第41話 突風と炎
突然、風が吹いた。
どんなに大きい風も、その前兆は少なからずあるもの。
そよ風から大きな風へと変わっていく。
どんなに刹那的な時間であっても。
しかし、この風は・・・
一瞬にして、局所的に、最大風速で。
「せぇぇぇぇぇえのぉぉぉぉぉぉお!」
迫り来る怪異に、「もうダメか」と思ったその瞬間
アスナロと呼ばれた子が、
手に持っていた扇を大きく振りかぶり、
「そりゃぁぁぁぁぁあああ!」
ブオォォォォオオオォォォォォン!
目の前の怪異が吹き飛んだ!
「はっはっはー!アスナロよ、よい選択じゃったぞ!このような、触れたら大事になりそうな相手のときにゃ、物理攻撃は禁物。瞬時におぬしの特技を出すことができた。 これは値千金の活躍じゃぁ!!」
「あ、ありがたきお言葉!」
「長期戦は避けるぞ。一気に方をつけてるのじゃ!アスナロぉぉぉ!あとにつづけ!」
「はいぃぃぃぃぃぃぃ!」
ヒノキの背中に、周囲からの光が吸い寄せられる。
翼?
それは、ヒノキの背後から強い光を放ち、溢れ出た。
ま、眩しい!!
あ、熱い!!!!!!
「我が神威の前に慄きひれ伏せ!」
部屋を包む熱気が最高潮に達した。
「せぇぇぇぇぇぇぇぇのぉぉぉぉぉぉ!」
ヒノキの大翼から放たれた光。
そして、アスナロの扇から吹いた大風が怪異を包みこむ炎の渦となった。
「とらえたぞ!アスナロ!!火力をあげるのじゃ!」
「はいぃぃぃぃぃぃいいいい!」
アスナロがもう一振りかぶり。
「せぇぇぇぇぇぇぇぇのぉぉぉぉぉぉ!」
ブオォォォォオオオォォォォォン!
炎の渦は高く立ち上った。
ぷしゅゅゅゅううううう!
黒き液体の怪異は、
瞬く間に蒸発してしまった。
一瞬のことだった。
怪異とともに炎が消えた部屋。
静寂に包まれる。
「なんて、なんて豪胆な戦い方なのかしら・・・」
イロハモミジは、あっけにとられた表情を浮かべた。
ぼくは、とにかくほっとして、力が抜けてしまった。
「はっはっは!あぁ、楽しかったのぉ、アスナロよ」
「はいぃぃぃぃ!お師匠様お見事でございました!」
「まぁのぉ、こんなものよの。して、エノキの様子も気になるところじゃが。アレか?ここに怪異を連れ込んだヤツは」
ヒノキが指したその先には、真っ黒になって、うごめくものの姿があった。
「ありがとうございます。助けていただいて!あの黒い固まりから、さっきの液体のような怪異が飛び出してきたんです!」
「そうか、あいつが本体というわけか。なら、もう一発、焼き尽くしてやろうかのぉ」
「はぃぃぃぃぃぃ!」
「ま、待ってください!」
「あん?なんじゃ?」
「さっき、ぼく、あの黒い固まりから、うめき声のようなものが聞こえたんです」
(うぐっ。ぐわぁっ。かはっ、かはっ)
「や、やっぱり!」
「・・・?アスナロよ、何か聞こえるか?」
「お師匠様。僕にも何も・・・何も聞こえませぬー!」
(かはっ、かはっ)
「いや、確かに。近づいて確認をしよう」
「ユウ様、また襲われるようなことは・・・」
「そうよ、ユウ、危険すぎるわ」
ヨコグラ師匠とイロハ先生が制止してくる。
「間違いない。ぼくには分かるんだ。これは、怪異じゃない」
「おい!そなたはまさか怪異の手先か?あの本体に近寄って、また怪異をけしかけようとしているのではなかろう?」
「ま、まさか!」
「いや、信用ならんな。そなたは、人間であろう?人間ほど、信用できないやつはない」
「あんたねぇ!黙って聞いてれば、調子にのってんじゃないわよ!」
と、イロハ先生。
「ユウはねぇ、確かに昨日初めて森に入りこんだわ。でも、大精霊アカガシ様の命を受けて、ここまで来たのよ」
「ほぉ」
ヒノキは、一瞬考え込んだ。
「あの、アカガシがのぉ。まぁ、よい。もし下手な真似をしたら、妾が根絶やしにするだけじゃ」
「イロハ先生、ありがとう。ぼくちょっと確認してくるよ」
「ユウ、気をつけて」
コクン。
ぼくは、頷くと、黒い何かの方へ歩みを進めた。
一歩近づく度、強烈なニオイが鼻を刺激してくる。
ゔっ!
黒い、その真っ黒い何かは・・・
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