第2話 白い少女
道が急にアスファルトになった、と思ったらトンネルが見えて、入口に『平坂トンネル 長さ3113メートル』という表示があった。
山を3キロメートル以上突き抜く一般道のトンネルは珍しい。出口が見えないトンネルを父が運転する車がひたすら走ってゆき、後続車もなく対向車と全く
やっと行く先に光が見えてトンネルを抜けると、
「ほら
ずっと続いてきた道路から
父の実家は、村の中では比較的
「父さん、母さん、ただいま」
父が
…そうだった。この村は、
実は、アポ無しでも玄関から入るのはまだ
二階の部屋を自室に
「あらあら、お帰りなさい。
そして、気付いた。父は当然のように「ただいま」と言い、祖母は「お帰りなさい」と言うのだと。
――――稔流が、ただいまと言って帰ったマンションには、もう帰れないのに。
母と稔流は「よく来たねえ」という《外》の者なのだ。ただし、母の祖父はこの村の出身なので身内感があり、娘に近い感覚で「
小学5年生の稔流は、ちゃん付けは
「…お
稔流は、何だか
でも、5年の空白の間に、稔流はもう祖母に飛び付いて甘える年齢ではなくなっていて、どう
「上がって休みなさいな。お父さーん!
この『お父さん』というのは、稔流の父・
どうして、
「お母さん」
稔流は靴を
「俺、外にいてもいい?」
「…どうして?」
いつもは明るい母の表情が、
母こそ、一体何が気に
「座りっぱなしで
「どうかしら…?前もご飯の時はこっちだったと思うんだけど」
「行ってみる」
絶対にお庭から出ちゃダメよ、という母らしくもない
夏の日差しが強くて、キャップを
本当は、稔流には
立派な
その
(ねえ、どうしてひとりでふるいいえにいるの?)
(落ち着くからね。それに…)
曾祖母が、
大正時代に建てられたという平屋の古民家は、柱が
何だかお化け
畑に曾祖母の姿が見当たらないので、稔流はそのお化け屋敷みたいな古い家に行ってみようと思った。
(ばあちゃんはね、ひとりじゃないんだよ)
(ほかにだれかいるの?)
(いるよ)
曾祖母は、井戸で冷やしたスイカを切り分けて皿に
(時々、食べに来よる)
(いっしょにすんでるひと?)
(そうだよ)
(だれ?)
そう言えば、
「…ふうん?
小鳥のような、鈴を
さっきまで誰もいなかったはずの
5、6歳だろうか。とても
「もう戻って来ないはずだったのに、
「…………」
言葉も出ずに立ち尽くす稔流を見上げて、少女はじーっと稔流の瞳を見つめた。その仕種はあどけないのに、 黒い瞳は夜空のように美しく、そのまま吸い込まれてしまうような気がした。
「ふうん…?見えてはいるけれども、私のことは
「…………」
「そんな顔をするな。人間は、成長して大人に近付けば、私の姿が見えなくなる。…私はそれでも良い」
悪くない、それでも良い、と少女は言ったのに、その微笑が少し寂しげに見えたから、胸の奥がチクリと痛かった。
そして、どうやら稔流を子ども扱いしている様子の少女も
不思議なのに、不自然ではないのが、やはり不思議で――――
稔流が返答に
「…前に会ったことがあるの?」
「気にするな。今のお前が思い出せなくても、あの時のお前が
「…………」
(お前は、
稔流は、立ち
真っ白な髪も、出会った
――――きっと、初めてじゃ、ないんだ。
(ゆきの、いとみたい)
稔流の
自分の声だ。稔流の
「さくら……?」
髪に赤い
真っ白な髪は、夜の
(はるは、すき?)
(
(じゃあ、はるのおはなならいい?)
さくら、と
「そうだよ。
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