第45話

「ん?起きたかの?」




 目が覚めると、目の前に美少女の顔があった。


 天使かな?




「妾は確かに天使じゃが、お姫様でもあるな?」


「姫様、あの後どうなった?」


「……まあ良い。お主は5日程寝ておったな。」




 5日か。中々の寝坊っぷりでこの後どうするか考えるのが大変だ。




「脳の損傷は殆ど無かったんじゃがな、疲労がかなりの物じゃった。妾もこの5日間つきっきりで回復させとったが、それで回復できる部分とはまた別の所を無茶な使い方したんじゃろ。」


「かもしれない。自分でもいろいろ初めてやった事ばっかりだったから、何がまずかったのかはわからないけど。」


「まあ?そのおかげで妾と5日間もベッタリできたんじゃから?嬉しかろう?」


「そうだな。」


「……素直に認められると、それはそれで照れる物じゃな。」




 俺は、まだ悟りなんて開いてない。


 奇麗な人と一緒に居たらそりゃ嬉しいだろ。


 あと、ここは素直に言って照れさせた方が姫様は可愛い。




「街は、今かなりの騒ぎになっとるぞ。数十年ぶりに本物のドラゴンキラーが生まれたんじゃからな。」


「ドラゴンってそんなに倒されてなかったのか。」


「ワイバーン辺りならたまに倒されるんじゃが、アレは倒してもドラゴンキラーとは認められん。今回おぬしが倒した個体は、正に上位のドラゴンという風貌で、尚且つ映像が残っておるからな。誰も口を挟めない程に完璧な実績じゃよ。まあ、強さのわりに名前が知られていないはぐれドラゴンだったのが玉に瑕じゃがな。」


「私を見て生き残った人間はいない!って言ってたわ。」


「目撃者を丁寧に排除するとは、マメな事をするドラゴンもいたものじゃな。」




 もしかしたら、人間社会にも紛れ込むためにひっそりと生きていたのかもしれない。


 だとしても、それを確認する方法はもう無いし、殺した相手の事をあんまり考えたくもない。




「それより聞いたんじゃが、久しぶりに本気で戦ったんじゃって?」


「……調子に乗って仲間を傷つけて、その鬱憤を八つ当たりしたのが大きいかもしれない。しかも、ドラゴンのくせに小物みたいな行いし始めたし。ドラゴンって俺ですら憧れる生き物なのに、アレはねーよって思ったら、ちょっとやりすぎたかもしれない……。」


「そのせいで自分までボロボロになって寝込んでいたら世話無いのう。いや、世話はしたな?妾が!」


「姫様、結婚しようか。」




 姫様が何を言われたのかわからないという表情でこっちを見る。


 それでも、数秒かかって顔を赤くする。




「……おぬし、それ本気で言っとるのか?」


「ドラゴン倒す前だってもうギリギリだったんだ。ドラゴンキラーだなんて騒がれたらもう逃げよう無いでしょうよ。」


「まあ、政治的にはそうじゃろうけど……。」


「それにさ、ボロボロになって気絶した後、目が覚めた時に目の前に天使がいたら、男は好きになっちゃうものだし。」


「それまだ引っ張るのじゃな……。」


「因みにさ、俺ってヘタレだから、今の嫁2人も基本こんな流れでプロポーズしてるから。」


「ヘタレなのは知っとったが、もう少しムードという物をじゃな?」


「ごめんな。本当は指輪も用意しておけばよかったんだけど、今この瞬間言っておくのが一番な気がした。」


「はぁ……。」




 姫様はため息をつくと、そのまま俺にキスをしてきた。




「おぬしと違って、妾は何もかも初めてじゃ。ちゃんとリードするんじゃぞ?」


「可能な限り。あーでも、赤ちゃんは先にナナセとだから。」


「そういえば、そういう約束をしてるんじゃったな。おぬし、スケコマシじゃのう……。」


「責任はとるから、許してもらいたい所です。」




 本当に、この前まで童貞だった人間がいろいろやりすぎだとは思ってる。


 でも、この体に入ってから色々滾るものがあって、活力が湧いてくるような感じがしている。


 前世だったらこんなに告白とかできたハズはないんだけどなぁ。




「ただなぁ、姫様と結婚するとなると一つ問題がなぁ。」


「確かに。妾の夫としては格が低く、他の貴族から文句が出るかもしれぬな。」


「いや、そっちは最悪黙らせるだけの武力あるけどさ。」


「じゃあなんじゃ?」


「サロメとイレーヌにどう説明した物かってさ……。」


「ドラゴン倒すより深刻そうな顔じゃな……。」


「時間に猶予があるうちに言い訳考えておくつもりだったんだけどなぁ……。あのドラゴン本当に余計な事を……。」




 そんな事を話していると、姫様が手を握ってくる。


 やっぱり、俺の手と違ってすべすべで、女の子って感じがしてドキドキする。




「その辺りも妾と考えれば良い。夫婦にしてくれるんじゃろう?」


「……そうだな。」


「ところでなんじゃが……。本当に今更なんじゃが……。」




 なにやらモジモジしだす姫様。


 ぴっちりスーツ着せられた時以来のモジモジさだ。




「妾、まだおぬしからまともに名前で呼ばれたこと無いんじゃが……。」


「あー……。」




 そう言えばそうか。ずっと姫様とか王女様とかそんなんばっかりだった気がする。


 俺と結婚するなら、王女って肩書では無くなっちゃうかもしれないし、慣れておいた方がいいか?




「好きだ、イリア。」


「……これは、存外良い物じゃな。」




 トロンとした表情でそう言われると、こちらも照れるけども。




「ところで、なんで布団にもぐりこんでくるんだ?流石に今日は体力的にきついから、その……アレはやめておきたいんだけど……。」


「妾とて、初めてはもっとちゃんとした場を希望する。じゃが……。」




 そこまで言って、俺の耳元に口を寄せ囁く。




「5日間も看病しとったんじゃ。好きな者の隣で寝る権利くらい、妾にもあるじゃろ……?」






 そんな事言われたら、拒否なんてできないじゃろ?






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