第31話

 その日、ピュグマリオン男爵の結婚披露宴が行われた。


 ダロス本人は騎士爵くらいでなんとかお茶を濁そうとしていたが、姫様の




「女を2人も侍らせるのであれば、もっと家格を上げねばならんじゃろ?」




 という鶴の一声で、公爵家の一員としてではなく、王家から直接爵位を賜ることになってしまった。


 王女殿下からすると、今まで存在しなかった自分の派閥に何の信用もできない物を入れたくなかったのもあり、丁度いいからと煽てただけだったのだが、煽てれば煽てる程やってしまうダロスは舞い上がる。




 この世界の人から違和感を持たれないように、できるだけ機械っぽさを抑えて人形をデザインしていたダロスだったが、目立つためには敢えて機械っぽさを出していくべきだという結論に至った。


 至ってしまった。




 その結果、前世の人々からはロボットとしか表現できないような奇妙な人形たちが、遠隔操作と複数操作を駆使したダロスによって、複数踊ったり走ったり跪いたりす奇怪な舞台ができあがり、唆した姫様ですら目を点にして口が閉まらなかったという。




 王家が自ら宣伝したことにより、一般の観覧者たちも多く訪れ、その鋼の巨人たちの宴を目撃した。




 その姿は鎧ではなく、しかし、金属で包まれていた。




 あたかも魔石で動く魔道具や魔道機械のように見えるそれらは、その見た目の印象とは裏腹に生物的な動きを見せ、人々にこれが夢か現かと困惑させるほどの幻想的な空間を提供していた。




 何より、操ってる本人であるダロス自身がかなり無理をして動かしていたため、高熱にうなされた時に見る悪夢のようになっていた。




 それでも、最後の最後。




 全ての人形たちを跪かせ、美しい2人の少女に誓いを捧げたダロスの姿は、人々に愛の物語として長く語り続けられるほど印象に残るものだった。




 勇壮なる機械の人形たちを操り、自分の境遇を乗り越え、平民へと身を窶した元貴族の少女と、王子すらも虜にしつつも幼少からの約束を結実させた少女との恋の物語。




『機械仕掛けの人形師』と、そう呼ばれた。








 ―――――――――――――――――――――――――――――






「ってなる予定だったんじゃが……。」


「ほんと……キツかった……。」




 現在、ここは披露宴会場として借り受けた開放型コロッセウム、その中の控室だ。


 新郎新婦以外立ち入り禁止となっている室内に入れるのは、新郎新婦本人たちと、医療関係者位である。




「ダロス様、予定より5体くらい人形が多くありませんでした?」


「いや……途中でまだいけるかなって気がして急遽追加しちゃった……。」


「それで、最後ほぼ朦朧とした状態で私たちにキスしてきたんですか……。」


「サロメさんはまだいいです。私なんて皆さんの前でびっくりするくらいのディープキスでしたよ……?恥ずかしい……。」




 はいすみません。調子に乗りました。


 だってさ、ここで頑張って目立てば今後給料も増えるかも?なんていわれてさ。


 今冷静に考えると、お金なんて自分で稼げばいいんだから、爵位を上げる努力なんてしなくても良かったんじゃって気もするんだけどさ。




 んで、頭が限界になった結果、目の前の最愛の女の子2人に欲望をぶつけちゃったと。




 最初は、サロメとの結婚式は、身内だけのこじんまりとしたものにする予定だった。


 イレーヌとの結婚披露宴は、最初から大々的にやるつもりではあったけれど、そこにイレーヌが待ったとかけた。


 愛する2人が結婚するのだから、規模が違うのはどうなのだろうと。


 イレーヌの実家とウチの公爵家両家を巻き込む騒動になりかけたけれど、最終的に本人がそれを望むなら良いかという話に。


 商機を取り戻したソルボン前伯爵も涙を流していた。


 喜んでいたのかどうかは知らない。




 まあそんな訳で、堂々と2人との結婚式を行えたわけで、舞い上がってしまいました。


 2人とも奇麗だし、神人形師の能力もある程度隠さずに使っていい事になったし。


 ハイになっちゃいました。




 その結果がこれだよ。


 今、一国の姫様に頭のお医者さんをしてもらってる。


 やっぱ姫様の癒しの力すげぇ……。


 俺の作り直すのとは根本的に別の力だよ……。


 どんどんなにかいいものが入ってくる感じ……。




 そしてお嫁さん2人は、呆れながらも手を繋いでくれている。


 それが俺にとって何よりもうれしい事で、そして何より舞い上がる原因でもある。




「主様!早く治療終えてほしいっス!イレーヌファンクラブって人たちからの抗議の魔道手紙で部屋一つ埋まったっスよ!」


「……すごい勢いで呪いも飛んで来てる!全部主様に向かってる!」


「フェンリルで逃げるなら今だよ!これ以上人が集まると流石に踏みつぶしちゃう!」


「スルトではもう無理ですね……。」




 俺の作った美少女型人形たちも身内兼スタッフとして頑張ってくれた。


 彼女たちのおかげで円滑に進められた部分も大きい。


 まあ、彼女たちもすごい人気なので、今俺に飛んで来てる呪いの半分くらいはそれが原因かもしれないが。




 会場の外壁、そこに設置しておいた3号の目で見ると、ゾンビパニックでも起きたかのような怒号が響いている。


 騒ぐので追い出されつつもまだ入ろうと画策する者たちと、さっさと出て行きたい一般人。


 熱狂的なコンサートの後のようである。


 アンチの方がちょっと多いくらいしか違いはない。


 ちょっとかな……?かなり……?




 いずれにせよ、このままでは外に出るだけで大事件になるだろう。


 仕方ないので地面を走って逃げるのは諦める。


 そうなったとき選ぶべきは、空か地下か。




「飛んで逃げるか。」


「頭まだ治りませんか?」




 サロメが酷い事を言う。


 俺の事を心配してくれてるって事だよな?




 皆を引き連れて中央のステージまで戻る。


 ここにいるのがバレれば、入り口を壊してでも人々が入ってくるかもしれない勢いだ。


 嫁にキスして何が悪いんだ!と言いたいところだけれど、そもそも嫁だと認めないって連中なので話す意味はない。


 逃げるに限る。




 ステージの上に大量の神粘土を作り出すと、そのまま人形生成していく。


 最近は、どんどん精度も上がり、出来上がるまでの時間も早くなってきた。


 この程度の製作なら20秒でこなせる。




「これに乗って逃げよう。」


「これは?」


「ヘリコプター。飛ぶの。」




 説明すると、サロメが目を見開く。


 イレーヌも似たようなものだ。


 姫様はケラケラ笑ってる。あれ?姫様も来るの?


 美少女人形たちは、俺を信じて飛ぶことに同意しているけれど、とにかく早くしろと言う事らしい。必死の形相だ。




 全員を乗せると、早速プロペラを回し、空へ飛び立つ。


 天井が無い会場で良かった。ドームだったら地下を行くしかなかった。




「これからどこに向かうんですか?」


「新居に向かおう。お義父さんたちも皆そこで待って……あ」




 そこでふと気がつく。


 着陸場所無いな、と。


 屋根は広いけれど、ヘリポートでもない場所に降り立ったらそのまま天井が抜ける。




「しかたない。公爵邸の小屋に今日は泊まるか。」


「えー!?せっかく引っ越したのにっスかー!?」


「だってこの状況で町の中走ったら絶対大騒ぎになるじゃん。」


「……私はどこでもいい。寝たい……。」


「フェンリルたち大丈夫かなー?」


「スルトたちを害せる存在がいたらその時点でこの国は大丈夫じゃないです。」




 皆大騒ぎだ。まあ全員今日のために準備を頑張っていたので、魔石を集めに行けていない以上人形でも休まないと辛いのだろう。




「2人もそれでいい?」


「私はむしろ慣れていますので。」


「私も最近慣れました。」


「じゃあ、そういうことで。」




 この世界に来てから、実はまだ1カ月も経っていない。


 怒涛の展開に、俺は目が回っているけれど、なかなかどうして楽しんでもいる。


 やらなければいけないことも多く、趣味にかける時間は減らさざるを得なかったけど、明日からはまた存分に趣味を満喫できるはずだ。




「ところでダロス様、子供は今夜から作るという事でいいのですか?」


「え?あ、うん。」


「あの……私も……心の準備だけはしています……。」


「あ、うん……。」




 やることが2つほど追加されたけど、それでも幸せな未来が待ってると信じて、生きて行こうと思う。


 辛いこともあるかもしれないし、上手く行かないことも多いだろう。


 それでも、彼女たちとなら、生きていてよかったと思える、そんな気がするから。
















「妾の前でよくそんなはしたない会話できるのう……。」


「姫様だけ城に降ろします?」


「寂しいじゃろうが!」








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