第99話

 ミュルクの森の端っこでキャンプしてます我々ダロス一行。


 ミュルクの森は、神聖オリュンポス王国の領土となっているため、現在はまだ真聖ゼウス教皇国に対して領土侵犯を行ってはいない。


 ただ、テレビを使ってミュルクの森を突破していくと宣伝していたため、ここから見えるだけでも相当数の真聖ゼウス教皇国側兵力が集まっているようだ。


 焚火に照らされ浮かぶテントの数はかなりの物。




 これ、他の国境線守るような戦力まで連れて来てんじゃね?


 他国ながら心配になるわ。


 兵站とかどうしてんだろ?


 輸送部隊いたらこんなに素早く戦力集中なんてできない気がするんだけど……。




「なぁティティア、俺たちがここで数日粘るだけで、近くの街の食料庫干上がるんじゃないか?」


「それは困ります!できれば早期に決着をつけなければ!」


「わかってるよ。できれば明日中に終わらせたいな。」


「明日って……それは可能なのですか?」


「相手が変な隠し玉でも持ってなければな。」




 正直な話、今ここから見えている兵隊たちなんて、ニルファ1人に任せたってすぐに全滅させられる。


 でも、今回は可能な限り生き残らせて、国を再整備する人手にしないといけない。


 隣に立つティティアの父親や兄を頭にして国を再興させていかないといけないからな。


 だから、できるだけ非殺傷兵器と信仰の力で乗り切ろうと思っている。




 敵情視察を終えてティティアとハコフグへ戻る。


 そして、中で既に夕食を始めていた面々と明日の最終打ち合わせをすることにした。




「まず前提として、できるだけ相手の兵士は殺さないようにする。」


「モグモグモグモグ……ゴクンッ!どうしてですの?」


「重要な人手だからだ。ただ、絶対ではないので必要なら殺してもいい。一般市民やこっち側に被害が出そうなら殺せ。」


「わかりましたわ!」




 一番うちで火力あるニルファには、特にしっかり言い聞かせておかないといけない。


 こいつが本気になれば、1時間もかからずに相手は全部消し炭だ。


 ドラゴンブレスなんて使われた日には、恐らくクレーターを見てティティアが泣く。




「真聖ゼウス教皇国に入る前に、ティティアに開戦の号令をかけてもらう。これは、テレビで生放送するからな。」


「わかりました!がんばります!」


「その後、俺のアイギスを先頭にして前進を開始する。ここで色々小細工するけど、皆は気にせず俺に着いてきてくれ。」


「「「はーい!」」」




 そう、小細工をいっぱいする。


 視覚的情報や、相手には何が起こったのかよくわからないであろう狡い攻撃まで、色々とやっていくつもりだ。


 ハッキリ言って、奴らの中にも私欲に塗れている訳ではなく、上からの指示に従ってここに来てるだけの者も多いハズなので、そう言う人は特に殺したくない。


 戦争終結後に、ディオネ辺りをメインで信仰してもらえるように調整したいな。




「私からもお願いします。聖教の者たちにも敬虔な信者は多いのです。ですが、上に行けば行くほど欲深い者が増えていき、その者たちが今のこの国を動かしています。彼らを止めれば、自然と聖騎士や兵士たちの多くが味方となって本来の役割を果たしてくれる事でしょう。」


「聖騎士の方々もジャガイモばかり食べさせられてる人多いですよねぇ……。」


「よく暴動とか起きなかったね?私数か月しかいなかったのに爆発寸前だったんだけど……。」


「指示を出せるくらい偉い立場になると、それまでのジャガイモさが嘘のように豪華な食事ができていたようですからねぇ……。」




 ティティアとマルタとセリカによる真聖ゼウス教皇国トーク。


 美少女3人にとって、あの国はとにかく食に乏しい印象だったらしい。


 セリカはともかく、他2人はあそこで生まれ育ったのだから猶更だろう。


 カップ焼きそばで感動する状態だったからな。




「今見える所に展開されてる相手側の部隊は、大して問題もなく突破できると思う。ただしその後が出たとこ勝負な部分が多い。」


「僕もそこが聞きたかったんだけど、結局この戦争はどうなったらダロス的には終結するの?」


「最低でも、聖教本部の壊滅。可能であれば、ゼウス抹殺。」


「おー!神殺しするの!?この世界で初めての事例になるね!」




 娯楽に飢えた女神が浮足立つ。


 神様たちは、こういう世界初の事例に弱い。




「我は、あのハゲがそう簡単にこの世界に顕現できるとは思えんのだが……。」


「いや奴は絶対にこの世界に来たがってる。だって、ディオネとアフロディーテ様とルシファーが、こんなにもこの世界をエンジョイしてるんだから、それを見て我慢できるとは思えない。どんな手段を使うかはわからないけどな。」


「そうなったら、十中八九貴様が標的になるのではないか?貴様くらいしか今神の依り代を作れる者はおらんだろう?」


「その時はその時だ。実は王都にいる間に、ガラテアとナナセに頼んでお守り作ってもらったんだよね。これで勝てる!」




 そう言って、俺は懐から赤い袋を取り出す。


 中には、俺も知らない術式的なものが刻まれた何かが入っているらしい。


 この手の物は、ガラテアやナナセには全然敵わないので、完全にお任せだ。


 コピーして発展させるだけならスキルを使えば簡単にできるんだけど、オリジナルってなると難しい。




「……中身がわからないように細工が施されているようだな?これなら神が相手でもごまかしは効くだろうが……。まあいい、何かあったら我も手を貸すからな。」


「頼りにしてるよルシファー。」


「……フンッ!」


「顔を赤くしてるルーちゃんも可愛いよね!」


「やめてくださいディオーネー様!」




 照れるルシファーと大喜びのディオネ。


 ディオネにも今回ルシファーとお揃いのエギルギアを着用してもらっているので、戦力としても天使役としても期待が持てる。


 天使は、聖教信者に大ダメージを与えられるのは、王都の支部で既に何度も実証済み。


 今回もそれを存分に使わせてもらう。




「ニルファとローラは、もちろんアイギスでアタッカーをしてもらう。武器選択は慎重にな。基本は、魔獣ではなく対人戦闘になるはずだし。ローラは、更にドローンで撮影もこなしてもらうから大変だと思うけど頼むな。ヒルデたち3姉妹はその補助。」


「了解ですわ!」


「わかりました。」


「「「モグモグモグ!」」」




 主戦力にも一応の打ち合わせはしておくけど、どこまで予定通りいくかなぁ……。


 そもそもの話、現時点で相手の本拠地……というか聖教の偉い奴らがどこにいるのか確定してないからなぁ。


 聖教本部の神殿にいるのか、それとも皇帝たちを人質にとって城に立てこもってたりするのか。


 もっと言うと、そいつらに加担していた貴族や役人をどうするかも決められていない。


 ティティアにそれを決めさせるのは酷な気がしたから、皇帝を助け出して決めさせようと思っているけれど、こっちもどうなるかわからないなぁ。




 俺には、血を与えても飯を人一倍食って、打ち合わせ中でも咀嚼を辞めない奴らがいる事すら予想できていなかったし、何が起きても冷静に行動する覚悟を持っておかないといけないな。




「最後に一つだけ。もし神様が出てきた場合なんだけど、俺にできるのは多分弱体化までだと思う。だから、止めを刺すのは他の奴に丸投げすることになる。特に、勇者と聖女とそこの天使な。」


「わかった!」


「わかりました!」


「あのクズに止めを刺せるなんてこれ以上無い程の愉悦を感じられそうだ!」




 各員中々やる気があって宜しい!


 俺は早く帰って基地を作ったり子供を眺めたり嫁たちとイチャイチャしたい。




「あのぉ……私は開戦したら何をしていたらいいのでしょうか……?」




 そんな中、恐る恐ると言った様子でティティアが質問してくる。


 そう言えば、重要な役割なのに教えるのを忘れていた。


 何せ、彼女はこの戦争の主人公でなければいけないのだから。




「ティティアはな、カメラの前でキリっとした表情でリーダーっぽくしてるのが仕事な。」


「そんな事で良いんですか!?」


「むしろ、一番重要だぞ!」


「が……頑張ります!」




 フンスッと気合を入れる皇女様。


 この辺りのシーンは、テレビで流すべきかどうか悩みどころだ……。


 可愛いイメージにするなら流すべきだけど、救国のお姫様的な感じにするなら流さないべきだしな。




 俺がいろいろ悩んでいても時間は進む。


 打ち合わせを兼ねた食事も終わり、皆で早めにゆっくり寝た。






 そして翌日、神との戦争が始まる。






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