第102話

『人質たちは追加コンテナに乗せたぞ。この後我らはどうしたらいい?』


「少し下がっておいて。これから結構な事態が起きるから。」


『……貴様が言う結構な事態となると……いや、考えたくない。さっさと下がらせてもらうぞ。』




 エギルギアのステルス機能は、短時間であれば周りの物にも付与できる。


 それを活用し、ルシファーとディオネは、時間内にしっかりと救出を終わらせてくれた。


 にしても、ルシファー曰く何の抵抗も無かったらしい。


 これは、やっぱり何か仕掛けがあると考えるべきだろうか?




 未だに人質がいなくなっていることに気がついていなさそうなゴーレムの乗組員たちを考えると、ただ間抜けだっただけかもしれないけれど……。


 いや間抜けなのは間違いないけどさ。




 何にせよもうすぐ教皇たちが言っていたタイムリミットだ。


 そして、丁度こっちの救世主様が到着するのももうすぐだ。




「主様、ギガンテス着弾まで残り2分です。」


「今、着弾っつったな?」


「大砲の方がまだ可愛いくらいの被害出ますよね?」




 そうですね。


 私もそう思います。


 多少は、町から離れた所に落ちるようにしたけれど、この前ニルファが作ったのと似たり寄ったりのクレーターができる事でしょう。


 後世の研究者は、ニッケルさえ出てくれれば隕石クレーターだと証明できるのに!


 と歯ぎしりすること請け合い。




『時間だ!!!回答を聞こう!!!いや、要求を呑むのであれば、今すぐに自害して見せろ!!!』




 金ぴかゴーレムから、今更な声が鳴り響く。


 いやいや、キミたち既に人質がいなくなっている事すら気がついていなかったのかい?


 それとも、気がついているうえで、それを悟られないようにハッタリかましているのかい?




「あの人たちさ、どのくらいの確率で自分たちが勝てるって思ってるんだろうな。」


「自分たちに神がついていると思っているなら、100%なのではないですか?」


「それならもうあんなゴーレム出してくる必要無いよな?」


「主様、我々の神も現在後方でオヤツタイム中のため、神がついていない状態ですよ?」


「お供え物は、どうやらアイスシュークリームがお気に召したらしいな。」




 映像通信越しに見えるハコフグ内では、ルシファーたちがキャッキャうふふと休憩している。


 頑張ってくれたから、その位は当然認めるべきだろう。


 だけど、そろそろ液体は飲み込んでおかないと、そこら辺にぶちまける事になるぞ?




「主様、着弾まで、5、4、3、2、1……着弾しました。」


「うわすげぇ……。」




 アイギスの中は、慣性制御で守られているために衝撃は全くない。


 だけど、モニターに映る外の風景と、ハコフグ内の映像は中々のスペクタクルだ。




 着弾地点からは、物凄い土煙と、キノコ雲が確認できる。


 爆風と振動もかなりの物のようで、金ぴかゴーレムもかなり色々打ち付けられているようだ。


 バランスを取るのに必死に見えるけど、倒れないよな……?




『おいダロス!!!!!!なんだこれはああああああああああ!?』


『あははははは!すごいよ!これこれ!こういうのが人生の醍醐味だよルーちゃん!』


『あわわわわ!?ダロス様!これ、我が国は大丈夫なのですか!?天変地異ですか!?』


『マヨネーズが零れました……。』


『マルタさ、おやつにカップ焼きそばもどうかと思うけど、更にマヨネーズってさ……。』




 結界を張っているため、流石にケガをするほどではないはずだけど、それでも慣性制御の無いハコフグ組は大慌てだ。


 救出された人質たちは、先に増設コンテナ内の座席でシートベルト着用中のため、もっと安全なハズ。




『なんだかよくわかりませんが、やりましたわ!!大爆発ですわー!!!!』


『あああん!ダロス様!これ絶対記録映像にしましょう!?永久保存しましょうね!?』




 アイギスを操縦している2人も、それぞれ大興奮しているらしい。




「主様、そろそろおやつが食べたいので早めに終わらせて頂けますか?」


「ブレないなお前ら……。後で血をやるから、その前に仕事するぞ!」


「かしこまりました。アイギス・ドール3機を所定の位置まで移動させます。」




 着弾地点まで移動してくると、土煙の中にうっすらと巨影が見え始めた。


 その雄々しさに、ただただ感嘆することしかできない俺たち。




「いやぁ……。確かにこのポーズで突っ込ませたけど、まさか頭から斜めに地面に突き刺さってそのままの体勢を維持してるなんてなぁ……。すげえ頑丈さだ。」


「仁王立ちモードは、関節部がロックされますからね。」




 腕を組んで直立しているようなポーズのまま、地に突き刺さって微動だにしないギガンテス。


 これで壊れていないんだから、謎ファンタジー金属と魔力垂れ流し結界の複合技はとんでもないな。


 この頑丈さなら、軌道エレベーターだって作れるんじゃないか?


 …………今度、真剣に考えて見ようかな……?




 雑念を捨て、アイギス3機を自動誘導にする。


 これによって、ギガンテスの背部ユニットに接続され、アイギスのコクピット内の操縦席が、そのままギガンテスの中に移動する仕組みになっている。


 これは、万が一いきなりギガンテスを使わざるを得ない事態になった時に一々アイギスから降りて乗るのは非効率だなと思い作った仕組みだったんだけど、まさか本当に使う事になるとは思っていなかったネタ機能だったりもする。




「こんなこともあろうかと!」


「「「主様、いきなりどうかしましたか?」」」




 ……っち!これだからロマンの分からない美少女モスキートどもは……。


 あとで罰として飲血の刑だな……。




「ギガンテスの操縦は、ローラに一任する!砲手は、今回はニルファだ!」


「了解しました!」


「わかりましたわ!」




 そして俺は、後はもう後方リーダー面でニヤニヤ見てるだけになるだろう。


 ここから始まるのは、恐らく歴史上でも最も巨大な肉弾戦だ。


 え?遠距離攻撃があるだろって?


 そんなもんとっ始めから使うバカがいるか!


 もったいないだろうが!


 最低でも3分は保たせたい!




 因みに、現在俺たちは全員頭を下にして斜めになっている状態で話しています。


 まだ慣性制御が起動していないため、結構辛い体勢だけど、ここで辛いというのも興ざめなため頑張っている。


 いやぁ、座席にしっかりとシートベルトつけておいてよかった。


 じゃなかったら、皆このままコクピット内で交通事故だぜ。




「ダロスドライブ正常運転確認、自動操縦を終了し、80%の出力を維持します。」


「地中を除いた各種センサーオールグリーン、機体稼働準備完了しました。」


「血糖値の低下を確認、おなかが空いています。」


「「「早く終わらせましょう。」」」


「了解、ギガンテス……スタンダッ!!!」




 ローラの号令により、とうとう巨人が立ち上がる。


 慣性制御も動き始めたようだ。


 うん、めっちゃ楽……。




 クレーターの底に立つギガンテス。


 そして、見上げる先には更にデカい金ぴかゴーレム。


 正に、これから神話で語られるような戦いの始まるという雰囲気に包まれたその画は、ドローンタルタロスたちによってばっちり撮影されていた。


 生放送中のため、世界は固唾をのんで見守っている事だろう。




『お……おまえらぁ!!!そのゴーレムはなんだ!?わた、わたしたちに楯突くつもりかぁ!?』




 教皇様が慌ててらっしゃる。


 はい、もちろん楯突きます。


 パンチもキックもビームもできるでよ。




「ティティア!台本!Cパターンの21ページ!」


『し……Cですね!?えーとえーと……、万が一大型の敵が出てきたときの対応策ってやつで……、あ!いきます!マイクをオンにして……、堕落し、私腹を肥やす愚かな教皇たちよ!神より賜りし聖なる巨人が、これより貴様らに天罰を下す!征け!神金の巨人!ギーガーンーテースー!』


『ゴオオオオオオオオオ!!!!』




 ギガンテスの雄たけびが辺りに響き渡る。


 きっと、テレビ越しにも聞こえているだろう。


 まあ、別にギガンテスちゃん本人の声とか言うわけじゃなく、ただスピーカーから大音量で流してるだけなんだけどさ。


 しかも、色々加工はしてあるけど、元の音はニルファの腹の音だ。


 丁度いい感じに重低音だったので使わせてもらったけれど、珍しくニルファが本気で恥ずかしがっていたのが可愛かった。




「まずは小手調べに、体当たりをしましょう。これにより、都から離れさせます。」


「「「アイアイマム、前進、突撃体勢へ移行。」」」


「ゴー!」




 高さ100mにもなる金属の塊が二足歩行で走る様は、恐らくそれがどれだけすごいのかわからない人から見ても十分納得の迫力だろう。


 それは、今まさに迫られている金ぴかゴーレムの乗組員たちも例外ではないようで、何かしようとしているのはわかるけど、結局彼らが何かをする前にギガンテスのタックルが決まった。




 突撃後、しっかりと組みついたギガンテスは、そのまま自分よりも少し大きいはずの金ぴかゴーレムをゴリゴリと押していく。


 もう既に性能の違いは明らかだけど、まあ、見た目は派手だし弱い者いじめには見えていないだろう。




 十分街から離れた辺りで、金ぴかゴーレムからギガンテスを離すローラ。


 さぁ、ここからが本番だ。




 ゴーレムと対峙した状態で、格闘技の有段者のように構えるギガンテス。


 見よ!この滑らかな稼働と可動域を誇る関節を!




「とりあえず、パンチの打ち合いをしましょう。1発で終わらせないように、パンチ出力は10%に設定してください。」


「「「アイアイマム、パンチ10%。」」」


「ギガンテスただのパンチ!」




 そのまま間合いに入り、金ぴかゴーレムの中腹部にパンチを叩きこむ。


 このゴーレムは、明らかにバランスが悪くて頭を攻撃すると倒れそうなため、どうやらバランスを取りやすいようにインパクト位置を調整したらしい。


 なかなかの演出家だなこいつら。




 しかし、相手も流石にやられてばかりもいられないと思ったのだろう。


 とうとう反撃を開始した。


 金ぴかゴーレムは、右腕を大きく振り回しながら、正面のギガンテスへとブチかます!




 ドオオオオオオオオオン!!




 という音を立て、ゴーレムの右腕が砕けた。




「……くっ!なんて威力なんでしょうか!?5歩ほど後退!相手と距離を取って下さい!」


「「「了解、相手が思ったより脆かったため回復の時間を稼ぎます。」」」




 まあなぁ。


 白い色を重視して、石灰岩を使ってるみたいだしなぁ……。


 実際奇麗だったと思うよ?


 その上から趣味の悪い金ぴか塗装を塗りさえしなければ……。


 でもさぁ、ファンタジー金属筋コンクリートとかならともかく、いくら魔力で補強しているからって、石灰岩は無いだろう石灰岩は……。


 それでも、こっちが魔法や魔術による攻撃をしかけていたなら、抵抗力が中々高いらしいので耐えられたかもしれないけど、金属の塊との殴り合いには向かないと思うぞ……?


 俺と違って、全身金属で作れるほどの鉱物資源が使えなかったんだろうけどさ。




 睨みあったまま1分ほど様子を見ていると、どうやら砕けた腕は逆再生のように回復できたようだ。


 あの動きに、いったいどれだけの魔力が浪費されたんだか。




「このままでは埒が明きません……。仕方がない、腕部ロケットパンチ用意!出力5%!」


「「「5%了解。ロケットパンチスタンバイ。」」」


「ロケットパンチ、ファイア!」




 金ぴかゴーレムに対して宙をかけるギガンテスの右腕。


 その拳がドンッとゴーレムにあたった瞬間に、激しくバランスを崩してよろめいているようだ。


 それでも、あのゴーレムのオートバランサーは高性能なようで、ギリギリ倒れずに戦いを続けるようだ。




 とは言っても、こっちはもうフィナーレに入るだろうけれど。


 もうすでに5分は戦っている。


 あとは、止めを刺すだけだ。




「……やむを得ません!ならば、これで決めます!ギガンテスキャノン用意!地面に着弾しない程度に上向きに!」


「「「了解、ギガンテスキャノン発射用意。」」」


「発射タイミングをニルファに委譲します。」


「待ちかねましたわ!……えーと、もういいんですわよね?ギガンテスキャノン?発射ですわ!!!」




 ニルファの引いたトリガーによって放たれた閃光は、巨大なゴーレムの上半身を飲み込み、そのまま消し飛ばしていった。




 土埃と閃光が収まったのちに残ったのは、金ぴかゴーレムの腕の一部と、脚2本だけだった。


 教皇たちごと破壊してしまったらしい。




 あばよ教皇!


 お前が何者なのかよくわかんなかったし、会ったことも無いし、途中から音声を放つ事すら忘れて大慌てしてたみたいだけど、キミのおかげでこの戦いを撮影できてとても有意義な時間の使い方ができたよ。


 ありがとう……ありがとう……。


 今度ギガンテスのプラモでも女神像に供えてやるからな!




「……んんん!最高です!ギガンテス大好きです!ダロス様!愛してます!」


「そっか!よかったよかった!」


「ビーム……いいですわね……。」




 実戦でギガンテスが使えて、ローラは大満足な様子だ。


 ニルファも、ビームが撃てたために不満は無さそう。




「状況終了。ギガンテスを仁王立ちモードへ移行して待機。乗組員たちは速やかにアイギスへ移動しろ。」


「「「了解。」」」




 移動と言っても、そのまま座席が動くんだけどね。


 楽ちんだけど、俺ジェットコースターとか苦手だからあんまり自分で体験したい感覚じゃないな。


 画としては最高だけどなこれ。


 戦闘シーンも、ドローンタルタロスたちによってばっちり撮影できた。


 テレビ局のレギオンたちも、これにはきっとご満悦だろう。


 リリス辺りは、そろそろギガンテス×ギガンテスとか描き始める頃合いかな?




 アイギスのコクピットに戻った俺たちは、そのままギガンテスから離脱して、後方に控えていたハコフグへと向かう。


 一応戦闘中も確認はしておいたけれど、こっちも問題は無かったようだ。




「ルシファー、ディオネ、クライマックスだ。乗ってる人たちを全員外に出して、感動のラストを撮影しちゃおう。」


『感動って……変な演出には協力しないからな?そういうの、我は苦手だ……。』


『まぁまぁルーちゃん!ルーちゃんならそこに立ってるだけで雰囲気出るから、大丈夫だって!じゃあダロス、その……信じてるからね?』


「……ああ。」




 ディオネに押され、ルシファーがティティアと一緒にハコフグから出て、後部のコンテナに向かったようだ。


 うーん……、ディオネのあの感じ、やっぱこのままじゃ終わらないって事なのかなぁ……。


 聞いてもきっと直接的に教えるのはルール違反になるとか言われて終わりだろうしなぁ……。




 そんな事を考えていると、映像通信の画面にセリカとマルタが映った。




『私たち来る必要あった?』


「勇者がついてきてくれるってだけでも、十分な効果があったんじゃないか?」


『あっそ。ならいいけどさ。流石に私たちだけ大した仕事してなくて後ろめたいんだよね。』


『私など、食べていただけでしたねぇ……。誰もおケガなさいませんし……。』


「……2人とも、これはあくまで確定事項じゃないんだけど、この後まだ何かありそうだから気を引き締めておいてくれ。」


『何かって?……あ、なんか言えない感じのアレか。いいよ、わかった。』


『私も、何か嫌な予感がしておりましたので、頑張りますね!』




 一応の注意喚起を終えてから俺もアイギスを降り、人質とされていたらしい皇帝たちの元へ向かう。


 ティティアが、重い重責から解放されたと感じているのか、とても朗らかに笑っていて、それを家族たちもにこやかに迎えているようだ。


 これもテレビで後日編集してから放送決定だな。




「貴殿がピュグマリオン男爵ですね?」




 ほんわかシーンを見ていた俺に、不意に話しかけてきた女性。


 見た目から察するに、年齢は10代後半から20代前半と言った所か?


 美人でおっぱい大きくて、くっころせって言いそうな女騎士だ。




「そうですが、貴方は?」


「申し遅れました。私は、エイラ・ホーライ伯爵。貴殿に助力を請おうと最初に提案した情けない女です。」




 そう自嘲気味に話す彼女は、自分の無力さに打ちひしがれているようにすら見える。


 責任感が強く、社会に出たら心を病んでしまいそうな危うさを感じる。




 まあ、実際ティティアのスキルを使えば、無理にあの森を突破する必要も無かったわけで、結果はオーライと言えたとしても、情けないって部分はどうしようもないかもだけど……。




「テレビで貴殿の活躍を見て、この国を救う事ができる救世主は貴殿しかいないと思いましてね。」


「ははは、それは過分な評価をありがとうございます。ですが、今回私が行ったのは手助けのみで、主役はあくまでティティア皇女ですよ?」


「成程……いえ、そう言って頂けると、我が国としてもありがたいのですが……。」




 複雑そうな表情を見せる伯爵。


 だけど、その直後に表情が抜け落ち、能面のような顔になった。




「そういえば、このような不思議な宝飾品を教皇が持っていたため、こっそりと奪っておいたのですが、ダロス様なら何かお分かりになりませんか?」




 そう言って、彼女が何かの巨大な宝石を使ったアクセサリーを渡してくる。


 なんで俺に聞いてくるんだろう?とは思うけど、とりあえず受け取ってみた。




「うーん、ちょっとわかりませんね。この宝石は、どうも人工的な物のようにも見えますが……。」


「なるほど、確かにこれは人工ダイヤです。そして、とても強力な魔道具なのですよ。」




「貴方の自由を奪う、ね?」






 そして、俺の意識は闇へと落ちて行った。






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