桜が咲く頃、もう一度あなたのそばにいられたら

@MOYOHA

第1話 大木の桜

 いつから、その大木の桜があったのか…曾祖母ちゃんが小さいころにはすでに大きな幹だったと言っていた。百年は優に超えているはずのその桜は壮大で荘厳で悲しげで力強い花がもうすぐ咲くことは大きな蕾を見れば、一目瞭然だった。


「史愛?またここにいたの?悠乃くんが来て待ってるわよ。約束してたんじゃないの?」

「あっ!忘れてた。ばあちゃんの誕生日プレゼント買うの付き合ってもらう約束だった。母さん、これ片付けて、ごめん!!」

 家の裏にある桜の木の前に広げたレジャーシートの上に散らかした絵の具とスケッチブックを指さして、母親にごめんのポーズをして駆け出した。

「悠乃、ごめん!!すぐ支度するから、ちょっと待って」

「いいよ史愛、そんな焦んなくても、じいちゃんが相手してくれてるから」

「そうだぞ、史愛。今わしが勝ってるから、すぐには行けんぞ!」

 ほぼ黒になりつつある盤面を嬉しそうに見せて、嬉しそうなじいちゃんの後ろにいる悠乃にごめんのポーズをして、自分の部屋に飛び込んだ。


 桜の季節が近づくと、そぞろになる気持ちを落ち着かせるために桜のそばを離れない私を心配して、家族や幼なじみの悠乃が外へ連れ出そうとしてくれる。絵の具のついた服を脱いで、ピンクのシャツと水色のシャツどちらかで迷って、結局いつものクリーム色のシャツを着て、悠乃のいるじいちゃんの部屋に迎えにいった。


「悠乃、じいちゃんにいつも負けてあげてるけど、余裕で勝てるよね」

 玄関を出ると、悠乃が手渡してくれたサンドウィッチを口にしながら問い詰めると笑いながら「そんなことないよ」と言う。

「じいちゃんは時々考えてもいないような手をだしてくるんだ。史愛ならすぐ負けちゃうかもな」

 頭の良い悠乃に勝つことが、今のじいちゃんの楽しみだとわかってるのか、ことあるごとに、対戦して負けてくれる悠乃は優しい。

 

 もう一人いる幼なじみの美海、悠乃、両親、祖父母みんながこの時期の私に優しくて…それが私には余計辛くて、心がざわついてしまう。無意識に桜のそばで1日中過ごしていた小さい頃、取り憑かれてると思ったじいちゃんと父さんが桜の木を切ろうとした。私のいないときにチェーンソーで木を切ろうとしたら、突然私が泣きながら倒れて、チェーンソーが動かなくなってしまった。木を切るのを諦めた後も、心が抜けたように桜のそばにいた私。その度に切る切らないでケンカしてたけど、最近は諦めて少しでも違うことで気を紛らわそうとしてくれる。春が来たら日替わりで外に連れ出そうとしてくれるみんなに申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



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