第100話

『聞きなさい!我が真聖ゼウス教皇国の戦士たちよ!真聖ゼウス教皇国第1皇女、ティティア・アストレアの名の元に命じます!この国の民を想う気持ちが少しでもあるのであれば、私の前に道を開きなさい!私は今、女神様の御意思によって動いています!』




 午前9時、開戦の前に、アイギスの手の上に乗った状態でティティアに色々宣言をしてもらっている。


 今日は、視覚的な演出のためにしっかり明るくなってから攻め入る予定だった。


 そのために、色々と前準備として説得した事にするだけの台詞。


 いくら普段横暴な聖騎士様でも、指揮官の命令無しでしょっぱなから持ち場を離れるような事はしないだろうし、その指揮官様たちは、もしここで皇女様に語れてしまうと最悪の場合一族郎党皆粛清だ。


 下っ端たちはシュッとした体型なのに、あの偉そうにしてるやつらの腹は、どいつもこいつもでっぷりとしている。


 ジャガイモ食しろよ。




 ただ残念な事に、本日は画的に微妙な曇り空。


 これから聖戦を始めようというのにこれではイマイチ。


 仕方がないので、昨日の時点では予定になかったけれど、これも利用させてもらいます。




「ニルファ、ゴー!」


『わかりましたわ!』




 ニルファに作戦を開始させる。


 すると、俺たちの前に一筋の光の道が。




『御覧なさい!神々は今!私たちに道を御示しになられました!これを阻む者には、神罰が下る事でしょう!』




 種明かしをすると、太陽の位置から計算して、丁度いい場所の雲を空にいるニルファが切り裂いただけ、


 神って言うか、ドラゴンが指し示してます。


 まあドラゴンも信仰されることあるし、神みたいなもんか?




 この演出により、流石に相手の聖騎士たちも慌てているようだ。


 特に光の道の中にいる奴らは、ザワザワと逃げたそうにしている。


 あ、馬に乗ってる指揮官が逃げた。




『これより進軍を開始します!命が惜しくない者たちはかかってきなさい!神意は我にあり!』




 ティティアからの合図で、新武装を稼働させる。


 すると、アイギス・ドールの背に神々しい翼が作られた。


 それと同時に、エギルギアの翼を展開して、俺のアイギスの周りに対空しだすルシファーとディオネ。




『貴様、随分大掛かりな物を作ったな……。』


「見た目すごいでしょ?光の線を組み合わせたただの立体映像だから、マジで見た目だけなんだけど。」


『しょっぼいな……。』




 ルシファーに呆れられた。


 でも、今この場において言うなら視覚的効果だけで十分だ。


 その証拠に、真聖ゼウス教皇国軍からも等々逃げだす者が出てきているのが見える。


 下っ端聖騎士もそうだけど、汚職大好きな領主たちの私兵も流石にこれ以上神様っぽい相手と戦いたくは無いのだろう。




 それでも、まだその場に残っている者たちは、何とか戦おうと魔術の準備をしているようだ。


 こちらが進みだすと、もうこの世の終わりみたいな顔をしながら詠唱しているのが見える。




「あのぉ……ダロス様、本当にここは大丈夫なんですよね……?」


「大丈夫、保証する。」


「なら良いのですが……。」




 コクピットの中に少し顔を入れて、不安そうに確認を取るティティア。


 今回、真聖ゼウス教皇国軍を突破するまでは、アイギスの手の上で凛々しく立っていてもらう予定だ。


 その方がカッコいいからって言うだけの理由だけど、戦いにおいてそれは重要な要素だと思う。


 このティティアの姿は、今後のプロパガンダにも使えるだろう。




 それはそれとして、まあ生身で飛び道具を持っている軍隊の前に立つのはそりゃ怖いだろうな。


 でも大丈夫。


 ガラテア仕込みの結界と慣性制御で、全て無効化できるから。


 魔力ドバドバ使えるのを利用して、とにかく頑丈さに重点を置いている。




「わっ……わっ……来ますよ!?」


「大丈夫、例えドラゴンのブレスでもこの守りは抜けないよ。」




 透明な壁の向こう側に、相手の魔術が殺到する。


 この結界、何を隠そうニルファのブレスを基準に設計されているので、人の力でこれを突破するのはほぼ不可能だろう。


 もっとも、ニルファが俺のドバドバ魔力を利用してブレスを放てば、間違いなくぶち抜けるとは思うけれど。




 30秒程の攻撃の後、土埃が舞う無音の世界が生まれた。


 続きが無い所を見ると恐らく相手は、順番に魔術を発動することを忘れ、とにかく皆でぶっ放したようだ。


 織田信長に笑われるぞ?




 土煙の中から俺のアイギスが出ると、絶望顔の敵が見えた。


 それでも、光の道の中にまだ500人ほど残っている。


 中々の根性持ちだと言えるだろう。


 だけどダメだ。キミたちには退場してもらうぞ。




 俺は、以前作ったスズメバチ型人形『刺谷さん』を放つ。


 今回打つ毒は睡眠毒で、刺された相手は一瞬にして耐えようの無い眠りにつく。


 3時間はぐっすりだろう。


 1匹1匹操作をするのは面倒だったので、放つと指定範囲内の一定以上のサイズの生物に対して、自動で攻撃を加える設定にしてある。


 自動にすることで俺への負担が減り、アイギスを操作中であるにも関わらず、今回は100体の刺谷さんを運用することができた。




「な!?虫か!?」


「チクショウ!なんでこんな時に!?」


「うっ!?……はにゃあ……。」




 刺谷さんに刺されて、倒れ伏していく真聖ゼウス教皇国の者たち。


 それを見て天罰が下ったとでも思ったのか、一気に戦線が崩壊した。


 我先にと兵士たちが逃げ出していく。




「他愛ないな。」


『追撃をかけますか?』


「放置でいいでしょ。ミュルクの森に入ってきたら魔獣が食い殺してくれるだろうし、ある意味完璧なセキュリティだ。」


『畏まりました。』




 最近、ローラは軍師の才能もあるんじゃないかと思ってる。


 領地は貰っちゃったし、領軍を作ることになったらローラをリーダーにしてみようかな?


 あの扱いの難しいニルファを上手く扱ってるのも非常に高評価。


 でもなぁ、数少ない一緒にブンドドしてくれそうな娘だから忙しい仕事はなぁ……。


 よし、遊び相手も兼任させよう。




『もどりましたわ!』


「お疲れ。いい演出だったぞ!」


『この位朝飯前ですわ!』




 噂のニルファも空から戻ってきた。


 因みに、既にしっかり朝飯は喰った後だ。




「相手をビビらせて逃がすためにゆっくり進んでたけど、ここからは普通に進もうか。ティティアは、ハコフグの中で休んでてくれ。」


「承知しました!」




 ティティアをハコフグに乗せ、先ほどまでとは打って変わって爽快な移動を開始する。


 あー、ゆっくり動くのってストレス溜まったなぁ……。


 前世で皇室のパレードに参加する運転手たちは、爪楊枝を立ててそれが倒れないように練習するなんて噂も聞いたことあるけれど、素早く動くよりよっぽどテクニックが必要だった。。




『この位のスピードの方が気持ちいいですわぁ……。』


「ニルファなんてしばらく空にいたんだからまだいいだろ?」


『空からお父様たちを見ていたら、あまりにゆっくりでストレスが溜まったんですの!』


「そりゃすまなかったな。今度時間が出来たら、一緒に思いっきり空をかっとばしてみるか。」


『楽しみですわ!』




 暴れん坊を手懐けるには、飴と鞭を両方大量に用意しなければいけない。


 そして、ニルファの場合周りに鞭になるものが結構いっぱいいるため、俺は代々ゲロ甘な飴担当になる。


 強く注意できないヘタレともいう。




 流石に上空を全力で飛ぶほどでは無いにせよ、障害物の殆どない地上を進めばかなりのスピードが出せた。


 ミュルクの森の中をあんなに手間取ったのがウソのようだ。


 そのため、1時間も経たずに真聖ゼウス教皇国の帝都へと辿り着いた。




 帝城の真ん中にある大きな城が、ティティアの家族が住む帝城のはずだ。


 そして、帝都から少し離れた所にある金キラ金の悪趣味な城みたいな建物が、聖教の本拠地である中央神殿とのこと。


 話には聞いてたけど、よくもまぁここまで成金っぽいもん作ったもんだ……。




「あの神殿の周りには住みたくないなぁ……。明るい時間帯は絶対眩しいぞ……。」


『神の力の一つである太陽光や月光を人々により届けるため、なんて馬鹿らしい理由付けであんなことになったそうですけどねぇ……。』


「聖女的にアレはどうなの?」


『カップ焼きそばのお湯を捨てる前にスープを入れてしまった時並みに嫌な気分になりますね?』


「そっか……。」




 なんでこの聖女は、ここまでカップ焼きそばにハマっちゃったんだろうか?


 前世のメーカーさんには悪いけど、そんなにバクバク食べたくなる物だっただろうか?


 ……あ、でもネットの書き込みだと案外毎日のように食べてるって人も結構いたかもしれない。


 俺は、シーフードのラーメン的な奴の方が好きだったけど。


 アレと、ツナマヨおにぎりの組み合わせが正義。




 金ぴか城まで残り約1kmの地点で全員を止める。


 ここでも再度ティティアによる呼びかけを行ってから、本格的な行動に移ることにした。




「ティティア、もう一回こっちの手に乗ってもらっていい?」


『わかりました!……あれ?あの、なんだかすごい振動が……。』


「うん?」




 ティティアに指摘されて、初めて何か地震のようなものを感じた。


 しかも、段々と強くなっていっている気がする。




「全員注意しろ!最大警戒で対ショック体勢!」


『『『了解!』』』




 今回は、相手が神様である以上何が起きるかはわからない。


 それでも、神様自身が直接この世界に干渉してくることはほぼ不可能なハズ。


 何か仕掛けてくるとしても人間サイズの事柄だと思っていた。


 だから、このタイミングで地震が起きるとなると流石にびっくりだ。


 注意深く周りを観測していると、信じられない光景を目にした。




「なぁティティア、俺の目が間違ってなかったらさ、あれ、動いてない?」


『えっと……動いてますね。アレって動く物だったんですね……?』


「皇女様が知らないなら、俺が知らなくてもしょうがないよな。」


『聖女は知っていましたよ。なにせ聖女ですので。今まで忘れてましたが!』


「セリカ、そこの焼きそば聖女にデコピンしといて。」


『わかった。』




 通信越しに聞こえるマルタの短い悲鳴をスルーしながら、目の前の光景を目に焼き付ける。




「金ぴか神殿、立ったな……。」


『アレは、我がはっちゃけてた時代に、神の使徒の人間によって作られた超巨大要塞型ゴーレムだな。アホみたいにデカくて攻撃が殆ど効かないため一時難儀したが、魔力効率が悪すぎてすぐにただの棺桶になっておったわ。』


「ルシファーも知ってたのか?先に教えておいてくれよ。」


『あんなもんがこの時代に残ってるなんて思わんわ!』






 そこには、地上に出ていた70m程だけが金色になっている、不格好なデカいゴーレムが聳えていた。






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