第42話 応急処置
えっ!!
全く想像をしてなかった。
女の子??
なのか?
かろうじて、黒に覆われていないところからは、白い肌が見えている。
(うぐっ。うわぁぁぁ。)
このうめきごえも、みんなには聞こえないようだ。
なぜ・・・。
これは、ぼくだけに聞こえてる声。
杜人の資質。
だとすれば、この子は・・・
「精霊・・・なのか?」
場の雰囲気が変わった。
「精霊?そなた、この者を精霊と申すのか!!?」
ヒノキが荒ぶった声を挙げた。
「まさか、精霊が。怪異をここに連れてきた?」
「ということはじゃ、この精霊界には怪異と通ずる者がいるということじゃな」
「えぇ、アンタと意見が一致するなんて、しゃくだけど、アンタの考えは、私の考えと同じよ」
「おぃ!聞き捨てならなぁ。そなたの考えが、妾の考えと同じなのじゃ」
「いや、逆よ!」
「いいや!」
「あのぉ、お客様方」
おぉ、さすがヨコグラ師匠。
このバチバチの雰囲気に割って入るなんて。
さすがすぎます・・・。
「横から大変失礼をいたします。この者をどうするかもそうですが、エノキ様のことが気にかかっております。エノキ様は、私めをかばって、負傷なさった上、申し訳なく思っております。まずは、エノキ様の応急手当をさせていただいてもよろしいでしょうか」
「そうだ!エノキさん!しっかり!!」
「はっはっは!エノキよ、だらしないのぉ」
「ヨコグラ師匠。まずは、エノキさんをよろしくお願いします」
「かしこまりました。ユウ様、お力を貸していただけますでしょうか」
「もちろんです、ヨコグラ師匠」
「ユウ様は、患部と思われるところに星水をかけてさしあげてください。私めは、星水をエノキ様に飲ませて差し上げます。身体の外側と内側から、星水で挟み込むことで、患部の症状が少し和らぐかと」
「イロハ様とアスナロ様は、星水を汲んできてください!」
「はい!」
「はいいぃぃぃぃぃぃいいい!」
「おい、支配人!妾は何をすればよい?」
「ヒノキ様。お力添え、ありがとうございます。ヒノキ様は、こちらにお控えください。もし、エノキ様の中にまだ怪異の一部が残っていた場合、私たちに襲いかかってくるやもしれません。そんなときには、ヒノキ様のお力が頼りでございます」
「うむ、心得た」
「ヨコグラさん!星水です」
イロハ先生とアスナロくんが、大きなバケツを持って駆け寄ってきた。
ヨコグラ師匠は、コップに一杯汲み取り、ぼくに指示を出した。
「ユウ様。同時にいきますよ」
「わ、わかりました!」
(う、ゔぅ)
エノキさんが、声にならない悲痛を訴えている。
「せーの」
ヨコグラ師匠がエノキに星水を飲ませるタイミングを見て、ぼくもエノキさんの全身に星水をかけた。
しゅううううぅ
エノキさんから、湯気が立ち上り、黒い斑点が徐々に薄くなっていく。
かはっ、かはっ!
ゴホっゴホっ!
ぴちゃ
ぴちゃ
「はっ!」
エノキさんの口から飛び出した黒き液体の怪異は、ヒノキの一声により、跡形もなく消し飛んだ。
「やっぱりまだ、残っていたのね。怪異」
「身体の中から蝕んでいるのですね。でも、これで・・・」
「よ、ヨ・・・コグラ殿・・・。世話に・・・なったっ・・・す。これで、自分は・・・大丈・・・夫っす」
「エノキ様。さっきは、ありがとうございました。まだ完全に回復はされておりません。星水は、身体の中にルミナを満たします。だから、話せるくらいにはなるのです。でも、すでに傷を負ってしまった細胞を修復するには、まだ時間がかかります」
「そ・・・それ・・・は。困る・・・っす」
「とにかく今は休むのよ、エノキさん」
「う・・・む。そ・・・う・・だ。この星水を、あの方に・・・も・・・。も・・・しか・・・したら・・・自分と・・・同じ・・・症状・・・かもしれない・・・っす」
「おいおい!エノキよ。気は確かか。もしかしたら、あの方は、怪異とつながっているのかもしれないのだぞ」
「は・・は・・・は。最・・高・神とも・・・呼ばれたヒノキ殿・・・が、おそれ・・・をなした・・・っすか」
「なにをっ?!」
「ユウ・・・殿を・・・信じるっす。きっと・・・あの方は、精・・・霊っす。は・・・や・・・く、手当て・・・を」
「ユウ様。エノキ様のお言葉です。この宿にいらしてくださった方には、どなた様であってもおもてなしをするのが、私めの役目でございます。星水での歓迎をさせていただきたいです。ユウ様、あなた様を信じさせていただいてもよろしいでしょうか」
「ヨコグラ師匠・・・。うん、手当てしよう」
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