第29話
その日、王都に新たな英雄が生まれた。
彼女は、王都に襲いくる魔物の集団を貴族と協力して秘密裏に壊滅させ、勇壮なる騎士団を引き連れ、王城に凱旋したという。
彼女の名は、イリア・オリュンポス。
この国の第1王女にして、神に選ばれたとさえ称えられる美貌を持ち、大貴族を従える救国の聖女だ。
「って事になったわけじゃが?」
「……そうなんですか……。あの……もう少し声おさえてもらっていいすか……?」
現在、2日ほどベッドのお世話になっているダロスですよろしく。
原因は、噂の勇壮な騎士団さんです。
実際には、アルミ箔のように限界まで薄くした空の金属鎧でできてました。
動きも可能な限り単調にしましたが、頭が沸騰するかと思いました。
流石に500騎はやりすぎだったかもしれません。
頭ダロス一歩手前ですね。
姫様を王城に置いたら全力で戻らせて解除です。
「その反動で……2日ほど具合最悪なんですよ……。帰ってもらえます……?」
「いきなり聖女とか言われて困っとるんじゃ……。少し匿うくらいいいじゃろ?」
何故か昼から姫様来襲。
こんなボロ小屋でホイップクリームを絞り器から吸い出して食べてる。
「てか、よくあんないい加減な説明で納得させられましたね……。俺たち夜逃げするくらいのつもりで準備してたんですけど……。」
「あれなー?実はまあ、思ったよりイカロス兄様……いや、イカロスじゃな。あやつのやらかし具合がすごくてのぅ……。クーデター自体はそもそも被害も無かったんじゃが、貴族の娘に手を出しまくりだったことが魅了が切れて発覚して、苦情の嵐だったようじゃ。そっちの方がいろいろ問題で、公爵家をどうこうしとる場合でもないってなったらしくての?仕方ないから、妾の絶対的な後ろ盾になるって条件で許されたようじゃよ。そもそもの原因がイカロスじゃし……。」
「あら、バレバレなんですか……。」
「そりゃそうじゃろ。じゃが、いい具合に妾を演出できて宰相たちは大喜びだったようじゃがな。民衆には派手なネタを提供しておき、後ろのゴタゴタをごまかしておきたいんじゃろ。」
情報提供感謝します。
そのホイップ持ってっていいので帰ってくれ。
「にしても、おぬしなんなんじゃ?何したら騎士団を一瞬で用意できるんじゃ?」
「俺のジョブは人形師で、あれは全部ぺらっぺらの人形ですから……。」
「変わったジョブもあるもんじゃな……。どれ、妾のジョブの効果も見せてやろう。」
そういうと、姫様は俺の頭に手を当てた。
ガンガンを響く頭痛のせいで、この手にこのまま潰されるんじゃないかなんて嫌な予感もしてしまったが、そこから数秒で驚くほど痛みが消えた。
むしろ絶好調だ。
「なんか、治ったんですけど。」
「じゃろ?妾って聖女らしいぞ?」
なんじゃい聖女って。
「まあ、癒しの力を使えるジョブじゃな。とても強力じゃが、それゆえ政からは遠ざけられる。1日1度しか使えぬ……という事になっておるしの。そんな者に近づきたがる貴族など、大病を抱えた者か、妾の体目当てか。じゃから後ろ盾なんてものも用意できなんだが、今回丁度いいのが手に入ってほくほくじゃな。」
「まあ、その貴族って王都に残ってる戦力が10人以下になってますけどね今。」
「酷い話じゃなぁ……。」
結局パパンは引退して領地でお仕事するらしい。
長男が後をついで公爵になり、次男は何故か出家した。
母親と姉は、そもそもしばらく王都には来てなかったんだとか。
会いたくも無いが。
「あとな、神様からおぬしが使徒だという事も聞いとるぞ。」
「サラッと言わないでくれます?」
使徒ってそういやいっぱいいるんだったな。
俺はあんまり神様に忠実な行動してないけど、姫様はどうなんだろう。
「妾は、ディオーネー様より祝福を受けとる。」
「それって何の神様なんですか?」
「なんでもじゃな。」
「なんでも……。」
なんか、よくわからないけど、本人……本神?もよくわかってないらしい。
やろうと思えば何でもできるんだとか。
「因みにじゃけど、おぬしにアフロディーテ様を通じてイカロスを倒すようお願いしたのもディオーネー様だそうじゃぞ。」
「へぇ……。って事は詰まりそいつのせいであのイカロスとかいうバカが生まれたってことですか?確かイカロスってその依頼主の眷属だか使徒だかでしたよね?」
「そうなのか?妾はそこまで聞いとらんが……。」
面倒なとこ端折って伝えたな。
神様なのにみみっちい。
姫様によると、使徒として覚醒したのは昨日の夜らしい。
それからジョブが神聖女に変えられて、癒しの力が更に上がってしまったんだとか。
今では、1日に10回は使えそうだけど、周りには内緒にしているそうだ。
「秘密を共有する相手が欲しくてのう。ついでに静かに休めればと思い抜け出してきたわけじゃ。」
「王族って大変ですね。俺には絶対無理です。」
「そうかの?ところで王族になる気はないかの?」
「無いです。」
「妾は未だに婚約者おらんのじゃよ。」
「俺にはいます。」
「つれないの……。」
話したいだけ話し、ホイップクリームを食べ切った姫様は、ひとまず満足したのか帰って行った。
外に出たら本物の騎士団がいた。
中身がちゃんとぎっしり入った強そうな姿に思わず身構えるも、こいつらパパンたち数人に押し通られて姫様誘拐されてるんだよなぁ……。
この国のセキュリティはどうなっているのか。
まあ俺には関係がない。
折角頭痛も治してもらったし、今日こそはロボットを作るぞ!!!!!!!
てかね、500機の騎士団作り出したからかわからないけど、ジョブレベル上がったんですよね。
―――――――――――――――――――――――――――――
神人形師:レベル6
解放スキル:人形生成、人形操作、人形強化、神粘土、魂付与、遠隔操作、複数操作
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複数操作って言うのが増えてたけど、これ騎士団みたいなの作る時に役に立つやつですよね?
もう少し早くほしかったです……。
人形の兵団みたいなの作りでもしないと役に立たないかな。
俺はどっちかっていうとワンオフ機が強いほうが好きかなぁ。
量産機も好きだけどさ、ワンオフ機にしかない効率の悪い謎のシステムが発動して強くなるのとかが好き。
あーでも、波のように3号が押し寄せてくる光景は見てみたいかもなぁ……。
「何て思うんだけど、サロメはどう思う?」
「さぁ?言ってる事の8割くらいはわかりませんでした。」
姫様凱旋事件以降、サロメはずっと俺にくっついている。
澄ました顔でくっついているので、指摘もし辛い。
何より俺の心が全く嫌がっていない。
「今回もし逃げなきゃいけなくなってたらさ、本当についてきてくれた?」
「当たり前です。」
「そう答えてくれるのはわかっていながら、ついつい毎回確認してしまうめんどくさい男でも?」
「そういう所も好きです。多分私もめんどくさい女なので。」
「愛してる。もう自分を誤魔化したくない。サロメの選べるはずだった未来を奪ってしまうかもしれない。曲がりなりにも貴族だから、正式には無理なのかもしれないけれど、俺と結婚してほしい。」
「………………………………これって、冗談とかじゃないんですよね?」
「こういう流れでしか言えそうになかった。俺って本当はヘタレなんだ。」
「ヘタレなのは知ってます。あと、私はこういう時にどう答えればいいのか、作法を知りません。なので……。」
そう言うと、彼女はそっと口づけをしてきた。
彼女との2回目のキスは、何となく甘い味がした。
クリームだろうか。
まあ、血じゃなければ何の味でもいい。
「もう、離しませんからね?」
「トイレ行く時くらいは離れてほしいかな。」
「ダメです。でも、アナタからキスしてくれたら考えてあげます。」
まだ夕日の時間でもないのに、俺もサロメも、顔が真っ赤に染まっていた。
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