第101話
曇天に聳える黄金色の城……いや神殿……神殿かこれ?
「スルーズ、解析を頼む。」
「もう終わってます。魔術的なセンサーは全てキャンセルされましたが、電波等を使用した物であれば対魔結界を突破して解析できるようです。全高約120mで、主な材質は石灰岩。膨大な魔力によって自重を支えている模様です。ただ、魔力をドバドバ使っているようで、ほっとけば恐らく半日程で動かなくなるかと。頭部付近が操縦席となっているようで、その場に20人ほどの人間を確認。それと、胸に動力源があるようで、そこにも20人ほどいるようです。」
「すっごいな!?そこまでわかるセンサーなんて積んでたっけ!?」
「主様の前世の世界の技術を聞いて、私たちなりに改良しておきました。」
後部座席を振り返ると、ブイッと指を2本立てているスルーズが見える。
よくやった、後で血とホイップクリームをやろう。
「皆聞いたか?アレは頭にいる人間たちが操縦してるらしいけど、それとは別に胸にも人がいるらしい!」
『ダロス様!恐らく操縦している者たちは、聖教の幹部たちだと思います!胸の方はわかりませんが……。』
ティティアが言う通り、多分あれを動かしている奴らは、聖教で一番偉い奴らなんだろう。
恐らく彼らにとってあそこが一番安全な場所で、後が無いからこその行動なんだろう。
そりゃ、聖騎士と兵隊たちを難なく突破してきた相手に、贅肉を蓄えるだけの生活を行ってきた者たち勝てるわけがないことくらい、自分たちでもわかるだろうしな。
ただ、1つだけ問題がある。
頭のスペースにいる奴らは、別に後腐れなく今ここで死んでくれてもいい。
生かしておいたって、大して労働力として期待できないだろうから。
だけど、あの胸の所にいる人たちは……。
「ティティア!マルタでもいい!この国で1番魔力量が多い人間って誰だ!?」
『魔力量ですか?私の父上と兄上……皇帝と皇太子のはずです!その次は、貴族の方々かと!』
『聖教の方々も位が低いころは、魔力量を上げる鍛錬も欠かしませんが、少しでも位が上がってしまえば鍛錬しませんからねぇ……。』
「あー、やっぱりそうなるか……。」
ウチの国もそうだけど、王様や皇帝、貴族といえば、大抵実力でその地域を制した者たちの末裔だ。
そうなれば、この世界においてそう言う類の人間は、特殊なスキルか、大量の魔力を持っている可能性が高い。
貴ばれるべき存在と自らを定義する以上、その正当性を主張するためには確かな実力が必要なはずだ。
「ティティア、あの胸にいる人たちは、その皇帝陛下たちかもしれない。」
『どういうことですか!?』
「魔力ドカ食いする古代ゴーレムだぞ?それを運用する魔力ってどうやって用意してると思う?」
『……まさか、魔力源にされているのですか!?早く助けないと!』
「まあ流石に即死ぬって事は無いと思うけどな。あのバカみたいにデカいゴーレムを20人程度の魔力で動かせるとは思えない。あくまで非常用の予備電源兼人質ってことだろう。」
俺みたいに、女神様から無尽蔵の魔力を貰っているような存在ならともかく、この世界の人間の魔力量でアレは動かせない。
仮に動かそうとしても、立ち上がる前にミイラになって終わりだろう。
あれ?魔力って絞りつくしたらミイラなのか?水分抜けるのか?
『聞けえええ!!!愚かな邪教徒どもめ!!!我は、教皇ピーター・シュミノヴァである!!!我らは、これより貴様らに対して、この神像を使い神罰を下す!!!大人しく自分の罪を受け入れるのであればそれでよし!!!しかし、もし反抗の意思を見せるというのであれば、貴様ら邪教徒の仲間であり、この国を売り払おうとした皇帝たちと共に、この世から消え去ることになるだろう!!!考える猶予を1時間だけやろう!!!1時間後、その場で自害して見せるなら人質は解放してやろう!!!』
おい、ピーター君ったら自分で人質ってゲロったぞ?
もうお前、どう頑張っても聖教で生きていけないだろ……。
「マルタ、あの教皇とやらって知り合い?」
『さぁ……?聖教の教皇は、すぐに代が変わってしまうためあまり……。私とセリカが脱出したのも、丁度調子こいてた当時の教皇が、神様からのテコ入れ処刑用アクセサリーで消滅させられた直後でしたから、その後誰がなったのかは流石に……。いけ好かないおじ様たちの名前なんて覚えてられませんし……。』
「なんか凄い黒い内容を聞いた気がするけど、それはスルーしとくわ。」
アホのピーター君はともかくとして、問題は人質たちだ。
20人近くいるらしいけど、そいつらが本当に人質たり得る者たちなのか俺たちにはわからない。
もし人質のフリをした敵だったら、助けに行かせるメンバーが危ない。
となると救出班は、人質の確認をする人員1人に、人間サイズで戦闘が行える人員が2人から3人……って所か?
戦闘要員には、あのデカ物に潜入する機動力と、そのまま救出する時に魔術を使ってもらいたいので、ある程度候補も定まる。
「ティティア!ルシファー!ディオネ!エギルギアのステルス迷彩機能で人質救出を頼む!もし、ティティアが確認して、皇帝たちじゃなかったとしたら、そのまま放置して戻ってきていい!」
『わかりました!』
『我も行かねばならんのか?貴様、ちょっと我の事便利に扱い過ぎではないか?』
「ルシファーなら信用できるからな!期待してる!」
『……まあ、構わんが?』
『一緒に頑張ろうねルーちゃん!』
『は、はい……。』
早速とばかりに、救出班が飛び立っていく。
俺の人形のモニター越しには、自動処理でエギルギアの迷彩がキャンセルされて表示されてるけれど、普通は全く感知できない。
ガラテアクラスの結界でギリギリ止められる程度の性能だ。
ルシファーたちには、50分以内に脱出してくるように言ってある。
それがタイムリミットだ。
『それでダロスさ、あのゴーレム倒す方法ってあるの?』
「……ん?あーいや、倒すだけならアイギスで十分だよ?なんなら、ニルファのアイギス1機でおつりがくると思う。」
『当然ですわ!』
通信越しからでも、ニルファがその豊満な胸を張ったのが気配からわかった。
そもそも、俺の作り出したファンタジー金属と結界による多層構造の特殊装甲ならばともかく、魔力を使って強化しているとはいえ石灰岩でできたゴーレムなんて、破壊しようと思えばいくらでもできる。
解析によると、魔術的な抵抗力はかなりの物みたいだけど、それ以外への耐性はそこまででもないようなので、殴り合いで十分ぶっ壊せるはずだ。
まあ、あんなのと殴り合いができる存在がいなかったから、この時代まで残ってきたんだろうけども。
『じゃあ、人質救出したら、ニルファに倒してもらうんだ?』
「いやいやいや!そんなもったいない事しねーよ!?」
『は?もったいない?』
セリカからの戸惑いの声が聞こえる。
でも、こればっかりは譲れない。
こんな折角のチャンス、活かさない手は無い!
『……なるほど!ダロス様!操作は是非私に!』
「ローラは気がついたか。ククク、いいだろう!任せる!」
『ありがたきしあわせ!です!』
さぁ、くるぜぇ?
救世主様がな……。
俺は、一応の防犯のために領地に残しておいたドローンタルタロスのカメラを使って撮影を開始する。
そのレンズの先には、100mの巨大な人影があった。
ピキーン!
そんな擬音が付きそうな光を目から発し、己が覚醒をを宣言するその巨人。
何を隠そう、先日作り上げたギガンテスだ。
現在、サポート用のヒルデたちは、全員アイギスに乗り込んでいるため、ギガンテスには慣性制御を使う術がない。
しかし、そもそも人間が乗っていないため、あまりそこを重視する必要は無かった。
もともとデカすぎて、コクピット回りしか慣性制御じゃ守れないというのもあるけれど。
慣性制御を使わずに移動するとなるとどうしたらいいか?
もちろん、何かを噴射することによって推進力を得る。
それならば、片手間による遠隔操作でも問題なくここまで運べる。
しかも、空を飛べば1時間足らずで到達できる計算だ。
森という最大の障害物をスルーできるなら、こんなにも世界は縮まるんだ。
問題は、未だに着地の制動が上手くかけられないため、着弾……じゃない、着陸地点にクレーターができるであろうことだろうか……。
まあいい!街にさえ直接被害を出さなければ大丈夫だろう!
ギガンテスの背中と足裏から、凄まじいスピードで熱風が送りだされる。
一瞬で土埃と煙で見えなくなったギガンテスだったが、その数秒後に、軌跡に煙を残しながら飛び立つのが見えた。
ここからはもう後戻りできない。
ギガンテスの降下位置を指定し、自動操縦を開始する。
あとは、勝手にやってくるはずだ。
「これは、確実にプラモが売れるな……。」
『色々なおもちゃが飛ぶように売れますね……。またあのブンドドと言うのをしますか?』
「そうだな……。幸せだ俺……。」
『ふふっ、私もです……。』
『私もぶっ壊したかったですわー!!!!!』
俺とローラの憩いの時間だったが、ドラゴン娘は納得できなかったようだ。
まあ、デカい建造物を見ると破壊したくなる本能のようなものがあるようなので、致し方なしというほかないけれど。
「ギガンテスでカッコよく戦ったらいっぱい儲かるから、この戦争が終わった後、丸1日ニルファが食べたいものを何でも好きなだけ食べさせてやるっていうので手を打ってくれないか?」
『なんでも……ですの?霜降りステーキでもですの?』
「霜降りの牛肉はまだ作り始めたばっかりだったはずだけど……、まあ、出せる分は全部食っていいぞ?」
『ならわかりましたわ!』
イレーヌにボソッと言った和牛なんかの知識を、イレーヌが独自解釈に基づいてこの世界に新たに生み出そうとしているらしく、最近少数ながら霜降り肉が出回るようになっている。
それを分けてもらう事にしよう。
因みにだけど、俺は赤身と脂身がしっかり分かれてるこれぞステーキって感じの方が好きです!
味付けは焼肉のたれとかしょうゆのチープな感じが良い!
とりあえず、ニルファさえ我慢させられるなら、後はもうイージーモードだ。
救出班は、ルシファーとディオネさえいれば心配いらないだろうしな。
―――――――――――――――――――――――――――――
「お父様!お母様!お兄様も、よくぞご無事で!」
「お前こそ!よくミュルクの森を突破して責務を果たした!私は誇りに思うぞ!」
「エイラもいたのか!?あの教皇たちめ……!」
「いえ!私など!ミュルクの森へ1人で赴いたティティア様こそ……!」
小娘が、皇帝たちと感動の再会をしている。
さっさと脱出しなければならないのだから早く終わらせてほしいのだが?
「貴様ら!すぐにここから脱出するぞ!我についてこい!」
「キャー!ルーちゃんカッコいいー!」
「茶化さないで下さい……。」
ディオーネー様の歓声が少し面倒だが、まあ仕事自体は楽な物だった。
このゴーレム、我の記憶によると超巨大要塞なんて大層な名前がついていた筈だが、ここに至るまでになんの迎撃も無かった。
ステルスだか迷彩だかが上手く働いてくれたおかげ、と言うのであれば問題が無いのだが、それにしたって何のトラップも無いのが逆に不気味に感じる。
しかし、人質として囚われていた者たちに、小娘の知らない者は混ざっていなかったようだし、敵はいない……と思いたい所だが……。
もっとも、我とディオーネー様、そして小娘は、ダロスの作ったエギルギアを身に着けているため、仮に何かの罠だったとしても早々負ける事は無いはずだ。
そう頭ではわかっているのに、相手があのゴミクズ神であるというだけで、私の心には不安が募る。
「考えても仕方ないよルーちゃん。私たちは今、人間以上の力なんてあんまり持ってないんだしさ。」
「……ディオーネー様……。」
「今の私とルーちゃんは、ただの普通の女の子だよ。好きな男の子に頼られて、頑張っちゃう程度のね。」
「別に私はダロスなんて好きじゃないです。」
「ダロスの事だなんて言ってないけどね?」
「…………。」
「さぁさぁ!頑張って皆を助けよう!」
ダロスが告げたタイムリミットまであと15分。
脱出するまでには十分な余裕があるが、だからと言って下らない言い合いで遊んでいられる程ではない。
我は、自分の役割に集中することにした。
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