第103話

 今回、私には特に出番が無かった。


 勇者なんだけど。


 なんでもかんでも女の子とロボットで解決するダロスが悪い。




「我、勇者也よ……?」


「戦わずに済むならそれに越したことはないのでは?」




 マルタが正論で叩いてくる。


 反論できない。


 でも、流石にしばらく何から何まで養われて、その上ここでも役立たずだと、後はもう……アレくらいしか……。




「そんなことをしなくても、ダロス様は文句なんて言わないと思いますよ?」


「心の中を読まれた!?いやでもさ……私たちって今の所ただのニートだよ?」


「安心してください。セリカの分まで私が体で支払いますから。大きな庭付き一戸建てで白い犬と男の子と女の子を最低1人ずつが理想ですねぇ。」


「え?払うどころか更にダロスに払わせる感じ?」




 本気なのかどうなのかイマイチわからないけど、少なくともマルタはダロスが嫌いではないらしい。


 私だって、現状唯一の元の世界を知る仲間だし、嫌ではないけどさ……。


 でも、お嫁さんがいっぱいいるってのがどうなのかなっていうかさ……。






 私たちが、少しだけこれからの事を考えている間に、ティティアがハコフグから飛び出して、家族たちと無事の再会を喜び合っている。


 皇族以外の貴族もそこそこいるみたいだけど、そこまで酷いことをされている訳ではなさそうなので一安心だ。


 私の想像だと、人質なんて片腕と脚の腱を切って満足に動けなくするようなのが普通なのかと思っていたから、彼らがしっかり歩いてコンテナに乗り込んでいるのを見た時は驚いた。


 てっきり、もっと世紀末な世界だと思ってたなぁ……。




 あれ?なんか人質たちの中から1人出て来て、ダロスの方に向かってる。


 凄い奇麗な人だけど、あの人も貴族の当主なの?


 顔もそうだけど、何よりおっぱいがデカい。


 アレは、ダロスの視線誘導に効果的だろうな。




 あ、やっぱりダロスが今おっぱい見た……。


 ……でも、今度は何かキラキラした物を見せられてる?


 え!?プロポーズ的な事じゃないよね!?


 うわぁ……アレが肉食系ってやつなのかなぁ……。




 あの女の人は、ダロスになんて言ってるんだろう?


 そう思って聞き耳を立てる私。




「なるほど、確かにこれは人工ダイヤです。そして、とても強力な魔道具なのですよ。貴方の自由を奪う、ね?」




 んん?


 何か、思ってたようなピンク色な話ではない?


 ……もしかしてSMの道具!?




 なんて思っていたら、急にダロスの表情が抜け落ちた。


 どうかしたのかなって思った瞬間に、今度は私の体が動かし難くなる。


 全く動かないわけじゃないけど、物凄い抵抗のあるゼリーの中にいるような、そんな激しい抵抗を感じる。




「な……に……これ……!?」




 そんな言葉を絞り出しながら、首を捻って周りの様子を確認するのが精一杯。


 でも、それだけで今のこの状況が、かなり危険であることが分かってしまった。




 何故か、ダロスが作ったロボットたちが、こちらに銃口を向けている。


 隣のマルタも驚愕しているけれど、私程にすら動くことが出来ないみたい。


 まあ、もやしっ子……ジャガイモっ子だったしね。




 人質にされていた貴族たちは、特に行動に制限がかけられている訳じゃなさそうだけど、周りのロボットたちの雰囲気の変化で顔を青くしているだけで、状況の打破に役立つとは思えない。


 ティティアは、あのエギルギアとかいう鎧だけは動かないみたいだけど、首から上は影響を受けていないのか、不安そうにきょろきょろしている。




 ここからは、ロボットの中を確認できないけれど、この様子だとニルファやローラさんも拘束されてる感じかな?


 何故こんなことになっているのかはわからないけれど、多分これを引き起こしているのはダロスだ。


 でも、ダロス自身の考えでこんなことをするとは思えない。


 そうなると、怪しいのはさっきダロスに近づいていたあの女……。




 って、あの女の人泡吹いてビクンビクンしながら倒れてるんだけど!?


 何アレ怖い!




「こ……れは……まさか……ゼウ……スぅ……!!!」




 後ろから、ルシファーのうめき声のような叫びが聞こえる。


 発言から察するに、彼女も自由を奪われているらしいけれど、私は今そこまで振り返ることが出来ない。


 それでも、彼女がいてくれるというだけで、何故だかいつもより力が湧いてくる気がする。


 ……やっぱり私って、そっちの気が……?




「あー、やっぱりダロスって手段を選ばなければこの位のハチャメチャな事態は起こせるんだね!あとで本人に教えてあげないと!」




 そんな呑気な声が聞こえた。


 多分ディオネさんだと思うけど、なんでこの人だけ普通に話してるように聞こえるんだろう?




「僕は今、限定的に女神の力を解放して、効果の打消しをしてるからね。それでも、こうやって話す事くらいしかできそうにないけどさ。」




 私の頭の中の疑問に答えるかのようにディオネさんが一人喋っている。


 でも、女神の力を解放ってなにそれ?


 凄い美人だし、おっぱいも大きいし、なんか神秘的な所はあったけれど、本当に女神の使徒か何かなの?


 ルシファーも神秘的な感じなのに、あっちは動けないみたいなんだけど……。




 何かとんでもないことが起きているのは分かるのに、何もできない歯痒さに顔を歪める事しかできない私たち。


 それを尻目に、今度はダロスが何かブヨブヨの物を出現させた。


 あれは確か、神粘土って本人は言ってたっけ?


 未だにちょっと信じられないけど、アレを使ってロボットとか女の子を作れるらしい。




 と言う事は、今ダロスは何かを作ろうとしているの?




 その疑問は、すぐに答えが出た。


 私の見ている前で、神粘土はどんどん女の子の形になっていく。


 真っ赤な長い髪に、金色の瞳。


 そして芸術的なまでのプロポーション。


 あまりに美しすぎて、人間の形をしているにもかかわらず、人間らしさが足りない感じがする。




 何よりの特徴は、それが出来上がるにつれて、私の本能がここから全力で逃げろって訴えかけてくることだ。


 目の前のアレは、人が対峙していい存在じゃない気がする。


 碌なもんじゃない。




 それはわかるけど、だからと言って今は動くことが出来ない。


 その恐怖の対象が目の前で出来上がっていくのを私たちは見守るしかなかった。




「……アストライア……さま……!?」


「彼女を出してくるとは、何をしたいかはわからないけど、本気なんだねゼウス……。」




 ルシファーとディオネさんが驚愕しているのが聞こえる。


 私にはわからないけど、2人の知り合いなの?


 なんでそんな人の見た目の人形をダロスが作ってるんだろう……。




 そうこうしているうちに、人形が完成した。


 そこまでなら何とかなったけれど、まだこの段階は序の口だという事を直後に思い知る。




 ダロスが何かの詠唱をすると、途端にその人形は、いつの間にか本物の人間のように生気を灯した目をしていた。


 それに合わせ、今すぐにも地面に倒れ込みたくなるくらい強烈な恐怖を感じ始める。




 間違いなく、今の私じゃ勝てない。




「ウー……ん!いやぁ、人間の世界はいいなぁ……。こんな楽しそうな事を今まで体験してこなかったなんて、悔しい……悔しいなぁ俺はさああああああああ!」




 目の前に、得体の知れない化け物がいて、更にそいつは癇癪を起しているように見える。


 ここまでのスリル、ミュルクの森を走って突破しようとした時以来かもしれない。


 ……案外頻繁に体験してるかも?




「ハハッ、何が何だかわからないって表情だな人間たち。それと、後ろにいる女神と魔王も詳しく理解している訳じゃなさそうだな?」


「……魔……おう……?」


「あれ?まさか勇者は、そこの魔王の事も聞かされていなかったのか?じゃあ教えてあげる。そこのルシファーって娘はさ、元天使で、魔王を初めて名乗った奴なんだよ。」




 ニヤニヤと楽しそうに、悪戯が成功した子供がネタバラシをするかのように話すアストライアと呼ばれていた女。


 ルシファーが魔王?


 あんな、ダロスに恋しちゃってるっぽい初心な娘が?


 割と平和なんだぁこの世界……。


 目の前のこのヤバイ奴さえ出てこなければだけど。




「俺に対する当てつけでこの世界を破壊しようとしてたらしいけどさ、折角作ったこの世界を壊されたら堪ったもんじゃないから、異世界から呼び出した人間を勇者というズルだらけの戦士にして送り込んだわけ。何故かボロボロにされた後、勇者が自殺しちゃったみたいで今も生き残ってるけど、本来は人類どころか世界の敵だよ?」




 そこまで言って、また女の表情が狂気に染まる。




「ルシファーが魔王を名乗って、魔物を率いて進み始めた時、俺は負けたって思ったんだよ。正直な話ね。だってさぁ、世界を壊すのってまだこの世界の者には一度もできていない事でしょ?そんな事、許せるはずがないよな?この世界を壊すなんて刺激的な事を盗られたくないからな。自分で作って、自分で壊す。これこそが神に与えられた権限をふんだんに使った最高のヒマつぶしだよ!それを俺は、世界そのものでやりたいわけ!そのためなら、俺の加護を与えた人間の思考を操作して、ダロスに洗脳用の魔道具を届けさせる事だってしちゃうよね?」




 聞けば聞くほど気持ちが悪い感覚が増えていく。


 これは、相手から発せられる何かに拒絶反応が出ているのか、それとも単純にこいつとはウマが合わないのかもしれない。




「おっと、自己紹介がまだだったね?俺の名前はゼウス、神だ。本当は男の神なんだけど、どうもこのダロスは、自分以外の男の体は上手く作れないみたいだから、仕方なく俺が取り込んだ女神の中で、一番強い奴の体のデータを洗脳したダロスに送り、作らせただけ。奇麗だろ俺?」




 神を名乗るその女は、確かにそれが納得できる程の雰囲気があった。


 視覚情報だけじゃなく、魂が、本能が、コイツと戦っても負けると言っている、


 ただ、あまりにも強そうに思えるせいで、逆に冷静に考えられるようになってきた気がする。




「さーてと、俺の体はもうできたし、ダロスには死んでもらおうかな?他の神がこの人形を手に入れたら、世界の破壊を邪魔されかねないからな!……いや、殺す前にダロスの侍らせてる女の子たちをぼろ雑巾みたいにしてからの方が楽しそうか?意識が戻ったら、既に自分の嫁たちは虫の息。しかも、それをやったのが自分の作った人形だったりしたら……。絶望顔が目に浮かぶよねぇ?」




 冗談めかして言っているけれど、冗談では無いんだろう。


 こいつは、平気で私たちを殺す。


 そんな雰囲気を醸し出していた。




「じゃあ、お別れの時だ。勇者と聖女、その他もろもろの皆!ついでに、俺を出し抜きそうだった魔王と、余計な事に首を突っ込んで痛い目を見るロートル女神!どうせこの世界は俺が壊すんだ。他の人類も後から追いつくから、安心してそのまま死んでくれ!さぁダロス、やれ!!!」










 人形操作










「……あ?」




 目の前の神が、素っ頓狂な声を上げた。


 それと当時に、何故か私の体の自由が効くようになる。


 何よりの変化が、目の前の神から感じる恐怖がほぼ消失した事かな?






 それを成したらしい奴が、神の後ろに立っている。




 ニヤニヤと楽しそうに、悪戯が成功した子供がネタバラシをするかのような表情で。






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