って、よ、喜ぶの!?」
「当たり前だよ。ずいぶん長い時を渡ってきたけれども、名無しの私に春の花の名前を付けたいなどと思い付いたのも、『俺のさくら』と言ってのけたのも、私に
「…………」
稔流は、自分は何て
「それに…。私という
「……うん。俺も、嬉しい」
稔流は、そっとさくらを
こんなに、あたたかいのに。
でも、さくらは確かにここにいる。想い出も今この
「俺を、ずっと覚えていてくれて、ありがとう、さくら」
幸せだと、思った。
生まれて初めて、永遠を
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