第2話 桜の季節だけの記憶

「ばあちゃんのプレゼント決まった?」

 悠乃とショッピングモールに着くと人で溢れている中を並んで歩く。

「うーん、パジャマと帽子で迷ってる」

 いつも行く雑貨屋さんの隣にできた洋服屋さんの帽子が可愛くて、パジャマを見ることもなくプレゼントが決まった。

「史愛、少し休む?」

 人混みに疲れているのを悠乃に見抜かれて、モールの端にあるコーヒーショップに入った。

「座ってて、頼んでくるから」

 一緒に並べばいいのに過保護な悠乃に座らされて、仕方なくぼーっと人を見ていた。


「ねえ、あの並んでる子モデルみたい」

「ホントだ、かっこいい」

 斜め後ろにいる女の子達が騒いでるのは、きっと悠乃のことだと思いながら、その後の彼女たちの反応も想像できて、少し体を縮めた。小さくなるわけでもないけど、私という存在そのものを隠してしまいたかった。

「お待たせ、はい」

 悠乃が私の横に座ると、案の定女の子達は、こそこそと聞こえるぐらいの陰口を叩きながら席を立っていった。

「どうかした?」

「ううん、ありがと」

 ホイップのたくさんのった茶色の飲み物を飲み始めると悠乃が誰かに名前を呼ばれた。

「瀬田先輩?」

「あれ神木デート?ごめん、じゃました?」

 カウンターから一直線に悠乃に向かってやってきたのは、悠乃とはまたタイプの違う男前だった。

「デートじゃないです、買い物付き合ってもらっただけなんで…」

 悠乃が答える前に急いで答えると笑いをこらえて悠乃の肩に手をかけた。

「お前、まだまだみたいだぞ、頑張らないと」

「余計なお世話です、先輩はどうしたんですか、一人なんて珍しいですよね?」

「待ち合わせだけど早く来すぎたから」

「彼女ですか?」

「いや桐生と」

「桐生先輩ですか?珍しいですね、こういうとこ苦手なんじゃ…」

「ああちょっと理由があってな」

 二人の会話が続いていたからか、ぼんやりと外を眺めてると急に周りの騒がしい音が消えて、いつもの声が聞こえてきた。


「謀反の罪で…」

「呪詛の人形と札が…」

「最後の挨拶を…」

「流刑の地で…」

 誰かを見送りながら、桜の下で涙を流す女性…何度も同じ場面が途切れ途切れの言葉と一緒に現れる。桜の季節に落ち着かなくなる原因の一つはこの記憶のせいだった。頭が割れるほどの衝撃だった最初に比べれば、今は冷静に見ることができる…それでも見た後にどうしようもないほどの大きな悲しみが襲うのはどうやっても慣れることはなかった。この季節だけの記憶…大きな大木の桜が散ると現れなくなる記憶が私を苦しめていた。


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