第21話
主様と別れてディと一緒に森の中を『散歩』する私。
一緒に帰らない事を伝えると、一緒に食べようと思って持ってきてくれたらしいジャムサンドを全て渡してくれる主様。
2つは、まあ私とディの分だろう。
3つということは、それはもちろん主様の分だ。
それを半分に分けて、
「これは今食べる分な?1個丸々のほうはお腹減ったら食べろ。暗くなる前に帰ってこいよー。」
なんて言って帰っていく。
主様は、特に深く考えもせずこんなものを用意したのでしょうけれど、眷属たる私たちからすれば、食事を手作りしてくれること自体が一生忘れる事ができない宝物のような出来事なんですが?
キャラづくりとはいえ、普段は天真爛漫な感じで通してるディですら、顔を赤くしながらじっくりぱくついてるのだから、どれほど嬉しいかわかるという物。
まあ、キャラ付けと色以外同一存在である私も同じ状態なのでしょうが。
眷属だからと言って、必ずしも主を好くと決まっているわけでもないらしい。
中には、自我すら認めず自分に従うように設定する方もいるらしいけれど、うちの主様はかなり自由にさせてくれます。
だから、きっと油断しているのでしょう。
アフロディーテ様に、自分の憑依用の体を管理するガラテア様には自分以外との性交を禁止させておくように言われたらしく、その後は何も考えず皆にその設定をつけているらしいけれど、とても危険な事に気がついていないのでしょうか?
私たちがその気になれば、いくらでも主様の童貞を散らさせ、子を孕めるという事を。
恐らくアフロディーテ様は、そういう事態が起きる可能性も考えてこんな規制を設けたのでしょう。
何故なら面白いから。
更に言えば、御自分が降臨された時にでも性交を経験してみたいのかもしれない。
あの方は、愛と美貌なんかを司っているらしいけれど、天界に恋愛という物はない。
人間たちの神話には、神々が交わって新たな神が生まれたり、人間と交わって英雄を産み落としたりという描写があるみたいだけれど、あの方々の大半には、性欲というものが存在しません。
そもそも、人間に直接相対する手段という物が存在しないのです。
精々、夢の中で語りかけるのが関の山。
この世界に、依り代を通してとはいえ現界を果たしたのは、ここ1000年でアフロディーテ様のみです。
それほど神々がこの世界へ直接影響を及ぼすのは難しいのですが、その状況を壊してしまったのが我が主様です。
その凄さを当の本人が理解していないのが幸せなのか不幸せなのか判断に悩むところ。
因みに、私たちがそれを主様に伝える事は無いでしょう。
主様には、是非好きなように生きて頂きたいのです。
あの方は、決して祀り上げられたいとは思っていないでしょう。
それに、私たちとしてもあの方には、おっぱいを見たら顔を赤らめて目を泳がせてしまう人のままでいてほしいという欲求があります。
何故なら面白いから。
それでも、ついついあの方の体液を求めてむしゃぶりつきたくなることもありますが、ナナセやガラテアが我慢しているため、我々だけ行うこともできずにいます。
体液があれば、一々食事をとる必要もなく、場合によっては何年も無補給で生きられると本能で理解している私たち。
だからこそ、我々にとって主様の体液はとても魅力的なのですが、主様はその事に理解が及んでいないようで。
汗<涙<魔石<唾液<血液<精液くらいの順番で栄養効率がいいので、可能であれば性交がしたいのですけれど……。
いえ仮に栄養が無くてもしてくれるのであればして頂きたいのですが流石に初めては2人きりでお願いしたいというか今の小屋ではちょっとアレなのでもし引っ越すのであればそれからということになりますかね外でというのも考えましたが流石に初めての時はベットで明かりを消してお願いしたいのです。
因みに、一番効率が良いのは体液ではなく主様の肉です。
少し食べるだけで、変に力を無駄遣いしなければ数十年生きられます。
ただそれを教えると、
「そんなに効率良いなら食う?まあ俺は痛いかもだけど、数日あれば治るでしょ。」
なんて言い出しそうなので、これも内緒ですが。
まあ、主様に触れているだけで魔力を変換して自分のエネルギーにできますから、毎日一緒に寝てくれるだけでも構わないといえば構わないのですが。
ガラテアは、それ目的で毎日夜中に主様のベットに忍び込んでいるようです。
主様は気がついていないようですが、昨夜も部屋までは来ていました。
私たちがいる事に気がついて、「ひうっ!?」なんて叫んで帰っていきましたが。
あの人って主様以外には、基本人見知りなんですよね。
まさか、妹みたいな存在である私たち相手ですらそんな感じだとは思いませんでしたが。
それでも、妹というものは好きらしく、いろいろ世話を焼いてくれています。
私たちが人形として形どってから、ガラテアは一度も守護結界を解除していません。
それが先日の事件が原因だとは知りませんでしたが、守護結界の維持という物はとても大変です。
魔力を常に消費し、頭の中の処理能力も割き続けねばなりません。
それを続けていられるだけでも相当な規格外の存在なのですが、まあ女神様の依り代ですしね。
私たちも、同じように作られているらしいので、いつかはその域に達したいです。
おっぱいとお尻も。
主様が、私たちのおっぱいを見ても顔を赤くしてくれないので。
そのガラテアですが、最近は魔石をよく食べているようです。
自分で集めにっているわけでもないのに、大量の魔力を補えるだけの魔石を集めているのは、ガラテアを作る実験台として作られたナナセ。
実験台と言っても、主様が本気で製作した人形であるので、もちろん性能は世界最高クラスです。
戦闘力も高く、毎日森の中で人知れず魔獣を倒しまわっているんだとか。
昨日、私たちにもそこそこの大きさの魔石を渡してきましたし。
「なんかこの辺り群れがいっぱいてくれるから魔石集めるの楽なんスよねー」
なんて軽く言っていましたが、それは群れを相手取って殲滅してきたという事ですよね?
一応私たちも位階が100を超えているために、人間たちを基準にすれば相当な猛者と言えるはずなのですが、ナナセは1000をも超えているのではないでしょうか?
主様、これにもやっぱり気がついていませんが。
というか、ナナセ自身が気がつかれないよう振舞っている節があります。
あの家の意思ある人形の中で、一番主様を愛してしまっているのはナナセだと思うのですが、それすら悟られないようにしているように見えますから。
昨日の夜もガラテアが部屋から出て行ったあと、主様を起こさないようにこっそり入って来て、うっとりした顔をしながら主様の頭を優しく撫でていました。
私たちが起きている事にも当然気がついているのに、やりたい放題です。
むしろ、見せつけていたのでしょうか?
魔石をくれていなければ喧嘩していた所です。
あれ?あの魔石ってそのための……?
『フレイ、気がついてるよね?』
スルトに乗って疾走する私の横を、同じ速度で奔る白銀の狼、フェンリルにのったディが語りかけてくる。
『ええ。少しでも主様を害する可能性のある者は、さっさと始末してしまいましょう。』
私たちは今、森の中に集結している魔物の群れに向かっている。
何故そこに集まっているのかはわからない。
本来この辺りには魔獣があまりいないと主様が言っていたから、誰かが意図的に集めたのかもしれない。
もっとも、自然発生した物だとしても、意図的な物だとしても殲滅することに変わりはない。
その為の力を私たちは手に入れた。
主様に与えてもらった。
主様は、ご自分でこの巨人に乗り込みたかったようだけれど、私たちより体が弱いのだから無理をしないでほしい。
私たちは、多少の傷なら瞬時に修復されるし。腕や脚が吹き飛んでも数分あれば生やすことができるはず。
試した事は無いけれど。
だから、多少の無理はしてもいい。
そんな私たちでも、流石に自分の首を斬り飛ばされたいとは思えない。
あの人、ちょっとサロメさんの事が好きすぎないでしょうか?
逆に、自己評価が低すぎるだけかもしれないけれど。
木々の間から、チラチラと魔獣が見えてきました。
大小強弱様々、数は500程だろうか?こんな場所によく集めたものです。
「フェンリルのショックカノンで先制攻撃を行い、その後私がスルトの炎剣で焼き払います。もし延焼が起きそうであれば」
『こっちで超音波使って消せばいいんだね?了解!』
軽く打ち合わせをしてすぐに攻撃に移ります。
まあ、このスルトとフェンリルの性能を想えば、無策で突撃をかけたところで負けるとは微塵も思えませんが。
主様がこの子に乗り込んで暴れまわれば、それだけであんな王都なんて灰燼に帰すでしょう。
世界はもっと主様に感謝してください。
射程距離に入ったのか、大きく開け放たれたフェンリルの口から指向性を持たせた咆哮が放たれます。
これに当てられると、人間でも魔獣でも少しの間動きがマヒする便利な攻撃です。
その間に、畳みかけるように私も攻撃をしましょう。
主様曰く、ビームソードという名前だそうですが、私は炎剣と呼んでいるこの武器は、燃え滾るエネルギーを刃として敵を薙ぎ払う強力無比な物です。
にも拘らず、この操縦席に座っていても特に異常な熱なんて感じられません。
不思議ですが、主様が作り上げたこの子がすごいという事なのでしょう。
一瞬で約500の魔獣が燃え上がり、激しい断末魔を上げています。
できれば瞬時に消滅させたい所ですが、これでも魔石だけでも回収したいので手加減しているんですよ?
魔獣たちは、主様のために魔石を集めるという縛りをもって戦っている私たちに感謝してください。
生きた魔獣が存在しなくなったのを確認し、フェンリルからまた咆哮が放たれます。
今度は、人間の耳には聞こえない種類の音のようです。
ただ威力は高いので、魔獣たちの死体を燃やしていた炎一瞬で消し去ってしまいました。
やはり、あのフェンリルも規格外の存在のようです。
見た目も可愛いですし。
でも私のスルトもカッコよくて素敵でしょう?
特に胸の筋肉のデザインが。
あそこ、ミサイルという飛び道具になってるらしいですよ。
焼け焦げた死体の山から、ディと協力して魔術を駆使し、魔石を集めていると後ろに気配が発生した。
近寄って来たのではなく、今そこにいきなり生まれたような、不気味な感覚。
これは恐らく……。
『やっぱりディとフレイっスか!なんすかこのでっかいの?主様がまた変な物作ったんすか?』
『そうだよー!んでね、ここにいっぱい魔獣がいたから、主様が危ない目に合う前に殲滅しに来たの!』
「魔石の補充にもなりますしね。」
『いい心がけっス!なんか、この辺り毎日どこかで魔獣が集結してるんスよねー。しかもそれやってるの人間っぽいんスよ。昨日までのはジブンが処理してたんスけど、今度から見つけたらサクッとやっちゃって欲しいっス!』
『はいはーい!』
「わかりました。」
サラッと言ってるけれど、あの人は私たちと違って生身でそれをやってのけているのだろうから怖い。
恐らく、ディも今同じことを考えているでしょう。
まあ、私たちはこれから肉体の成長とともに急激に能力も増すはずなので、すぐにナナセにも並んで見せますが。
特に、あの奇麗な形のおっぱいには勝ちたいです。
奇麗で大きいとか何なんですか?反則ですか?
ブラジャーって言うのは何なんですか?
『そろそろ暗くなるから帰った方が良いっスよー!ジブンも町で肉売ってから帰るっス!』
「わかりました。」
『あとでねー!』
その言葉を最後に、気配が一瞬で消えます。
ホントに何なんでしょうかあれ。
『……ヤバくない?』
「ヤバいですね。」
夕日が沈んでいくことに少しだけ焦りを感じながら、木々の間を器用に走る私たち。
スルトは、攻撃力が高いだけではなく、細かい操作も得意だ。
流石は、主様がご自分で乗り込むために作られた人形と言った所ですか。
結局ご自分じゃ上手く扱いきれない辺りが可愛くて好きですが。
スルトとフェンリルが目立たないように、森の中に隠してから小屋へと戻る。
煙突から煙が出ているのを見るに主様が帰ってきているようだ。
一緒に住んでる中で、ちゃんと料理ができるのは主様とナナセだけらしいので。
中に入ると、主様が出迎えてくれる。
まるで夫婦になったみたいですごく嬉しいです。
「おかえりー。夕食は、もう少しかかるから待ってくれ。あと、2人にはこれプレゼント。」
そう言って、主様が小さな箱を渡してくれました。
開けてみると、中に入っていたのは、赤い宝石がつけられたイヤリングでした。
「安物なんだけどなー。サロメによるとこの世界では、奇麗な女の子には悪い事が起こりやすいから、魔除けに自分の瞳の色の石を付けたイヤリングを贈る風習があるらしいぞ。だから、日中町に出た時に買ってきた。」
……いや、違いますよね?
それ、イレーヌさんと一緒に私たちを連れだしてから、町で流行ってる恋人たちのコミュニケーションとして教えてもらった奴の一つですよね?
確か、「お前は俺のものだ!他の奴は手を出すなよ!」ってメッセージを伝えるために男性が送るやつですよね?
逆に女性から送る場合は、自分の瞳の色のプレートを付けたチョーカーを…って、ダロス様の首に紫と青色のプレートが付いたチョーカーが巻かれてますね。
食卓の方を見てみると、サロメさんに目を逸らされる。
はい、そう言う事ですね。
今はいないようですが、イレーヌさんもいたんですね。
ピンクが無いって事は、ガラテアさんは行かなかっ……あら?
あの人だけ愛おしそうに指輪つけてますけど、違う理由つけて買ってもらったんですか?
まあ、私たちは良い子としてふるまうので、告げ口なんてしません。
ええ!いい子なのでいい子らしくお礼をするくらいです!
「ありがとうございますお父様!」
「ありがとパパ!」
「うお!?」
主様に抱き着く私。
私とほぼ同一の存在であるディも同様に抱き着くことで、主様の行動を阻害します。
その上で、ほっぺにキスをしておきました。
いい子なので。
「な!?何をしているんですか!?そんな事女の子がしたらいけません!」
なんてサロメさんが言ってくるけれど、子供らしく振舞って躱す。
ラフプレーにはラフプレーで応えますよ私は。
主様を照れさせることができたので、多少怒られたところで構いません。
騒いでいると、入り口から音がしました。
「ただいま帰ったっスー。」
なんて、昼間あれだけヤバイ恐ろしさを発揮していたとは思えないのほほんとした雰囲気で帰って来たナナセ。
大量のお肉と、硬貨が入っていると思われる袋を持っている。
私たちにしたのと同様に、主様がナナセに小箱を渡す。
すると、何故か動きが止まり、表情まで抜け落ちるナナセ。
どうしたのかと全員が不思議に思った直後、目にもとまらぬ速さで主様の唇を奪っていた。
あまりに唐突で私を含め、しばらく誰も反応できずにただ茫然と、主様とナナセのねちっこいキスを眺めていた。
唇を離したナナセが、
「アナタのためなら、ジブンはいくらでも頑張ることができるっス。」
なんて言いながら、顔を赤くして抱き着いた辺りで、再起動してまた騒ぎ出す面々を眺める。
やっぱこのナナセ怖いって思い距離を取る私とディを誰が責められようか。
主様は、刺激が強すぎたのか失神している。
ベロチューでなのか、おっぱいを押し付けられたことによるものなのかはわからない。
一つだけ言えるのは、私とディが何度頬にキスをしたところでああはならないだろう。
「主様のために、強くならないといけませんね……!」
「うん……!」
私たちは決意を新たに、イヤリングをつけた。
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