第16話

 現在、俺の胸で美少女メイドが大泣きしている。


 俺も含めて2人とも血みどろだ。


 これ全部俺の血だっていうんだから笑いたくても笑えない。


 根本的に血が足りない。


 酷く喉が渇く。




 それでも、最後の意地で片手でサロメの頭を撫でながら、もう片方の手で背中をさすってやる。


 少し驚いたようにビクっとしたけど、すぐに受け入れたみたいだ。




 こういう状況を男冥利に尽きるというんだろうか?


 サロメがまだまだ泣き止む気配が無いので、3日ぶりに土人形の1号君を2体生み出し、今のうちにクソ王子の死体を証拠隠滅しておく。


 土の塊に引っ張られていく首の曲がった派手な男は、これから裏手の森の地下深くに埋める予定だ。


 警察犬みたいなのがこの世界にいるとしたら、1人で森に入って行方不明になったように見えるだろう。


 目撃者がいなければ、だけど。




 ガラテアが言うには、少なくとも周りに人の目は無いらしい。


 王子様が先に人払いをしていたのか、それとも単に誰もこっちに興味が無いのかはわからないけれど、何にせよ運が良かった。




「……主様が生き返ってるっていっぱいサロメに叫んだのに、気がつかずにキスしまくりでずるいと思いました。」




 とも言っていた。


 良いだろ。


 命を賭けた報酬だ。




 ジョブレベルが上がったおかげで、1号君でも十分なスピードとパワーと強度を維持できるようで、第3王子はあっけなく地下世界の住人となった。


 そういえば、この世界にアンデットはいるんだろうか?


 火葬しないとゾンビになったりするかな?


 まあ仮にゾンビになっても、あの深さから這い上がってくるまでに人類は数世代かかってるだろうけど。




 そうこうしているうちに、狩りに行っていたナナセがルンルン気分で戻ってきた。


 今更大焦りしてももう遅い。




「何がどうなってるんスか!?大丈夫なんスか!?」


「大丈夫。その獲物処理しておいてくれ。血が足りないからあとで食べる。」


「わかったっス!ホイップクリーム用意しておくっス!」




 何に使う気だろうか?ホットはやめろよ?




 気がつくと、サロメが寝息を立てていた。


 大分精神的に疲れたらしい。


 なんせ俺の首を盛大に斬り飛ばしたんだからな。




「ガラテアー、サロメを風呂に入れてやってー。俺は後から自分で3号操作して入るー。」


「……報酬で何くれる?」


「血。」


「わかった。」


「ごめん死ぬから許して。」




 血なんてどうすんだ。


 飲むのか?




 ガラテアが風呂場から全裸のまま、全裸のサロメを運んでいく。


 目を逸らす元気もないけれど、興奮する元気もないので差し引きゼロだ。


 3号と一緒にふろに入る。


 流石にお湯に入れるのはどうかと思ったけど、他に方法も無い。


 どっちにしろそろそろガタが来てそうだし、最後の作業ってくらいのイメージで使い倒そう。


 どんなものもいつかは壊れる、って事を表現するために、自分が作った芸術作品を壊れるがままにしておいた芸術家もいるしな。




 ただ、3号のコンセプト自体は良かった。


 小さい分操作もしやすくて、初心者の俺には丁度良かったなと今は思っている。


 最初に5号みたいなの作っていたらマジで死んでたかもしれない。


 いつかジョブレベルが上がったら、ダロスしなくなる日も来るんだろうか?




 3号に風呂から引っ張り出させて、体を拭く。


 とりあえず血は洗い流せただろうけど、風呂釜が心なしか鉄臭い。


 風呂用洗剤なんて無いので、3号にやわらかくて太い草の繊維で擦らせると、そこそこ奇麗になったように感じる。


 3号の指先が削れてしまったのからは目を逸らす。




「主様!ご飯っス!」




 そう言いながら、ナナセが俺に甲斐甲斐しく食事をとらせてくれる。


 持っているのはもちろんホイップクリーム。


 絞り器で授乳するかのように食わせてくる。


 遠回しな嫌がらせか?




「さっき狩ってた肉はどうした?」


「ホイップクリーム買うお金を稼ぐために冒険者ギルドで売ってきたっス!ジブンも冒険者登録したっスよ!」




 なぜそこまでしてホイップクリームなのか。


 お前の妹は血でいいらしいぞ?




「そういえば、なんで第3王子がうちに来てたのかまったく心当たり無いんだけど、何か知らないか?」


「さぁ?案外美人がいるからちょろまかしに来たとかその程度じゃないっスか?」


「それはそれで殺しておいた方が良い案件だな。」




 ダロス君の脳のためにならない。




「森の中は何か異変とかあった?案外そっち関係で来てたのかもしれんし。」


「奥の方で人間がいっぱい5号を調べてたっス!あと、帰ってくる途中で1号に引っ張られた派手な男を見たっス!」


「そいつは埋めた。」




 5号かぁ。


 結局アイツは、俺が操作しないとただの土を固めたステージに過ぎないけど、何か興味を引くものあっただろうか?


 土俵としては中々性能良いぞ。


 女神様が上でくるくる踊っても平気だった。




「ところで、サロメはそのままにしとくんスか?」


「寝てるのに全く離れないんだよ。たまに目が覚めると俺の首をペタペタ触って安心して寝るって感じ?」


「大分キテるっスねー。」




 今現在、俺は自分のベッドに寝ている。


 部屋に戻ったら、何故かサロメが俺のベッドに寝かされていて、仕方ないからそのまま俺ももぐりこんだわけだ。


 サロメは全裸のままだった。




「あれ?サロメの世話してたガラテアはどうした?」


「あー、なんか責任感じてるみたいで居間で壁に向かって話しかけてるっス。」


「責任?なんの?」


「サロメを守れなかったからっスね。ガラテアは魔法戦が得意なんスけど、呪い対策してドヤ顔してたら祝福で突破されたもんだからガチ凹みっス。ジブンも主様は好きっすけど、アフロディーテ様の体に入ってるガラテアは、ジブンよりもっと恋愛脳な感じなんで、大好きな人の大切な人を守れなかったってのが辛いんじゃないっスか?結果的に主様の首がチョンパっスからねー。」


「アレはビビったな。帰ってくるなり首だけにしたいって言わるなんてなかなか体験できないぞ。」


「首だけで飛ぶってどんな感じだったっスか!?」


「浮遊感は気持ちよかったぞ。痛みでそれどころじゃなかったけど。試してみるか?」


「遠慮するっス!」




 なんだ、嬉々としてチャレンジするクレイジーさは無いのか。




「ガラテアに、今回の事で責任感じる必要は無いって言っといてくれ。神の使徒とかいうのを犠牲者0で撃退したんだから十分な成果でしょ。多分神様連中も、アレみて美味しく酒でも飲んでるよ。」


「趣味悪いっスねーあの方たち。」


「あと、王子の件でうちに歓迎できない客がくるかもしれないし、今晩はナナセとガラテアで交代しながら警戒頼む。ベッドとか作ってないけど、それは明日にさせてくれ。今日は、色々ありすぎてもう体力がキツイ。」


「了解っス。いやー、流石主様は違うっスねー。今日1日で2回も死にかけるって中々ないっスよー。」


「バランス調整だ。」


「バランスっスかー。大切っスねー。」




 そういうと、ヘラヘラ笑いながらナナセは部屋から出て行った。


 実験用に作ったのに、頼りになる女の子である。


 明日ホイップクリーム以外の甘い物食わせよう。




 ナナセがいなくなると、自然と静かになってしまう。


 寝息すらわかってしまうほどに。




「それで、何か言いたいことある?」


「……好きです。」


「そうか。」


「……ごめんなさい。」


「いいよ。」


「……貴方を独り占めしたいんです。」


「明日の朝までなら大丈夫だぞ。」


「……私は、貴方を殺してしまいました。」


「俺を初めて殺したのは、棚とプラモと美少女フィギュアだ。」


「……貴方のこと、私、何も知りませんね。」


「俺だってサロメの事そこまで知らないよ。」


「……じゃあ、これから知ってください。貴方の事も、教えてください。」


「わかった。明日からゆっくり話そうか。」


「……好きです。」




 それを最後に、またサロメは眠り始めた。


 俺に抱き着きながら。


 当然全裸のままなので、とてもやわらかい物が押し付けられている。




 これ、明日もバランス調整で死にかけたりするんだろうか。




 その程度でこの心地よさを味わえるなら、まあ悪くない。






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