第4話

 コーン、コーン

 コーン、コーン。……ごとり。


 ふう、と手首で汗をぬぐう。やっと倒れてくれましたわ、このブナの樹。この樹が加工されてダイニングテーブルセットになり、やがては誰かの夕餉を包みこむことでしょう。想像するだけでウヒウヒです。

 SUICAのペンギンの水筒から、麦茶を喉へゴクゴクゴク。ぷはー、おいしい! 麦茶はやっぱり伊藤園の『健康ミネラル麦茶』に限りますね! クセがないというかなんというか。鶴瓶師匠の笑顔も元気をくれていい感じ。スーパーで買ってヒイヒイ言いながら持って帰らなくても、Amazonで注文すれば家の前まで届けてくれるのだから最高。さぁ、今すぐAmazonのページを……って、わたしは誰に対して営業をしているのでしょうか?


 わたしは作家活動を行うと同時に、『家具の国ゆめさと』のお手伝いをしているのです。名前を聞いておわかりでしょうが、こちらは実家の家業になります。わたしはまだ見ぬ誰かの笑顔を想像しながら今日も斧を振るうのです。


 それじゃ次の樹、いきますわよー!

 ぽかぼかフレンドタイム――――――――ッッ!



 と、ひと仕事を終えて帰ってきました。


 秒でお風呂へ。大鏡に裸身を映します。

 嗚呼……なんと可憐な……なんと妖艶な。毎日毎日見ているのですが、これがわたし? ふあぁぁぁぁ……pixivに載せたい。載せたいですわぁぁ……(二次絵で)。通天閣付近を跋扈しているオッサンどもがこの肢体を見れば鼻血必至、場合によっては異世界転移まであるわね。毎日ストレッチ運動で静筋せいきんを鍛えた甲斐があるというもの!

 さてこの身体はどの殿方に捧げ……加州? 鶴丸? あるいは藤四郎……うわーどうでもいいわ! 寒いわ死んでしまうわ!


 お風呂上がりに、PCでSNSを開けました。

 久しぶりですね。ここ一週間は原稿とブナ斬りに追われていたため、ようやくお友達と遊ぶことができます。あと、言一こといちさんにもこの一週間の出来事をお話したいなぁ。言一さん……あれ? メッセージがきてる?


 ぶ。


 ぎゃあああぁぁぁあぁぁぁぁぁっぁああぁぁぁあ!(鼻血)


 はわわ、と目を線にして、笑顔で後傾するわたし。

 これは本当、本当ですか?

 夢ではないですよね。これ、人類が現在送付可能なメッセージですよねトリプルコークフォーティーンシックスティー!

 言一さんから、こんな……いやっ、すぐにお返事しなくては!


『言一さん、こんにちは。お返事が遅れて申し訳ございませんでした。

 今、わたしの胸がトクトクと鳴っております。幸せ。ただ、その想いひとつです。わたしも言一さんのことを、異性として好いております。お慕いしております。

 以前にお会いしたさい、言一さんはコーヒー豆のことについて、目を輝かせてお話されていましたね。このような目をされる方はきっと、世界の全てを原色でご覧になることができると感じたのです。

 それに、わたしへのお気遣いもありがたかったです。じつは一通目のメッセージをいただいたとき、友達への言葉かと思い、わたしの気持ちを伝えることができませんでした。だから今、本当の言葉を送ります。

 わたしりゅうは、言一さんのことが一人の男性としてだいすきです』


 にゃっはー! 頭から蒸気がプシューと爆発する。

 いったー! やってしまいましたー!

 しかし、コーヒー豆のくだりは蛇足だったかしら。……いいわよね、蛇さんに脚があってもいいものね。言一さんだったらきっと喜んでくださるわ。



(――アノフクロウヲ、ユックリコトコトト、ニタイ――)



 あらあら、はしたないわ、わたしっ!


 ……ん、もう一通メッセージがきていますわね。あら、森野もりのさん?

 森野さんはいつも愉快な方だわ。今回は作家友達の似顔絵を想像で描いてみました、ですって? あはっ、おもしろい!


『森野さん、こんにちは。楽しい絵を描いてくださりありがとうございます。つい吹き出してしまいました!』

『えーへへへへへ、ほんとですか! やったーほい!』

『ね、今日、とてもいいことがあったの』

『なんすかなんすか? このこのこのー!☆』

『ひ・み・つ!』


 ムクドリの歩様がごとく、軽快なタイピング。今日のわたしは最強ですっ!

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