第4話 幼い日から…

「ゆーのー、しあがまたないてるよ」

 幼い頃遊んでいて、史愛が泣き出すと美海が俺を呼びに来る。でもいつもというわけではなく、春の桜の時期だけだと気づいたのはかなり大きくなってからだ。

「ねえ、しあってびょうき?」

「ちがうとおもうよ」

「じゃあ、なんであんなにないたりおおきなこえだすの?」

「わかんない、わかんないけどびょうきじゃないって、しあのばあちゃんがいってた」

 前触れも泣く泣いたり叫んだりしてる史愛を心配して、史愛のばあちゃんや母ちゃんが病院をまわったけど病気らしい兆候はなにも見つからなかった。精神的なものも心配されたが日常生活の史愛はいたって普通で、発作のように起きるのは、感情の起伏が幼いから制御できないということで落ち着いた。

「ねえ、ゆの、わたし、なにかおかしいのかな?」

 病院通いが続いた後、運動場のすみで俺に弱々しく史愛が聞く。

「おかしくなんかないよ、しあのかあちゃんもばあちゃんもなんでもないっていってたろ?」

「…うん、でも、でもわたし、へんなものがみえるの」

「へんなもの?それはなに?」

「…わからない、でもたくさんのひとがおこってるの、それでそれでないてるの」

「…」

「ちがいっぱいでててね、それがこわくて…おどろいて…ないちゃうの」

「それかあちゃんにいった?」

「いちどいったらゆめでしょ…っていわれた…それからはだれにもいってない」

「…うん」

「…ゆのはしんじてくれる?」

「…うん、しあはうそいったことないし、おれはしんじる」

 幼心に言った言葉は、嘘じゃない…わからないながらに史愛のことを信じたいと思っていた。史愛が見た話を聞いていくうち、幼い時は何もわからなかったが、大きくなるにつれ昔の時代のことなんじゃないかと思い、史愛と美海と一緒に調べはじめた。服装や髪型でおおよその検討はついたものの、なんの謀反なのかまではわからなかった。その時代の謀反が意外に多くて、一つに絞ることが難しかったのもあるが人物の名前などがはっきりとわからないことも要因の一つだった。

 前世…生まれ変わり…どれも現実的ではないけれど、説明のつかないことなんてこの世にはいくらでもある。史愛の見たものがどれに結びついているのか…俺たちの考えは行き詰まってしまっていた。


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