第8話・地下遺跡? いえ巨大移民船です
いつものように、のんびりと応接間でお気に入りのアニメを見ている八雲の元に、セネシャルが報告書を手にやってくる。
ちなみにフラットは夕食用の食材の下ごしらえのため、キッチンから離れられなくなってしまっているので、今日の八雲ののんびりタイムのお茶菓子・飲み物はセルフサービスである。
「ん? いつになく上機嫌だけれど、なにかいいことでもあったの?」
『はい。先日回収した無人探査機などを解析したのち、倉庫に保管されている素材を使って地上走行用の特殊車両を開発しました。その試運転がようやく完了したため、そのご報告をと思いまして』
そう説明したのち、セネシャルは報告書を八雲に差し出した。
オート・マタの二人に対しては、基本【八雲に害をなさない】【八雲の生活を脅かさない】という二点さえ遵守していれば、ある程度の自由は与えられている。
【侵略国家オーバーウオッチ】によって作られたオート・マタは人工知能を有しており、感情表現だけでなく個人としての人格をしっかりと持ち合わせている。
そのため、与えられた仕事以外の余暇は、自由に使ってよいことになっていた。
そしてセネシャルから受け取った報告書には、6輪装甲の大型地上装甲車と、8脚の蜘蛛型地上歩行起動兵器(自立式多脚砲台)の写真が添付されている。
「……うん。セネシャル、僕たちは何と戦うのかな?」
『八雲様に害をなすもの、全てですな。まあ、多脚砲台に設置されているマギ・カノンは飾りですので、ご安心を』
「あ、飾りなのか……それならまあ、いいかな。それよりも、これって実稼働実験はしたの?」
『はい。ドーム都市周辺のみですが……って、了解しました』
セネシャルの説明を聞いているうちに、八雲の厨二病の芽がむくむくむと生えて来る。
六輪装甲車の外見的デザインなど、一昔前の科学雑誌でよく見た『未来の火星の想像図』にでてくるような大型車両であるし、多脚砲台に至っては、八雲が昔見ていた『反政府解放戦線をモチーフにしたアニメ』の政府側が使用していた砂漠走行型多脚砲台そのものである。
そのようなものを見て、目をキラキラさせないロボットオタクがいただろうか、いやいないと断言しよう。
セネシャルと八雲は急ぎ支度を整えて、六輪装甲車の停留している北部ゲートに移動、万が一のために『外界環境適応腕輪』を装着したのち、さっそく装甲車の乗り込む。
「うっわ、ほんとうに雑誌で見たような内部構造なんだなぁ。メインジェネレーターは、アプサラス型魔導エンジン?」
『いえ、サラスヴァディ型ツインドライブです。小型化に成功したので、実験的に搭載されています』
この二つの動力は、共に【侵略国家オーバーウオッチ】の齎した技術。
魔導と科学の複合式ジェネレーターであり、搭乗している人間の魔力
感知吸収し、増幅することによりエネルギーを得ている。
排出する魔素ガスも人体などの生態系に悪影響はなく、むしろ植物の育成に大きな貢献をしているので、八雲は量産して片田舎に動力炉として設置していたこともある。
「ふぅん。色々と改良しているんだねぇ」
『それはもう。では、参りましょうか』
車体正面に設置されている、透明な半球状のコクピットに八雲とセネシャルは移動。八雲はコクピット中心に設置されたキャプテンシートに座らされ、セネシャルは正面中央の操縦席へ。
そして地上車両を操縦し、解放された北部ゲートから外に出る。
一面砂漠のような、赤い荒野。
そこを六輪装甲車がゆっくりと走り始めた。
「うん……子供の時に見た夢だよなぁ。それがこんなふうに、現実になるなんて想像もしていなかったよ」
『はっはっはっ。八雲さまが昔見た雑誌というのは、ひょっとしたらこの光景を想像して描かれていたのかもしれませんね……と』
不意に、セネシャルが空を見上げる。
車内のセンサーを使い、高感度カメラで上空をモニターに移し出した方がよいのだが、そのカメラよりもセネシャルの眼の方が精度が高いため、今は実視で確認している。
そのセネシャルが見たのは、ちょうど真上を周回中の観測衛星。
中国が打ち上げた観測衛星【天問1号】の周回機が、ちょうど頭上を横切っていった。
『あの高度からの精密調査は難しいでしょうな。まあ、ローバーが着陸して活動しているようですから、地表の探査はそちらに任せているのでしょう』
「なるほどねぇ。ちなみにだけれど、セネシャルはどこまで調査を終えてあるんだい?」
八雲も、ただセネシャルがドーム都市の管理だけをしていたとは考えていない。
だから出た質問であるが、帰ってきた言葉は八雲の予想をはるかに上待っていた。
『ドーム都市の周辺、直径10キロメートル地点までの表層調査は完了しています。現在は地表より地下、中層の調査を行っていましたが、ちょっと煮詰まってしまいまして』
「ふぅん、セネシャルでも煮詰まることがあるのか。それって、どういう状態なんだ?」
『ええ、ですから、言葉で説明するよりも直接お見せした方がよいかと思いまして……と、間もなく現地に到達します』
六輪装甲車が速度を落とす。
そこは巨大なクレーターの中心地に近い場所。
六輪装甲車がゆっくりと停止すると、セネシャルがエアハッチから外に出で、地面をゆっくりと見渡している。
やがて目的のものを発見したのか、セネシャルが数歩進んだ場所で立ち止まると、無線でコクピットに通信を送って来た。
『八雲さま。この真下、地下600m付近で大きな金属反応があります。私のセンサーで観測した結果は、全長25キロ、幅10キロほどの人口構造物。構造物の高さについてはまだ詳しくはわかりませんが……恐らくは、大型移民船かと推測できます』
「ふぅん……って、今、なんていった?」
『この地下に、異星人の大型移民船が埋没しています、と簡潔にご説明しますが。いかがなされましょう?』
突然、地球人以外のオーバーテクノロジーが埋まっていると言われても、八雲にとってはどうしていいものか判別がつかない。
まだそこに異星人が存在しているのか、いつ火星にやって来たのか、そもそも平和的なのかという疑問が頭の中をめぐり始めた。
「待って、ちょぉぉぉぉぉぉっと待って。なにそのマクロスの15倍もある巨大移民船って」
『オーバーウオッチでは、ごく普通に存在する移民船団よりも小さいですね。センサーで確認したおおよその識別データでは、このような移民船はオーバーウオッチは保有していない筈です。可能性としては、彼らによって滅ぼされた星系の民が、遥か過去にこの太陽系に移民しようとしていたと推測できますが』
「……はぁ。それを調べる方法は?
『多脚砲台を、地下採掘用に改造。のち移民船まで掘り進んだのち、私とフラットが内部に潜入……というのが、もっとも効率がよいと推測できますか』
単体戦闘力では、セネシャルは勇者に匹敵するといっても過言ではない。
また、調査・分析能力についてはフラットも常人をはるかに超えたオーバースペックを保有している。
ただ、この移民船の調査に時間をかけすぎるのはどうかというのも、セネシャルの意見であった。
「う~ん。一度、家に戻って検討してみようか。確かに地下にそんなものがあるのなら、気になって仕方がないし。かといってドームの管理を怠るのも問題だからなぁ」
『畏まりました。では一旦、お屋敷まで戻ることにしましょう。それに』
そう告げてから、セネシャルが胸ポケットから懐中時計を取り出した。
『まもなく夕食の時間です』
「はいはい。今日はどんなメニューなんだろうねぇ」
『フラットが腕に縒りをかけた逸品かと』
「それは楽しみだねぇ、それじゃあ、この話は食後に続きをっていうことで」
『畏まりました』
そのままセネシャルも六輪装甲車に戻ると、エアハッチで体表面の放射性物質などを洗い流したのちコクピットへと戻っていく。
そして自宅に戻り、のんびりと食事をしていたものの、セネシャルと八雲だけが楽しそうになことをしていたということでフラットが拗ねてしまったのはいうまでもない。
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