第42話
ニルファが軍隊相手に大暴れしてから2週間、やっと俺の周りは落ち着きを取り戻し始めた。
もともとそこまで俺の知名度が高くなかったクロノス王国だが、ニルファのおかげで一気に時の人となってしまった。
まあ、畏怖されているといった方が良いかもしれないけれども。
ありがたい。
ありがたいなぁ。
「おぬし、そろそろ本気で暗殺に気を付けんといかんぞ?」
「首飛ばされるくらいまでならなんとか……。」
「斬首は、もう暗殺とかそんなレベルじゃないのう……。」
ニルファ大作戦の現場に姫様がいたことで、今回の戦争は、『姫様が指揮をとって派閥のダロス男爵が鎮圧した。』という事になったらしい。
結果、国中で姫様フィーバーが起きていたりする。
まあ美人だしな。
責任者にされてしまった姫様がクロノス国の国王と謁見し、どういうつもりじゃワレェ!?とナシつけにいって帰ってくるまで2週間。
その間は、騎士団が護衛してくれる手はずになっていたが、姫様が是非ともということで俺も護衛に入った。
騎士団の面目丸つぶれだけれど、王女の寝室から王女自身を拉致された時点で彼らに発言権なんて無いようなものだ。
タルタロス5機と噂のAPLによって周りを固められた姫様一行は、クロノス国とその住民たちからすると、それはもう恐ろしく見えていたんだろうなぁ。
めっちゃ女の子に泣かれたし。
男の子たちは、めっちゃ目を輝かせていたけども。
彼らは、将来きっと大物になるだろう。
車会社のデザイン担当とか。
謁見の間には、流石にタルタロス達で入ることはできなかったので、仕方なく3号で姫様を守る。
まあついでに、ニルファとヒルデ・エイル・スルーズもいたから、戦力としては過剰にも程があったけども。
ただ、ヒルデたちの翼出しっぱなしのビジュアルがやけに響いたらしく、クロノス国の人たちが神様でも目にしたように跪いていた。
特に、神官長とか呼ばれていた人なんて跪くのを通り越して3点倒立まで行っていたけども、あれは果たして敬っている姿と言えるのだろうか?
俺がその対象にされてたとしたら、頭ひっぱたいて廊下に立たせる自信がある。
姫様とクロノス王の話し合いの結果、領土のやり取りは無しで、クロノス国から賠償金の支払いを行い、オリュンポス側からは捕虜となっている第3王子を引き渡すという事になっていた。
もっとも、その王子様なんですけども、メーティスのマッドサイエンティスト達に何をされたのかはわからないけど、女の子になってました。
しかもすごい美少女です。
金髪ヤンキーでも女の子になるだけで魅力的になるのは何なんですかね?
本人的にも、今までは何をやっても認めてもらえなかったと感じていたらしいが、美少女になった途端味方がモリモリ出来たせいで、人生って悪くないなって想えたと語っていた。
王様は、替え玉だと最初は思ったらしいけども、最終的には納得していた。
納得しちゃうんだ?
いやまあ目の前に正規軍正面から単騎でぶち破る奴がいるから認めざるを得ないというのはあるんだろうけども。
TS美少女を欲情の対象にしていいのかどうか、男には時にそんな究極の命題に向き合う事機会も存在する。
まあその辺りはいいやどうでも。
俺は今それどころでは無いんだ。
姫様がポイントを稼ぎすぎてしまうと発生するある出来事から目を逸らすわけにはいかない。
「というわけで、妾と結婚してもらうぞ?」
「ロマンスのカケラもないな。」
「それはどうかのう?妾のような立場であれば、好きな男と結婚できるというだけでも幸せなものじゃろ。」
……ふーん?
「おぬし、嫁を2人も侍らせておいて、女に好きだと言われただけで赤面するんじゃのう?」
「半年くらい前までは、デートすらしたことない童貞だったからな。」
クロノス国から帰って来てから、既に姫様に対して10回は暗殺者が差し向けられている。
ナナセがメーティスで入手した特殊なヤバイ薬を使用して暗殺者たちから吐きださせた内容によると、第1王子から5回、第2王子から4回、その他の木っ端貴族たちからぽろぽろと依頼されているようだ。
姫様本人には、玉座を狙う意思は全くないらしいけれど、そう言った所で相手が納得してくれるかは別問題だ。
王子たちに取り入ることがなかなか出来ないため、姫様を王にして甘い蜜をすすろうとすり寄ってくる弱小貴族もいるし、面倒なことこの上ない。
それらすべての問題を解決するために、下位貴族の俺と結婚してしまって、王位継承権ごと面倒事とおさらばしようってことなんだけども……。
「妊娠させた途端、数か月も留守にして、戻ってきたと思ったら王女を嫁にするって言い出す夫って、女から見てどんな感じだと思う?」
「妾なら頬をひっぱたいて数日無視じゃな。」
「ジブンなら、その王女様が寿命で死ぬまで我慢するっス」
「交配相手が多いのは生物として優れているという証明ですわ!」
「「「週に1日は独り占めさせてくれるなら許します。その代わり血もいっぱい貰います。」」」
最悪、首を落とされるまで覚悟する必要があるか……?
まあ、その辺りは帰ってから考える事にしよう。
明日できる事は、明日やった方がいいんだ。
明日の俺が何とかしてくれるはずだから。
タイムマシンでも作りだされない限り、未来の俺に文句を言われる心配もない。
それよりもだ、俺がメーティスの街にある学園に送り込まれた理由は、このドラゴンを守る事だったようだけど、それもそろそろ終わりのはずだ。
だって、強すぎて守る必要ないし……。
「なぁニルファ。もうそろそろ巣立ちってことでいいんじゃないか?初陣も済ませた上に、人間の王様にまで会ったんだし。」
「そうですわねぇ。こう……バチっとした巣立ち感はありませんけれど、本能にそういうのが刻まれている保証もございませんし、この辺りで切り上げてしまっても良いかもしれませんわね。」
プロメによると、現在までに人間とドラゴンが言語による意思疎通をしたという記録は無いそうだ。
そもそも、人間とドラゴンのふれあい自体が殆ど存在しないのもあるだろうけれど、いずれにせよドラゴンの情報というのはとても少ない。
ましてや、巣立ちとなると情報の8割くらいは、研究者による推測となってしまっているんだとか。
故に、母親を失っているニルファにとって、巣立ちというものがどういうものなのかという重要な情報は無い。
「メーティスに送り込んだ妾がいうのもなんじゃが、ダロスは面倒事に巻き込まれる星の元に生れたようじゃな。」
「面倒事本人に言われると悲しくなるな。」
「その面倒事本人に好かれて嬉しいんじゃろ?」
「……そりゃあ……まあ?」
「どんな面倒事が起きても、私がお父様を守って見せますわ!」
「自覚が無いのが一番困るんスよね。」
今話し合っているここは、メーティスでずっと滞在している貸し家だ。
ここに来た当初、俺とナナセの2人だけだったために、前世が庶民の俺基準だとそこそこ広く思えていたこの家も、姫様が転がり込んできて、更にドラゴンまでやって来てからは大分手狭になってしまった。
そのドラゴンを補佐するために3姉妹まで作り出してしまったものだから、どこの貧乏大家族だ?って程の人口密度になってしまっている。
まあ姫様以外、俺の近くにきて魔力を吸い取りたい系女子で占められているため、別に皆構わないようだけども。
魔力が枯渇するような事態には未だになっていない。
相変わらず魔力とやらが吸われている感触はあるけど、魔力を扱って魔法や魔術を発動させるということができない。
それに引き換え、俺が作り出す美少女型人形たちは、基本が女神様ボディだからか皆魔法や魔術をバンバン使える。
普段無表情なヒルデたちですら、俺の前で魔法を使った後ドヤ顔をしていてイラっとする。
イラっとする俺を見てゾクゾクしているのがわかるので、それはそれで更にイラっとする。
「姫様って回復魔法以外の魔法使えるのか?」
「まともには使えんのう。妾、基本的に魔法や魔術と呼ばれているものに対する才能は無い。男の目を引く才能なら自信あったんじゃが、おぬしの作り出した女たちを前にすると、そんな物も無くなってしまったわ。」
「いや、姫様は奇麗だと思うぞ?」
「おぬしが妾のおっぱいに目を奪われているのがわかるから、ギリギリ自尊心を保てている部分があるのは確かじゃな。」
自信を持ってくれ。
其方のそれは美しい。
現実逃避を兼ねて、皆とダラダラ話していると、ニルファが何やらそわそわし始めた。
あまり見たことが無いその様子がどうにも気になってしまう。
「ニルファ、何かあったか?」
「……なんだか、面倒事とやらの気配がしますわ……。」
面倒事に愛されるものがもう1人現れたか?
可哀想に。
「ドラゴンが面倒に感じる事態って、それはもう天変地異クラスじゃないか?」
「どうなんでしょう?ただ、とっても面倒な感じが近づいてきているのは確かですわ!何と言いますか……加齢臭というのが感じられるような?」
「そっか……ごめんな?これでもお風呂には入るようにしているんだけれど……。」
「お父様ではありませんわ!むしろお父様からはとても美味しそうな魔力の匂いがして大好きですわ!」
それはそれでどうなんだ?
俺はウナギ屋みたいな扱いか?
「近づいてくるってことは、移動する何かとんでもない物なんだな?」
「そんな気がするってだけですけれど、本能的に近づいてくるのがわかるんですの。それも凄いスピードですわ。ぐんぐん近づいてきていて……あら?玄関の前まで来ましたわ!」
何それホラー?
ホラーにロボットだすと碌な事にならんぞ?
俺が戦慄していると、玄関をノックする音が聞こえた。
ノックするって事は、ノックというものが何かわかっている存在であり、且つニルファが面倒だと感じられるような奴なわけだが、これ居留守使っちゃダメかなぁ?
あ、またノックされた。
しかも、さっきよりあきらかに音が大きい。
もう何回か居留守をしたら扉をぶち破って来そうなパワーを感じる。
出ない訳にはいかないか……。
「俺が出る。他の皆は、最悪の場合この家の壁に穴を空けてもいいから避難してくれ。」
「ジブンが出なくて良いんスか?主様が出ていくことは無いと思うっスよ。」
「いやダメだ。ナナセには姫様を守る事に集中してほしい。今ここにいるメンバーで、誰かを守って戦えるのは、ナナセだけな気がする。」
「……わかったっス。でも、気を付けて下さいっス。」
ホントにな。
天災級の相手に気を付けたところでどこまで意味があるかはわからないけれど、死にたくないからなぁ。
覚悟を決めて、玄関へと向かう俺。
ここまで近寄ると、俺にもなんとなく玄関の向こう側に何かとてつもないものがいるのを感じてしまう。
ホラー映画だったら、玄関開けてすぐ死にそうな役割が似合うのではないかと自分では思っていますが、どうにか生きて家に帰ってサロメ達に会いたいなぁ。
玄関の扉の前に立っても、俺が殺されるということは無かった。
ドアを開けたら誰もいなくて、気がついたら背後に迫っていたりするホラー映画を思い出しながらドアを開けると、そこには何やら渋めのオッサンが立っていた。
見た感じだと、別に特別筋肉がついている訳でもなさそうな感じなのに、そこから放たれる存在感のようなモノはただ事ではない。
夏休み明けの教室で机の中から見つかった給食のパンくらいのヤバさだ。
「どちら様でしょうか?」
意を決して話しかけてみると、意外とコミュニケーションは取れるようで、ちゃんと応えてくれた。
「私はファフナー。ドラゴンの最上位に近い存在だ。この家に、私の娘がいるように感じるのだが、貴様が無理やり捕まえているのか?」
面倒事は、ホラーではなくドラゴン案件でした。
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