第98話

『ほぼ1国相手に戦争しようって言って出てきたのに、こんだけの頭数で攻めてくんだ……。』




 通信越しに、ハコフグに乗るセリカがちょっと心細そうに言う。




「これでも過剰戦力だと思うぞ。ぶっちゃけ、国を救うんじゃなくて焼け野原にするだけだったら、ニルファのアイギスだけでいけそうだし。」


『楽勝ですわ!』


『ギガンテスを使えば私にもできますよ?』


「ローラは、ギガンテス使いたいだけだろ……。」




 今回は、アイギス・ドール3機とドローンタルタロス10機、それとハコフグ1台だけでミュルクの森を走り抜けている。


 因みに、タルタロスは大半がカメラ要員だ。


 まあこんなんでも、神本人でも出てこない限り大丈夫だろう。


 神は自分で何か影響を与えたくても、神器でも用意しない限り何もできないからなぁ。


 憑依できる体だって俺しか作れないし、ここしばらくこの世界に降りてきた神はアフロディーテ様とディオーネー様だけみらいだから、他に憑依可能な体があるわけでもないのだろう。


 なので、戦力としてはこれで十分なハズ。


 ギガンテスなんて持ち出したら、歩くだけで小さな町なら消えるわ。


 ただ、呼び出せば空を飛んでくるからすぐにでもご用意できますけどもね?


 まだ着地が不得意なために、呼んだら最後そこそこの大きさのクレーターができると思うけど……。




『今回に限っては我を頼ってもよいぞ?あのゼウスへの嫌がらせができるのならな!』


「じゃあチア衣装でライブする?ディオネと一緒に。」


『僕はいいよ!』


『……戦闘にしてくれ。』




 今回は、対神戦闘が起こる可能性が少しだけあるのと、その神にガチギレしてる奴が味方にいるために、女神とヤサグレ天使も連れてきている。


 後で戦場の歌姫としてライブをさせるつもりなんだけど、やってくれるだろうか?


 モノホンの神聖存在による歌と踊りだから、視聴者への受けは抜群だろうし、仲間の士気も増すと思うんだよね。


 主に俺の士気が。




 信仰ってのは怖い。


 時に自分の命を投げ捨ててでも神のために行動しようとする奴までてくる。


 昨日家に帰ったら、第1王子の乳首をズタボロにした事件から最近まで数体しか返ってきてなかったアルカシリーズが、一気に10体ほど帰って来てたからな。


 それはつまり聖教のためであれば、自分の命を脅かすほどの監視の目があるとわかっていても、俺に対して敵対的な行動をした奴が、第1王子の派閥内にすら10人以上いたというわけで……。


 アレだけ恐怖を植え付けた上でそれなんだから本当に厄介だ。




 帰って来たアルカシリーズは、折角なので塾とテレビ局の護衛につけている。


 ガラテア製の結界で安全なハズだけど、念には念を入れておいた。


 何が起こるかわからない以上、ある程度なんにでも対応できるようにしておかなければいけない。


 王城には、ディとフレイを派遣しているため、あっちはあっちで安全だろう。


 俺の家には、身重で万全ではないとはいえ、ガラテアとナナセがいるから問題ないだろうし。


 アルカシリーズも何体かウロウロしてるはずだから、相手が何であれ安全だろう。




「あーあ、早く帰りたいなー。もうすぐナナセとガラテアの出産時期だしさー。」


『私も早く赤ちゃん産みたいですわ!』


「イケメンドラゴンって案外見つからないよなー。」


『ですのでお父様!』


『ダロス!僕も!』


「はいはい今度なー。」




 ドラゴンだけではなく、女神様まで参戦した。


 孕みたがりが多い。


 てか結局ニルファは胎生なのか?


 それが気になる。




 ハコフグには、ディオネとルシファーの他に、マルタとセリカ、それに何といってもティティアが乗っている。


 国境侵犯をする前に、彼女に号令をかけてもらわないといけないし、全てにおいて彼女がメインになってもらわないと困るからだ。


 頼りにしてるぜ皇女様!




「ティティアは、何か困ったこと無いか?」


『……ゴクンッ!ありません!』


「そうか、よかった。」




 どうやら何かを食べてる時に話しかけてしまったらしい。


 順調に聖女から暴飲暴食のスキルを伝授されているようだ。


 元気に育ってほしい。




 今現在の計画としては、明日の昼辺りに森の端に到着し、そこで一夜を明かしてから、翌朝ティティアの号令で進軍を開始することになってる。


 俺たちもこのミュルクの森の詳しい広さはわかってないけれど、レベルがまだ低いとはいえ、身体強化した勇者が一昼夜走り抜けてやっと突破できる広さらしいので、いくら俺たちのロボットが速いと言っても今日中に走破するのは難しいだろう。


 やろうと思えば可能だろうけど、そこまで無理にこの深い森の中をロボットで突破する気も無いし……。


 空を飛べばすぐだと思うけど、案外森の中って言うのは進むのに時間がかかるものだ。




 それでも、聖教が他国に援軍を要請する時間よりは、俺たちが到着するほうが早いはず。


 仮に援軍が万全の状態で到着していても、クロノス国の正規軍と同程度の兵士たちであれば皆殺しにできちゃうけど、そんな事したら出兵した国々は、労働力が無くなる上に見舞金支払って経済崩壊一直線だろうなぁ……。


 大体兵士って言ったって、大半が普段農業とかしてる一般人だろうし、猶更食料供給とかに影響出て大変な事になりそうだ。




 もっとも、事前調査だと真聖ゼウス教皇国に援軍を寄越す国なんて居なさそうだけど。


 何せ全方位で嫌がられてる。


 自分たちでは何もしないのに、神がどうので寄付だの食糧援助だのさせまくってればそうもなる。


 その状態で援軍を出してきたとしたら、それは火事場泥棒目的の可能性すら疑われる。


 だから、実際に出てくる援軍は、聖教が各国に派遣している兵力を戻すという物になりそう……か?


 でもその状況なら、聖教の各支部の神殿長たちは自分たちの拠点を守らせるか……?


 一応俺たちには皇女がついてる上に、聖女や勇者と一緒に女神の名のもとに行動している訳で。


 錦の御旗がいくつも掲げられてる状態だからなぁ。




「ティティアはさぁ、聖教から国が解放されたらどんな国にしたいんだ?」


『その場合私はダロス様と結婚することになるので、国の運営は兄が行う事になるとは思いますが、とりあえず食料自給率を上げなければどうにもならないと思います。現在の小麦とジャガイモばかり作る体制では、何か一つ作物の病気が流行っただけで飢饉が発生してしまいますし、作物の種類を増やす必要もあるでしょうね。実は、真聖ゼウス教皇国は荒れ地が多いため、農耕には適さない土地ばかりなんです。そういう場所を土壌改良で畑にできれば、自国の民を飢えないようにするだけではなく、他国へ輸出することもできるようになると思います。ダロス様と私が結婚していれば、もしかしたらダロス様が土地開発に協力して頂けるかもしれませんし……。』




「案外色々考えててびっくりした。」


『案外!?私これでも皇女なのですが!?』


「いやぁ、俺の記憶の中にあるティティアって、半分くらいの確率で何か口いっぱいに入れて食べてる可愛い女の子って感じでさぁ、口の横にマヨネーズとかケチャップつけてるような顔で連想されることが多くて……。」


『え!?さっき拭いたのに……!』


「いや今の話じゃなくて……ってさっきマヨネーズかケチャップついたもん食ってたのか……。」




 やはりマルタに任せるのはまずいか……?


 マルタは食べた栄養が殆ど胸に行くと言っていたし、実際どんどん巨乳になるのに太るといった感じではないけれど、ティティアがそうかはわかんねーからなぁ。




「セリカ、ティティアに何かあったら頼むな!」


『あー、今カップ焼きそば3つ目行くとこだけど、これはなんかあったに含まれる?』


「……無理してるんじゃなければ、許してやって。」


『わかった。太らないように見ててあげるよ。ダイエットは辛いからさ……。』


「セリカもダイエットとか考えるのか。」


『うっさい!運転に集中しろ!』




 怒られてしまった。




『ハハハ!貴様はやはり女には弱いな!』




 通信越しに、ニヤニヤとルシファーに笑われている気配がする。


 ふーん?そういう態度とるんだー?




「ディオネ、そろそろ一発ライブ中継行っちゃう?ちょっと狭いけど、ハコフグの中に撮影用機材あるし。」


『いいの!?ルーちゃんとやってもいいの!?』


「いいぞ!」


『なんだと貴様!?』




 その日の夜、ティティアから、ルシファーの歌と踊りがすごかったとキラキラした目で語られた。




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