第10話・異星人は、予想外の姿でした
セネシャルとフラットが、火星地下に埋没している移民船のエアロックを開くために調査を開始してから2時間後。
ようやくエアロックを開放するためのものと思われる外部基盤部分が隠されている壁面を発見。そこを開いて解析を行ったものの、残念なことに内部電源は停止しているため、力任せに開くしかないという報告をセネシャルから受けた。
そのため、八雲は自身の身に着けている魔術から『金属を切断する術式』を選択し、さらに一点集中による超火力・貫通力を高めると、それにより人間大の大きさにエアロックの一部を切断。
そのまま内部に侵入すると、すぐさま魔力壁の術式で穴をふさいだのである。
「……ちなみにだけど、内部電源は死んでいるんだよね?」
『はい。外部からのアクセスも不可能でした。今は、外界環境適応腕輪を外すことのないようにお願いします』
『敵性存在がいた場合は私たちが対処しますので、ご主人様はご安心を』
「うん、頼りにしているからね。と、それじゃあ、先に進もうか」
頼りにしている、その言葉でセネシャルたちは奮起し、今まで以上に周囲に対して注意を払いつつ、先へと進むことにした。
幸いなことに、侵入した場所は艦橋部分から少し離れた場所であり、艦橋に向かえばこの移民船の所有者が誰であるからぐらいは想像がつくとセネシャルは判断。
八雲にそのことを告げたのち、まっすぐに艦橋へと向かっていったのである。
――30分後
高く広い通路を、魔法の明かりで照らしつつ八雲たちは進んでいた。
そして当初の目的であった艦橋部分に到着すると、再び重厚な扉を魔法で焼き切り、内部へと侵入する。
「……うん、映画の世界だな」
『なるほど。この移民船の所有者はパンテラール種の生命体でしたか』
「んんん? パンテラ種?」
『パンテラール種ですわ。四足歩行二本腕の獣人型生命体です。ご主人様に分かりやすく説明しますと、巨大な虎の身体で、頭部からワータイガーの上半身が伸びていると想像していただけますか?』
「んんん?」
フラットの説明を受けて、八雲は頭の中でイメージを始める。
要は、虎獣人のケンタウロス型だと理解すると、フラットにサムズアップをしてみる。
「ああ、納得がいったよ。でも、この光景を見ただけで、どうしてすぐに理解して……ああ、そういうことか」
環境を見渡しただけでは、フラットやセネシャルでも判断するのは難しい。
だが、その痕跡が残っていたとすると。
セネシャルが靴音をコツコツと響かせつつ、コンソールの一部に近寄っていく。
そこにはミイラ化したパンテラール種の遺体が横たわっていたのである。
それも一つではない。
艦橋部分のあちこちに、そうしたミイラが転がっていたのである。
『どしうて彼らが、このような姿で死んでいるのか……いえ、なんとなく想像はつきますが』
「この艦内と外部の大気構成がそれほど変わっていないからなぁ。恐らくは船体になんらかの以上が発生し、呼吸困難で死んでいった……というところか?」
外界環境適応腕輪により観測した情報、それを読み取って八雲なりの結論を出したのであるが、彼の言葉にセネシャルたちも頷いている。
『おそらくは、そうなのでしょう。さて、これからどうしますか?』
セネシャルが八雲に問いかける。
このままパンテラール種のミイラを放置しておくのか、外に出して荼毘に伏すのかといった意味合いも含まれるが、それは全て主人である八雲の決断。
このまま何もせず放置すると言えば、セネシャルたちはそれに従うのだが。
「そうだなぁ。セネシャル、このパンテラール種の移民船の構造は把握している?」
『構造ですか……ええ、何度か奇襲を行ったこともありますので、ある程度は把握していますが』
「そっか……動力は?」
『水晶振動体による、クゥオーラ動力炉かと』
「んんん? まあ、それが何なのかは聞かないわ。それってさ、修復可能なの?」
八雲は、この船を修復して動かせるようになるのか知りたかった。
好奇心半分ではあるものの、せめてこの移民船の住民だけは弔ってあげたいと考えると、まずはこの船全体の内部構造を知る必要があると判断。
さすがに全長25キロもの宇宙船の内部構造全てを調査する魔術式など、八雲は持ち合わせてはいない。だから移民船を稼働させたうえで、艦橋の端末を操作できないかと考えたのである。
『修復は可能かと。そのうえで、移民船の制御はフラットが可能です』
『はい、私はこのタイプのコンソールシステムは把握していますので』
どうして知っているか、などという疑問は口に出すことはせず、八雲は頷いて見せる。
「それじゃあ、この移民船を動かしてみようか。内部にいるだろうパンテラール種の遺体を集めて、せめて土に還してあげたいからさ」
火星の大地に埋葬したところで、自然分解されるかどうかは八雲も疑問である。
他にも宇宙葬などいろいろと手段も考えたのだが、せめて大地で安らかにという日本人的発想にたどり着いてしまったのは仕方のないことであろう。
そしてこの日から、セネシャルとフラットはこの移民船に残り再稼働できるように様々な調整を行う。
八雲もまた、毎日朝には移民船に通い、夕方までは二人のアシストをするように努めていた。
そして移民船の発見から一か月後、ようやくクウォーラ動力炉の修復を終えると、艦橋部分に新たに『人間サイズの制御システム』を完成させたのである。
………
……
…
セネシャルとフラットが移民船の修復作業行っている最中、八雲もまた、二人のサポートを行いつつ、移民船の中を調査していた。
そしてミイラ化している遺体を発見してはアイテムボックスに回収し、いつか全員を天に召すことができる日まで、時間の停止している空間に安置することにしたのである。
そして無事に移民船の修復が終わった日、八雲はセネシャルらを伴って再び艦橋にやってきた。
「それじゃあ、さっそく起動してみようか?」
『畏まりました。では、まずは動力部から参ります』
セネシャルが新たに追加されたコンソールに近寄り、幾つかのスイッチを入れていく。そして起動鍵として新たに追加された『鍵たる剣』をコンソール中心のスリットに突き刺すと、そこから魔力を注ぎ込んでいく。
――フィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
やがて船体が静かに鳴動を始めると、艦橋内部のシステム全てが点滅を開始。
そして正面上部に存在するモニターが白く輝くと、画面いっぱいに地中が写し出される。
『八雲さま。動力炉の起動完了です』
「それじゃあフラット、艦内の生存者を確認。あと、僕が回収しきれていない遺体も全て探してくれる?」
『畏まりました、少々お待ちください』
滑らかな手つきでフラットが端末を操作する。
すると、艦橋の正面、左右のモニターが分割し、次々と艦内の映像が映し出される。
『ご主人さま、対象である遺体のある場所を艦内地図にてマーキングします。同時に、艦内自動修復システムも起動、損傷部位の自動修復を開始します』
「頼みます。それでさ……」
八雲が問いかけたかったのは、生存者がいるかどうか。
だが、八雲の問いかけを瞬時に理解したセネシャルが、頭を左右に振っていた。
『この船体が損傷し、空気が失われたのは今から1万年以上も昔の事です。その後、主を失ったこの移民船を制御していた魔導頭脳もまた、休眠期に入っていたかと思われます。残念なことに、私たちで魔導頭脳を目覚めさせようとしましたが、経年劣化により記憶媒体が何か所か損傷しており、休眠期から脱するまでは時間が掛かるかと思われます』
「それじゃあさ、僕の
『可能性はかなり低いかと。八雲さまの
セネシャルの説明に、八雲も納得すると、フラットの作業が終わるのをじっと待つことにした。
そして3日後にフラットの作業も終わり、艦内の遺体全てを探し出して回収すると、八雲はその全てを火星の地表に集め、神聖魔法の『浄化の大炎』により天界へと送り届けた……。
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