第6話 精霊との邂逅
「ザックスー!」
は!
ん?
ここは、どこだ。
わ!たくさんの木。
信じられない、森・・・なのか。
チョロチョロと、水の流れる音がする。
いつのまにか、気を失っていたらしい。
「よかった!気がついた。エノキさん。目を覚ましたみたいですよ」
「そうっすか。いやぁ、よかった、よかった。危ないところでござったなぁ、イロハ殿」
「ねぇ、ずいぶんとうなされていたみたい。寝言で、ザックスがどうとかって」
二人が見える。
あぁ、あのとき助けてくれた、サムライと羽織の女性・・・。
ぷちっ。
目を疑う行動を目の当たりにした。
その女性は、なんと、近くに入っていた葉っぱをちぎり、
慣れた手つきで柄杓のよう形をつくると、
沢から水をすくいはじめたのだ。
「まったくです。あとちょっと遅かったら、危ないところでしたね。はい、これ飲んでください」
イロハと呼ばれた、その人は、水を手渡してくれた。
(チョ、ヂョット待ってくグれょ。ぁんダ、葉っバをちぎっデとっダのガぃ?)
声を出そうとしたけど、喉がカスカスで声が思うように出ない。
「ん?とにかく、これを飲んでください」
水が透き通っている。
いやいや、飲むわけには・・・
ン、んぐ、ゴクッ、ゴクっ!ぷはっ!!
自分の思いとは裏腹に我慢できず、ぼくは水をあっという間に飲み干してしまった。
た、助かった、という安堵とともに
罪悪感が押し寄せてきた。
「あんた、葉っぱをちぎってとっていなかったかぃ?見間違えじゃないよな」
「あんたとは、ずいぶんとご挨拶ね。私には、イロハモミジという名前があるのよ」
イロハモミジ・・・
変わった名前だな。
「それに、見間違えじゃないわ。私たちは、お互いに支えあって生きているもの」
「支えあって、だって?冗談じゃない。確かに助けてもらった。感謝もしている。でも、ぼくはごめんだ。ぼくら人間が葉っぱをちぎってしまうのは・・・大罪だ。植物を傷つけていいはずがない」
「大罪?一体、どういうこと?」
「ふむ。まぁ、落ち着くっすよ。まず、おぬしの名前を聞かせてはくれぬか」
「人に名前を尋ねるときはまずは自分から名乗るものだろ」
まだ、気が動転しているのだろうか。
語気がきつくなってしまっている。自分でも、自分が冷静でいないのに気がついていた。
「失礼した。それが礼儀っすよね。自分は、エノキと申すっす。とある方の命により、人を探しているっす。おぬしは?」
「エノキ・・・さん?ぼくは、ユウ。この森には・・・そう、迷い込んじゃって!」
この森は禁足地。
なんとか、この地にいることを取り繕わなければ・・・
「ユウ。おぬしは、ユウというっすね。イロハ殿に大罪と言っていたこと。自分も聞き捨てならないっす。一体どういうことっすか?」
エノキの問いかけに、イロハモミジもコクンと頷いた。
2人の表情を見ていると、全く悪びれる様子もない。
堂々と真っ直ぐとした目で、こちらを見つめてくる。
2人は、葉っぱをちぎることの罪を分かってはいないのだろうか。
よし、ここで人の道を教えてやる必要があるな。
ぼくは、徐々に冷静さを取り戻し、落ち着いた声で話し始めた。
「イロハモミジさん、エノキさん。取り乱してしまって、申し訳ありませんでした。あと、先ほどは、危ないところを助けてくださって本当にありがとうございました」
「なんのなんの」
と、エノキ。
ぼくは、続ける。
「葉っぱをちぎるのは、とても罪の大きなことなのです。この世界には、木がわずか数本しかありません。非常に・・・非常に貴重なものなのです。木は、政府の樹木省が管理をしていて、普段は見ることも叶わない。木に触れることも許されないのです。もし、木を・・・植物を傷つけようものならば、法律により重い刑罰が・・・」
自分で話していて、まただんだんこわくなってきた。
ここまで草を踏みつけ、木にぶつかり、葉っぱのコップに口をつけた・・・
2人に人の道を説くどころか、自分が犯してきたことのことの重大さに気がつき、こわくなってきた。
「ぼくは・・・わざとではない。わざとじゃないんだ。信じてほしい!!ぼくは、はじめて今日、この森に迷い込んで、わけもわからなくて」
「落ち着くっすよ、ユウ殿。ふむ、なるほどっす。大体の事情は把握したっす。イロハ殿、どう思うっすか?」
「はい。まさか、人間たちがこんなことになっているとは。森の異変と何か関係がありそうですね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あんたたち・・・いや、エノキさんとイロハモミジさんも人間だろ?」
イロハモミジとエノキは顔を見合わせた。
「本来、私たちの声を聞くことのできるのは、限られた人間のみっす。きっとユウ殿には、何か特別な力があるのかもしれないっすね。イロハ殿、話してみては」
イロハモミジは、ぼくの顔を見つめた。
その表情は、まだぼくのさっきの発言を完全には許していないような、厳しい目つきをしていた。
「ユウさん。私たちは、人ではありません。樹木の精霊です」
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