第26話

「家を買ったので、近々引っ越します。」


「いきなりっスね?」




 今日は珍しく朝食に全員が集まっていたので、昨日の夜できなかった引っ越し宣言をしておく。


 知らなかったのはナナセだけのようだけど。




「ディたちのお部屋もあるのー?」


「もしかして、そんなものないほうがお得なのでは?大手を振ってお父様の部屋に忍び込めますし。」




 何言ってんだこの2人。




「部屋は、全員に当たる予定。あと、お手伝いさん雇うから。まず1人、その後もしかしたらもう1人。」


「それっておっぱい大きい人っスか?」




 そうだよ……。




 わいわいがやがやと話していると、コソコソとサロメが話しかけてくる。




「私の部屋は、ダロス様と一緒でいいですか?」


「ダメだろ。最近我慢するの大変なんだから。」


「ええ。だからです。」


「ダメだろ。」




 今回の引っ越しの一番の理由は、あまりに人が増えすぎたためだ。


 各部屋に数人を押し込めてるような状態で夜寝てるんだから流石に改善すべきだと思う。


 意図せず2人も女の子ができてしまったのが拍車をかけている。




 語弊がある言い方だったか。




 そして、遠隔操作ロボット計画を本格的に進めたい。


 作るのはすぐだけど、設計段階で時間かかるんだよなぁ。


 それが楽しいんだけども!


 プラモだって作る工程が楽しいんだ!


 ブンドドだけでいいならすでに出来上がってるやつ買えばいい!




 もっとロボットとかフィギュアつくりてぇなぁ。


 なんだかんだ言って他の用事が入るから時間とれないんだよなぁ。


 首飛んだりとかさ。物理的に。




 実際の引っ越しがいつになるかはわからないけれど、各自私物をできるだけ纏めておくように伝えて解散にする。


 引っ越しの準備は、纏めてやろうと思うと案外時間がかかるから、事前にある程度進ませておくべきだ。


 俺は慣れてるからわかるんだ。


 ほぼ失敗の歴史だが。


 もっとも、この小屋に私物を大量に持っている人間なんていないんだけども。


 古いマンガとかないんだけども。


 だから、やろうと思えば一瞬でできるはずなのでサボります。




 ということで、今日は一人でじっくり趣味に使おう!


 据え置き操縦室は、引っ越した先で製作しないといけないから置いておくとして、移動式の操縦室を考えようか。


 戦闘指揮車両的な。


 なんなら、ロボット運搬用の機能も持たせるか?




 最近気がついたけど、人形生成で作れる範囲はやけに広い。


 人形と良いながら人体も構成できたんだから、割となんでもありなんじゃないだろうか。


 多分だけれど、神様たちからしたらその辺りの区別が全くついてないんだと思う。


 人間ですら自分たちからしたら人形みたいなもんだろって事なんじゃないかと脳内補完中、


 便利な分にはいいけどさ。




 ただ、ボロボロで傷だらけの美女を健康体に治せるのはやっぱ知られたら不味いな。


 我も我もと人が集まったり、変な組織にさらわれたりしそう。


 あの親子はやはり囲い込むに限る。


 俺の心の平穏と興奮のために。




 そういや、移動型の操縦室を作ったとして、それを操作するのは俺なんだろうか?


 ロボット操作してる間に、自分の体と、移動式の車両まで管理するのは、俺の脳の要領で足りるか……?


 いっそのこと、車両の方に魂付与を……いやーでも、人間体じゃない物に魂って付与してもいいもんだろうか?


 不便すぎて「誰が産んでくれと頼んだ!?」とか怒られそう……。


 今の所魂付与した子たちは皆よくしてくれてるけど、必ずしも俺に好意的とも限らんしなぁ。




 じゃあ、既にできてる人型人形の誰かに操縦してもらうか?


 でも、彼女たちはそれぞれで戦わせた方が強そうではある。


 見た目子供のディとフレイですら、フェンリルとスルトに乗り込めばそうそう負けはしないだろう。


 もっとも、俺はこの世界の魔獣とかの強さよくわかってないんだけども。


 イノシシとしか戦ってないもんなぁ。


 ゴーレムがポンポン出るって話だったのに、森の中で見てないって事は鉱山とかにいるんだろうか?


 ミスリル鉱山に行ったらミスリルゴーレムだらけだったりしたら嫌だな。




 そういや、結局ミスリルもオリハルコンも実物は見てないんだよな。


 イメージだけで作った乗り物でも問題なく意味が分からないくらいの超機動してるから大丈夫かもしれんが、やっぱり本物に勝る資料は無かろうさ。


 それを基に俺を守る操縦室の装甲を作ろう。


 移動する乗り物を操縦する方法はまた後だ。




 外に出て、雑草を何本か千切り1cmくらいのテンボを作る。


 こいつ小回り効くし、ホバリングもできるから割と便利だな。


 サイズも自由に変更できるし。


 確か、太古の昔には40センチくらいのトンボがいたんだっけ?


 多分俺はそいつにも勝てない。




 テンボを作ったのは、公爵邸の中に入れば、ミスリルとかオリハルコンなんかの高級な金属が使われたものがあるんじゃないかと思ったからだ。


 だって、俺は知らなかったけど鉱山持ってるんだよ?


 そりゃ何かしらあるはずだろ。


 ついでに、パパンとママンとブラザーシスターの確認だ。


 家族……マジでみてねぇんだよなぁ……。




 小屋の中に入り、ベッドに腰かけてからテンボを飛ばす。


 目も閉じ、テンボの操縦に神経を集中する。


 因みに、テンボの目は単眼式にしておいた。


 となりにサロメが座って、肩に頭を預けてきたようだけど、我慢ができなくなりそうなので肩を抱く程度でスルーしておく。




 公爵邸の周辺に到着したけれど、どこから入ればいいのか。


 窓が開いてればいいんだけどなぁ。


 そう思いながら飛び回っていると、屋敷の上に煙突が見える。


 もしかして、暖炉の煙突なら火さえついていなければ簡単に侵入できるのでは?




 煙突の上まで登っても、どうやら火を使っている様子はない。


 さっさと中に入ってしまおう。


 気分はサンタだ。


 仮に気がつかなかっただけで火がついてたとしても、テンボが燃えるだけだから実質リスクゼロ。


 これが遠隔操作の強みよのう!なんか興奮してきた!


 ダイブダイブダイブ!




 中に入ると、豪華な部屋に出た。


 ここは何なんだろう?


 ベッドの布団は金の刺しゅう入りだし、天蓋までついちゃってる。


 でも、人の気配はない。というか、しばらく誰かが入った雰囲気が無いというか、長期間締め切られてる感じがする。




 うーん……、見るべきものは見当たらないな……。


 あれ?でもこの部屋、なんか見覚えが……。


 あ、これダロス君の昔の部屋だ!


 へー、こんな部屋に住んでたこともあったのか。


 ここから今の小屋とか随分な落差だな。




 まあ、さっさと他へ移動しよう。


 よく鍵穴から外が覗けたりするけど、どうかね?




 おー、ちゃんと外が見えるな。


 それにこのサイズなら、テンボの羽を折りたためば通れそうだ。


 スパイミッション続行だ。




 部屋の外は廊下だ。


 全体が赤じゅうたんで、泥だらけの靴で歩き回ってやりたい衝動に駆られる。


 この体では大した被害も出せないけれど。




 適当に飛び回ってみたものの、やはり人の気配がない。


 仮にも公爵邸でこれはどういうことだ?


 この建物は2階建てだったが、少なくとも2階は誰もいなかった。


 全ての部屋に鍵穴を通って入ってみたけれど、ミスリルだのオリハルコンだので作られたものは見つからず。


 俺にはそれがミスリルかどうかなんてわからないんだけれど、使われるとしたら武装だろう。


 だから武器や鎧を探してるのに、それらが見当たらないんだ。


 それを普段下げているであろうハンガーはあるのに、本体が無い。




 公爵家総出で出陣でもしてるのか……?


 だとしたらこの人気のなさもわかるけど、この国が戦争してるって噂も聞かないんだけどなぁ。


 領地に帰ってるのか?




 仕方なく1階へ行ってみる。


 すると、初めて人の気配がする。


 場所はキッチンか?




 キッチンには扉が無いらしく、簡単に侵入できた。


 中には料理人が一人。ダロス君とサロメに残飯食わせてた奴だ。


 鍋にノロに感染した牡蠣でも投下してやろうか?




 他に人間はいないな?


 作ってる料理も精々が数人分。


 公爵邸ってくらいなら使用人は20人はいるとダロス君の記憶では出ているけれど、現状そんな感じはしない。


 どうしたものか。




 おや?この料理人が使ってる包丁、もしかして良い奴では?


 あんまり見たことが無い色だけど、これミスリルかオリハルコンじゃないかな?


 料理人が包丁を置いてコンロの方に行ってる間にこっそり触ってみる。


 ほうほう、こんな感じなのか。


 何となくの質感や構成を把握したぞ!


 これが何て金属かわからないけど、再現はできそうだ!




 公爵家がいったい今どうなってるのかよくわからないし、興味もあるけど、俺が手出ししても碌な事にならなそうな予感がするので、知らんぷりだ。


 俺は、料理人が目を離してる好きにテンボを鍋の上に移動させて、人形化を解除しておく。




 人形操作を終えて、目を開ける。


 暫く集中していたから、そこそこ時間が掛かったようだ。


 となりを見ると、やはりサロメがいた。


 俺に寄りかかりながら寝ているらしい。


 赤い宝石をちりばめられたイヤリングが主張している。


 こんな奇麗な娘が俺を好きだと言ってくれている事実がとてもうれしいけれど、この娘はもう少し幸せについて考えてもいいと思うんだよなぁ。


 将来的に、この娘がどんな未来を選ぶとしても、できるだけ応援してあげたいもんだ。




 寝かせておいてやりたいけれど、今から俺は動き始めるので、肩を軽くゆすって起こす。




「…………おはようございます。」


「おはよう。よく寝てたな。」


「昨日一昨日と、一緒に寝れなかったので……。」




 俺依存症かな?


 俺も依存させようとしてない?




「そういえば、ちょっと聞きたいことあったんだけどさ、今公爵邸の中偵察してきたんだけど、使用人が数人しかいないんだよね。2階なんて誰もいなかった。これって普通の状態?」


「……いえ。そんな事態は経験がありませんね。領地に引き上げる時でも、ご家族のどなたかは王都の本邸に残っておられるはずですが……。あ、ダロス様を抜いた誰かということです。ダロス様はずっとここで私と一緒でした。」




 ふーん、じゃあ何が起きてるんだろうな。


 何だとしても、巻き込まれたくないなぁ。




「もう一つ聞きたいんだけど、これってミスリルかオリハルコンだったりする?」




 俺は右手にさっき見てきた包丁を再現する。


 この小屋にある壊れかけの包丁とは大違いだ。


 そこまで大きくないのに鮭でも捌けそう。




「ミスリルだと思います。確か、以前食堂に食料を取りに行った時に自慢されたような……。」


「へぇ、これがなぁ……。」




 この世界初めてのファンタジー金属製品は包丁でした。


 見たこと無い色だから、俺が想像で作ったファンタジー金属とは違うんだろうか。


 フェンリルとスルトは、アレ何でできてることになるんだろう?


 ぼくの想像する最強の金属という不思議物質か?


 それとも、見た目が違うだけで本当にミスリルとオリハルコンになってるのか?


 まあ、ディとフレイがおもいっきり使っても壊れないならそれでいいけども。


 一休みしたら、このミスリルを基にしていろいろ作ってみるか。










「サロメのせいで、このまま動きたくないんだけど?」


「違います。ダロス様のせいです。」






 結論、引っ越し準備は絶対に途中でストップする。








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