第14話

 今日は、朝から色々な事があった。




 ダロス様の婚約者であるイレーヌ様が訪ねてきた。


 早朝からダロス様は出かけていると伝えると、ここで待つというから驚いた。


 こんなボロ小屋、ダロス様が住んでるのすらおかしいのに、伯爵家のご令嬢で、社交界の華のイレーヌ様までいるなんて……。


 一体何の用で来たんだろう?


 ダロス様の言っていた事から推測するに、婚約解消もほぼ確実かなって思ってたのに。




 そう、なってほしかったのに。






 この小屋に、紅茶なんてものはない。


 強いて言えば、ダロス様が摘んできてくれたハーブがあるだけだ。


 バーブティーにすると良いと聞いて、昨日一緒に飲んだらすっきりしていておいしかった。


 私は、紅茶よりもこちらの方が好きかもしれない。


 ダロス様が積んできてくれるなら、という条件付きだけど。




 これを出すしかないかな?


 ハーブというと聞こえはいいけど、ただの草だ。


 ダロス様が摘んできてくれたことに価値を感じる私ならともかく、この方にはどうなんだろう……。




 それでも、意を決して出すことにする。


 小屋にある一番いいカップに入れて、なけなしの礼儀作法で持って。




 なんとなく、この人には負けたくなかった。


 当然、家柄も、お金も、きっと女としての魅力でもこの人には勝てないけれど、ダロス様の前で他の男の人と2人でいたこの人にだけは……。


 前のダロス様をあんな風に傷つけたんだから、新しいほうのダロス様は私にくれてもいいじゃない?


 なんて、浅ましい事も考えてしまう。




 ただ、この人がこの小屋に入ってきた段階から、何となく私にもわかってしまっている。


 この人は、ダロス様との婚約を解消するつもりが無い。


 少なくとも、本人には。


 貴族として、当主が指示すれば、望まない相手との結婚や、逆に破断なんてことも当然あるだろう。


 でもイレーヌ様は、何かを決意したような、けれでもとても不安そうな、ただの女の子の顔をしていた。




 この人は、新しいダロス様の事を本人から聞かされているはずだ。


 それでもここにこんな顔をしているって事は、新しいダロス様の事を理解した上で、それでも婚約を継続したいんだろうか。


 ……前のダロス様をあんな目に合わせたのは、貴方じゃない?


 あの日まで、希望を失わないようにしてくれたのも貴方なんでしょうけど。




 ハーブティーを煎れると、やることも無くなってしまう。


 もちろん自分自身で飲めるわけでもない。


 ただただ緊張感が増すだけだ。




 何故、イレーヌ様は侍女の一人も連れずにここまで来たんだろう?


 本館の方々は、イレーヌ様がここにいるのを把握しているんだろうか?


 流石に、子息をこんな所に妻わせてるのは醜聞なんじゃって思うけれど、逆にそれすらわからなくなってる可能性もあるかも?




「貴方は、ダロス様の事が好きなんですか?」




 不意に、イレーヌ様に話しかけられる。


 最初、何を聞かれているのかわからなかった。


 少なくともメイドに聞くような内容じゃない。




「おっしゃっている意味が分かりません。」


「そんなことは無いと思いますが……。単純な好き嫌いのお話です。」




 どうしてそんなことを聞くんだろうか?


 何か気に障る事を言ったかな?




「何故このような事を聞くのか……っと言った所でしょうか?」


「……。」


「簡単な事です。貴方の目が、私を敵だと語っています。」




 私は、そんなにわかりやすい表情をしているのかな?


 自覚は無いけれど……。


 少なくとも、ダロス様なら騙しきる自信がある。




「ダロス様の事、聞いているのでしょう?ここに住んでいるのですから、私よりよっぽど彼と親密なハズですし。……あんなことをしておいて、ダロス様にまだ恋慕している私を貴方は軽蔑しますか?」


「……いえ、お父様に言われたのであれば、貴族の娘として王子を案内するのは当然な事かと。笑顔で語り合っていたのも、社交辞令に過ぎないのでは、とも思いますし、私も同じ状況なら同じようにしたと思います。」


「そう……ですか。」


「ですが……。」




 ここまでであれば、別に怒られることも無いだろうと思っていたのに、どうにももう少し言ってしまいたい。


 前のダロス様の事なんて大して興味も無かったはずなのに、どうしても言っておきたい。




「せめて、ダロス様が来る日には辞めておくべきだったと思います。私の知る限り、ダロス様の生きる希望は、貴方との未来だけでした。普段は絶対に私に頼まない身だしなみも、貴方に会いに行く日だけは私の手を借りていました。貴方は、きっとそんなつもりではなかったのでしょうけれど、私なら許せません。」


「……。」




 イレーヌ様が目を伏せてしまう。


 きっとそうなるってわかってたのに、言わずにはいられなかった。




「でも、私は貴方に感謝しています。」


「え?」


「貴方のおかげで、私は新しいダロス様と出会う事が出来ました。私のただ滅んでいくだけだったはずの人生に、久しぶりに意味が生まれました。貴方との婚約が解消されるかもしれないと知って最初考えたことは、専属メイドの私がどうなるのかでした。でも1日たった昨日の夜には、もうあの人無しでは生きられないと思ってしまっていたんです。我ながら惚れっぽい安い女ですが、それでもあの方だけは、絶対に諦めたくないんです。」




 私の正直な気持ちに、目を見開いているイレーヌ様。


 これでも、初めてダレス様と一晩ベッドを共にした女なので。


 ……手、出してもらえなかったけど。


 おっぱいをもっと大きくする必要があるかもしれない。




「私も、同じなのかもしれません。一昨日から、浅ましい気持ちが止まらないんです。」




 そう言うと、それきり何も言わなくなってしまった。


 カップの中身が減って来たので、おかわりを注ぐ。




 3杯目を注いだ辺りで、ダロス様が帰って来た。




 小屋に入った瞬間、私とイレーヌ様を見て、信じられない物を見たような顔をしてから、何事も無かったように活動を始めるダロス様。


 これはスルーする気だろうか。


 流石にそれはまずいと思うので、イレーヌ様が来ていると直接伝える。


 もうちょっと感情を表情に出さないよう練習した方がいいんじゃないかな?


 嫌そうな顔してるのに、チラチラとおっぱいを見ているのも気がついてるし。




 イレーヌ様が、今日やってきた理由を話し始めた。


 要約すると、前のダロス様には悪いけれど、新しいダロス様が好きだから婚約を続行してほしいって事だろう。


 あんまりにもあんまりだけれど、色恋沙汰なんてそんなものかもしれない。


 だって、あれだけ一緒にいた前のダロス様に対して興味を持たずにいた私が、新しいダロス様には数日で骨抜きにされているんだから。




 そうこうしているうちに、ダロス様が婚約続行の条件を言い出し始めた。




「実はさ、てっきりイレーヌから婚約破棄されて、公爵家から追放されたりなんだりすると思ってたから、その時はここにいるサロメと逃げてずっと一緒に居ようって約束したんだよね。だからもし、イレーヌと結婚したとしても、サロメを大切な存在として連れて行きたい。」


「ダロス様!?」




 驚いて、思わず叫んでしまう。


 社交界でも一番人気に近いイレーヌ様相手に条件を付けるなんて、強気に出たものだなとは思うけど、その内容が私との浮気宣言なんだから。


 とんでもないけれど、それでも顔がニヤけるのを誰が責められるだろうか。


 今夜もダロス様のベッドに忍び込もうっと。




 更に驚いたことに、イレーヌ様がそれを認めてしまった。


 これで私は、愛人として公認された形になる。


 でも、条件が私よりいっぱいイレーヌ様に子供を産ませることって言うのはどうなんだろう?


 私は、10人くらい産んで見せるつもりだけれど?




 正直、その後の王子暗殺については、大して興味がもてなかった。


 婚約が無くなってもそうじゃなくても、ダロス様と一緒に居られるのがわかっただけで、十分嬉しかった。




 それでも、やっぱり独り占めしてしまいたいと思うのは、欲張りだろうか?






 その後、私も気になっていた2人の女性についての説明がされた。


 されたにはされたけど、突拍子も無さ過ぎて現実味が無いけれど。


 女神様とか、殆ど人間みたいな人形とか、この人は何を言っているんだろう。


 まあ、この人を信じないという選択肢は、私には無いんだけれど。




 ダロス様がガラテアさんたちを紹介した後、話題はまた第3王子の暗殺計画に戻った。


 といっても、魅了か、それ以上のスキルの存在が示唆されただけで、詳しい事は不明。


 立てられる作戦も、遠くからの攻撃か、不意打ちからの即死を狙うくらいしか案が出ない。




 そんな中、驚くことがあった。


 なんと、私が家族の形見として持っていたブローチが、呪いを防ぐ魔道具だったらしい。


 人身売買に手を染めたどうしようもない家族だったけれど、それでも残してくれたものが私を守ってくれていたとわかって、嬉しくなってしまった。


 皆、首だけになってしまったけれど、このブローチの効果も知らなかったかもしれないけれど、私は大好きだった。


 死刑になったのは当然だと思っているし、そこに文句はないけれど、このブローチの分だけは、私が家族を想う事を許してほしい。




 きっと、ダロス様なら許してくれると思う。


 あの人は、私が甘えるといくらでも甘えさせてくれる。


 それじゃダメだと思いつつも、ついつい甘えを強めてしまう。


 そして、あの人に甘えて貰える日を夢見てしまう。




 やっぱり、私はあの人が好きなんだ。


 お嫁さんにはなれないみたいだけれど、あの人の傍にいるだけで幸せだ。




 …………本当に?




 …………多分。




 話し合いの最中に、ダロス様が私に王子暗殺を手伝わないように言ってくる。


 私のジョブは、アサシンだ。きっと力になれるのに。


 そう思ったけれど、ダロス様本人がそう望んでいないと言われれば、従うしかない。


 私は、少しでもあの人好みの人間になりたい。


 だから、我慢するべきところはしておこう。


 その代わり、全てが終わってから、いっぱい甘えよう。




 イレーヌ様と結婚してからの事はわからないけれど、この小屋に住んでいる間だけは私がダロス様を独占できる。


 今だけだけど、今だけだから、許してください。




 もし貴方が2人きりでイレーヌ様を家まで送り届ける事に、私がとても嫉妬していると知ったら、貴方はどんな顔をするんだろう。


 困った顔?それとも照れた顔?


 嫌われちゃうだろうか。




 私って、こんなにも独占欲が強かったんだ……。






 心の内がばれないように、ダロス様たちが見えなくなるまでブローチを磨く。


 家族がいなくなって、1人になってからいつも続けてきた日課。


 きっとこれからもこれだけを続けていくんだと思っていた日課。


 今更他の日課が欲しいと言ったら、家族は笑うだろうか。


 それが、ダロス様との物ならいいなって思ってると知ったら、お父様は怒るだろうな。


 でも、きっと気に入ると思うよ?私が好きになった人だから。






 今日も、ブリーチを曇り一つなく磨き切った頃、ガラテアさんが何かを警戒するように外を見た。


 私もつられてそちらを見ると、窓の外、それも大分遠くに、派手な色合いの服を着た人が見える。


 どうも、こちらに歩いてきているようだけれど、理由が全く思い浮かばない。


 少なくとも、あんな服の趣味の人はこの公爵家にはいないはずだ。




 それでも、万が一にも失礼の無いように、素早く外に出て出迎える事にする。


 ガラテアさんは警戒したままだだから、私もいつ攻撃されてもいいように心の準備はしておこう。




 アサシンというジョブは、貴族の世界だと卑怯だと低く見られがちだけれど、同時に需要は高い。


 情報収集能力はもちろん、暗殺にも長けていて、尚且つ女性でも不意打ちによって相手を確実に殺せるようになるからだ。


 その反面、全く油断していない相手と正面から戦うのには向かないけれど、少なくとも正面から向かってくる人は、あまり武人というわけではないのか隙だらけ。


 実際に人を殺したことはないけれど、私のアサシンとしての勘が、この距離でも10秒もあれば殺せると囁いてくる。




「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、どちら様でしょうか?」




 とりあえず、こちらから相手に話しかけておく。


 先制して流れをつかんだ方がコミュニケーションを取る時有利だし。




「フンッ、みすぼらしいメイドだな。まあいい、ここにダロスとやらが住んでいると聞いたのだが、間違いないか?」




 随分横暴な態度だけれど、だからと言ってこちらが攻撃的な態度をとってしまうと、どんな問題が起きるか分かったもんじゃない。


 ここは冷静に対処しよう。


 ガラテアさんが今にも攻撃魔法を放とうとしていることから目を逸らしながら。




「申し訳ございません、どなたかわからない方にお答えすることはできません。」




 名乗りなさいよ。


 いい加減隣の女神様みたいな人から火の玉が飛ぶわよ?




「貴様!私の事をしらないのか!?いいだろう!私の名はイカロス・オリュンポス!この国の第3王子にして、王になる男だ!」




 例のバカか。


 何でここに来たんだろう。


 厄介だな。




「イカロス王子、確かに我が主であるダロス様はここに住んでおられますが、現在外出しておられます。よろしければ、私から伝言をお伝えしましょうか?」


「ッチ!何だいないのか!糞っ!せっかくこんな所までわざわざ来てやったというのに!……待てよ?そうだ!いい事を考え付いたぞ!貴様を私の奴隷にしてやろう!そして、ダロスとやらを貶めるのに協力するのだ!」




 何言ってるんだろうコイツ。


 殺していいだろうか?


 ダロス様にはダメだって言われたけれど、今なら正当防衛な気がする。




「遠慮しておきます。他に用が無い様であればお帰りを。」


「あー何、これに関しては貴様の意志など関係ないのだ!私のスキルによって貴様は私を愛するようになり!私に尽くすことこそが至上の喜びとなるのだから!」




 バカ王子がそう言った瞬間、強い眩暈を感じる。


 直後、バカ王子との間にガラテアさんが入ってくれたのが分かったけれど、平衡感覚もあいまいで、何が何だかわからない。


 ただ、魅了とやらにはかかっていない気がする。


 だって、今でも好きなのはダロス様だけだと自信を持って言えるから。




 じゃあ、この異常な高揚感はなんなのだろう?




 そう思った時には、私はガラテアさんの横をすり抜け、油断していた第3王子の後ろにまわり、首に小さな打撃を与えてきた。


 これは、アサシンのスキルであるバッククリティカルという即死技。


 相手に気配を悟られない状態で、後ろから急所を正確に攻撃すると、必ず相手は即死するという技……らしい。


 今までこんなスキルがある事も知らなかったけれど、突然使えるようになった。


 理由はわからない。だけど、達成感はある。


 このバカ王子に興味はないし、殺すという行為が好きなわけでもないけれど、とにかくうれしい。


 今も足元で動かなくなったバカ王子を見て、罪悪感も何もなくダロス様が帰って来て褒めてくれる事だけを待っている自分がいる、




 そっか、私は今ダロス様の役に立ちたいんだ。


 その気持ちが溢れてるんだ。


 あの人を喜ばせたいし、それを見て私が喜びたい。


 そして、あの人の一番は私だと、目を見つめながら言ってもらいたい。


 明らかに今の自分が異常な状態だということはわかる。


 けれど、だからと言って止めようという気には全くならない。




 後ろからガラテアさんがやって来て、私に話しかけてくる。




「……落ち着いて聞いて。貴方は今、敵のスキルによって暴走状態になってる。魅了は弾き返せたけど、別の効果は受けちゃったみたい。願望開花っていうやつで、自分の望みを叶える事だけを目的に行動するようになるの。際限なくね。貴方の望みが何かわからないけれど、自覚しているにしてもしていないにしても、貴方の望みを叶えるまでこの効果は消えない。厄介なのは、このスキル効果が呪いじゃなくて、祝福扱いな事。だから、貴方のブローチでも防げなかった。魅了より強力なスキルを警戒していたから、別のタイプに関しては警戒が不十分だった。それは謝る。だから教えてほしい、貴方の今の望みは何?」




 望み?私の望みって何だろう……。


 叶えたい夢ならあるよ?


 ダロス様と家族になる事。


 家族は首だけになったの。


 だから、ダロス様を首だけにしたいの。


 そうして、ダロス様を私だけのものにしたいの。


 他には何もいらない。


 ダロス様だけでいいの。




「……そう。」




 ガラテアさんが難しい顔になる。


 なんでそんな顔をしているんだろう?


 もっと自分に素直になればいいのに。


 悩んでる時間がもったいないよ。


 あー、ダロス様早く帰ってこないかな。


 いっぱい褒めてもらって、その後家族になってもらおう。


 ダロス様に合う台座を作ろう。


 町中にお父様たちみたいに飾ってもらわないと。


 お父様たちは、悪い事をいっぱいしたから、皆に石を投げられてたけど、ダロス様は大丈夫だよ。


 私が絶対に守るからね。


 だから安心して私と家族になってね。




 そうしていると、うしろから馬でも人でもない足音が聞こえてくる。


 見るまでもなく誰かわかってしまう。


 振り返ると、彼が地面にしゃがんで何かを見ていた。


 そうだ、あのバカ王子を殺したんだった。


 褒めてもらわないと。




「おかえりなさいませダロス様。」




 彼がこちらを見る。


 それだけで気分が高揚する。


 もう少し胸元を開いた方がよかったかな?




「ただいま。なんかコイツ死んでない?」


「はい、私が殺しました。」




 褒めてください。


 そう思ったけれど、ダロス様まで難しい顔になった。


 どうしてだろう?




 まあいいや。


 早く家族になってもらいたいし。




「ではダロス様、こちらへ。今首だけにして差し上げますので。」


「待って?」


「はい。」




 いつまででも待ちます。


 でも早くしてください。


 もういいですか?




 私を待たせて、ダロス様はガラテアさんと話に行ってしまった。


 とてもかなしい。


 とても羨ましい。


 嫉妬が止まらない。


 でも、ダロス様がそうしたいなら、止められない。


 とてもかなしい。




 少しすると、ダロス様がガラテアさんから私の所に戻ってきてくれた。


 叫び出したい気持ちを必死に抑える。


 私が叫んだらきっとダロス様がびっくりしちゃうから。


 そんなダロス様を見たい気持ちもあるけれど、それより早く家族になりたい。




「お待たせ。どうやって俺を首だけにするんだ?」


「はい、後ろからこの包丁で首をはねるだけです。私のスキルで気配を消している間に、急所を攻撃すると確実にクリティカル攻撃で即死にできるらしいんです。」


「そっかー……。心の準備するか……。あー!こえーなー!……まあでも、俺は今日、女の子相手に徹底してカッコつけるって決めたから、一思いにやってもらえる?」


「はい!わかりました!」




 カッコなんてつけなくても、ダロス様はカッコいいですよ?


 でも、カッコつけるダロス様もカッコいいです。




 私はダロス様の後ろに回る。


 ダロス様は、私が斬りやすいようにしゃがんでくれる。


 嬉しい。


 優しい。




 待ちに待った瞬間。


 私は、スキルを発動し、ダロス様に言われたように一思いに斬る。


 ビックリするくらい簡単にダロス様の首が飛んだ。


 それを地面に落とさないように必死に受け止める。




 これで、ダロス様と私は家族ですよ?




 エッチな事したいですか?


 赤ちゃんは何人欲しいですか?


 ダロス様は、私の事を想って我慢してくれてるみたいですけど、女の子だってしたいって思う時もあるんですよ?




 話しかけてるのに、ダロス様が反応してくれない。




 あれ?私、なんでダロス様の首を斬ったんだろう?




 なんで、ダロス様からこんなに血が出てるんだろう?




 なんで、ダロス様が死んでるんだろう?




 おかしい……。


 おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい!


 なにこれ!?


 なんで私はダロス様を殺したの!?


 どうして!?




 ……あ、あのバカ王子のスキル……?


 私が、私の欲望を叶えた結果なの……?


 でも、私こんなこと望んでない……。


 なんで?なんでなの?


 酷いよ!


 一つだけだったのに!


 夢なんて、本当に一つだけだったのに!


 ダロス様が欲しかったのは本当だよ!?


 でも、死んでほしくなんて無い……!


 そんなの意味ない!


 そんな簡単なことなのに、なんでさっきまでそれがわからなかったの!?




 これが、神様に祝福された力って事なの?




 だったら、私は、神様もいらない。


 この世界に私の生きる理由なんて無い。


 生きたいと思うこともできない。


 今までの数年、死にたくないってだけで生きてきたけど、それすらもう無理。




 あれ?ガラテアさんが何か叫んでる?


 でもごめんなさい、私にはもうあなたの言葉すら興味が無いの。




 このまま私が死んだら、ダロス様と同じ場所に行けますか?


 …………きっと行けないよね?




 最後に、私の我儘を聞いてください。


 貴方が好きです。


 だから、貴方と口づけすることを許してください。


 私なんかの初めてなんて、今さら何の意味も無いかもしれないけれど。


 本当は、生きてる時にしたかったけれど。


 顔を赤くする貴方が見たかったけれど。


 それが叶わないとしても、せめて、最後なので、許してください。








 初めてのキスは、果物の味って誰かが言ってたけれど、ウソだった。


 血の味しか……しないよ……。




「あのさ、俺、前世も含めてこれがファーストキスなんだけど?軽くレイプなんだけど?」






















 はい?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る