第96話

「明日の昼頃には王都に着くと思う。そこで国王陛下に国の代表として挨拶してもらうね。」


 チュピッ チュパッ チュルルルッ




「……わかりました。ただ、昨日着ていた衣装しか持ってきていないので、それを修繕する時間が欲しいのです……。お恥ずかしい話ですが、新しく買うお金は無くて……。」


 チュピッ チュパッ チュルルルッ




「修理なら俺がするけど、別にドレスくらい用意するよ?特にうちの家族はそう言うの選ぶの好き人多いから。」


 チュピッ チュパッ チュルルルッ




「え!?そんな悪いですよ!」


 チュピッ チュパッ チュルルルッ




「大丈夫だって。今度テレビに出てもらったり、お菓子食べてもらって宣伝に使わせてもらうから。その先行投資ってことで。」


 チュピッ チュパッ チュルルルッ




「うっ……正直とてもありがたいです……。ところでなんですけど、さっきからそれ……大丈夫なんですか?」


 チュピッ チュパッ チュルルルッ




「あーこれ?昨日頑張ってくれたご褒美にね。」




 現在ハコフグに乗って王都へ向かいながら、唇付近にヒルデを。右手人差し指にエイルを。左胸にスルーズをくっつけていますダロスです。


 ギガンテスの操作を頑張ってくれたので、血を与えています。


 家族間では、既に割とおなじみの光景だけど、流石に初めての人には刺激が強すぎたかもしれない。




「その方たちはヴァンパイアなのですか……?」


「羽が生えてて女の子で血を吸いたがるから蚊だよ。」


「蚊って女の子なんですか?」


「血を吸うのはね。オスは、草の汁吸ってるって。」


「そうなのですか!?」




 ガガンボに至っては、オスもメスも花の蜜吸ってるしな。


 ガガンボモドキは、虫捕まえて食うし、メスへのプレゼントも虫らしいが。




「……私は、国の代表として国王陛下の前に出ても良いのでしょうか……?自分で言うのもなんですが、他国のお姫様たちと比べると貧相で見窄らしい気がするのですが……。」


「見窄らしい?……あ、そうか。そういやコクピットブロックのシャワールームに鏡ってついてなかったな。」




 重大な欠陥に気がついてしまったけれど、まあそれはドローンタルタロスに設置してるやつだけなので置いておこう。


 王都で動いてる奴はちゃんと鏡もついてるし、外には更衣室もあるから問題ないはずだ。




 俺は、すぐに神粘土を使って姿見を作った。


 目の前にいきなり物が出来上がっていく事に大層驚いている様子のティティアだったけれど、それが鏡だとわかって、写っているのが自分だと気がついてからは唖然としている。




「これ、もしかして私でしょうか……?」


「そうだよ。元が良いから、肌と髪を奇麗にケアして、服もちゃんとしたの着せただけで十分お姫様っぽく見えると思うぞ?」


「わっ……。すごいです!本当にお姫様みたいです!」


「皇女なんだから、正真正銘のお姫様だと思うけどな。」




 鏡の前でポーズを取ったりターンをしたりしているティティアを眺める乗員たち。


 初めてオシャレをした親戚の女の子を見ているような雰囲気です。




 因みにこのシーン、撮影しています。


 放送しても問題ないシーンを繋いで、国を憂いて命がけで魔物の領域を抜けてきたお姫様の物語として大々的に利用する予定です。


 俺は、お願いされて手助けをしただけの存在であって、あくまで主役はこの娘にやってもらわないと。


 じゃないと、物語性的にイマイチだもんなぁ。


 よくわかんねー新興貴族のあんちゃんよりも、虐げられてきたお姫様のほうが皆みたいだろ?


 俺も見たい。




 今ティティアが着てる服は、俺が作った戦闘にも耐えられる服だけど、王都に着いたら普段着もいっぱい買ってやろう……。


 皆丁度いい着せ替え人形を見つけられて喜ぶかもしれないし、win-winの関係だな。




「まあ、ティティアには色々してもらう事あるけれど、俺が全面協力するから安心していいよ。とりあえず王都に着くまでは、折角だしマルタと一緒に好きな物食べてゆっくり過ごしてくれ。」


「ありがとうございます!」




 多少落ち着いた所で、食育に関してはマルタに丸投げする。


 芋育ち同士、きっと通じる所があるだろうしな。




「ではまず、マヨネーズとコーラをなんにでも組み合わせる所からですかねぇ……?」


「まよねーず?こーら?」




 多分あれが真聖ゼウス教皇国流なんだ。


 そうに違いない。


 セリカが非難染みた目線をぶつけてくるけど気にしない。


 ルシファーが未だに血を吸うヒルデたちにドン引きしてるけど気にしない。


 他のメンバーは、現在ロボットに乗ってるから気にする必要ない。


 ヒルデたちがここにいるせいで、アイギスをフル稼働させられないため、恐らくニルファ辺りはイライラしてる。








 そして翌日、俺とイリアとティティア、それにマルタとセリカは王城へと来ていた。


 メインは、真聖ゼウス教皇国を聖教の魔の手から救う手助けの依頼と言う事になっているけれど、もしかしたら王様的には、ついでに着いてきてもらったイリアの方が重要かもしれない。




 最近、かなりお腹が大きくなったイリアだけれど、「歩くのも重要らしいぞ?」と言って今日来てくれた。


 国王からしてみれば、イリアのお腹の中にいるのは初孫にあたるわけで、連れてこないとそりゃもう様子を聞いてくる。


 今日は、その質問攻めは何とか回避できそうだ。


 もっとも、イリアは地下の秘密の通路から来ているため、そこまで長距離を歩いているわけでもないんだけれど。




「なるほど、つまりティティア殿は、真聖ゼウス教皇国を救うために我が臣下であるピュグマリオン男爵の助力が欲しい……と言う事であるな?」


「は、はい!現在我が国は、聖教に乗っ取られつつある状態です!政治腐敗が蔓延し、国民は重税と食糧難で苦しんでいます!お恥ずかしい話ですが、我々皇族にそれを正すだけの力は既になく……。」


「うむ。まあ、国を治められない皇族に価値はあるのか!と汚職に塗れた貴国の貴族は言い放つであろうが、国の長たる者たちはその程度の罵詈雑言など真正面から捻り潰すくらいでないといかん。」


「ど……努力します……!」




 なんだか、王様がいろいろティティアに教えてて、先生と生徒みたいな感じになってるけど、これはこれで重要だろう。


 皇族が力を取り戻せば、ティティアにも外交的な仕事が来るかもしれないわけだし。




「ダロスよ、おぬしは真聖ゼウス教皇国の皇帝になりたいとは思わんのだな?」


「絶対嫌ですね。広大な領地だってできれば遠慮したい位ですし。なので、ヒーローでありヒロインはティティア皇女に担ってもらいます。」


「おぬしはそう言うだろうとは思ったが、毎回毎回面倒事もってくるのう……。」


「とっとと隠居して趣味に没頭したいんですけどねー。」


「わしの屋敷も早めに造るんじゃぞ?」




 俺と国王陛下がフレンドリーに会話しているのを見て、隣のティティアが口をあんぐり開けている。


 実はこの人、俺のお義父さんなんですよ。




「勇者セリカ殿、それに聖女マルタ殿。貴殿らもよく来てくれた。我が国を代表して歓迎する。」




 そう言って、2人に挨拶する王様。


 しばらく前からセリカとマルタは王都にいたけれど、実際に王様と顔を合わせたのは今日が初めてだ。


 セリカが緊張して硬い返事をしているのがちょっと以外で面白い。


 マルタは、なんか自然すぎて大物感があった。




「最後に、我が娘イリアよ!健康の方は大事無いな?」


「はい、父上。」




 聞かれたイリアも、毎日のように同じ質問を受けているためか苦笑いだ。


 そこからは王様が2~3質問をした所で、客人の前だからとイリアから強制的にストップさせれていた。






 王城を後にして、家に帰ることにした。


 元々ティティアは家に泊めるつもりだったけれど、折角だからとセリカとマルタも今夜は一緒だ。


 部屋ならいっぱいあるし、護衛の手間を考えても一か所にいてくれた方が楽だったって言うのもある。




「というわけで帰って来たよマルスとプリシラ!」


「おかえりなさいませダロス様。」


「また何かやってきたんですね?」




 一応通信で帰ることを伝えていたからか、それぞれの子供を抱きかかえたイレーヌとサロメに迎えられる。


 こんなに幸せな事はあるだろうか?


 ただ、外から帰ってすぐなので俺の汚い手で我が子を触ることは許されない!




「今日は、隣国の皇女殿下と聖女様と勇者が泊まるから。」


「…………畏まりました。」




 サロメが、少しフリーズしながらもてきぱきと作業を始めてくれる。


 マルスとプリシラを子供部屋に戻してから、使用人たちで宿泊の準備をするようだ。




「イレーヌは、商人に頼んで皇女様の服を持ってきてもらえないかな?」


「礼装と普段着、両方とも必要と言う事ですね?」


「うん。まあ、細かい部分は女性陣に任せるよ。何が必要かはみんなの方が詳しいだろうし、男の俺には知らせないほうがいいこともあるだろうしさ。」


「確かにそうですね。わかりました。ではこれより、着せ替え人形シフトへと移行します!」


「うん、なんかわからんけど、頼むな!」




 イキイキしているイレーヌにティティアが連行されていくのを眺めてから、他のメンバーと一緒に中に入る。


 今日はもう予定もないため、探索組も自由行動とした。




「あ、お帰りなさいっスー。」


「……おかえり。」




 居間には、ナナセとガラテアしかいなかった。


 2人で自分の子供用に服を編んでたらしい。




「2人にちょっと頼みがあるんだけどさ、こうこうこういうアイテムって作れない?」


「あー、まあできない事は無いっスけど、そんなん何に使うんスか?」


「神様と戦う時の奥の手。」


「……明日にはできると思うから、それまでちょっと待って。」


「あんまり急いでないから、無理しなくていいぞ?健康第一でな。」




 聖教と戦うかもしれないと分かった時から考えていた効果を持つアイテムを2人に製作依頼しておいた。


 まあ、使わずに済めばそれに越した事は無いけれど、用心しておくに越した事は無い。


 神様は、自分の支配領域内の出来事なら詳しくわかるみたいだけど、領域外ならそこまでわからないらしい。


 更に、この家の敷地内はガラテアとナナセの結界によって守られているため、更に秘密厳守にできるだろう。


 だから、下手な魔道具職人に頼むより、魔術が得意な2人に頼んでみることにしたんだ。


 俺は、一回見た仕組みならイメージして作り出せるんだけど、魔術はてんで素人だからあまりにも高度な物はちょっとオリジナルで作るのはちょっと厳しいんだよなぁ。


 しかも今回依頼したのは、対神様用だし。


 あーあ、神様となんて戦いたくねーなー……。




 ガラテア達と仕様の調整をしながら、夕食までの時間を待つ。


 二階では、キャーキャーとファッションショーが開催されているようだけれど、男の俺は行かないほうが良いだろう。




「……主様、見に行かないの?」


「行かないよ。こっちの方が重要な話だし。」


「まあそうっスよね。あの子まだおっぱい小さかったっスもんね?」


「ナナセくらい大きくならないかなぁ。」




 肉だ。


 肉を食わせよう。






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