第5話 友達の手伝い
「史愛、来週の水曜大丈夫?」
「えーと、うん大丈夫だけど…なにか約束してたっけ?」
「やっぱり、忘れてると思った…先輩が会ってくれるって言っただろ」
「ああ、学部の…?」
「忙しい人だから、その日逃すと…」
「わかってるって…大丈夫…だけど」
悠乃の学部の先輩で脳科学を研究してる人と会ってみないか?と言われたのは2週間前のことだった。会って少し話すだけだからと悠乃は言ったけど、それだけでわざわざ先輩を呼んでくるはずはないのもわかってた。
「心配することないよ、優しい先輩だから」
「…うん」
不安な気持ちを見透かされて、言葉が上手く出てこない。黙ったままでいると悠乃のスマホが鳴った。
「…うん、いやそれは一度断ったんじゃないですか…いや今はちょっと」
電話の内容はわからないけれど、なにか揉めていることは悠乃の声を聞けばわかる。
「悠乃、私もう行くから、約束あるなら、そっち優先して」
「あっ、いや…ちょっと待って…」
悠乃の返事を聞く前にその場を離れた。私がいなければ、悠乃はもっと広く人と関われるはずなのに、いつも私を優先しすぎてしまう。私の見る記憶のせいで悠乃や美海に迷惑をかけてしまっていることも十分自覚しているが、私自身がそこから抜け出せてないのがもどかしくもあった。
「史愛、お昼行こー」
友達の香織が大きな荷物を抱えて現れた。
「あれ香織、その荷物どうしたの?」
「ああ、これ?この後、ちょっとね」
「ちょっと?」
「史愛も行く?部活のなんだけど、人多いほうが助かるし」
大学の入学式で隣り合わせた香織は、街を歩くとすぐスカウトされるぐらい美人だ。高校まで女子校で体育会系だったせいか、ぬるいサークルよりガッツリ部活がしたいと言って、数々の誘いを断って強豪のラクロス部に入った。経験者でもないのに運動神経と感の良さですぐにレギュラーになって、今や主力選手だ。
「部活のボランティアで地域の小学校に行って運動教室するんだ」
「運動…教室…」
「ハハ、史愛に運動させるわけないじゃん。教えるのは教育学部の先輩達。私達は、道具の準備と子供たちの補助だけだから」
大笑いしながら、袋に入ってる運動用のコーンやラダーを見せてくれる。
「良かった。運動しないのなら行ってもいいよ。どうせ暇だし」
「じゃあ、決まり。お昼食べよう」
上機嫌の香織といっしょに学食に向かった。お昼を済ませて、歩いていける距離の小学校につくと、香織の指示に従ってコーンを並べて、白線を引く。思った以上に人がいて整列させるだけで一苦労だった。
「助かったー、この人数では無理だったー、ありがとう史愛」
スポーツドリンクを手に香織が現れて飲んでいると、目の前に見たことのない男性が立っていた。
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