第104話
「……護符は、効果を限定すればすればする程威力が増す。できれば、発動条件と効果をそれぞれ1つずつに絞るのが理想。」
「へぇ……。発動条件と効果を1つずつにした護符を複数持つのはダメなの?」
「……ダメではないけど、やっぱり護符1つ辺りの効果は減少しちゃう。この護符は、極々限定された条件でしか発動しないっていう所持者の認識が、護符効果の増大につながるから。神々相手なら、一点突破にするべきだと思う。」
ガラテアのアドバイスに従って、護符の発動条件と効果を考える。
実際に使う場面があるかはわからないけど、もし運よく発動まで持って行けた所で相手に効果が無ければ意味がない。
条件も効果も、可能な限り限定的に。
ルーレットで言えば、赤とか黒なんて日和った選択肢じゃなく、数字まできっちり指定するイメージで。
当たったらギャンブルにハマっちゃうような、それでいて味方からの被害を出さないように。
「よし、決めた!じゃあ、俺の思考が弄られてる状態で、俺の家族に俺自身が危害を加えようとした場合に発動するって条件で。効果は、最後に製作した人形に対して人形操作を使って支配する、ってことでどうだ?」
「……うん。それくらい指定しておけば、多分神々相手でも効果を発揮すると思う。」
「じゃあそれを頼む。ナナセは、その護符を入れるお守り袋を頼めるか?中身が神様にも見ることが出来ないようになってる奴がいい。」
「護符作るよりは簡単っスから大丈夫っスよ。ハートマークの刺しゅうでも入れとくっスか?」
「これ以上俺から欲情されてもいいなら入れてみろ。」
「10か所くらい入れとくっス。」
「……私は、20か所くらい入れとく。」
というやり取りが、今回の作戦前にあった。
いやぁ、上手くハマったなぁ。
「……おい、人間、お前、何をした?」
ゼウスきゅんが驚愕の表情でこっちを振り向く。
その顔が見たかった!
「人形操作でお前を支配しただけ。俺が作り出した人形だから、サクッと簡単に支配できちゃうんだなぁ!支配してしまえばさ、いくら相手が神だって言っても、洗脳は維持できないよなぁ?」
神々は、この世界に直接遊びに来たい。
でも、それ用の体を作れるのは俺だけ。
だからこそ、このゼウスとかいう神が俺にチョッカイを出してまでやらせたい事といえば、自分用の人形を作らせることだろうなとは考えていた。
ゼウス側も俺がそれを警戒しているであろうことは予想していたので、罠を成功させるためにゼウスの警戒心を解く必要があった。
方法は色々あるけれど、今回は人間を舐めているゼウス自身の認識と、そして怒りを利用することにしていた。
「お前ってさぁ、性格悪そうじゃん?だから、俺の大事な物を俺自身の攻撃で壊してから、ドヤ顔で勝利宣言でもして、その後俺を殺したりなんだりしそうだなぁって思って、トラップを張っておいただけだよ。まさか、ここまでしっかりと罠を踏み抜いてくれるとは思ってなかったけどなぁ?」
「……貴様……!」
舐め腐っていた人間相手に、迂闊にも罠に嵌められるという醜態を晒してしまったことでガチギレしているご様子。
まあ本当の事を言うと、俺が作った人形たちの設定に、神気を放つ敵からの攻撃を受けたら全力で撤退するという項目を追加していたり、護符の効果が発揮されずに洗脳や支配を解除できなかった場合、俺の脳を吹き飛ばして、その直前の状態で頭を修復するようにアイギスに行動を登録しておいたりと、色々とリスク回避を行ってからここに来ている。
しかも、腐っても神ということか、支配が完全ではなく体を動かす機能までは奪えていないご様子。
それでも、神としての権能は、神気を封印することで完全に防ぐことが出来ているようだ。
これは、ディオネがルシファーに対して行った神気の封印を真似ている。
神気を封印されればどうなるかといえば、元天使で魔王のルシファーすら食っちゃ寝するだけのニートに替えてしまう程の効果がある事は分かっている。
まあ、やる気さえ出せばその状態でも十分強いんだけども……。
だから、大いに効果を発揮したとはいえ、まだ勝確ではない。
とは言え、そんな事をヤツに教えてやる必要はないだろう。
こいつには、できる限り屈辱を与えて冷静さを失わせたい。
メンタルをボコボコにできれば、本来の能力なんて早々発揮できない物だ。
特に今は、神気を封印されたほぼ人間ボディだ。
今後、この性格悪いサイコパスを倒すチャンスはもう訪れないかもしれないし、ここで逃がせばずっと俺の家族に危険が及ぶ。
今、ここで、コイツは消さなければならない。
どんな卑怯な手を使ったとしてもだ。
ディオネやルシファーからの評価を聞く限り、コイツの煽り耐性は低い。
そこを突かない手は無いわけで……。
「まあでも、これだけで殺しちゃうのはもったいない。お前は、かなり周りから恨まれてるみたいだしな。というわけでゼウス、お前を殺すのは、そこの娘たちに任せるよ。」
「……舐めやがって!」
煽って煽って、ゼウスきゅんは、口調まで怒りに満ちたものになってしまっている。
先程までの飄々としたミステリアスなサイコパスさは無い。
それを確認して、俺は急いで仲間たちの所へ戻った。
実の所、ゼウスを支配しておくのは中々大変だ。
坂道を自転車で10分以上駆け上がる状態の5倍は大変に感じる。
全身が軋み、息遣いも「フヒュー…フヒュー…」と変な事になっているけれど、それを相手に悟られないように余裕の表情を崩さない。
だけど、ディオネには通じなかったようだ。
すぐにこっそりと俺の頭へ回復魔法をかけ始めてくれた。
「もう少しだけ、我慢してね!」
「余裕余裕……って見えるようにはするさ。」
「男の子の意地ってやつ?そっかぁ!これがそうなんだぁ!」
変な方向に感動しているディオネをスルーし、事の成り行きを見守ることにした。
ぶっちゃけ、それ以上の事が出来るほどの余裕がない。
アイギス・ドールの補助へ割いていた俺の処理能力まで総動員してこれだ。
外の音声とか映像は見れるようにしているはずだけど、機体の指一本動かすことができないでいるローラは、かなり辛いんじゃなかろうか?
ニルファのアイギスはまだ多少は動かせるだろうけど、その程度では神との戦いでは足手まといかもしれない。
神としての力はなくなったとしても、それ以外の性能は人間の限界値に設定されているはずだから、全開のアイギスじゃなければ危険だ。
ニルファもそれがわかっているようで、慎重に事の成り行きを伺っているらしい。
いやぁ……、流石神様相手だぜぇ……。
かなりしっかり準備していたんだけど、それでもギリギリの戦いになったな……。
あとは、それが相手にバレないように立ち回らないとな……。
「……フーン。つまり、ダロスは私たちに華を持たせてくれるって訳?」
「まったく、我も舐められたモノだな……と言いたい所だが、こいつをこの手で葬りたいというのが正直なところでな!」
セリカとルシファーが前に出る。
高揚した表情でゼウスを睨みつける2人だったけど、不意にセリカの表情が揺らいだ。
「……ルシファーが魔王って、本当なの?」
「むっ……ああ、事実だ。今更世界の破壊なんてしようとは思わんがな。我の存在が、貴様ら異世界からの勇者を生み出してしまったのも事実。もし気にくわないのであれば、この戦いが終わってから責任を取ろう。」
「あー、その辺りは別にいいんだよね。戦争を起こした事に関しては、この世界だと別に珍しくもないだろうし、私をこの世界に召喚したのは、目の前のあの女体化趣味の神様だし。そうじゃなくてさ……うーん……。」
少しだけ考えてから、セリカが語り始める。
「勇者の一番の能力ってさ、魔王と戦う時に色々な値が100倍になる事らしいんだよね。」
「らしいな。」
「それでさ、私、ルシファーが近くにいる時ってヤケに調子が良いんだ。」
「……そうか。」
「うん、だからさ……。」
まるで、初めての告白をするかのように、彼女は天使を誘う。
「私と一・緒・に戦ってよ、魔王様!」
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