第23話

 屋敷を買いました。




 即金で払うとブローカーの方がびっくりしてました。


 ありがとうエーギルさん。リリアーヌさんとお幸せにね。




 やっぱ素直に祝福出来ねーわ。






 エーギルさんによると、もう今日から入ってもいいらしい。


 ただ少し哀れな顔で見られたが。


 そりゃあな、こんなかわいい婚約者と、俺は婚約者だと思ってるけど立場上愛人予定の女の子と破局なんてなったら死にたくなるもんな。


 気を付けるよ。


 頭ダロスするのはもうこりごりなんだ。




「じゃあ早速だけど、頼めるかガラテア?」


「……うん!今度こそは頑張るから……!」


「頑張れ!期待してる!」




 …………今度こそ?




 まあよくわからないけど、俺にできるのは応援だけだ。


 スピリチュアルパワァなんて俺には無いし。


 墓場で怖いのは供え物を狙ってるカラスだし、お化け屋敷で怖いのは暗くてわかりずらい床の汚れ。


 滑って転んで痛かった。しかも一人で入ってたから寂しさもひとしお。




 いやまて。俺スピリチュアルパワーあるじゃん。


 ガラテアも俺のスピリチュアルパワーの申し子じゃん。


 なんだ!幽霊って怖くないじゃん!




「……ここに原因がいるよ!」




 ガラテアが向かった先は、特に変哲もない部屋だった。


 中に入ると、赤ちゃん用と思われるベットが見える。




 いや、それだけじゃない。


 部屋の隅に、半透明の女性がいる。


 シクシク泣いてるようだ。


 顔は見えないけどおっぱいが大きい。


 それもすごく。




「なぁ、アレどうすんの?」


「……主様が適当に人形を作って、そこに魂付与で定着させてボコるか、私が魂ごと消し飛ばすか。どっちでもいいよ。」


「平和的に行こう。」




 ガラテアさんの考える手段は、スピリチュアルというよりマッスルな感じだった。


 よし!ちょっとお姉さんの話を聞いてみようか!




「あのぉ……、どうかしましたか……?」




 可能な限り下手に出て話しかける。


 もうちょっと俺にチャラ男スキルがあればよかったんだが、俺がちゃんと話しかけられるのはせいぜいが自分で作りだした女の子か、虐げられている女の子か、過去に虐げられていた女の子位だ。


 碌でもないな俺!




「…………アナタは……?」




 幽霊?っぽいお姉さんがこちらをみて声を出す。




「俺は、この家を買ったダロスっていうんだけどさ、家の中を確認してたらお姉さんが泣いてたから、どうしたのかなって。」


「私が見えるの?」


「見えてる。ゼリーみたいに半透明だけど。」


「そっか……。私、自分の頭がおかしくなったのかと思ってた……。でも、そうじゃないなら本当に死んじゃったんだ……。」




 どよーんとしてる。


 最初からだけど。




「名前聞いてもいい?」


「……エリン。エリン・ヘイヤル。このお家でベビーシッターをする予定でした。」


「へー。それが何でそんな涼し気なイメチェンしてこんな場所に?」


「……私、胸が大きいんです。」




 知ってるよ。見ればわかる。




「それで、男性にジロジロみられちゃってるのはわかってたんですけど、小さくすることもできないので……。」


「そうだね。俺も小さくされたくないもん。」


「……。」


「……。」




「それで、その……私、昔から子供が好きで、ベビーシッターになるのが憧れだったんですけれど、私が面接に行くと必ずその子供のご両親がいるんです。そして、父親の方が私の胸に目をやってるのを母親の方が気がついてしまって、大げんかの後に離婚という事になってしまうんです……。」


「壮絶だな。」




 そんな修羅場体験したくない。




「それでも夢が諦められなくて、なんとか合格を頂けたのがこの家だったんですけれど、そのご夫婦も引っ越し前に離婚となったとかで、逆上した奥様にナイフで刺された所までは覚えているんですけれど、その後気がついたらここに……。」


「そうだった、これNTRとかそんな話じゃなくてホラーだったな。」




 てか、この騒動の最初の魔物に殺された奴は、一連の事件とは無関係かよ!?


 ホラーはホラーでも、あんまりスプラッタじゃなかったわ!




 これこのまま話聞いててもらちあかんか?


 ガラテアと作戦会議するか。




「ガラテア、このお姉さんが一連の不幸な出来事の原因で間違いないのか?」


「……うん。この人は、男の性欲を狂わせる能力を持ってる。しかもそれがコントロールできてない。霊体になっても維持されている時点で相当強力なジョブレベルなんだと思う。勃起させた相手は1万や2万じゃ効かないんじゃないかな。内見でここ来た人は、抵抗力が低いとそのままの脚で風俗店に行きかねない程強力。それが原因で離婚問題に発展してるっぽい。」


「そんなにか。でも俺とエーギルさんは問題ないみたいだったぞ?」


「……だって、この能力は童貞には効かない。子供には無効だから。エーデル?って人は、巨乳に耐性あるから。」




 …………くそ!




「話は分かった。ところでさ、幽霊ってこんなにも長時間こんな場所にとどまり続けてられるもんなの?少なくとも俺は幽霊見たの初めてなんだけど。」


「……だってこの人死んでないから。生霊。エネルギーが体からこっちに流れ込んできてる。」


「は?」


「……でも、この人の本体のとこまでこの生霊を連れて行かないと、覚醒させてあげられない。それだと、今日中にこの家に住めない。ボコって消すか、私が消し飛ばす方が早い。」


「いやいやいや、別に引っ越しは急がないから、多少時間かけてもこの人生き返せるならそれでいいぞ?」


「……そう?じゃあ、引っ張ってこの人の体まで連れて行けば解決だよ?そのまま魂戻すと淫魔みたいな状態のままだから、主様が一時的に人形化して弄る必要があるけど。」




 弄っていいんですか!?








 ゴホン!


 事も無げに言うけど、これ本人に言ったらどんな反応するんだろう。


 キミがここで諦めてシクシク泣いてなければ普通に起きられたんだぞってか?


 ベットで目覚めてからもシクシク泣くね俺なら。




「あのさ、キミ死んでないっぽいよ?」


「……え!?私生きてるんですか!?」


「うん。今も体からエネルギーが来てるからここで存在してられるんだってさ。そうじゃないとすぐ消えさるんだって。だから、キミの体がある所までキミを連れていければ解決しそう。」


「本当……ですか……?あの!お願いします!」


「わかった。ただ、キミを体に戻す前に、俺がちょちょっと弄ってキミのジョブか能力かわからないけど、それを抑えるように作り直したいんだけど、どう?」


「それって、私が周りの人たちを不幸にする力を消せるって事ですか?」


「消せるというか、コントロールできる?って事みたい。」


「お願いします!私、こんな状態になってもやっぱり夢をあきらめたくないんです!」


「そっか!じゃあ行こう。俺の手に掴まって。」




 ガラテアによると、ここに執着していたせいで、自力ではここを離れられないらしい。


 だから引っ張っていく必要があるわけだ。


 別に可愛いからとかそういうことではない。




「……あの、ダロス様?」


「誤解だ。これは100%善意の行いだ。」


「えーと、何をしているのか私にはよくわからないのですが……?」




 イレーヌには見えていないようだ。サロメもコクンっと首を傾げている。可愛い。




 あまりにもはっきり見えてるから忘れてたけど、これ心霊関係のやつだった。


 魂付与が使える俺だから見えてるのかもしれない。


 付与された側のガラテアもそんな感じで見えてるのかな?




 ガラテアに道を教えてもらい、4号にのってゆっくり歩く。


 案外エリンの執着による抵抗が強く、スピードを出すと吹っ飛んでいきそうだからだ。




 暫く行くと、1軒の家についた。


 あまり大きくはない、それでいて管理の行き届いた印象がする白壁の家の中にエリンの体はあるらしい。


 玄関をノックすると、中から年配の女性が出てくる。




「すみません。ここにエリン・ヘイヤルさんはいらっしゃいますか?」




 営業スマイルをブチかます。


 最初の印象が大事だ。


 アンタの娘起きねぇんだろ?俺が見てやるよ!なんて言ったら絶対に中に入れてくれない。




「あの……、失礼ですがどちら様でしょうか?」


「申し遅れました。私、ダロス・ピュグマリオンと申します。実は、新しく買った家にエリンさんのものと思われる忘れ物がございまして、本人に確認を取らせて頂ければと。」


「まあ、そうですか……。ですがすみません、娘は数か月前に貴族の女性に刺されまして、それ以来意識が戻っておりません……。致命的な傷は癒えたとお医者様には言われたのですが……。いい娘なのに……どうしてこんなことに……。」




 うん、キツイね。


 こういう遺族に突撃するテレビ番組とかあるけど、あれ遺族を労わるフリして見世物にして金稼いでるだけに見えるから嫌い。




 てか、エリン(霊体)がすごい泣いて謝ってるから早い所何とかしたい。


 お母さんにはこの泣き声聞こえてないんだよなぁ……。


 流石に不憫だ……。




「実は私、少々医学の知識がございまして。良ければ一度診せてもらってもよろしいでしょうか?」




 女神様用の人体作れるレベルの知識だぞ。




「そうなのですか!?ぜひよろしくお願いします!もうお医者様に見せて上げられるお金も底をつき、どうした物かと思っていたのです!さぁこちらへ!」




 変な宗教の詐欺に引っ掛かりそうなくらい追い詰められてるな。


 さっさと解決してやろう。


 そしてこの泣き声を止めよう。






 通された部屋には、確かに女性が寝ていた。


 しかし、霊体の彼女からうかがえる美貌も、大きな乳房も無かった。


 見えるのは、ズタズタに引き裂かれ、縫い合わされた跡の残る顔。


 服の下の胸も、恐らく同じ状態だろう。




 後ろからついてきた女性陣の息をのむ音が聞こえる。




 そういえば、本人のせいではないにしろ、痴情の縺れでやられたんだったな。


 よっぽど恨まれたんだろうか。可哀想に。




「…………ダロスさん。私、思い出しました。」


「うん?どうした?」


「幽霊になってあの子供部屋に行く前に、私は私の体が見えたんです。天井の辺りに浮いてたと思います。それで、この状態の私を見ちゃって、戻りたくなくなっちゃったんです。」


「まあ、無理も無いな。」


「そんなことも忘れて、私はあそこでメソメソ泣いていたんですね……。」




 女の子がこんな状態にされたら、そりゃそうだろうさ。


 男がチンチン切られるよりもダメージ大きいんじゃないか?


 ここ数日、首切られるのが大したことのない状態に思えてきたよ。




「ありがとうございました。私はここまでで結構です。もうこの体で生きていく自信はありませんし、母にこれ以上迷惑はかけられません。最後にお願いがあります。こっそり私に止めを刺してくれませんか?どうせ生き返らないのであれば、今すぐ死んだ方がきっといいと思うんです。夢をあきらめるのは残念ですけど、それは母を犠牲にしてまで続けたいものでもないので。親孝行ができなくて残念ですが、どうかよろ」


「ごめん、話聞いてなかった。ちょっと集中してたんだ。体治したから戻っていいよ。ちゃんとジョブも扱えるようになってると思う。」


「はい?」




 メソメソうるせーんだよ!


 こっちはおっぱいと美貌を始めとした体の全てのダメージを完璧に治すのに全力だったんだ!


 文句は起きてからにしろ!


 女神様クラスの健康体にしてやったぞ!




 案外暴走状態のスキルを抑制するのは簡単だった。


 人形生成で人形化しちゃえば、後はイメージと神粘土でやりたい放題だったしな。


 流石に新しくスキルを増やしたりは無理だったけど、出力を弱める程度なら楽勝よ。




 てかな、この娘のジョブが慈母で、スキル名がママだったんだけど!


 これで性欲を抑えられなくなるってどういうことなんだ!?


 よくわからないから、スキル名をママーに変更しておいた。


 料理が得意になると思う。




 何故かエリンが動かなくなったので、仕方なく体に押し込む。


「えチョ!?」なんて言っていたが続きは後から聞こう。




 今は少しでも早く本人に目を覚ましてもらって、後ろで化け物を見るような目で俺を見てる母親と、何してるんだコイツって目で見てる婚約者たちを何とかしてほしい。


 確かに目の前で肉体が再生と再構成されるのは割とアレだったかもしれんが勘弁な。


 お母さんには口止めが必要かもな……。


 ガラテアは何もしてくれない。




「……んっ。んん……?」




 眠り続けていた彼女が目を覚ます。


 うん、やっぱり奇麗だな。




「……え?エリン……?目を覚ましたの!?それに……顔が……!」


「……うん……!うん!おかあさん!おかああさん……!」




 煩いので部屋から出る。


 落ち着いたら勝手に出てくるだろう。


 俺はああいう空気に弱いんだ。


 どう反応していいかわからなくなる。


 美少女たちが「ふーん、そういうことですか。」って顔してるのにもどう対応していいかわからない。


 ガラテアだけは、何を思ったのか頭を撫でてくれている。


 好き。






「つまり、あの子供部屋にいた女性の生霊が原因で一連の騒動が起きていたようなので、その方を助けて解決したということですね?」


「そういうことです。」


「ダロス様はやはり素敵な方ですね。」


「そうでしょう?」




「「美人でおっぱい大きかったですね?」」






 はい。


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