第3話 大切な記憶
初めて、《さくら》はお前ではなく《
自分の名を、こんなにも優しく
この少女が呼ぶ時だけ、稔流は自分の名前が特別で、大切な
「……さくらっていう名前、ずっと
「
まるで弟を見守る姉のような
伝わって来る。
忘れていた稔流に「気にするな」と言ったのに、さくらという名と存在を思い出して
あの、《
稔流は、はっとした。いつか、曾祖母が不思議な話を聞かせてくれたことがある。
この村は、かつては今よりもずっと、
それなのに、遊びの
でも、増えたりいなくなったりした《誰か》が
しかし、誰も覚えていなくても、その子供は確かに存在するのだと曾祖母は言っていた。
(この家にも、昔から住んでおるよ。稔流ちゃんのひい
その小さな守り神を《
さくらが
さくらだけが子供のまま、周囲の人間は成長し、さくらの姿を見ることが出来なくなり、大人になり、老いて、そして死んでゆく。
さくらだけを、この家に残して。
稔流は、泣きたい気持ちになった。どうして、今まで忘れ去ってたのだろう?
《
早く帰れるようにと、《
そのことを、さくらはずっと覚えていて、稔流が5年の間ここを
(名は無いよ。だから、《なし》と呼ばれている)
(でも、なしなんて、かなしいよ)
(だから…)
「さくら…って、名前を付けたの、俺だったのに。今まで思い出せなくて…、忘れていて…ごめん」
胸が痛いくらいに悲しくて、稔流は
「…ふ」
「さくら…?」
「ふ、ふ…っ」
あはははは、とさくらは笑い出した。
「稔流、いつから『俺』呼びなのだ?
「重要なのそっち!?」
稔流は本当に心から
「あのね…さくら。僕キャラは、保育園の年長組辺りでほぼ
幼い頃の稔流は、ほんわりと
でも、小学三年生の時、同じクラスに『ぼく』が自分ひとりだけだと気付いて、急に恥ずかしくなって『俺』に
なのに、『俺』にしたらしたで
――――
「ねえ。さくら」
「ふふ…っ、何だ?」
さくらは、まだ
「人間と座敷童でも、
「……さて」
さくらは、やっと笑うのを
「お前がそう思うなら、そうなのではないか?」
呼び方が、お前に戻った。そして、さっきまで笑い転げていたのに、心なしか
「何で
「
……それを、怒っているというのでは?
と稔流は思ったが、言えば一層さくらが
さくらは、稔流のことをずっと覚えていてくれた一方で、もう稔流にはさくらの姿は見えないし忘れていても当然だと
予想外のポイントで大笑いしたけれども、《さくら》を稔流が思い出して、さくらは本当に嬉しそうだった。
『ちっちゃくて可愛いぼく』も『さくらよりも大きくなった俺』も、この不思議な
となれば、さくらが
「おい、そんなに
さらりと「
お前ではなく、また稔流と呼んだのも、
さくらのこんな横顔は、以前も見たことがあると、いつかの
違うのに。
自分がまだ思い出せなくても、それがとても大切なことだという事は、稔流にもわかるのに。
音もなく、さくらは
「もういいから、これでも食べて
さくらが
売ってはいそうだが、
「…さくらって、お金持ってるの?」
「安心しろ。お前のひい
「…………」
くすねてきたのに、どう安心しろと。
「このお
「知らん」
稔流は、母を思い出した。怒って見えるのは――――悲しい時だ。
「…っ、さくら!」
稔流は追いかけて、とっさにさくらの手をぎゅっと
「何をする。妖怪でも
「あ…、ごめん…」
稔流は力を
《神隠し》の時は、さくらの方が手が大きかったのに。今
それでも放さずにいたのは、さくらが怒ったまま
やっと、思い出せたのに。
まだ思い出し切れていない、《とても大切なこと》を忘れたままなのも、さくらに悲しい思いをさせたままなのも、イヤだ。
(その約束は、忘れてもよい。子供はよく覚え、よく忘れるものだ)
(わすれないよ!やくそくは、まもらなきゃダメなんだよ。ぼくは、ぜったい、-------)
「…どうした?
「どうせ、俺はお
言われなくても、自分の顔が真っ赤なのはわかる。
――――やっと、《とても大切なこと》を思い出せたから。
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