第40話

「ドラゴン寄越せ!ここにいるんだろ!?1時間以内に連れてこない場合、この学園を破壊する!」




 正面広場へ向かうと、金髪ヤンキーがガラの悪そうな連中を引き連れながら大声を張り上げていた。


 恐らくプロメの言う通り傭兵崩れの冒険者かなにかなのだろう。


 長らく風呂に入っていない雰囲気がある。


 具体的に言うと、あの集団までまだ50mはあるのに、動物園の猿山みたいな臭いがしている。




 アレはダメだ。


 俺とは相いれない。


 ワキガとかは仕方ないと思う。


 それは体質の問題で、簡単に改善されるものではないし、本人がちゃんと気にしているなら情状酌量の余地はある。


 むしろ、それを恥ずかしがってる女の子とかは好物だ。




 それに比べて正面の奴らはなんだ?


 服は汚れまくり。肌は洗わな過ぎてボロボロと白い何かが浮いている。


 せめて川とか井戸水で何とかしようとは思わないんだろうか。


 この世界には、魔法なんてものがあるんだから、野宿中でも前世の世界よりは清潔に保てるはずなんじゃないのか?


 前世の世界でだって、アラスカのユーコン川の周りの森の中でシャワーを浴びる事すらできたんだ。


 創意工夫と努力が足りない。


 もう金髪とか放置して後ろの奴らに健康で文化的な最低限度の生活というのがどういう物か教え込みたい。




「主様、後ろの奴ら熱消毒したほうがいいんじゃないっスか?」


「まて、慌てるな。もうしばらく様子を見てあのバカ王子の目的を探るんだ。」


「いやドラゴンっスよ多分。」


「わからんぞ?案外ドラゴンなんてどうでもよくて、ここで衛兵に捕まってからそれを理由に兵隊を突撃させて来るのかもしれない。冷静に事の成り行きを見ろ。」


「臭いから近寄りたくないだけかと思ったっスよー。すごいっスねー。」




 何とでも言うがいい。


 俺は、奴らが頭から消臭スプレーをかけられるまで近寄りたくない。


 ……いっそのこと、本当に焼き払って消毒してやろうか。




「……あ!ダロス!貴様!」




 金髪ヤンキーに見つかった。


 何故かすごいキレてる。




「何だ?金髪ヤンキーが自分の学校に殴りこんできて何やってんだよ。行くなら他校だろ?」


「何意味わかんねーこと言ってんだよ!てめぇここの教師だろ!?だったらドラゴン寄越すよう言って来いよ!」




 ふむ、コイツの中で俺はちゃんと教師としてカテゴライズされてたのか。


 とにかく反発するべき存在と思われていると思っていたが、可愛い所もあるじゃないか。


 頭を剃るだけで今なら許してやるぞ?




「俺は、ただの雇われ講師みたいなものだ。学園での発言力なんて大してない。」


「この国の王女の愛人なんだろ!?権力でいくらでも融通できるはずじゃねーか!」


「俺って姫様の愛人だったの?」


「妾としては文句は無いんじゃが!」


「じゃあここでキスでもしとくか?」


「……おぬし、そこの者をもう真面目に相手する気無くなっとるじゃろ?」




 そうだよ!


 もうこんなくせーやつをここまで大量に引き入れた奴なんてしったこっちゃねーんだよ!




「この……!どいつもこいつも俺をバカにしやがって!オレだってなぁ!」


「なあちょっと待て。バカにするってどういうことを指すんだ?」


「あ!?バカにするっていやぁバカにするってことだろうが!」


「そこだよ!バカにするってどういう意味なんだ?『お前はバカだ』って言われるって事か?確かに、学園に乗り込んできて、なになにしろって強要しながら、なんかくせー奴らを引き入れている奴はバカかもしれないが、バカをバカだと思ったらバカにするという事になるのか?」




 長年疑問に思っていたことだ。


 バカにするって言葉がよくわからない。


 多分この第3王子にも、改めて説明しようとするとわからないだろう


 これでこのまま有耶無耶になって帰ってくれないだろうか。


 さっきから、ナナセとニルファの殺気がすごいんだ。


 今にも王子ごと後ろの奴らを消毒したいと思ってる気がする。




「……いや、俺も流石にこいつらの体臭はちょっとアレだけどよ……。」


「臭いと思ってるのに、それでも構わず引き連れてこんなとこでキレ散らかしてる奴は、割とバカだと思われるんじゃないか?」


「それでも、俺にはやんなきゃなんねーことがあんだよ!」




 案外金髪ヤンキーは頑ならしい。


 それはそれとして、この金髪は染めてるんじゃなくて地毛だな……。


 金髪ヤンキーとして生きていくなら、元は黒であってほしいなぁ……。




「そのやらなきゃならない事とは?」


「ドラゴン連れて帰るんだよ!それができないなら暴動起こしてお前らに俺が捕まったり、ケガさせられれば、後は報復として国境に待機してる奴らがなだれ込んでくることになってる!どうせ王都からの応援は間に合わねーぞ?この街だけで我がクロノス国の正規軍と戦争でもするつもりか!」




 正規軍待機させちゃってるのか。


 ここでそれ暴露しちゃったらもう言い訳できなくね?


「お前らに王子がやられちゃったから報復するよ!」作戦が


「お前らに王子を攻撃させてから侵略するよ!」作戦になってしまっている。




「普通こんなところで作戦の内容ばらすのってまずいのでは?」


「死人に口なし。自分が負けるなんて微塵もおもっておらぬバカか、もしくは自分を餌にしてでも得点を稼ぎたいバカなんじゃろ。」


「……てめぇら、人が大人しく聞いてりゃ好き勝手言いやがって!」




 さて、どうしたものか。


 このバカ王子は、どうやらニルファが人間に化けられる事を知らないらしい。


 それは、俺の斜め後ろで殺気をまき散らす彼女にも気がつかず、ドラゴンを連れてくるよう言っていることからも明らかではある。


 各国の情報機関も、ニルファの事を調べる事が出来ていないという事なのか、それともこのバカに重要な情報与える価値は無いと判断されただけか……。


 にしてもだ、うちの国の第3王子といい、第3王子がアレな感じなのは何かの呪いなのか?




 もう少し怒らせて情報ペラペラしゃべってほしかったけど、後ろの方々が臭くて精神が持たない。


 何より、俺の後ろに控えるドラゴンたちが我慢できなさそうだ。




「一つ言っておくけれど、仮にお前を俺たちが拘束したとして、お前んとこの正規軍がこの国に攻め込んできたとしても、別にこの街の戦力を出さなくても、俺たちが持ってる戦力だけで対応できる。だから、お前の言ったことは、なんの交渉材料にもならない。疑ってもいいけど、これ以上ゴチャゴチャ抜かすならさっさと始末するぞ?」


「あ?何寝ぼけたこと言ってんだぁ?個人の戦力が国家に敵うわけないだろ!」


「だって、こっちにはドラゴンの女の子がついてるんだぞ?」




 慣性制御まで扱えるようになったうちのニルファに、ヤンキー国家が勝てるわけないだろ。


 最悪攻撃1度も食らわずに真正面から王様のクビ獲れるぞ。




「それだって生まれてまだ2週間のはずだろうが!」


「生まれたその日には、多分お前よりは強かったと思うけど……。まあいいや。タロス起動!」




 そう叫び、5機のタロスたちを校庭の片隅から呼び寄せると、そのまま蹂躙を開始する。


 タロスは、全機に人間を無力化する武装を装備しているから、冒険者たちもあっというまにビクンビクンするだけの何かになり果てる。


 しかも、ヒルデとエイルとスルーズが、それぞれ1機ずつ操って嬉々としながらポイポイと冒険者で山を作っているんだから、1人でやるよりよっぽど楽だ。




 3分後には、哀れな無料モルモットたちが100体ほど出来上がった。


 ……いや、既に10人くらいはホクホク顔の研究者に連れていかれてるな……。




 最後の方、ちょっといい装備を着ていた奴が数人粘って抵抗してたけど、結局皆仲良く一緒にビクンビクンだ。


 ビクンビクンの中には、女が一人もいないので、絵面としてはとても汚い。


 そりゃさぁ、こっちは全身オリハルコンっぽい何かでできた機体よ?


 鉄の剣じゃ音速を3倍くらい超えて打ち込まれないと破壊できない相手に勝てるわけないじゃないか。




「それで、お前らを片付けたら正規軍が動くんだっけ?」


「な……なんなんだ?なんなんだこのデケーのは!?」


「いやいや、お前もこれ作る授業に出てただろうよ。大して創作性のある提案してこなかったからあんまり印象に残ってないけど。」


「あんな訳わからねぇもんを本当に実現してるなんて思わねーだろ!何なんだお前!?悪魔か何かか!?」




 悪魔か……。


 良いなそれ……。


 できれば白いといい……。


 白が良いんだ!




「他国の王族が起こそうとした暴動、及び戦争行為を鎮圧。またおぬしのおかげで妾のポイントが加算されるのう……。これはもう本格的におぬしの嫁になって継承権争いから退きたいんじゃが?」


「その時は、王様からも許可とってきてくれ。こっちは公爵家出身とはいえまだ男爵なんだから、王女が嫁ぐのは厳しいぞ。」


「妾、王女であると同時に聖女じゃから、わりとその辺融通つくらしいぞ?」


「事前に下調べまでしてんのか……。」




 とはいえ、まだ戦争行為の鎮圧とやらはできてないんだけど。


 どうしようかなぁ。


 正規軍相手に程々に痛手負わせて帰らせるにはどのくらいの攻撃がいいんだろう。




 そもそも、なんでそこまでしてドラゴンなんか欲しがってんだ?


 ディオニュソス関連ならドラゴン食ってパーレィナイ!って事なんだろうけど、流石に正規軍でそれはないだろ?




 無い……と思いたいなぁ……。




「おい、そこの金髪王子。お前ら正規軍まで出してまで、なんでドラゴン欲しいんだ?」


「……知らねー。俺にとっては、これが最後のチャンスってだけだ。俺は、出来がわりーから王からも国民からも何の期待もされてねぇ。だから、有名な学園で成り上がって拍付けしたかったのによ。成績も上がんねーし、付いてくんのも俺と同じように疎まれた次男坊とか三男坊だけだ。王から正規軍のサポートまで出されてこれじゃ、本当に終わりだな。」


「ああそう。マジで何の役にも立た無い独白ありがとう。この感じだと、神様から指示されたとかその手の奴で、合理性とかそういうの無視して突っ込んでくるのかなぁ。ある程度殲滅する覚悟でやる必要あるか?」




 自嘲気味に話していた金髪ヤンキーが、俺が同情しなかった事が心底意外そうな顔してるけど、こっちはそれどころじゃない。


 第3王子とは言え、うちの国のバカ王子と違って、コイツは神様から直接何かを受ける使徒では無いようだし、もう衛兵に引き渡しでいいだろ。


 流石に王子は、交渉の材料として残しておいた方がいいだろうし。


 ……でもこの街だったら、気にせずモルモットにされちゃうのかなぁ。




 進軍理由が純粋に領土拡大を目的とした侵略であるなら、多少痛手を与えれば帰ってくれるはずだ。


 しかし、これが宗教的なものであるなら、苛烈にどこまで痛めつけられても突っ込んでくる可能性すらある。


 クロノス国ってことは、クロノス神とやらが作ってる派閥なんだろうか。




「プロメ、クロノス神の事は何かわかる?例えばドラゴンを欲しがる理由とか。」


「クロノス様は、強い力を持つ者を見ると飲み込みたくなってしまう習性があるそうです。飲み込む、と一言に言っても色々ありますが、ドラゴンともなると、本当に使徒に飲み込ませたいのでは、と先ほどメーティス様はおっしゃっていました。」


「……なぁ、神様ってどいつもこいつもドラゴンは食べ物としか思ってないのか?ペットにしたいんじゃ……?」


「可愛いくて食べちゃいたいって事だともメーティス様はおっしゃっていました。」


「あんまりですわ!」




 ドラゴン娘が顔を青くしながら俺の背後に隠れる。


 背中にあたるおっぱいの感触がすごい。


 またこっそり大きくしてるな?




「それにしても、メーティス様は色々教えてくれるんだな。」


「だからこそ使徒になりたがる者も多いのです。知識欲とは、我々人類が人類たる所以と言っても過言ではありません。それを司るメーティス様は、当然とても我々に対して親身な方で、聞けば答えてくれますし、聞いてないことも教えてくれますよ。」


「へー。最近教えてもらったことで一番役に立った事ってなんだ?」


「数か月前に教えて頂いたダロス様の性癖ですね。久しぶりにメガネっ子もいいなって気分になっていると聞きました。授業で生徒として先生に取り入るのがスムーズに行った気がします。」




 おいメーティス、プライバシーって言葉はしってっか?






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