第95話

 ある日森の中で出会った少女は、隣国の皇女様でした。


 ボロボロでドロドロだから本物だろうかと不安になったけど、よく見ると服自体は元々豪華だったようだし、マルタ曰く顔から判断して本人に間違いないだろうという事だったので、丁重におもてなしすることにする。




 この森の中に配置するドローンタルタロスが遭遇する人間なんてよっぽどの犯罪者か、よっぽどの理由で森を突破してきた遭難者みたいな人たちだろう。


 だから仮に見つけたとしても監禁できるスペースさえあればいいんじゃ?


 って皆に言ったら、




「もし女性だったらどうするのですか?」


「泥まみれになった姿のまま運ばれるのは可哀想ですね……。」


「ジブンなら気にしないっスけど、普通は着替えくらいほしいんじゃないっスかね?」


「……体奇麗にできたら嬉しいと思う。」


「主様!髪を奇麗にできる機能は重要では!?」


「主様!いっそのことヘッドスパもいれない!?」


「ご飯は欲しいですわ!」


「「「甘いのが良いですよね?」」」


「せめて機体の全高を50m以上に……え?ダメですか?」




 等々ありがたいご意見を多数頂きまして、すぐに作れるかと思いきやコクピットブロックだけで数週間開発に時間がかかったという驚異のメカニズム。


 家族たちがテストし、その後塾に来ているという女性たちがテストし、最終的に入浴設備のみのバージョンでシャワールーム代わりに至る所に設置されることになった逸品だ。


 現在家に10台、塾に20台、王城にも20台稼働していて、イレーヌが今度王都に女性専用のこのコクピット施設を作るとか言ってる。


 今のうちに名前を考えておけって言われているけれど、殆どが俺の考えた機能じゃないから勝手に皆で命名してくれないかなぁ……。




 話を戻すと、そんな渾身のコクピットをテストではなく実践で使う初めてのお客様なので、ドキドキしながらおすすめした。


 結果はかなり堪能してもらえたようで、周りで見ていた皆とハイタッチの大騒ぎでした。




 服は洗濯機に入れてもらったけど、後でこっそり神粘土で修復してあげよう……。


 なんか高級そうというか、儀礼用の服っぽかったし……。


 なんでそんなもん着て森の中入ったのかは知らないけど、女の子が服を気にするのは流石に俺も学習した。




 着替えの服は、飛行能力などをつけてない簡易版のエギルギアで、衣服モードのデザインはドレスっぽくなってるから、外国の要人が着ても違和感はない物の筈だ。


 これも、我が家の女性陣があーだこーだと考えに考えたデザインだし間違いない。


 ルシファーとディオネまで意見を出していたから、女神たち相手でも大丈夫だろう。




 にしても、まさか携帯用のゼリーであそこまで喜ぶとは思わなかった。


 流石に皇族なんだからマルタたちよりはいい物食べてるんだろうなぁって思ってたのに、話を聞いてみたら結局芋だった。


 あの国は、いったいどうなっているんだろう。




 まあそんなこんなで、俺たちは皇女様を健康的に太らせることにしたんだ。




「あ、違う。それで、なんでこんな森の中に1人でいたんだ?」


「モグモグモグ……ゴクンッ、そうでした!実は、男爵にお願いがあってですね……。」


「ダロスでいいよ。俺もティティアって呼んでいい?」


「はい!大丈夫です!」




 何となく素の話し方の方がこの娘には良さそうだと思って話してみたけど、どうやら問題ないらしい。


 そして、ティティア皇女皇女は、ここに来た理由を話し始めた。




「……というわけで、ダロス様になんとかお力をお借りしたくて、単身スキルを使いこの森を抜けてきたんです。」


「そっかぁ……。勇者と聖女コンビ並みのトンデモ行為をする奴がまだいるとはなぁ……。」


「酷くない!?」


「反論のしようもないですねぇ……。」




 セリカが文句を言うけど、無視することにした。




「ところでさ、言いにくいんだけど……。」


「何でしょうか?」


「こんな怖い森の中を抜けてくるより、そのスキル使って他の国を迂回してきた方が安全で確実だったんじゃ?」


「…………あ!」




 ほんと、よくこんな森の中をこんな小さな女の子が1人で抜けてこようとしたもんだ。


 今回は、俺がたまたまこんなとこにいたからまだよかったけど、そうじゃなかったらヤバかったんじゃないか?


 まあ結果オーライと言う事にしておくか……。




「俺は、聖教が気に入らないから戦うのは構わないけど、真聖ゼウス教皇国自体はあんまりいらないかなぁ。管理面倒だし。」


「そうですか……。ですが、力をお貸しいただけるだけでも幸いです!」


「真聖ゼウス教皇国の皇族って誰が次の皇帝になるんだ?ティティアか?」


「いえ、兄がいますので、ダロス様が国の簒奪に興味が無いのであれば、このまま現皇帝からの交代で兄が次代の皇帝と言う事になると思います。」




 となると、俺は一応の大義名分を得たことになる。


 皇族からの依頼で、腐敗した聖教を質し、国民を救うためにやってきた正義のダロス!


 この錦の旗が目に入らぬか!?




 ってな具合に。


 まあでも、相手が現時点で武力でこちら側にしかけてきているのではないなら、攻めていくには国王の許可が必要だろうけどなぁ。




「いずれにせよ、まずはうちの国王に話を通してからだな。それでいいか?」


「はい!何十年も停滞したままだった貴族や私たちは文句なんて言えません!」


「結構辛辣だねぇ……。」


「こんなに発展した食文化を見せられてはそう思うより他にないじゃないですか!」




 多分だけど、芋ばっかり食わされてる君らんとこがおかしいんだよ?


 栄養ゼリーなんかで感動してくれるのは嬉しいけど、それと同時に不安になるんだわ!




 とまあ、難しい話はあまり考えたくなかったので、この話は保留とした。


 国王様も聖教にイライラしてるみたいだったし、多分悪いようにはしないだろう。




 それより、とても重要な事に気がついてしまった。




「ねぇルシファー、これってもしかしてまたここの調査とか開発中断して、王都に帰らなきゃいけない感じだと思う?神の世界で中間管理職してた天使的に考えてさ。」


「我に聞くな……と言いたい所だが、まあそうなのではないか?とはいえ、あちら側もまさかそこまで早急に動いてくれるとも思っていないだろうが。普通に考えて数か月単位の計画のつもりであろう?」


「俺たちはその気になれば翌日に動けるけどな。領地侵犯からの反撃であれば、出撃するのも許可出すのも俺だし。」


「その時は我もいくぞ?ゼウスに煮え湯を飲ませられると思うととても愉快だ!」




 珍しくやる気にあふれた魔王に頼もしさを感じる。


 これで口の端にマヨネーズがついてなければカッコいいんだけどな。




 俺は、マルタにカップ焼きそばを食べさせられているティティアに向き直って、とりあえずの予定を話す、




「今日はもう遅いし、このままここでキャンプしよう。明日問題なければ、王都に向かって移動ってことでいいか?」


「はい!よろしくお願いします!」


「わかった。狭いベッドだけど、今夜はゆっくり休んでくれ。マルタ、同郷ということでお世話頼んでもいいか?」


「わかりました。精一杯肉付きを良くして見せますねぇ!」




 そうだね、ここに来た当初のマルタ並みにガリガリだもんね。


 ちょっとこの国で引きこもり生活しただけで、びっくりするくらいセクスィバディになってるけども。


 ……じゃあ、ティティアもここからバインバインになるのか……?


 まさかな……。




「皆も聞いたな?明日王都に向かって出発するから、ここで何かやることがある人は今のうちに頼むぞ。」


「私は残ってアイギスで遊んでいたいですわ!」


「却下だ。クレーターはダメだっていってるだろ。大体食料どうすんだよ?料理できないだろ?」


「そうでしたわ……。」




 ニルファは、あれほど食べるのが大好きで手先も器用なのに、何故か料理が上達しない。


 周りが全部作ってやってるのが悪いんだろうか……?


 子育てと言うのは難しい……。


 いや、実の娘というわけでもないんだけども。




「ダロス様、もし聖教側が、皇女が誘拐されたと言い出して攻め入ってきた場合どうしますか?」




 ローラが、王子の婚約者になれるほどの才女っぷりを発揮して良い質問をしてくれる。


 本来でかいロボットに興奮して鼻血だしながらぶっ倒れるような立場の娘じゃないんだよな……。




「問題ない。この森の中を突破してくるにしても、元々見回りのドローンだけで対応できる戦力だろうし、敵性存在が射程範囲内に入れば、ギガンテスの自動砲撃で木っ端みじんだから。」


「それは見たいですね!」


「また鼻血出して倒れたらどうするんだ。一緒に帰るぞ。」


「はい……。」




 ローラは、よっぽどギガンテスが気に入ったらしい。


 また今度適当に動かす理由を考えてやらんとな。




「ところでさ、この森を生身で突破してきたセリカから見て、真聖ゼウス教皇国の聖騎士たちが攻め込んでくることってあると思う?」


「本人たちはやりたいだろうけど、大して訓練もしないボンボンの集まりだから絶対に無理だろうね。そんな事ができるなら、この森は残ってなかったんじゃない?多分、私たちを追いかけてたあのオオカミ型の魔獣が1匹でも聖教の神殿に入り込んだら、そのまま中の人全滅するんじゃないかな?」


「そんなにか。」


「そんなにだよ。むしろ、神様的にはそんな虐殺ショーみたいなのの方が見たいんじゃない?絶対性格悪いもん。」




 俺は、そのゼウスとか言う神とコミュニケーションとったことないからわからないけど、ここまで関係者たちから嫌われるってどんだけなんだろう。




「ルシファー、ゼウス神を一言で表すと何?」


「クズ。」


「そう……。」




 そんな吐き捨てるように言わんでも……。




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