第35話
「ゴハンできたっスよー!」
「はいはーい。」
この街に来て、1カ月、2か月と経ち、そろそろ3か月が経とうとしている。
ここでの生活にも慣れ、メーティスナイズされた俺はサロメ達からどう見えるだろうか。
ハイセンスを感じてくれるだろうか。
「あのさぁ、もう帰っていいと思わない?」
「急にどうしたんすか?ジブンはそれでもいいっスけど、女神様からの依頼なんスよね?」
「そうだけどさぁ。だってもう3か月だぞ?そもそもの話だけど、俺に依頼を伝えてきたのは王女様であってさぁ、女神様本人じゃないじゃん?」
「まあ、ガラテアはずっと王都っすから、体に憑依してこっちと話すのも難しいっスもんね。」
ナナセをこちらに連れてくる以上、ガラテアにはサロメ達を守ってもらうしかなかった。
直接の戦闘だけならディやフレイでも十分だとは思ったけど、魔術や呪術といった物相手であれば少し不安が残る。
「何よりさぁ、最近ナナセが作る料理からホイップクリームの味がしないのも、ナナセが学生服にエプロン姿で幼馴染のお姉さんみたいに料理してるのにも、違和感を全く持たずにただ幸せしか感じてないってのが時間の長さを感じちゃうんだよなぁ。」
「……言われてみれば、ずっとクリーム食べてなかったっス……。」
「……うん。まあ、うん。」
「タルタロスだってさぁ、もう何機作ったと思ってんだ?1機を改改改改改にした辺りで流石に限界を感じて、新しく2号機を作った段階でも結構経ってたよ?それがもう5号機がいるんだもんよ!」
授業の度にタルタロスは、どんどんと強化されていった。
それに伴い、カバーストーリーも補強されていき、それを基にした小説も作られ、多くのファンを生み出していた。
現在は、学園内で空前のタルタロスブームである。
タルタロスのプラモデルを作りたいという人口もそこそこ増えた。。
最近はとうとう、奇麗にするだけではなく、むしろ汚したり壊したりする事に快感を覚える人も現れた。
戦闘痕をつけるのは楽しいしカッコよくなるが、せっかく作ったプラモを破壊する罪悪感もあるので、慣れないとなかなかできない中級者以上向けの行為だ。
授業で使うために最初に作ったタルタロスは、最初からプラモを作らせても難しいだろうと完成品で出していたけれど、最近は組み立て前の物を所望する人も増えた。
ここでいちいち貰おうとしないで店で買ってくれないだろうか、とも思ったけれど、コレクターにこの学園バージョンの存在が知られて、プレミアがついているんだそうだ。
でもこれ、普通に店で売ってるキットを教室で再現してるだけなんだが……?
「あの増やした人形どうするんスか?今、校庭の隅に設置してるっスけど、どんどん見に来る人増えてるっスよ?観光名所化して来てるらしいっス。」
「タルタロス改改改改改のプラモデルも販売が順調らしいぞ。改が多いって文句言われるかと思ったけど、特に問題なさそう。何事もなければ、そのままオブジェとして置いておくよ。」
どうせ、俺以外アレ操作できないし。
人形操作でしか動かせないという最強のセキュリティを持ってるから。
スルトやフェンリルみたいな脳波制御もつけてない。
俺以外がアレを無理やり動かすとしたら、多分そのエネルギーを直接俺にぶつける方が効果的だ。
だって俺の戦闘力は、未だに一般人並みだし。
タルタロスシリーズだけど、1号機だけは乗り回している。
スルトと違いホバー走行にしたため、振動が少なく俺でもなんとか乗れるようになったのが大きかった。
これによって、あの魔牛列車で数日かかった道のりを往復1日に短縮することができた。
この世界でも曜日の概念はほぼ前世と一緒だけど、唯一納得がいかないのは、休みが日曜日しかない事だ。
仕方ないので、土曜日学校が終わってから全力で移動を開始し、翌日の朝方王都の家につき、サロメとイレーヌのお腹を触らせてもらって、ガラテアとディとフレイと軽く話してから、メーティスに帰るという生活をしている。
もしアフロディーテ様から俺に用事があるとしたら、そのタイミングで伝えてくるんじゃないかと思うんだけど、特にそんな事は無かった。
なかなか大変なんだけど、子供が順調に育っている事と、メーティスに戻ればそれはそれで姫様を守ってもらっているナナセという美女がいるからなんとか頑張れてる。
たださ、ここまで長期間相手からのリアクションが無いと、流石にどうなんだという考えも出てくるわけで。
「帰りたいなぁ……。」
「……ジブンは、主様と2人きりだからこっちに居たい、って言ったら怒るっスか?」
「別に?そんだけ好きになってくれるならありがたいしなぁ。でもイレーヌから、ナナセと子供を作るなら王都に戻ってからにしろって言われてるから……。」
「……それなら、しょうがない……ス…。」
俺の作った美少女型人形たちは、皆代謝までコントロールできるので、妊娠なんかも思うままらしい。
そんな機能つけたおぼえないけれど、体を作る知能を俺に無理やり与えたのアフロディーテ様らしいからなぁ。
細かい部分がどうなっているのか、実の所俺にもよくわかっていない。
何となくでその知識を活かして運用しているだけだ。
「それにしてもさぁ、ナナセの料理どんどん上達してない?食べる度に美味しくなってる気がする。」
「隠し味は愛っスから!」
「おぬしら、相変わらずイチャついとるのう……。」
ずっと無言で食卓に座っていた姫様が口を開く。
最近は、自分が滞在している貴賓用寮には余り帰らず、俺に与えられている家に泊まることが多い。
といっても、卑猥な事は一切していない。
それは俺の尊厳のためにも断言しておく。
単純に、守りが信用できないのと、話し相手がいないからだとは思うけれどな。
あの護衛の騎士たち、しばらく付き合って分かったけれど、物凄く強いのに素直すぎてすぐ騙される。
訓練はしてきたみたいだけど、実戦経験のようなものが全然ないらしく、それっぽい誤報に簡単に騙されてしまう。
そこを利用して、ダロス君のダディたちに姫様を攫われてしまったわけだ。
それ以来、奴らに守られてるだけだと不安そうにしているのが、直接は言われていないとはいえわかってしまう。
だから、護衛用の人形や、バトルスーツも与えてみたけれど、簡単にその時の恐怖は忘れられないらしい。
つまり、ダディたちの尻拭いみたいなものだ。
夜に声がうるさいという苦情以外、特にこの家での生活に不満を言われたこともないし。
「じゃがまあ、妾としても作戦が長期にわたってしまっていて悪いと感じてはおるんじゃよ?」
「姫様のせいでもないしな。女神様連中がもう少し具体的に教えてくれればいいのに。」
仕方ないので、さっさと朝食を食べて学園に向かう事にする。
この街は、気候が1年中一定で、季節の移り変わりという物を感じない。
これは、この街自体にそういう効果をもたらす魔道具が使用されているかららしいけれど、本当だとしたらすごい規模だろう。
街の外では、紅葉から雪景色まで見せられてきたため、本当にそういう魔道具が存在しているんだろうけど、俄かには信じがたい。
まあそのおかげで、ナナセの奇麗な脚が見続けられてるんだから、俺としては歓迎すべきなのだろう。
寒くなったら女の子はスカートの下に色々履いちゃうし……。
いやそれはそれで嫌いじゃないんだけどね?
黒タイツはもちろん好きだし、スカートの下にジャージ履いてるのとかも割と好き。
学園までくると、門の所でプロメが待っていた。
男子に告白か?告白しちゃうのか?なんて頭の中でふざけていると、俺を見つけた瞬間走り寄ってきた。
「おはようございますダロス先生!」
「おはよう。ダロス先生って響きが素晴らしい。もっと言って。」
「えっ……ダロス先生!」
「素直なやっちゃな。それで何か用?」
なんだろう……。
告白だとしたら俺には応える事はできないけど……。
なんて思っていると、ここ数カ月の中でもっとも大きな爆弾を投げかけてきた。
「ダロス先生って、神の使徒様ですよね?」
その言葉を聞いた瞬間、俺とナナセの警戒度が一気に上がる。
姫様はまだよくわかってないらしい。
少なくとも、この娘は神の使徒っていうものの存在を知っていて、尚且つ俺をその使徒だって見分けることまでできている。
これの意味するところは、このプロメも神の使徒であり、第3王子のように俺の敵である可能性が高いという事で。
だけど……。
「ひっ!?えっ、あの!何か気に障ることを言いましたでしょうか!?」
あれぇ?なんかちがうっぽい?
そういう演技って線もあるけど、俺たちの空気が一気に攻撃的なものになって、大分慌てている気がする。
大体、なんで先に自分の正体を教えた?俺たちと戦いたいなら不意打ちの方が良かったんじゃないか?
わからないな。じゃあ本人に聞くか。
「確かに俺は、神の使徒とやらに選ばれている。でもそれを何故キミが知っているんだ?キミは俺と敵対的な行動をする敵勢力なのか?」
「敵!?いえ!私に敵対の意思はありません!他の女神様の使徒様にも協力を仰ぎたいとメーティス様を通じて依頼をさせていただきました!」
「……んん?姫様、俺たちって戦いに来たんじゃないの?」
「そういえば、戦争回避のためにおぬしをメーティスまで送り込めとしか言われておらんのう。イカロスの事もあって、神の使徒と会ったら即戦うってことなのかと勘違いしておったようじゃ。」
「言われてみれば……。てか俺と姫様もよく考えたら仲良くしてるもんな。」
「そうじゃな!マブダチと言っても過言ではあるまい!」
過言じゃない?
とりあえず、こっちの雰囲気が緩んだことを感じたのか、プロメが改めて話し始める。
「神の使徒としてご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。神の使徒であることを貴方たちに教えても良いのかよくわからなくて、警戒してしまっていて……。」
「でも、呼んだのってそっちなんでしょ?」
「誰にどのように頼んだのか我々にはわかりませんでした。ダロス先生たちがお越しになったタイミングから察するに、依頼を受けてくれたのはダロス先生たちだろうとは思っていたのですが、確証はありませんでした。そのため様子を見ていたのですが、強力な兵器を作り始めてしまったため、これは逆に我々の敵対者なのでは……?と使徒連盟から意見が出まして……。」
「えー?平気ってタルタロスの事?でもあれプロメも作ってたじゃん!むしろ一番楽しんでたまである!」
俺は覚えてるぞ!
あのタルタロスを話の中とは言え嬉々として爆破解体するお前を!
ゾクゾクしたからな!
「あまりに楽しそうにしているので、魅了でもかけられたのではないかと周りからは見えていたらしく……。」
「あー……。」
前に魅了持ち送り込まれそうになってたわけだから、あながち間違ってもいない訳だが。
「ですが、私以外にもダロス様と接した使徒が多くいましたので、その誤解もやっと解けたようです。」
「そりゃよかった。てか使徒っていっぱいいるの?話を聞く限りメーティス様の使徒ってことだろ?」
「いますよ。というかですね、普通神様は、この世界に干渉するために自分の手足となる生き物に祝福を与え使徒とします。その数は普通神1柱につき数万になることもあるそうです。ただ、アフロディーテ様は現在1人にしか祝福を与えてらっしゃらないそうですが。愛を司ってるから自分も愛に生きるためだとかメーティス様はおっしゃっておりましたが……。」
そういえば、俺の女神の加護だか祝福はすごいんだったわ。
その分仕事全部俺に押し付けるわけだけども。
「はぁビックリした。朝から疲れたな。」
「申し訳ありません……。てっきり話が通っていると思っていたのですけれど、いつまでもそのそぶりが見えなかったもので……。」
「こっちも悪かったよ。ただ、話す内容的にあんまりここではなぁ。」
教師として雇われている以上、早めに登校してきたのが功を奏したか、ここまで騒いでもまだ周りに人はいない。
それでも、この後もそうとは限らないし、できれば場所と時間を移したいな。
「じゃあ学校終わったら、俺の家に来ないか?」
「え!?あのっ!私そういうのまだで!初めては好きな人と……!」
「そういうんじゃないから!!!」
やっぱなんか誤解してるよな?
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