第39話

「なぁ、なんで俺が作る人形たちは魂付与すると俺の体液欲しがるんだ?」


「魔力が美味しそうだからっスよ。主様は、目の前にホイップクリームぶら下げられて我慢できるっスか?」


「え?それはできるかも。」




 現在、APL改の動作試験を見守っておりますダロスです。


 隣には、今さら何を言っているんだ?という表情のナナセ。


 後ろには、不満顔のエイルとスルーズ。


 結局APL改には、ジャンケンで勝ったヒルデが乗っている。


 このためにわざわざ一時的に思考同期を解除してまで行われた白熱のバトルだった。


 因みに、俺にはまだ3人の見分けがついていないので、場所を移動されたら特定できなくなる。




「例えが悪かったっスね。じゃあ、目の前のベッドに競泳水着を着たジブンがいたとして、我慢できるっスか?」


「できねぇっす。この前できなかったっす。」


「そう言う事っスよ。イレーヌとサロメに遠慮して我慢してたジブンを褒めて欲しいっスよ。」




 そんなになのか。


 競泳水着なんて持ち出されたら無理だよ。


 俺は、競泳水着だったのか。




「あーでも、ジブンの場合は、なんか最初から主様が好きだったっス。だから美味しそうに見えたんじゃないスかね?他の子たちが同じ感覚だったかどうかはわからないっすよ。でも主様は、その時にはサロメの事意識してるっぽかったから、迷惑にならないようにホイップクリームで我慢することにしたっスよ。」


「……そうか。ありがとう。」


「今は、ちゃんとジブンも好きになってくれたみたいだから許すっス……。」




 2人で赤くなる。


 不満顔のエイルとスルーズが更に不満顔になって俺の脚にそれぞれが抱き着く。


 うん、これで2人がどっちがどっちかわからなくなった。


 しかも、ロリ形態になったから猶更わからん。




 ヒルデたちに負担を分散させたAPL改の動きは、明らかに常軌を逸していた。


 助走をつけてジャンプしたと思ったら、空中でカーブを描きながら着地し、そのまま川の上を沈まずに走り抜けていったりしている。


 加速に関しても、踏み込みなんて殆どなしに最高速まで到達しているように見える。


 あくまで、作り出した時のカタログスペックでの最高速であって、慣性制御や魔術で加速するならもっと速度が上がるのだろうが。




 試しにとタロ1に投げさせた岩を見えない何かで受け止めたと思ったら、そのままその何かで捻り潰してしまった。


 アレ……本当に慣性制御なんて生易しいものか……?




『お父様あああああああ!これさいこうですわあああああああ!』




 外部スピーカーから響く声から察するに、うちのドラゴン様はご機嫌である。


 いいよね……、新しい自分専用の機体……。


 俺があの動きしたら死ぬから羨むしかないが。




 あれ?そういえばヒルデたちに手伝ってもらえば俺にも慣性制御使えるのか?




「エイルとスルーズ、キミらに手伝ってもらえば俺も慣性制御使えるか?」


「「無理ですね。」」


「無理かー。」


「「あと私たちと同型の人形が3人は必要ですが、これ以上ライバルが増えたら困るので無理ですね。」」


「そう……。」




 キミら仲いいね……。




「これさぁ、俺たちが護衛する必要ある?」


「護衛じゃなくて、子育てだって思えばいいんじゃないスか?ニルファが大人になって巣立ちすればいいんスよね?」


「そういやアイツまだ子供だったんだよな……。バインバインだから忘れてたわ……。」


「主様はおっぱいばっかり見てるっスもんね。」




 どことは言わないけど他にも結構見てるよ?


 ナナセは、さりげない腹筋も良いんだ……。




「目線でバレてるっスからね?」


「はい……。」




 因みに今、姫様は一人寂しく学校で授業中だ。


 あの人、俺たちと違って本当に学生だからなぁ。


 ドラゴンを育て終わったら王都に帰る俺たちとは根本からして違う立場だ。


 俺がやる授業だって1日中あるわけでもないし、毎日でもない。




「月1でいいから顔見せに来てくれんか!?なんならこのままここで卒業までいてくれてもいいんじゃぞ!?妾もう一人で昼食取るの嫌なんじゃが!」




 なんて言っていたけれど、大丈夫。プロメは残るはずだからさ。


 たまにちょっとレポート1万枚書きだす以外普通の可愛い女の子だよ。




 まあ、一応念のため3号を護衛につけている。


 さっきからめっちゃ姫様が話しかけてきてるけど、授業中だし、そもそもに話す機能は無い。


 悲しい事に、姫様はその両方を知っているはずなのに、話しかけるのをやめない……。






 暫くすると、満足したのかニルファたちが戻ってきた。


 コクピットハッチを開くと、汗だくのニルファが出てくる。




「すごかったですわ!これは生身の私より絶対に強いですわね!」


「気に入ったなら何より。でも、これドラゴンよりも強いのか?」


「ドラゴンの体でできる攻撃の大半はこの機体でもできますわ!そもそもアレらは、体の部位を魔法で強化しているだけですので。その気になれば、りんごちゃんの拳からドラゴンブレスだって飛ばせますわよ?」




 ドラゴン7不思議がまた増えてしまった。


 ブレスとはなんなのか。




 遅れてコクピットから出てきたヒルデはフラフラだ。




「すこし……疲れました……。あ、主様……。少し支えて頂いても……?」


「おっと、大丈夫か?」


「はい……大丈夫です。」


「「主様、本当に大丈夫なので騙されちゃダメです。」」


「うるさいです負け犬たち。ジャンケンで勝った者の特権です。」




 仲いいな本当に。


 うんうん。




 少し休憩をはさんだ後、姫様の心を労わるために昼食は学園の食堂でとることにする。


 いきなり人数が増えたため、家に帰っても食材が足りないというのもある。




 姫様を呼びに教室まで行ったら、3号を抱きしめて寂しそうにしていた。


 正直保護欲をそそられるが、だからとここで手を出し始めたら際限ないぞ我慢だダロス。




 まあその直後、俺たちに気がついた姫様のパァって笑顔で守護しないと……と思ってしまったのは秘密だ。




 学園の食堂は、リーズナブルな値段でそこそこの量がある質実剛健なメニューが多く、学生たちには中々人気のようだ。


 俺が高校の時の食堂なんか、ロースカツだっていうから注文したら、薄切りのロース肉だったりしたからなぁ。


 あんなんもう駄菓子だ。




 そういや、あのカツの駄菓子でカツ丼作ったら案外美味しかったのを思い出した。


 1年に1回くらい作って食べてたけど、アレももう食べれないのか……。




 もうちょっと浸るべき郷愁の種類がある気がするが、碌な物が出てこない。






 それぞれ注文をし、食べ物を受け取って席に着く。


 ニルファだけは、席までピストン輸送を行っている。


 食堂のおばちゃんたちも既に慣れたもので、半笑いで応じている。


 すまんね、うちの娘ちょっと大食いのドラゴンだから。




 皆食事のメニューを持ってきたというのに、弱冠3名フルーツパフェを持ってきたロリたちがいる。




「昼ごはんそんなのでいいのか?デザートとかじゃなくて。」


「「「冷静に考えてください主様。この体のサイズなら、このパフェは元の体換算のバケツプリンクラスの量なんです。すごいと思いませんか?」」」




 と、ドヤ顔で語られてしまった。


 すごいね?




「ニルファ。俺たちはお前が巣立ちを迎えるまで守ることになってるんだけど、お前っていつ頃巣立ちするんだ?」


「巣立ちですの?それよくわからないんですのよね。本来母親がタイミングを見て巣立ちを促したりするんだと思いますわ。私の場合、甘やかしてくれる素敵なお父様しかいませんので!」


「まずいな、そういう風に言われるとついついデロッデロに甘やかしてしまう。」




 でへへーと笑うニルファ。


 それを見ていたナナセが、ある疑問を投げかける。




「そもそもなんスけど、こんだけ人間社会に被れたドラゴンが、ドラゴンの生息域に戻って生活していけるんスか?」


「…………できる自信がありませんわ!?」




 忘れてたけど、コイツは野生動物だった。


 流れで世話してたが、将来的な事を考えればまずかったか?




「まあでも構いませんわ。どうせお父様についていくつもりでしたし。」


「そうなのか?こっちは別にいいけどさ。人形生成をあそこまで完璧に扱える人材は貴重だから。」




 タルタロスシリーズの玩具の量産を手伝ってもらうのもいい。


 まだまだ機械だけで作るのは難しいんだ。


 今後は、もしかしたらAPLとかも作るかもしれないし。




「学園に入学してもいいんじゃぞ?権力フル活用して妾のクラスと寮に入れてやらんでもない!」


「お父様についていきますわ!」


「頑なじゃな……。」




 シュンとしてしまう姫様。


 ごめんな、うちのドラゴン空気とか読まんから。




「姫様の方は、いつまでこの学園にいるつもりなんだ?王位争奪戦が面倒なんだっけ?」


「第1王子と第2王子がバッチバチじゃからなぁ。妾は、おぬしと関わって少々ポイント稼ぎ過ぎとるんじゃ。もう少しほとぼりが冷めるか、おぬしが妾を嫁として引き受けてくれれば解決なんじゃがなぁ?」


「それは流石に嫁2人に聞かんと無理だなぁ。」


「……可能性はあるのか?」




 驚いた顔をされてしまう。


 まあ今までずっと断ってたからなぁ。


 とは言え、俺だって流石に数か月寝食を共にしていると情も移るというもので……。




「まず簡単には成立しないだろうけど、流石に最近姫様の状況が可哀想になってきたからさ……。味方いないし……。実質一人しかいない姫様派閥の俺とならまだ状況的にマシかなと。」


「ふふっ、可能性が0じゃないなら十分じゃよ。妾が生きる理由が一個出来たぞ!」


「まず友達作って生きる理由増やすほうが先決だとは思うが。」


「それが簡単に出来たら苦労はしないんじゃがなぁ……。」




「まあ3人目はジブンっスけどね?」


「わかってるわかってる。近い。」




 楽しい楽しいご飯の時間は、しかし早く終わってしまうもので。


 気がつけば昼休みは残り数分となっていた。


 姫様が、1人だけ授業に戻るのは寂しいとブーブー言い始め、それを皆で窘めていると、なんだか外が騒がしくなってきた。




 何かイベントでもあったのだろうか?


 なんて考えていると、食堂の入り口から駆け込んでこちらに向かってくるプロメの姿が見えた。




「ダロス様!ここにいると聞きまして駆けつけました!」


「どうした?なんかあったか?」


「学園内で暴動が起きたんです!力をお貸しいただけませんか!?」


「暴動?子供の喧嘩みたいなのにロボット乗って介入するのはどうなんだろう……。」




 そんな事になったら、それこそ昔の学生運動みたいなことにならないか?




「学生レベルの暴動じゃないんです!クロノス国から留学してきているハイデ第3王子が傭兵を引き連れて正門から堂々と侵入して来てて!」


「この学校って外国の王子様もいたの?」


「いますよ!ダロス様だって顔知ってるはずです!」


「心当たり無いな……。」


「クラスメイトに金髪で怖そうな顔してる人いたじゃないですか!」


「あーあの!」




 金髪ヤンキーか。


 存在忘れてたわ。


 そのまま消え去ってくれてればなぁ。




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