第34話

 授業開始のチャイムが鳴る。


 チャイムと言ってはいるけど、スピーカーから聞こえる前世のやつではなく、この建物の上に据えられたアホみたいにデカい本物の鐘をぶち鳴らしてるようだ。


 正直うるさい。




「授業を始める!全員席につけ!」


「先生、もうみんなついています。」




 言いたかっただけだ。




「ではまず、今日の授業は、新しい玩具を開発することだ!」




 教室が静まり返る。




「……玩具とは、おもちゃの事ですか?」


「そうだ。」


「子供向けの?」


「違う!大人も子供も遊べるとても高等なものだ!」




 シラーっとした雰囲気が漂う。


 これはまずい。


 引き締めねば!




「因みに、すごく儲かる。」


「「「「!?」」」」


「俺は、王都で今回開発する玩具の前身となるものを販売し始めたが、初月だけで金貨1000枚の収入があった。売り上げという事で言えばもっと上だな。」


「……もしかしてなんですけど、先生の売り出した玩具って、今机の上に置いてある『神創機神タルタロス』ですか?」




 気弱そうな男の子が恐る恐るといった感じで話す。


 彼は見どころがあるぞ。


 リアルが充実してなさそうな所が。




「え?知ってた?めっちゃ嬉しい!……じゃない。そうだ、それが俺の作った玩具だ。」


「王都にいる従姉が送ってくれたんです!大人気のおもちゃだって!機械仕掛けの人形師様が作ったらしいですけど、先生ってまさか!?」


「……あの名前マジで広まってるの?」




 閑話休題。




「まあ、そのおもちゃの新しい武器とかを皆で考えるわけだ。採用になればアイディア料も出すぞ。」


「でも、玩具はちょっと……。」


「私たちは、そういうのにあまり興味が無いんですよねぇ。お金儲けは気になりますけれど。」




 なんて好き放題言っている生徒たち。


 もうすこしやる気を出させる必要があるようだ。




「この玩具は、確かに玩具ではあるけれど、俺のジョブとスキルによって現実に作り出すことができる。全員、窓の外を見ろ!」




 そこには、身長5mの1/1神創機神タルタロスが鎮座していた。


 だって、本物見た方がやる気出るでしょ?


 俺が作りたかっただけなのもあるけども。


 因みに、この神創機神タルタロスっていうのは、披露宴で躍らせた機体の一つである。




「このタルタロスに持たせるのは本物の武器だ。つまり、キミらが優秀な武器デザインを行った場合、継続的にその武装の売り上げの一部をギャラとして得られるわけだ。玩具だけど玩具扱いはしないほうがいい!」




 教室にいた生徒たちがつばを飲み込む音がする。


 直後、殆どの生徒が机に配られていた紙にデザインを開始した。


 お金がない生徒は金儲けのために。


 実家が金持ちな生徒は自分の遊ぶ金のために。


 単純にロボットというものに目覚めた者たちは、ただただ己の欲望のために。




「主様!破壊力はどこまで出してもいいんスか!?」


「できるだけ周りに被害が無い程度で。あんまり無茶な設定作っても実現はできないかもだから、その辺りはしっかり覚悟しておいて。」


「この機械人形が動くだけでもかなり無茶なんじゃないスか?」




 ナナセは慣れているので、詳しく内容を詰めてくる。


 なかなかいい設定厨になってきた。




「なあダロスよ。妾は別の物を考えてもよいかのう?」


「別の物って?」


「これを使う者の白兵戦用の武装じゃよ。これほどのサイズの乗り物ということは、入って行けない場所も多いじゃろう?そういう所で使う武装が必要なのかと考えたわけじゃ。できれば、全身鎧みたいに体中をまもってはくれども、軽くて身動きの障害にもならないものがいいのう。」


「姫様って兵器開発局か何かの人なんです?」




 この人ホントそっち方面進んだ方がいいと思う。


 なんなら家で雇いたい。




「ダロス先生!」


「はいはい、何かな?」




 さっきのメガネ三つ編み少女が手を上げて聞いてくる。




「この神創機神タルタロス……でしたか?誕生した背景とか、どんな陣営で使われるのかって決まってるんですか?」


「ある程度決まっているけれど、まだ発表はしていない。というかね、そんなことを考えられる人がいると思ってなかった!キミ良いな!名前は!?」




 良い所に気がつく子だ。パッと見ただけでそこまで妄想してくるとは……。




「え?えーと、私はプロメ、プロメ・ティターンと申します。」


「ではプロメ、キミはこの機体がどうして存在し、何を目的に今行動していて、最後はどうなると思う?」


「……そう……ですね。神創機神ということは、神に作られた魔道機械か何かということですよね?しかも、機神ということは、作られたけれど性能は神に匹敵するという事だと思います。神が自分に匹敵するような兵器を作る必要は感じませんし、そうなるとこれを作ったのは人間なのでしょう。神に対抗するための機体。こんなものを作れば、神の方も黙ってみてはいないのではないでしょうか?神 対 人間の図式が成り立ってしまうかもしれません。作った人もそれはわかっているでしょう。それでも作ってしまったのは、単なる好奇心からなのか、憎悪に駆られた復讐心からなのか、それはわかりません。ですが、機体デザイン自体が少し悍ましい雰囲気を出しているので、完全な良い主人公として描けるものではないのではないですかね。つまり、互いに互いの正義があり、それを認められないからこそ始まった戦いで使われる悲しい兵器、それがこの神創機神タルタロスなのではないでしょうか?多分最後は、機体に心が宿って本物の神となり、それを操っていた製造者の人間と、そして相手の神諸共大爆発し、その大規模な破壊によって世界は一時的に平和になるんです。ただ1000年後くらいにまた同じ規模の戦争が起きる気がしますね。」


「キミ才能あるよ。」




 この娘なんなの?


 まだパッと見ただけだよね?


 今即興で考えたの?この早口を?




「戦争なんて言うのは、どちらかだけが正義で、どちらかが悪なんて単純な物であることはまずない。正義は人間の数だけある。その辺りを表現する機体って所だけ皆にも理解して武装を考えてほしい!」


「「「「はい!」」」」






 そして放課後。




「やりすぎじゃないっスか?」


「やりすぎたかもねぇ……。」




 そこには、武装でゴッタゴタになったタルタロスがいた。


 個人的には嫌いではないけど、見た目はハリネズミに近い。


 だって、皆とっても独創的で俺の厨二力をゾクゾクさせる発想ポンポン出してくるんだもん!


 特にプロメ!人間の脳を移植した制御人格装置ってなんだよ!


 しかもそれが製作者の死んだ恋人の脳で、その恋人の死が神へ反逆を決意した理由って!


 まあ流石にその装置は作らなかったけどさ!




「まあこれさぁ、実の所この学園内にいるであろう神の使徒への牽制になればいいなって思って作ったから、やりすぎでもいいんだけどね。」


「へぇ、そんなまともな理由で作ったんスか。てっきりただ作りたかっただけかと。」




 まあ、それは否定できない。




「ダロスよ……、それよりこれ、もう脱いでも良いかのう……?流石に恥ずかしいんじゃが……。」


「良いですよ?デフォルトだと、右手を左上から右下に斜めに振って、装着解除って言うとそのスーツが元の腕輪に戻ります。」




 現在姫様には、姫様デザインのパイロットスーツを着てもらっている。


 ちなみに、パイロットスーツとは言っているけれど、変身ヒーローみたいな感じで着る事になるバトルスーツだ。


 作るのめっちゃ楽しかった。


 着る時は、右腕に装着された腕輪のスイッチを押し、体の前で力を入れながらグルッと腕を回し、変身!と叫べばいい。


 このモーションは任意で変更可能。


 全身を特殊な膜が覆い、銃弾すら数発なら耐える特殊ジェルとなる。


 まあ、ジェルというか神粘土なんだけど。




「うぅ……こんなに体のラインがピタッと出るとは思わなかったんじゃ……はしたない格好してしもうた……。」


「姫様スタイルいいんだから恥ずかしがること無いのでは?」


「そういう問題じゃないわ!乙女の羞恥心の問題じゃ!それにとなりにナナセがおるとどんなスタイル持ってても心を折られるわ!」




 でしょう?うちの子奇麗でしょう?




「まあでも、そのバトルスーツ着てれば身体能力も向上しますし、ダメージもかなり軽減してくれるので、もし万が一襲撃受けた時は着用してください。ピタッとしてるのが恥ずかしいならその上から更に服でも着たらいいですよ。何かに乗る事があるって事を前提に姫様が設計したわけですし。」


「確かに性能はいいんじゃろうが、妾もっとフリフリいっぱいつけたじゃろ!?」


「フリフリなんてついてたら狭い操縦席でじゃまくせーだろうが!フリフリなんて飾りです!」


「飾りだからつけたいんじゃが!?」




 しかたないので、何にも載ってない時にはフリフリがつくようにしてあげると満足したようだ。


 よっぽど嬉しかったのか、変身スーツが圧縮され収まっている腕輪を優しく撫でている。






「それでさ、神の使徒っぽい奴いた?」


「さぁ?ジブンはよくわかんなかったっス。メガネに三つ編みの娘には注意しておかないと主様がやらかしそうかなとはおもうっスけど。」


「妾はよくわからんかったのう。そもそも、妾はこの前使徒とやらになったばかりで、おぬし以外の使徒というのもよくわからんしのう。イカロス兄上とは殆ど会ったことも会話したこともなかったし、共通の特徴があったとしてもさっぱりじゃ。」


「まあ、そうだよなぁ。きっとこうやって悩んでるのが神様たちには楽しいんだろうさ。」


「性格悪いっスよねぇ。」


「人前であんまりそう言う事言わんほうがいいと思うんじゃが。」




 実際問題、どう探せばいいのかまったくわからない。


 何をしようとしてるのかすらわからないんだから、お手上げ状態と言っていいだろう。


 第3王子が使徒だと教えてくれたのは、よっぽど神様たちの逆鱗に触れるようなラフプレーを繰り返したって事で起きたイレギュラーな事態ということなんだろう。


 今後、使徒と対決しろって言われても、正体を教えてくれる可能性は低そう。


 早く帰って人形兵団とか作りたいんだけどなぁ。




「こんだけ派手に動いてやったんだから、いっそあっちからちょっかいかけてこないかなー。」


「それなら楽なんじゃがな。」


「ジブンは、こっちにいる間主様を独り占めする権利を貰ってるんで、時間が掛かるのは望むところっスけどね。」


「ナナセに学生服でそう言う事言われて落ちない男はいないから気を付けろ。」




 この時はまだ、こんな所にまだ数か月も勤務することになるとは思っていなかった。




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