第30話 ルミナ

ルミナ


おいしい。


おいしい。


ああ、なんて、なんて豊かなのだろう。


口の中が幸せ。


口福・・・。


月光茸のスープ。


「ヨコグラ殿ーーーー!すんごくおいしいっす!」


止まらない。


スプーンが止まらない。


もう一口、もう一口。


そういえば、着の身着のまま出てきたから、

食事らしい食事はここまでしてこなかったなぁ。


お腹が空いていたら、なんでも美味しく感じるとは言うけれど、

そんなんじゃない。


これは、本当においしい。


おいしいって、こういうことなのか。


あぁ、もうお皿の底が見えてしまう・・・。


いつまでも味わっていたいのに、あぁ、あぁ。


無言で、夢中になって飲み干してしまった。


「あらあらユウったら。そんなにがっつかなくても。でも、本当においしいわね」


「さあ、次のお料理にございます。星涙魚の蒸し焼きでございます」


「わぁ、ヨコグラ殿ぉぉ!なんと!自分も各地を旅してきて、色んな魚をいただいてきましたがこの目で星涙魚を見るのは初めてっす」


「さすがエノキ様。見識がお広い!星水の流れているこの川で生まれ育った魚でございます。味付けに、香草と塩を少々つかわせていただきました」


「ちょっ、これって。魚って。え」


「ユウったら、魚も見たことがないの?」


「いや、魚という生き物がいるってことは、西京でも聞いたことがある。ただ、この魚も管理対象で、ぼくたちの目に触れることはないんだ。しかも、これを食べるって、まじかよ」


「まじよ。私たちは、誰もが自然の循環の中に生きているもの。何かの命をいただいて生きているの。この魚だって、ここまで大きくなるのに、たくさんの命をいただいてきたはずよ。そして、私たちもまた、この魚をいただくのよ」


「生き物を食べるなんて。そんなことが・・・そんなことが、あっていいはずがない!」


「いただきまーす!」


ちょっ、またイロハ先生とエノキさんが・・・。


「いやぁ、これもまた、ルミナがいーっぱいのお魚ね!」


「いかにもっす!こんなにルミナが詰まったお魚は、自分も初めてっす」


「喜んでいただけてなによりでございます」


「ちょっと待って!ルミナってなんなんだよ。あんたら正気じゃないよ。生き物を食べるなんてさ」


「何を言ってるっすか。植物だって生き物っすよ」


「そうよ。私たちが食べている物は、食べ物であって食べ物ではないの」


「は?一体全体どういうことなんだ?全くわけがわからないよ」


「いい?これまでのお料理もそうなのよ。料理はね、視覚的なものでありながら、視覚だけに捉われないことが大事なのよ。料理は目でも楽しめるものだから、華やかさや彩りがあるととてもおいしく感じられるわ。今日のムーンレタスだって、ほら、この星涙魚だって、とってもみずみずしい表情をしているじゃない。艶といい、身の詰まりといい。それは、この食材にルミナがいっぱい含まれている証拠なのよ」


「だから、そのルミナっていうのはなんなんだよ」


「食材が持つ生命エネルギー。それがルミナ。私たちもまた、こうして活力を持って行動できているのはルミナのおかげ。ルミナが不足すれば、元気もなくなるし、十分に蓄えられていれば、思いっきり動くことができるの。ユウ、手を出してくれる?」


「こう、か?」


「手の平を上に向けて。そう。力を抜いてね」


イロハ先生がぼくの手のひらの上に手をかざした。


そして、もう片方の手は下から。


ちょうどぼくの手を挟み込むかたちとなった。


途端に、手に温かさを感じた。


「あ」


「ユウ、どう?」


「なんか、温かい。それに、今日手にできた細かい傷がどんどん癒えていく」


「そう、そうなのよ。今ね、私からユウにルミナを送っているの。ルミナは、その人の身体の中で、一番必要なところに作用するから、意識をしなくても自然と巡っていくわ。私たちは、それぞれがルミナを循環させて生きているのよ。植物から、そして魚や動物たちから受け取ったルミナで、また私たちが私たちにしかできない役割を果たしていくの」


「そうか、ぼくたちは、食べることで魚からもルミナを身体の中に取り入れることができるってことなのか」


「そういうこと」


よし、食べてみるか。


フォークで刺してみる。


ムニュ


なんとも言えない感触だ。


先ほどのムーンレタスのサラダよりも口に運ぶことに怖さを感じる。


目をつむって食べてみた。


!?

おぉ


おぉぉぉ


口の中に広がる香草の香りと魚の芳醇な味わい。


そして、これは・・・


「ユウ様。もし、これまでにない味を感じましたなら、これはしょっぱいという味でございます。星塩という星くずからとれる貴重な塩を削りおろしてまぶしました」


「しょっぱい!あぁ、身体が喜んでいるのを感じる!」

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