第9話・火星の権利と、利権と我儘
火星地下に存在する、巨大移民船。
その調査を行うべく、八雲はセネシャルと共に『蜘蛛型多脚砲台』を大改造。
地下採掘用のドリルを始めとした、様々な兵装を次々と開発しては搭載、実験という日々を繰り返している。
もっとも、八雲にとっては時間は有り余っているようなもの、のんびりと趣味の錬金術をフルに駆使しつつ、丹羽から連絡があったら『魂保有生体転送術式』の構築に時間を費やしていた。
なお、丹羽本人は空間系魔術を修得しているため、座標さえ知ることが出来れば転移術式により地球と火星を自由に行き来することは可能。だが、八雲は賢者であるため転移に必要な『空間術式』を修得することができない。
これは神が定めた『必然』であり、大魔導師が神聖魔術を身に着けることができないように、世界のルールによって定められている。
ゆえに、空間術式を用いない転移術式などという、とんでもない魔術を二人で構築していたのである。
そして、蜘蛛型多脚砲台の改造が始まって10日後。
「……まあ、こんなところじゃないか?」
『そうですな。ここまで仕上げれば、あとは実践あるのみかと思われますが』
北部ゲートのある地下施設で、八雲とセネシャルは完成した『採掘用蜘蛛型多脚砲台』を見て満足そうにうなずいている。
日本人男子の浪漫であるドリルアームを二脚、採掘した砂礫を回収するためのアイテムボックスを一つ、硬い岩盤を溶かすための『炎術放射脚』を二脚、そして移動用脚が4本。
形状もより流線形となり、よりスタイリッシュな姿に変貌している。
「そうだね。それじゃあ、行ってみようか?」
『畏まりました、八雲さま』
『はい、今回は私もご同行させていただきますので……ご主人様とセネシャルさまの二人で、楽しそうなことをしているなんてずるいじゃないですか!!』
「はいはい、それじゃあみんなでいきますか。別に、数日留守にしていたからって泥棒が入り込むとは思えないしさ」
地球から火星にやって来て空き巣を働ける泥棒がいるのかと問いたくなってくる言葉に、セネシャルとフラットが苦笑する。
そしていよいよコクピットに乗り込むと、目標地点まで地上を走破したのち、採掘作業を開始することとなった。
〇 〇 〇 〇 〇
――同時刻・中国
中国国家航天局(宇宙開発機構)のスタッフルームでは、火星観察衛星から送られてくる映像に頭を抱えていた。
巨大モニターに映し出されているのは火星地表の拡大映像、そして赤き荒野を爆走する巨大な6輪装甲車。まるで子供たちの描く未来の物語一つが、スクリーンの向こうに実現していたのである。
世界のどの国よりも早く、火星で有人探査を行おうと計画を立てていた中国にとっては『出し抜かれたか』という嫉心と同時に、艶羨の眼で六輪装甲車を眺める研究者たちの姿もあった。
そして国家主席がスクリーンを見て立ち上がり拍手を始めると同時に、一人、また一人とStaff・関係者たちも立ち上がって拍手を始める。
「……我が国の悲願の一つ、それがこのような形で実現されるとは……このあとは、どうするつもりだね?」
曹国家主席としては、このまま一個人に火星の権利を与えておいていいのか、我が国の宇宙開発はどうすかるつもりだと問いかけたのであるが、そう問われた人々は固く口を閉ざしてしまう。
ここで迂闊な発言をしようものなら『では、そのように』の一言で終わってしまう。
つまり、火星の開発計画の見直し、風祭八雲との交渉・篭絡など、やらなくてはならないことが目の前に溢れ出してくるから。
特に火星開発は長期計画であり、それを知っていたからこそ曹国家主席も中国国家航天局の『やや怠慢ともいえる』計画に目をつぶっていた。
他国との競合はあれど、有人探査などどの国も夢また夢の世界。
どこかの国でその計画が始まったとしても、それらの情報はある程度把握できる。
それならば、さらに他国が動き出してからさらに上を目指せばいいと思っていた矢先の、この映像である。
そして、誰もが言葉を濁そうとすらしない。
これでも地方の各省、直轄市、軍などから選ばれたエリートなのかと心の中で呟きつつも、曹国家主席は立ち上がると、彼らに聞こえるように言葉を紡いて、部屋から出ていった。
『諸君の成果を、期待する……』と。
〇 〇 〇 〇 〇
――火星・地下埋没移民船
地表から採掘を開始した八雲たちは、4日を掛けて地下に埋没している移民船の真横までたどり着く。正確には初日の段階で船体真横までトンネルを試掘することに成功したものの、外壁に穴をあけて侵入・調査するのではなく、エアロックなり倉庫区画の搬入用ハッチなりを発見し、そこから正式な手順で侵入する方法を模索していたのである。
そして結果的に、船体側面・上面・下面に沿って縦横無尽にトンネルを試掘し、下部搬入用ハッチ部分と側面に幾つかの巨大なエアロックを確認。
そして上面の艦橋部分を発見し、その側面に設置されていたエアロックから内部に侵入しようと準備をしてやって来たのであるが。
「……でかいよなぁ」
『はい。これはちょっと予想外です。エアロックのタイプはオーバーウオッチの突撃艦などによく使われている『内壁三重構造』、この内側に上下左右に閉じる扉が三重に設置されています。また、それの隙間には粘性の高い魔力素材が注入されており、内部と外部を隔絶しているようですが』
『この……高さ4.8メートル、幅6.2メートルの大きさのエアロックともなりますと』
「人間が乗って動く起動兵器のハッチの可能性が、高いっていうこと?」
セネシャルとフラットの言葉に続くように、八雲も顎の手を当てつつドヤ顔で呟く。だが、彼の言葉を受けて二人は目を丸くしたのち、フフッとほくそ笑んでしまった。
『八雲さま。それは人間基準での話ですね』
『この移民船に乗っていたと思われる人種はギガント種かと予測できます。つまり、地球人準拠の移民船ではないという事です』
この二人の説明に、八雲は頭を捻ってしまうものの。
『宇宙人は地球人と同じ外見である』という漫画・アニメの影響によって知識が偏っていたことに気が付くと、思わずポン、と手を叩いてしまった。
「あ~あ、そういうことか。それで、どうやってこのエアロックを開くんだ?」
『電源、もしくはそれに近しいものが生きているならば、外部からのコントロールで開くことは可能です。少々お待ちください』
「それじゃあ、俺も……って言いたいところだけれど、ここまで妙ちくりんなものを調べる鑑定魔術はないからなぁ。すまないけれど、頼むよ」
『お任せください』
『このタイプの移民船は、襲撃したことかありますので大丈夫です』
フラットのとんでもない言葉にアハハと苦笑いしつつ、二人の調査が終わるまでは蜘蛛型多脚砲台のコクピットで待っていることにした。
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