第30話

「はぁ、それでそのままプロポーズしたと?」


「うん。もう我慢ができなかった。」


「あれだけ偉そうなことを言っておいて、結局自分の物にしちゃうんですね?」


「そうなる。」




 現在、婚約者から睨まれながらお茶してるダロス君。


 飲んでいるのはハーブティー。


 もちろんダロス君お手製です。


 森で採ってきました。




「それで?私にはいつしてくれるんですか?」


「その事で今日は話がしたかった。」


「……え?」




 多分イレーヌは、今日ものらりくらりと躱すと思っていたんだろうけども、そうは問屋が卸さない。


 決意って言うのは、案外簡単に固まることもある。




「今、新しくうちの当主になったローランに、俺を騎士爵とか言うのにしてくれるよう頼んである。一代限りの貴族みたいな奴。しかも、仮に戦争とかが起きたとしても、戦力を出さなくていいっていう特殊な形態で。今首から上が繋がってるの俺のおかげの部分が大きいから、その位認めてくれるでしょ。」


「まあ、そうでしょうね?」


「今の俺って、正式には貴族の家族扱いだから、やっぱり俺自身が貴族になっておいた方がいいと思ったんだよ。」


「それは大変良い考えかと。」




 この娘を泣かせてしまったことに後ろめたさも感じるけれど、今となってはダロス君の気持ちも全くわからないでもない。


 もうちょっと心に余裕もてとは思うけど、やっぱり好きになるってそういうことなのかもしれない。




「それでさ、俺が騎士爵になって貴族の一員と認められたら、正式に結婚しよう。」


「………………はぁ。こんな感じでサロメさんもプロポーズというのをされたんですか?」


「はい……。」


「貴族の世界にプロポーズってもんが無いとは知らなかったよ。」




 イレーヌが、隣に座るサロメに聞く。


 貴族は、婚約なんて勝手に決められてしまうので、プロポーズという文化が無かったらしい。


 その事をサロメをお姫様抱っこして、先日訪れた宝飾店まで駆け込んでから知った。


 ダイヤの婚約指輪というのが伝わらなくて焦ったよ……。




「……まあ、もう少しムードのある時にしてほしかったですけれど、結婚自体は全く問題ありませんよ?」


「あ、待って待って。俺の前世の世界で行われてたプロポーズ方があるから。」


「そうなんですか?」


「うん。それじゃあ、ちょっと立ってもらえる?」


「わかりました。」




 立ち上がったイレーヌの前に跪き、指輪を取り出す。


 昨日大急ぎで作ってもらった婚約指輪だ。


 因みに、使われているダイヤモンドは俺の手作りだったりする。


 重くない程度に大きめにして、彼女の瞳の色を軽くつけてある。


 サロメのは薄紫色だ。


 この世に1つの物っぽくしたかった。




「俺がキミに初めて会った時、他の男に肩を抱かれていたってだけで色々言った。あの時は、もう2度と君とは会わないことになるんだと思っていたし、ダロス君の記憶に引っ張られていたのもあって我慢できず言ってしまった。」


「……そうですか。」


「でも、多分今俺が同じ光景を見ても、同じように文句を言ってしまうと思う。俺はイレーヌが好きだ。他の誰にも触れさせたくない。そんな事を言っておきながら、他の女の子にもプロポーズをしてしまっている俺が言うのもなんだけど、イレーヌを俺だけの女にしたい。キミはとても奇麗だし、人気がある。俺なんかと一緒にならなくても、幸せになる道はいくらでもあると思う。」




 そこで一度言葉を切る。


 覚悟して、練習もしていたけれど、やっぱり改めてやってみると緊張してしまう。




「それでも、キミを幸せにするのは俺でありたい。キミが笑顔を向ける相手が俺であってほしい。もしそれを受け入れてくれるなら、この指輪を左手の薬指に嵌めさせてくれないか?それが俺の知ってるプロポーズなんだ。」


「……わかりました。でも、指輪の前に一つだけお願いしたいことがあります。」


「うん?」




 気がつけば、イレーヌもしゃがみ込み、俺とキスをしていた。


 一応俺も4回目……になるのか?なんだけど、全然上達した気がしない。




「……んっ。私だけ、一度も貴方とキスをしていませんでした!それが悔しかったんです!これでいいです!結婚しましょう!」


「……ああ。そのうち、もっと上手くキスできるようになろう。いっぱいしたい。」


「そんなの……別に宣言しなくてもいいですから……。」




 そう言いながら、指輪を受け入れてくれるイレーヌ。


 前世で彼女もできなかった俺が、彼女を飛び越えて結婚をしようとしているんだから、両親はどう思うだろうか。


 まだこちらに来てからそんなに時間は経っていないけれど、世の中何があるかわからない。


 それをついこの間実感したからかわからないけれど、イレーヌの事を後回しにはしたくなかった。




「サロメさんが、さっきからずっと愛おしそうに指輪を見ていて、アナタにプレゼントされたという事はわかりましたけれど、まさかこういうものだとは思いませんでした。」


「この世界だと平民が婚約するときは金の指輪なんだっけ?俺の世界……っていうか国か?はダイヤモンドの輝きは永遠だから、心変わりしないよって意味で使われてたなぁ。」


「……そういう意味……ということでとらえますよ?」


「ああ。俺は、好きになった物はずっと好きなんだ。だから大人になっても子供の時と同じ趣味で、周りから揶揄われるんだけれどな。」




 色々言われたなぁ。


 言われる度に、言い返したかったけれど、きっと言い返したってわかってもらえないと思うと、結局そのままにしてたんだよなぁ。




 遠い目をしていると、イレーヌが抱き着いてくる。


 抱き返すけれど、どうも泣いている事に気がついて少し焦る。




「嫌われたと思いました。面倒に思われてると思ってました。この関係も、その内なかったことにされると思ってました。貴方は、サロメさんと遠くへ逃げたがっていると思ってました。」


「……まあ、ここから逃げたいと思う事はあるよ?貴族とか神様とか面倒だし。でもさ、それを受け入れてでも、イレーヌを手に入れたくなった。好きって気持ちはままならないってことかな。」




 少ししてから、体を離し、赤い目で俺を見つめながら話し始める。




「……本当に、そうですね。なんで私、貴方みたいに大きいおっぱいにすぐ目が行ってしまう人をこんなに好きになってしまったんでしょう?私って、もっと誠実な人が好きなんだと思ってました……。」


「この状況でイレーヌと卑猥な事してないんだから、十分誠実なんじゃないか?」


「はぁ……。アピールが足りませんでしたかね?既成事実というのも狙ってみたのですが……。」


「そんなもの必要ない。そこにいるだけで俺の理性を破壊寸前までもっていっていた。ただ残念ながら、俺は実はヘタレだから。」


「ヘタレな事は知ってますよ?」




 なんでヘタレな事は皆ご存じなんでしょう?




「でもいいです。ダロス様から結婚という言葉を言い出してくれただけで、私は幸せです。」


「そんなもんで幸せだって思ってるなら、これからどんどん想像もできない幸せな事態に陥れるから覚悟しろ。」


「はい!よろしくお願いします!」






 やっぱり、この娘は笑顔の方がいいな。




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