第17話

「っていうことがあったんだ。」


「よく生きてましたね……。」


「定義次第では1分程死んでたぞ。」




 首が取れてたからね。




 翌朝、宣言通りイレーヌちゃんがやってきた。


 大きな缶をメイドさん2人に持たせて。


 中身は、ホイップする前のクリームらしい。


 それすごい量なんじゃない?


 はぁはぁ言いながら小屋に缶を持ち込んだメイドのお姉さん2人は、この後乗ってきた馬車ですぐ帰るらしい。


 人使い荒いな……、って思ったらこっそりとこっちを見てウインクしながら親指を立てていた。


 よくわからんが、メイドさんはメイドさんで楽しんでそう。




「昨日帰宅してから、兄たちと夜遅くまで第3王子を排除する方法を考えていたのですが、無駄になりましたね。」


「ごめんな。」


「いえ、むしろ最高の結果かと。」




 1日経ったら邪魔な王子様が1人死んでて、死体も見つかってないんだからね。




「調べたところによると、先日この先の森の中で、本来であればいるはずのない強力な魔獣が発見、討伐されたことについて、王から直接第3王子に調査命令が下ったそうなんです。まあ、本人には調査する能力なんてないので、あくまで形だけの責任者ですが。それで途中、ふらっと馬車ごといなくなってしまって、調査隊の皆さんもかなり困っていたようですよ。」


「あー、その馬車うちの本邸前に止まってたよ。」


「そのようですね。ですが、公爵家の皆さんは大部分が調査隊として森の中にいたために、王子がどうなったのかは誰も把握していなかったようですね。王族の馬車なので、門番は素通りだったようですし。」




 セキュリティガバガバだなこの世界。


 それとも、俺が知らない通報装置でもあるんだろうか。




「責任者を失った調査隊ですけれど、森の中で大きな土の巨人を見つけたとかで、今かなり大騒ぎになってますよ。しかも、人が乗り込むような場所もあるとか。最近まで何も無かった場所にも拘らずそこにあり、全体の風化が激しいので、もしかしたら現在まで全く知られていなかった神代の兵器なのでは?なんて話も出てるとか。」


「へー。」




「それ、俺が作った5号だね。」


「やはりそうですか……。」


「見つかった強力な魔獣を倒したって言うのも俺。というか俺が操った3号。その場所がちょうどよく開けてたから、5号を作るのにちょうどいいかなって。」


「はぁ……。」




 何となく予想はしてたようだ。


 まだ数日しかつきあいが無いのに、心が通じてるようでうれしいね?




「ところで、何故サロメさんは未だに貴方に抱き着いているんですか?」


「朝までのはずだったんだけど、俺が動けないから勝手に延長してる。」


「そうですか。」




 昨日の状態のまま、俺に抱き着き続けているサロメ。


 起きているはずだが、反応しないようにしているらしい。


 別に無視しているわけじゃない。


 ただ怖がってるだけだ。


 何をって?




「……ずるい人。」


「ひうっ!?」




 サロメの耳元で囁くイレーヌちゃん。


 昨日よりも更に迫力が増しているな。


 俺の心の奥底がゾクゾクしている。


 ダメなものに目覚めそう。




「では、私も反対側失礼しますね。」


「なぜ?」


「バランス調整です。」




 俺の死亡率があがるぞ。




 大して広くないベッドに3人で寝ている。


 硬くて寝心地もよくないだろうに、現貴族様と、元貴族様の美少女が。


 一応制度上は貴族様なのに、数年前から掘っ立て小屋在住のダロスボディである一般人ソウルの俺にとっては、特に問題も無い硬さだけれども。


 だから、猶更両腕の刺激がすごい。


 確かに気持ちが良い、良いんだが、神は俺の理性をぶち壊す遊びでもしているんだろうか。




「ただ寝てるだけなのももったいないので、ダロス様……今のダロス様がこの世界に来てから行った事を教えて頂けますか?その辺りの情報を共有しておきたいです。」


「そうだなぁ……。じゃあ、この世界にきてすぐイレーヌって女の子を泣かせた事から話そうか?」


「…………いじわる。」




 俺は、ここ3日間の事を話した。


 イレーヌはもちろん、事前に多少は聞いていたはずのサロメも何度も驚いていた。




 俺だって驚いたよ。


 今日がこの世界に来て4日目だってことに。


 濃かったなぁ。




「今後の方針としては、もう少しいい家に引っ越したいんだよね。」


「良い家ですか?確かにこの小屋に住み続けるのはどうかと思いますが、御父上は許されるのでしょうか?」


「別に公爵家にバックアップしてもらうわけじゃなくて、自分で金は出すつもり。まあ、俺の事を一族の恥部だと思ってるらしいから、こっちに嫌がらせはするかもしれんけど。ただ、保証人とかが必要だったらイレーヌのお兄さんたちに頼めないかな?」


「わかりました。兄に頼んでおきます。」




 この世界の不動産事情がよくわからないけど、信用できない会ったこともない親より、信用できそうな婚約者の兄の方がいいだろう。


 てかさ、4日もあってマジで誰も会いに来ないんだけど、あの本邸の中の人全員死んでたりしないよな?


 中入ったらバイオのハザードとか起きてたりしないよな?




「因みになんだけど、イレーヌはどこか住む家の希望とかある?」


「私の……ですか?」


「え?うん。だってもしかしたらイレーヌも住むかもしれないんだぞ?」


「…………………………………………あっ。」




 改めて婚約をしたとは言え、まだ結婚するという事を実感してはいないんだろうか。


 俺は、割とそういうの考えちゃうほうです。


 結婚どころか彼女もいないのに、子供は私立の幼稚園に入れようかどうか高校時代に悩んだこともあります。


 その後確実に虚しくなるけども。




「でしたら……その……お風呂はあまり広くなく……それでいて2人でちょうどいい広さで……。」




 初手風呂か。


 この娘実はムッツリなのでは?




 因みに、朝サロメに聞いたところ「3人で寝れるベットが欲しい」という希望が出た。


 こっちもこっちだ。




 1時間ほどイレーヌ的理想の愛の巣論を聞かされた後、やっと俺も話すタイミングがもてた。




「というわけで、お金を稼ぐためにも戦力増強は重要なわけですよ。」


「まあ、そうですね。」


「そのために、俺は自分の能力の実験と特訓をする必要があります。」


「……はい。」


「だから大型ロボを……」


「却下します。」




 却下されてしまった。




「どうして……?」


「もう少しジョブレベルが上がってからにしてください。結婚する前に未亡人になりたくはないです。」


「反論のしようが無くて困る。」




 俺の残念な脳みそではやりたいんだ!としか言えない。


 ダロスブレインは、難しい事とNTRに弱いんだ。




「それより、女神様が憑依されるガラテアさんはともかく、ナナセさんのような方を作るのではいけないのですか?なんでしたら、家の使用人を全て彼女たちのような存在にできれば、使用人の問題も解決しますし。」




 この世界、使用人というのは簡単には見つからないらしい。


 貴族の家の作業を任せる以上、信用の無い者なんて雇うわけにもいかず、尚且つ信用ってものは見る事はできない。


 信用調査だって限界がある。


 じゃあもう昔ながらの側近の家とか、分家筋から引っ張ってくるか!ことになるわけで。


 場合によっては、他家の貴族が行儀見習いとしてやってくることもあるけれど、それだってある程度信用と家格のある家だけだ。




 そして、このダロス君の場合ですけれども、お家の使用人なんて元貴族のサロメしかいません。


 サロメの家族は全滅しています。


 他の公爵家の使用人はクソです。


 話しかける価値すらないでしょう。




 流石に、婚約しているだけのイレーヌちゃんの実家から引っ張ってくるのも気が引ける。


 保証人を頼むのですらかなり追い詰められた場合にしたいと思ってる。


 そもそも保証人ていう制度がこの世界に存在するのかもわからないけれど。




 となると、自分で使用人作っちゃえっていうのは確かに合理的な発想だ。


 俺もちょっと考えたよ?


 考えて考えて……。




「それして大丈夫かなぁってさぁ……。」


「どういうことですか?」


「いやね?アフロディーテ様からもらった知識って女体のものなんだよね。」


「……そうですか。」




 そこで不機嫌にならないで。


 事実なんだし、嫌らしい事じゃないから。




「つまりさ、男の人形は作れないのよ。心臓とか首っていうような共通する場所ならある程度融通利かせられるけど、性別は流石に変えられない。かといって、イレーヌやサロメがいる家に何の縛りもない男を入れたくもないし。」


「成程、使用人が全員美しい女性になってしまうので、ダロス様の理性がもたないと?」


「端的に言えばそうです。」




 今この状況ですらかなりアレです。




「でしたら、我慢しなければよいのでは?」


「嫌です。俺は、そういう行為には愛が必要だと思ってます。」


「ですから、愛している方と好きなだけ行えば宜しいのです。」




「つまり、私と。」




 ダメだっつってんだろそういうのは結婚してからだろ誘惑するな本気にするぞ寝てろ。






 体を動かすのは、まだ本調子ではないために難しいけれど、頭を働かせることくらいならできる。


 俺は、血の材料になるであろう食べ物を無理やり飲み込みながら人形生成の練習をすることにした。


 余談だけど、俺の口に食べ物を押し込んでいるのはイレーヌで、メニューはどれも精が付くものだ。


 早く元気になれって事だよな?体がな?




 昨日、いろいろ無理をさせたために、完成から2日しか経っていない3号はボロボロになってしまっている。


 しかも、ちょっとかび臭い。


 そりゃそうだよ。


 だって木だもん。


 血まみれにしたりお風呂に一緒に入ったらそうなるよ。




 というわけで、神粘土を使って3号を作り直そう。


 神粘土の可能性はまだまだ残されている。


 特に、俺のイメージ次第でどんな素材にでもなるという部分が肝だ。


 俺が上手くイメージさえできれば、全身プラチナの3号を爆誕させることも可能だ。




 って考えたけど、そういえばこの世界の金属ってよくわからないな。


 ミスリルとかオリハルコンみたいなファンタジー金属はあるんだろうか?




「イレーヌ、この世界で一番硬い金属ってなに?」


「金属……ですか。一般的に流通しているものですと、ミスリルが最も硬いのではないでしょうか。産出量は多くありませんが、安定して供給されていますね。」


「へー、あるのかミスリル。」


「伝説上の存在ではオリハルコンというものもありますが、こちらは神々が地上に生み出した神器の材料と言われているので、人間がどうこうできるものではない筈です。」


「オリハルコンまであるのか!じゃあヒヒイロカネとかもあるの!?」


「ひひ?……申し訳ありません。私の知識にはちょっと……。」




 ヒヒイロカネは無いらしい。




「神粘土は性質を変えられるらしいからさ、硬い金属に変換できるようにサンプルが欲しいなと思ってね。」


「オリハルコンは、実在するとしても国の宝物庫や、教会の祭壇の上にあって触ることもできないと思います。ですが、ミスリルであれば比較的簡単に入手できると思いますよ?」


「そうなの?どこで買える?」


「買える……といいますか、ピュグマリオン公爵家はミスリル鉱山を持っているはずです。」


「何それ知らない……。」




 ダロス君の記憶にすらないぞ。




「鉱山の情報はトップシークレットにする場合も多いですから、子供に知らせないようにしたのかもしれませんね……。」




 フォローありがとうね。幸せにするよ。




 本格的な再現は後日にして、今は本当にただのイメージだけでミスリルとオリハルコンを人形生成で作ってみる。


 形は、もちろん3号だ。


 アイツは、内部まで拘って作った自信作。構造まで完全に把握してるからやりやすい……はず!


 色は、ミスリルは白銀ってイメージがあるな。


 オリハルコンは青黒いって感じ…か?でもせっかくだし金色で行こう。




 それにしても、両腕に当てられてるお山がすごい。


 しかも、多分2人ともわざと当ててる。


 男としてこれほどうれしい事があるだろうか。


 強いて言うなら、彼女たちが俺の子供を産んでくれたりしたら、この快感を超えてくれるかもしれない。


 きっと可愛いんだろうなぁ。




 あ、やべ。イメージが崩れた。




 そう思った時にはすべてが遅かった。


 目の前に出来上がったのは、見た目が5歳時くらいの金髪と銀髪のロリ人形だった。


 両方とも3号くらいの体格で鎧を着ている。


 安心してほしい、服は着てないけれどちゃんと隠れてる。




 だからそんな目で見ないで下さいイレーヌ様とサロメ様。






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