第5話  助太刀

ロープのような”ソレ”が喉を押し込んでくる。



息が・・・


息ができ・・・ない。




視界がぼやけ、せまくなる。



あぁ、意識が・・・。


と・・・にかく手を。


首と”ソレ”との間に入れた。



そして・・・


ええぃ!どうにでもなれ!!


ガブッ!


ロープのような”ソレ”にかみついた。


口の中に苦味と、なんともいえない香りがひろがった。



よくわからないけれど、


背に腹はかえられない!



ふんぬぬぬぬぬっ。



ブチぃっ!


切れた、ロープのようなソレが。



ゴホっ、ゴホっゴホ。


ゴホっ。


ぼくは、息も絶え絶えに地面にうずくまった。


「ぢょ、ぢょっど、ダイム・・・」


ようやく呼吸ができたのも束の間、

再び”ソレ”は、足元を這うように忍び寄ってきた。


シュロロロロロ、シャーーーーっ。


おいおいおいおい、


呼吸を整える暇もないのか。


あぁ、今度こそ、万事休すか・・・


ふと、アミの顔が浮かんだ。


[ユウのつくるザックス料理は、なんかいいね]


なんで、こんなときに、アイツの顔なんか。


・・・


そうだな、またアミにパスタつくってやんないと、な。


西京に帰ろう。


こんなところで、


こんなところで、くたばってる場合じゃない。


「ふざけちらせーーーっ!」


ぼくは、また走った。

脚が、棒のようだ。


とにかく、逃げた。

うわわわわわっ!


くっ、がけ、崖だ。

落ちたらひとたまりもない。


パラパラと、砂や石が落ちる。


崖を背負い、襲いくるロープのような”ソレ”と対峙した。


一か八か。


ザザザザザザザっ


何かがまた近づいてくる。

あれは・・・人?


「ここは、任せるっす!!」


突然、鋭い風切り音が耳をつんざいた。

ザンっ、ザンっ


ザザザン!


瞬く間に、ぼくを再び襲ってきた”ソレ”は、切られていった。



目の前に立っていたのは、頭に大きな傘。


長い刀身を持った・・・サムライ?




「かずらども、なかなか厄介っすね。おぬし、まだまだ戦えるっすか?」

ロープのような”ソレ”は、どうやら”かずら”というらしい。


あれも、しょ、植物なのか?



「どこのどなたかは存じませんが、助かったよ。でも、もう、立っているだけでやっとだ」


「あとちょっとっす!もうすぐ応援がくるっす、それまでなんとか持ち堪えるっすよ」





ぼくは、よろめきながら転がってる石に手を伸ばした。

「やってやる。やってやるよ」


「かずらは、刃物で断ち切るのが一番っす。これを使うっす」


そのサムライはぼくに脇差を差し出した。


包丁より、少し長いだろうか。


刃物の扱いは慣れているつもりだ。


「話はあとっすよ。とにかくここを切り抜けるっす」




エノキの刀が緑と紫色に美しく光り輝き、ぼくを捕らえようと襲いかかってくるかずらは、まるで生き物のように悲鳴を上げ、次々と断ち切られていった。


ギィィィィヤァァァァっ!



「おぬし、今っす!」



「おおおおぉぉぉぉ!」


ぼくも、かずらに向かって切りかかった。



ズバっ、スバスバっ!


「ひゅー、やるっすね!」




「二人とも!!」


優しくて、澄み渡るような声がした。


「二人とも、こっちが安全よ!かずらが復活する前にはやく!!」


どこから現れたのだろうか。

赤い髪をした、色とりどりの羽織を着た女性が叫んでいた。


「あ、あなた・・・は?」


「やっと、来たっすね!イロハ殿」


「エノキさん、早過ぎです。なんとか間に合いました。話はあとでしましょう。今は逃げの一手です!」


ぼくは、イロハと呼ばれたその”人”に手を引かれ、

無我夢中で走った。


「しんがりは任せるっす!イロハ殿、その方を頼むっすよ!!」


意識は朦朧としていたが、火事場の馬鹿力というやつだろうか。


体力はとっくに限界のはずなのに、

これまで走ったことのないようなスピードで足が動いているようだ。

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