第22話

 フレイとディと別れ、1人寂しく家へと帰るダロスですこんにちは。




 いえ、1人じゃないですね。


 2人です。


 3号いますからね。


 魂ないけど。




 まさか、5mのロボットなら動かせるけど、自分の体が原因で乗れないとは思わなかったぞなもし。


 これ以上小さくしたら、もうそれはパワードスーツなんじゃないのかなぁ……。


 先進国の軍隊ならもう持ってそう……。




 自分で乗り込んで動かすのをあきらめたほうがいいかもしれないなぁもう……。


 いや、普通に考えたらそりゃ諦めた方が良いのだろうけども!


 だってしょうがないじゃないか!夢なんだもん!




 というわけで、帰るまでの道すがら改善方法が無いか考える。


 途中、3号に木を削らせてイスを作り自分がそれに座って、3号に持たせるという可哀想な事もしてしまう。


 100cmとはいえ、これだけでも悪くはない気分だ。


 歩かせると、ちゃんと臨場感のある動きをする。




 でも!これじゃない!これじゃないんだよ!


 ただなぁ、コクピットに乗り込んで気分よく動かせたところで、ミンチにはなりたくないし……。


 戦車砲みたいなサイズの弾丸を超速連射して敵なんていなくても、自機の動きだけでハンバーグの材料になっちまえるんだ俺は。




 ここは、考え方を変えよう。


 乗るのは一回諦めて、乗ってるように錯覚できるくらいリアルな遠隔式コクピットを作るというのはどうだろう?


 ゲームセンターで500円くらい入れないと遊べないクソ贅沢なゲームみたいな感じだ。


 それを、ロボットに追従する乗り物に設置してしまうとか。


 いやいっそのこと、ここでずっと実験せず放置している遠隔操作を使うか?


 どのくらいの距離までいけるんだろうか……?




 今更気になった俺は、とりあえず3号を動かして自分から離れさせてみる。




 うん、1km位離れても何の支障もなく動けてるな。


 感覚的には、まだまだ離れても大丈夫な気がする。


 なんだこれヤバイ。


 よく考えたら、魂付与と一緒のタイミングで解放されたスキルなんだよな?


 ……下手したら、距離制限なし……とか……?




 3号を自分の傍に戻してから、近くの草を取って人形生成を使う。


 すると、いい加減な造りのトンボ型人形ができた。


 こいつは10号だから……テンボにしよう。




 テンボを森の上まで舞い上がらせる。


 小さいために風の影響をもろに受けてしまうけれど、人形強化による成果か問題なく飛べそうだ。




 公爵邸本邸の方に向けて飛ばす。


 2km、3kmと自分のいい加減な距離感で計ってみても、どこまでも行けてしまう。


 とうとう公爵邸についてしまったが、やはり操作に若干の乱れもない。


 タイムラグすら感じないんだから、無線のゲームコントローラーとか光回線のネット環境よりよっぽど上だ。


 実験がある程度完了したため、人形化を解除し元の草に戻してゴミにする。


 ダロス君を虐めた奴らに少しだけ嫌がらせをしてやるのだ。




 芝生だらけだから意味ない事に後から気がついたけど。




 ジョブレベルごとの各スキルの上昇値なんてあんまり調べてなかったけれど、操作可能距離はどんな感じだったんだろうか。


 少なくとも、多少ジョブレベルが上がったところで、数km先まで行って自由に動かせたとは思えない。


 これなら、住んでる小屋に操作室作っても、王都中で人形動かせるんじゃないか?




 デカいロボットに乗るというのはちょっと難しいけれど、他の事でワクワクしてきたな!


 ロボット自体作れることはわかってるしな!


 まあ、そのロボットですることは特にないんだけど。


 アニメみたいに戦争でも始まれば、貴族は出陣させられるんだろうけれど、俺って公爵からしたらハズレジョブの4男坊なんだよなぁ。


 そんな奴に、公爵家の大事な兵隊を預けて出撃なんてさせないだろうなぁ……。


 そもそも出陣したくねーし。


 リアルで戦いたくねーよ!ゲームの中だけでいいの!




 あ!大きいロボでやりたい事できたわ!


 ダロス君のダディが今更俺に戦場に向かえって言ってきたときにデカい鋼の拳でぶん殴れるようにしておこう!


 生活費だってくれねーんだから俺は貴族の義務なんて負わんでいいだろ!






 開き直って、遠隔操作ロボ計画の内容を詰めていく。


 拠点になんちゃってコクピットを作るとして、やはり移動式のコクピットも欲しいよな。


 ロボットの方に操作中は、ロボットの方にどうしても集中せざるを得ないだろうから、守りが薄くなってしまうだろうし、装甲を厚くするか、護衛をつけないといけないか?


 まあ、現時点で守りが厚いとも思えないんだけど……。


 素人の俺が頑張ったところでヤル気満々の相手に何ができるのか……。




 そう考えると今この状況あぶねーな?


 よそ見して考え事してる時にヒグマとか出てきたら3号で何かする前に俺死ぬぞ?


 今までよく平気な顔して何がいるのかもわからん森の中歩いてたな俺。




 よし走って帰るぞ3号!






 小屋まで戻ると、今日も今日とてイレーヌちゃんが来ていた。


 デカい缶をもった使用人さん2人も一緒である。


 またウインクしながら親指を立てている。


 やっちまえってやつか?




「おはよう。クリーム毎日悪いね。」


「いえいえ。これを送らないと不安なので構いません。」




 大丈夫?変な心の病抱えてない?




「ところで、私の娘は一緒では無いのですか?」


「娘?…………あぁ、フレイ達なら森に入って遊んでるよ。」


「え!?大丈夫なんですか!?まだ小さいのに早すぎませんか!?」


「いや確かに小さいけどさ……。」




 見た目は子供だし、年齢は1日とか2日だけど、大丈夫でしょうよ。


 俺より強いよ多分。ヒグマとでもきっとステゴロできるもん。


 ヒグマは怖いよー?




 心配する母親をなだめすかし、小屋の中に入る。


 今日は珍しく、そこそこ早くからサロメが起きているようだ。




「……あ、おはようございますダロス様。ディたちを見ませんでしたか?」


「一緒に森まで行ってきたけど、まだ遊び足りないみたいだから別行動してるよ。」


「そうですか。わかりました。」




 こっちの自称母は、一晩経って大分落ち着いたようだな。


 まだ多少眠そうだけど、それはそれで可愛くて奇麗だ。


 このままスマホの待ち受けにしたい。




「残念ですね。今日は、ディと一緒にお料理の勉強をしてあげたかったのですが……。」




 いや落ち着いてないかもしれない。






 朝食がまだだったので、ザザザっと作って食べてしまおう。


 出がけに用意したのはフレイとディにあげちゃったし。




 昨日ナナセが買ってきてくれたパンに、一昨日ナナセが買ってきてくれたと思われるチーズを少し炙って乗せる。


 ついでに、ナナセが取ってきた肉で作った燻製も載せてやろう。


 これを4つ作る。


 イレーヌは、流石に朝食食べたんじゃないかとは思うけど、流石に出さない訳にもいかんしな。


 ガラテアは、まだ寝てるけど起きたら食べるだろ多分。




 ナナセにはなんか凄い物買ってきてやろう。


 アイツはちょっとうちに貢献しすぎだ。




 テーブルに座っていた2人に料理……と呼んでいいのかわからない手抜きの食べ物をだす。


 貴族のお嬢様に出していいものかと今更ながら思ったけど特に問題なく食べている。


 むしろ、大分喜んでるようにすら見える。




「こういう風に手づかみで食べるのって、少し憧れてました!」


「わかります。私も昔はそうでした。今となっては普通ですけど。」




 奇麗な女の子が俺の作ったものを喜んで食べてくれるだけで、この世界は素晴らしいと思えてしまうな。




 食べ終わってから、今日の予定を考える。


 遠隔操作ロボットを作ろうかとも考えていたけれど、折角イレーヌちゃんが来てるなら、ちょっと王都の不動産事情を調べに行ってみようか。


 ついでに買い物もしてこよう。


 ここ数日、俺はナナセに養われてた。


 でもできれば俺は養いたいんだ。




「今日だけどさ、一回町の方に行ってみないか?引っ越し先を探す前に、そもそもどう探したらいいのかもわからんし、下調べに行きたいと思ってたんだよね。ついでに買い物もしたい。」


「いいですね!つまりデートですね!?」


「……デート……!?俺はデートのお誘いをしたのか!?」




 前回サロメと町に初めて繰り出したのも2人きりだったけど、あれはデートだったのだろうか?


 わからないけど、言われてみれば確かに今のはデートのお誘いだ。


 俺は人生で初めて女の子にデートのお誘いをしているぞ!見てるか母さん!


 みてねーな。あの人多分まだ普通に生きてるわ。


 俺がエロフィギュアとプラモまみれになって死んだ記憶を消してーなって思いながら生きてるわ。




「サロメもそれでいいか?」


「私もご一緒してよろしいのですか?」


「俺の新居は確実にお前にとっても新居なんだから当然だろ。」


「……確実、なんですね……。あの……はい……。」




 改めて言わないでくれ。


 恥ずかしい。




 出かける直前でガラテアが起きたので、折角だからと拉致して4号に乗せる。


 何が何だかわかっていない様子だったので、とりあえず口に先ほどのパンをねじ込んでおく。


 なんか嬉しそうだ。




 とりあえず最初は冒険者ギルドへ行こう。


 冒険者なんて後ろ盾無いのも多いだろうし、そういう奴ら向けで不動産の斡旋くらいはしてるかもって気がするのと、金貨を1000枚ほど降ろしておきたい。


 まあ、まだ300枚以上持っているからなくてもいいんだけども、不動産屋……というのがこの世界にあるのかは知らないけれど、家を見に行くならある程度は持っておきたい。


 別にすぐ引っ越したり、家を買うとは限らないけれど、そもそもいくらくらい金を用意すればいいのかすらわからないから、情報収集がしたいんだよね。


 じゃないと不安だろ!公爵家のパパンとママンが教えてくれたり援助してくれたら嬉しいんだけどな!


 この世界の肉親見たこともねーよ!




 冒険者ギルドの前につく。


 思えばここにくるのまだ2回目だ。


 一度も冒険してないのに割と死にかけてるのは何なんだろうか。


 冒険者って大変な職業なんだな。




「そうだった。俺は冒険者だったんだよな。」


「私も冒険者です。」


「……私、仲間外れですね?」




 伯爵令嬢がなる職業じゃないと思いますよ。


 それでもなりたいなら髪型を縦ロールにしてですわ口調にしてゴブリンの巣に挑んでください。




 ついつい美人が座ってるカウンターを選んで向かってしまう。


 具体的に言うと、登録したときも対応してくれたリリアーヌちゃんの席だ。


 サロメが俺の尻を抓っているが気にしないでおく。


 イレーヌが歩きながらヒールで俺の脚を踏み抜いてもいるが気にしないでおく。


 ガラテアどうした?


 なんで俺の後ろで裾だけ掴んでついてきてるんだ?


 俺に蹴りとか入れなくて大丈夫か?




「お久しぶりですダロス様!本日はどのようなご用件でしょうか?」




 明るいハキハキとした挨拶と共に胸が揺れる。


 あっかわいい。結婚しよ。


 ……痛っっっっった!?これ俺の尻ネジキレてない!?足も穴開いてない!?




「お金をおろしたかったのと、不動産の斡旋してないかなって思いまして。」


「不動産?お引越しするんですか?」


「そうしたいなーと思ったんですけど、王都で家を買うのってどうしたらいいかわからなかった物ですから。冒険者ギルドならそういうの斡旋しているんじゃないかと。」


「あー成程。ですが申し訳ありません、うちではそう言うのやってないんですよー。」


「そうですか。因みになんですが、普通はどういった所にいって家を探すんですか?」


「そうですねー……。知り合いに頼んだりとか、その地域の顔役に頼んだりとか……。あーでも、貴族街の場合は、ブローカーの方がいらっしゃると思います。」


「ブローカー?業者が仲介してくれるという事ですか?」


「はい!貴族の方々ってこう言っちゃなんですけど浮き沈みが激しいので、よく引っ越しが起きるそうなんですよ。分家を作ったりすることもあるでしょうしね。そこで、ブローカーが間にはいる事で、多少お金を余分にとられても効率よく円滑に取引できる方がいいってことらしいですよ?」


「へー!詳しいですね!」


「はい!実は夫がそのブローカーなので!」


「そうなんですか!それは話が早い……夫?」


「はい!私の夫です!」




 いや、別にね?


 恋人になりたいとか、結婚したいとか、本気で考えてたわけじゃないよ?


 ただふわっと妄想してただけでさ?




 遠くで独り者っぽい男性冒険者たちが哀れな物を見る目をしている。


 すまんな。


 いつかお前らと美味しい酒が飲めそうな気がするよ。




 違うなこれ。


 憎しみの視線だわ。


 よく考えたら女の子連れだったわ。


 その女の子たちからは嘲りの視線が刺さる。




 金貨1000枚を下ろした後、リリアーヌ夫人の旦那さんに話を通してもらうと、びっくりするほどすぐにやってきた。


 そういえば俺は公爵家の人間。美味しい商売相手にみえるんだろう。


 金貨1000枚ちょっとしか持ってないけど。




「リリアーヌの夫のエーギルと申します!!!この度は新居をお探しという話を!!!!」


「うん、普通の話し方にして。声抑えてくれるとありがたい。」




 あと俺はお前を逆恨みする。


 理由は取るに足らない醜い嫉妬。


 慈悲は無い。




「あ、そうですか?いやー、公爵家の方を相手にどう対処していいかわからなかったんですよねー。」


「随分砕けたな。あんまり上の方の貴族と取引ってしないのか?」


「そりゃそうですよ。上級貴族の方々が引っ越される時って、相当ヤバイ時ですもん。我々みたいなブローカーの客となると男爵辺りが多いですかねー。」




 そんなもんか。


 世知辛い世の中だな。


 あと、サロメの前ではあんまり話さないほうがいい話題かも。




「実は、予算とかも全く決まってなくて、そもそもどういう風に物件を探せばいいのかすらわかってなかったんだ。」


「成程!では、これから適当におすすめの物件を案内しますので、その中からもし気に入ったものがあれば……ということでどうです?」


「じゃあそれで。強いて条件を付けるなら、夫婦の部屋は大き目のベッドが置ける広さで、それ以外にベッドを置く部屋が4つは必要で、子供部屋が……6でいい?」


「8は必要なんじゃないですか?」


「……10くらいでお願いします……。」


「うん冗談だったんだぞ。もう許さんからな。12くらいで。」


「あーなるほど!頑張ってくださいね!」




 エーギルさんに親指を立てて応援されてしまった。


 流行ってんのかそれ。






 エーギルさんに案内されていくつかの物件を回った。


 最初のうちは、そこそこ新しく奇麗な物件が多かったけれど、6つ目を超えた辺りでどんどんとホラー要素が増えて行った。


 なんでも、幽霊が出るから売れないとか、魔術師が管理していた地雷のような魔道具がどこかに埋まっているかもしれないとか、理由も千差万別だ。


 しかし、最後に案内された物件は、とても大きく、見た目も新しく見える。




「これ、何か問題があるんですか?」


「それがですね……、この物件なんですけど、住もうとすると必ず不幸な事が訪れるんですよ。」


「不幸な事?誰か死ぬって事ですか?」


「そうとは限らないのですが……。最初にこの家を建てられた方がここに引っ越す直前に魔獣に殺されてしまって、その後はここに引っ越そうという方が出る度に婚約が破談になったり、離婚してしまうとかで。そのせいで結局この家は新築のまま未だに売られているんです。」




 縁起の悪い家だな。


 それさえ無視すればいい物件なんだろうけど、もし霊の仕業とかだったら俺には何もできんぞ?


 この世界ファンタジーだからなぁ……。




「……主様……主様!」




 今日ずっと後ろを黙ってついてくるだけだったガラテアが、いきなり裾を引っ張りながら囁いてきた。




「なになに?どうした?」


「……もしこの家に決めてくれたら、原因取り除けるよ。」


「え?マジで?」


「……マジマジ、だけど相手は多分諦めモードだから、交渉してお安くさせちゃおうよ。」




 こいつめ。


 山吹色のお菓子の使い方でも心得てそうな提案をしやがって。


 行ける所まで行くぞ!


 とりあえずサロメとイレーヌも交えてひそひそと作戦を考える。




「この家の問題の原因は、ガラテアが排除できるらしい。それで、値段交渉に入ってしまいたいんだけど、もしここに決めてしまっても問題ない?」


「……排除自体はすぐ終わるから、なんなら今日からでも住める。」


「私は大丈夫ですよ。私の家からも近いですし。赤ちゃんもいっぱい産めますから。」


「私も……その……頑張ります……。」




 産む決意がすごいな。


 俺そこまでの覚悟中々できないんだが……。


 よし、阿漕な交渉始めるか!




「この物件の値段はおいくらなんですか?」


「実は、まだ誰も住んでいないのに代わる代わる売られているので、初期費用は回収できているんですよ。なので値段は金貨100枚ですね。管理するだけでもお金かかるので、正直さっさと売ってしまいたいんです。もし縁起が悪いのを我慢できるなら大変お買い得ですよ?築1年ちょっとで部屋数も多いですし、お風呂もあります。庭も大きく……」


「買いまーす!」






 新居が決まった。






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