第41話

 そして、事態はまだ解決していない。


 金髪ヤンキーによれば、今まさにクロノス国の正規軍が領土侵犯してくる所なんだとか。


 どうしたものか。




 正直、今日までこの世界の技術レベルや戦力を見て回った結果、恐らく本当に正規軍相手でも戦えるだけの戦力が今の俺たちにはある。


 それでも、パワーバランス的に姫様の派閥である俺がこれ以上いろいろしちゃっていいのだろうか、という気もするわけだ。


 本当に、姫様を嫁に迎えるしかなくなるのか?


 うちの嫁2人に、更にその2人が合意していると思われる3人目のナナセまで説得するのは中々大変なんだが?


 まあ?姫様は美人だし?胸もナナセ程ではないけど大きいし?3号の扱いを見るに俺の趣味への理解もありそうだから?


 情が移ったって言うのが無くても女の子としては魅力的だとは思うんだけどね?




「……あ、良い事思いついた!」


「良い事を思いついたときは、8割くらいは間違ってると妾は思っとるんじゃが。」


「いや大丈夫!これはいける!」




 俺は、難題が片付いてとても晴れやかな気分になる。


 そうだよ。


 自分でポイントを稼ぎたくないなら、もっと別の誰かにやらせればいいんだ。


 しかも、うちのはピッタリの奴がいる。


 そう!ドラゴンです!




「ニルファ、ドラゴンっぽく戦うことってできるか?」


「ドラゴンっぽく?ドラゴンの技を繰り出せばいいんですの?」


「……んー、まあそれでいいや。とにかく、領土侵犯してきたクロノス軍を倒したのは、クロノス軍がやって来た目的そのものであるドラゴン様だったって事で大々的にアピールしよう!」




 APLもちゃんと慣らし運転は終えたし、大丈夫だろう。


 ドラゴンブレスで逃げ帰るクロノス軍を想うとワクワクが止まらないな。




「わかりましたわ!全力でやってきていいんですのね!?」


「いいぞ!事あるごとにドラゴンだって事をアピールしていけ!」


「やってやりますわよ!」




 攻撃力が高すぎて、傭兵たち無力化作戦に参加できなかったやる気満々のニルファは、ヒルデを持ち上げてAPLに乗り込んでいった。




「「主様、APLに乗り込むのは順番にした方がよろしいのでは?主様だって毎回同じ相手だと飽きが来ますよね?」」




 何の話だ?


 こないぞ?




「エイルとスルーズは、それぞれタロスに乗り込んで俺たちを護衛しつつ、ヒルデのサポートをしてくれ。ちゃんとヒルデと同等の功績と見做すから。」


「「それならばよいのです。むしろ主様の近くに居られる分私の方が有利ですね。……おっと、ヒルデからの抗議が心地いいです。」」




 離れた相手と姉妹喧嘩みたいなことができるのか。


 どんな気分なんだろうな。


 煩わしいのか楽しいのか。




 折角なので、APLとニルファの本格的なデビュー戦を観に行くことにする。


 万が一助けが必要ならすぐに向かえるように、という事でもあるんだけれど、本人にはその辺り伝えなくていいだろう。


 タロ1のコクピットを少し拡張して複座型にする。




「姫様も乗ってくれ。あのパイロットスーツでな。」


「パイロットスーツ?……は!?あの変身か!?フリフリ無しの!」


「そうそれ。護衛無しで暴動起きた場所に置いとけないし、かといって見に行かないのも不安だから、折角だから一緒に行こう。」


「……フリフリつけたドレスモードじゃダメかのう……?」


「ダメだ。コクピット内にいる時だけは動きにくい服装と化粧は許されない。これだけは絶対だ。」


「はぁ……。わかったわ。変身!」




 そして、体のラインがぴっちり出るスーツになる姫様。


 腕で体を隠す様がとてもセクシーで嬉しいです。




「これで満足じゃろ!さぁ早くいくぞ!」


「よし、遅れたらニルファが可哀想だしな。」




 国境沿いまでくると、本当に軍隊と思われる輩が攻め込んできていた。


 しかし、その軍勢に向かって仁王立ちする赤い巨人の姿が見える。


 そこから放たれた外部スピーカーの音は、戦場全体に響き渡る程の強さを持っていた。


 あれ、音だけで近くの奴は倒せるんじゃないか?




『あー!あー!聞こえてますわね?私は、ドラゴンのニルファですわ!アナタたちが私のお父様にケンカを売ったため、お父様がお怒りになりましたの!お父様はこう言いました!「全力でやれ」と!死にたくない者は今すぐ帰る事をお勧めしますわ!行きますわよー!』




 そういうと、APLは動き出し、そのまま敵軍の中央をただ高速で突っ切った。


 それだけで、敵軍には甚大な被害が出ているのが分かる。


 突っ切った先で、速度そのままに角度を90度変えたと思ったら、今度は踏み込みも無しに浮き上がり手から炎を放ち地面に絨毯を生み出す。




 この世界の戦力は、鎧やその他の防具を身に着けているとはいえ、基本的に生身の人間が担っている。


 そこに1人だけロボットで乗り付け、しかも本人もドラゴンなんだから、理不尽にも程がある。




 金属でできているとは思えない加速と身軽さを持っていて、防御は無敵に近い。


 更に、攻撃力はドラゴンの力まで加わっているのだからシャレにならない。


 あいつ、人形レベル図ったらどのくらいなんだろうか。


 単純な強さの尺度じゃないとはいえ、流石にあれで低いという事は無いだろう。


 やはりAPLはヤバイ。




 ところでニルファの奴、お父様がどうこう言っちゃってたけど、アレ俺だってバレねぇだろうな?


 バレたら結局俺関係での功績になっちまう可能性があるんだけれど……。


 そこまでニルファは考えてないだろうしなぁ……。


 まあ、俺の名前言わなければセーフって事にしておくか。




 結局、戦いは一方的に終わってしまった。


 戦闘開始から1時間、もう戦場に立っている者は、真っ赤なAPLと、途中で逃げ出したと思われる数人以外誰もいない。


 ニルファは、逃げた奴まで倒す気は無かったようだ。


 それにしても、あれだけの蹂躙劇だったにもかかわらず、逃げ出した兵は20人もいないように見えるのはすごい。


 士気が高いのか、それとも逃げ出す余裕すらなかったのか。


 根底にあるのが神様に対する信仰心である以上、あまり関わり合いになりたくない手勢だなぁ。




 いやぁ、それにしてもグロかった。


 攻め込んできた以上、殺すことに抵抗感のようなものはあまりないけれど、それでも敵軍が焼けたり潰れたり消し飛ぶのを見てると吐き気を催す。


 ここに来る前に姫様に袋を渡しておいてよかった。


 後ろから、酸っぱい臭いが漂ってくるのをスルーしてやる程度の優しさ位俺にはある。


 とりあえずコクピットハッチ開けて換気しよう!な?俺も臭いで吐きそうになるから!




 その後、結局姫様の背中を摩りながらしばらく密着していたが、流石のナナセも嫉妬したりせず不憫そうな顔をしていた。


 だって……ねぇ……?




 暫くすると、フルパワーでAPLを乗り回せて満足したらしいニルファが帰って来た。




「やはりりんごちゃんは素晴らしいですわ!アレだけ戦ったにもかかわらず早すぎて汚れが殆どありませんもの!ダメージも0ですわ!」


「何か気になる所はなかったか?良いパイロットっていうのは、整備員にそういう部分を指摘できるものらしいぞ。」


「特にありませんわ!そもそもお父様が作ってくれた機体というだけでも宝ですもの!全ての機能を使いこなして見せます!」




 本当に喜んでいるみたいでこちらも嬉しくなる。


 頑張って作った甲斐があるというものだ。




「りんごちゃん以外の事で何か気になる事は無いか?なんでもいいぞ。初陣なんだから無理してる部分もあるんじゃないか?」


「ありませんわ!私の努力の結果を発揮することができてこれ以上ないくらい満足できました!慣性制御というのも使いこなせましたわ!」




 後ろでヒルデたち3姉妹がドヤ顔をしている。


 いやホントお前らすごい役に立ってるよ。




「最後に、逃げ出した生き残りたちにダロス・ピュグマリオンのすばらしさも滾々と教えてまいりましたし、もう言うこと無しですわ!」


「何したって?」


「このりんごちゃんを作った素晴らしき私のお父様たるダロス・ピュグマリオンの名を知らしめてきましたわ!」


「……そっか。」




 離れててよくわからなかったけど、そんなことしてたか……。


 でも最初位の音量で喋っててくれれば、生き残りへの止めとして機能していたり……してないわ。


 ここからでも走って逃げていく奴ら見えるわ。




 介抱するために、タロ1から降ろして隣に座らせてた姫様が、最後に残った力を振り絞ってニヤニヤ笑いだす。




「おぬし……嫁がふえそうじゃのう……?」




 心底楽しそうなのに、顔色悪いよ姫様。






 数日後、クロノス国全土に、戦争で一方的に負けたという不名誉なニュースが駆け抜けた。


 しかも、それを成したのは、1人のドラゴンを名乗る少女と、驚異的な性能を誇る機械仕掛けの人形。


 名をりんごちゃんというそれは、5000人からなるクロノス軍を僅か数刻の内に蹂躙して見せた。




 彼女は、生き残りに対してこう言った。




「この素晴らしい機体を作ったのは私のお父様!名をダロス・ピュグマリオン!機械仕掛けの人形師とも呼ばれるあの方は、いつか世界を席巻する英傑と心得なさい!じゃ、帰っていいですわよ!」




 息も絶え絶えに戦場から逃げ帰った者たちは、あの赤い人形の後ろに小さく見える巨人がいたのを見ていた。


 ドラゴンを名乗る少女の言う事が本当なら、きっとあの巨大なものにダロス・ピュグマリオンが乗り込んでいたのだろう。


 そう語った後方支援部隊の者は、あの日からずっと夢の中に機械仕掛けの人形師が出てくるという。


 そもそも、あんな巨大な物を操る技術など知られていない。


 強いて言うなら、ゴーレムが近いと思われるが、ゴーレムにあんな動きや攻撃はできない。




 もしや、奴は悪魔か何かの類なのでは?




 そんな噂は、周辺国にも広まっていく。




「ダロスとは、何者なのか。」


「お姫様と仲がいいらしいぞ。」


「首を斬り落とされても生きていたらしい。」


「学校で先生をしていたとか。」


「見た目は案外地味。」




 などなど。




 結局、ダロスの思惑とは裏腹に、姫様のポイントは稼がれていく。






 そんな中、戦争敗退の号外新聞を見ながら、一人だけダロスではなくドラゴンを名乗る少女に注目している者がいた。


 ……いや、人では無いのだが。




 その者は、お気に入りのマスターオリジナルブレンドコーヒーを飲み干すと、馴染みの喫茶店から出る。


 そのまま街はずれまで歩くと、先ほどまでの紳士然とした格好が嘘であるかのように、一瞬でドラゴンへと変貌した。




(一度確認に行ってみるか。)




 ドラゴンが翼を羽ばたく。


 向かうは、嘗て一度だけ交尾した雌の縄張り。


 その後は、全く寄り付かなかった地域ではあるが、新聞の記事のせいで妙に気になったのだ。




 その名はファフナー。


 ニルファの実の父親であり、強すぎるがゆえに人類に全く知られていない孤高のドラゴンだった。




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