第12話
目の前にダロス君の婚約者様がいる。
現在地は、ダロス君が住む小汚い掘っ立て小屋。
そこで、昨日ダロス君がとってきたハーブで作ったハーブティーを飲んでらっしゃいます。
この世界、ローズマリーとかペパーミントが雑草のように生えてるんだよね。
最初は、なんか似たような草なのかなって思ってたけど、匂いからすると本物っぽいし、試しに自分でハーブティーにして飲んでみたら問題なかったから多めに採取しておいた。
だってこの小屋紅茶すらねーんだもん。貴族といえば紅茶じゃねーの?
港に落とされて大ダメージなんだろ?
ハーブ関係詳しいと女の子にモテると聞いて高校時代にかぶれたけど、結局女の子と関りが無くて何の意味も無かったのに、今更役に立つとは思わなかったよ。
でもさ、サロメからの評判も良かったけれど、残飯生活コンビと違って現行貴族様に飲ませるのはどうなんだろうか?
いや、ダロス君も制度上は今も貴族様なんですけどね?
「……美味しいですね。鼻に抜ける香りが脳に安らぎと刺激を同時に与えてくれてるようです。」
食レポっぽい!
サロメも似たような事言ってたよ!
俺は、本当はあんまり匂いの強いハーブ得意じゃないです!
「それで、今日はどのようなご用件でございましょうか……?」
一昨日泣かせた女の子が目の前にいる。
泣かせたのは理由あっての事だけど、それはそれとして多分もう会う事も無いだろうと思って好き勝手したにもかかわらず、こうして目の前にいるのだから自然と敬語になってしまう。
目も泳ぎに泳いでいる。
「……まずは、先日の件で謝罪を。本来であれば、昨日の内に出向きたかったのですが、調整に時間が掛かってしまいまして、遅くなりましたが本日伺った次第です。先触れも出していたのですが、何故かあちらの館の方々からダロス様へ伝わっていなかったようで、突然の訪問になってしまい申し訳ございません。」
調整ってなんだ?
そもそもあれは一昨日だから、中1日開けただけだし婚約破棄にしろ何にしろ早いのでは?
寧ろ俺が何か謝らされるのかとビクビクしてたんだが?
「俺は、この家だと鼻つまみ者だからねぇ。使用人より立場弱いよ。まさかイレーヌ相手にもそんな事するとは思わなかったけど。ところで、調整って何したの?」
「はい、昨日の内に当主が交代となりました。」
んん?婚約破棄の意見調整とかじゃなくて?
「それはまた何故?」
「私の父である当主……いえ、前当主が精神を病んだためです。元々我が家は、第1王子の派閥に所属しているのですが、何故か突然第3王子の派閥に鞍替えすると宣言して、私に王子を会わせようとしました。その結果が、先日ダロス様が目撃した状況です。しかし父以外の家族は、父の行動に不可解な物を感じ問い詰めた結果、何かしらの術か薬品により魅了チャームをかけられている疑いがあり、強制的に当主の権限を剝奪する事となりました。」
「ほへぇ……。」
魅了ねぇ……。身に覚えのないスマホアプリでも入ってたのかしら?
「あれ?ってことは、婚約破棄じゃなくて現状維持ってことなの?」
「ダロス様に許していただけるのでしたら、私はそうして頂きたいです。」
「いや、こっちとしては別にそれでもかまわないけどさ……。この前も言ったけど、ダロスの魂はもうここには無い。だから別に義理立てする必要も無いんだよ?」
「私の不義理な行いのショックでそう思い込んでらっしゃるだけかもしれませんし、もし魂が入れ替わってしまっているというのが本当だとしても、体はダロス様ご本人の物であると考えられます。でしたら、ダロス様の子を生むことが私にできる唯一の罪滅ぼしであると考えております。」
いや、まあ確かに俺の頭がおかしくなってるだけかもしれないし、魂変わっても金玉の中身までは変わってないだろうけどもさ!?
「そこまで気にすることでもないと思うぞ?イレーヌはすごい美人だし、ジョブもすごいって聞いてるから、正直こんな掘っ立て小屋にいるダロスの事なんか気にせず新しい相手探した方がいい気がするけどな。引く手あまただろうに。」
「……では、私の本心をいいますね。」
そう言って、覚悟を決めた表情になるイレーヌ。
そんな顔で見つめないでほしい。
俺は、基本女の子は苦手なんだ。
何でも言う事聞きたくなっちゃう。
「私は、以前のダロス様が好きでした。といっても、恋では無かったように思います。伯爵家の3女なんて貴族社会では本当に軽い存在です。そんな私が、公爵家の方と婚約できたのがとても嬉しかったのを覚えております。ダロス様は自覚が無いようですが、4男とは言え公爵家のご子息というだけでも十分なステータスだと思いますよ。何故、このような場所でこのような待遇を受けているのか不可解です。しかし、婚約が決まった時は私も似たような者でした。ですので、同じように冷遇される仲間……のように感じていた気がします。しかも、そんな方がたまに会うと私だけを見て笑いかけてくれるのです。それだけで私は自分を肯定することができました。今でこそ、ジョブや容姿で私を認めてくれる方も多いと伺っておりますが、正直今更何を……という気がしてしまいます。」
まあ、普通に嫌だよね。
貴族としての礼節という意味では無碍にもできないだろうけども。
「そんな中で、貴方だけが私自身を見て、私の事を考えて注意してくれました。私の未来を想ってアドバイスもしてくれました。しかも、子供の頃、辛い時を共に過ごしてくださったダロス様の容姿で。以前のダロス様に対する罪滅ぼしというのもウソではありません。ですが、貴方と結婚したい一番の理由は、貴方に恋してしまったからです……。」
これアレだろ?
乙女ゲーで王子様が平民出身のヒロインに注意されて、「俺にそんな口をきいたのはお前が初めてだ(キラッ」って恋に落ちるやつだろ?
いやさ?嬉しいよ?美人さんだもん。
でも、これ多分イレーヌちゃんがあまりに良い男に出会わなかっただけであって、そんな中でゲテモノの俺に興味持っちゃったんだろ?
悪い男に引っ掛かる女の子の典型的なパターンだよ!
俺もイメージで語ってるけど。
「愚かでふしだらな私ですが、もし叶うのであれば、貴方と夫婦になりたいのです。貴方の子供を産んで、その成長を2人で眺めて、そして最後は同じ場所で眠りたいのです。」
「いや、そんな自分を卑下すること無いと思うんだけど。確かに婚約者以外の男と2人きりなったり、肩を抱かれるのはアレかなって思うけどさ、それもそのおかしくなった父親の指示でしょ?俺としては別にこれ以上その部分をどうこう言うつもりはないし、こんな俺と結婚してくれるっていうならありがたいよ?」
「そう……ですか?一昨日、貴方は何の未練もなく走り去ってしまいました。私に興味など無いかのように……。今日も、貴方から婚約破棄されてもおかしくないと思いながらここに来ました。それ以前に、公爵家の方からお断りされるのではないかと気が気ではなかったのですが……。」
「いやアレはさ、好き放題言って泣かせた後にそのまま居座るのも気まずかったから逃げ去ったってだけでだな……。あと、この世界のジョブとか言う不思議な力を試したくてワクワクしててさ……。」
うん、気まずい。
言いたいだけ言って満足して帰って来ただけだし。
でもまさか伯爵家の当主様が魅了を受けてて無理やり第3王子と親密になりかけてたとはなぁ。
これって第3王子のジョブに関係あるんだろうか?
アイツも神の使徒なんだろ?その神自身にキレられて暗殺指令がこっちに出てるが。
そういえば、その件で言っておいた方がいいかものな。
「婚約維持にあたってだけど、条件出させてもらってもいい?」
「はい、それは当然だと思います。」
「実はさ、てっきりイレーヌから婚約破棄されて、公爵家から追放されたりなんだりすると思ってたから、その時はここにいるサロメと逃げてずっと一緒に居ようって約束したんだよね。だからもし、イレーヌと結婚したとしても、サロメを大切な存在として連れて行きたい。」
「ダロス様!?」
気配を消して俺の後ろに控えていたサロメが驚いている。
まあ、結婚しようっていってる女の子の前で、他にも大事な女の子がいるって言ってるわけだしな。
でも約束は約束だろ?
「……それは、愛人としてということですか?」
「わからない。本人は俺の事を男として好きだって言ってくれてるけど、珍しく男にやさしくされたからときめいているだけかもしれないし、もっと視野が広がるまでは少なくとも一緒にいるって決めたんだ。」
「いいえ、私はダロス様を愛してます。この気持ちは絶対変わりません。」
わかったから圧かけてくるな。俺も好きだよ。
「わかりました。貴族である以上、愛人や妾というのも珍しくない話です。ですが、私からも条件……というより、要求をしてもいいですか?」
「どんな?」
「サロメさん……でしたか?彼女を愛するというならそれでも構いません。ですけれど、私の事もそれ以上に愛してください。彼女が貴方の子供を1人産むというのであれば、私は2人産みたいです。」
童貞に何を期待してるんだキミは。
こちとら子供どころか1回の経験すらないのにそんな約束しなきゃならんのか。
「……俺はいいけどさ、俺から見てイレーヌもサロメもすごく美人に感じるから、すごい回数することになると思うよ?俺性欲強いほうだし……。」
「私はむしろ望むところです。5人でも10人でも産みます。」
「ああそう……覚悟きまってるのね……。わかった。」
俺としては願っても無い条件だが、本当にそんなんでいいんだろうか?
なんか裏が無い?
ついていったら壺買わされたりしない?
「もう一つ言っておきたい事があるんだけどさ、俺はあの第3王子を暗殺しようと思ってる。」
「……はい!?」
流石に今度は寝耳に水って顔だな!いいぞ!やっぱりイレーヌちゃんはその驚きリアクションの方が似合ってる!
「イレーヌに軽々しく触れたってのもあるけど、女神様からの指示もあってさぁ。あいつも神様から力を与えられた使徒らしいんだけど、神様にもコントロールができないくらいやらかしまくってるらしいんだよね。イレーヌのお父さんに魅了かけたのも第3王子のジョブとかスキルかもしれないし、さっさと殺しておこうと思ってるんだ。大丈夫だと思うけど、万が一ばれてしまった場合は逃げるから、その時は指名手配される覚悟しておいてほしいんだよね。」
「……驚きましたが、わかりました。私としても、あの王子は殺したい程憎いと思っていたので。ダロス様との仲にヒビをいれてくれたことは許せませんし、確証はありませんが、父に魅了を使ってあんな事になったのであれば、到底許せるものではありません!」
そういう大事な事はもうちょっと悩んで考えた方がいいよ?
勢いで生き過ぎだと思う。
恋愛脳の暴走を感じるぞ。
「それに、そんな重大な秘密を打ち明けてくれたと言う事は、ダロス様が私を信用して下さったということですよね?」
「……え?あー、まあそう……かな?」
本当は、あとでバレるよりは今バラして最悪国に追われる方が人としてマシかなって思っただけなんだが。
ただまあ、イレーヌちゃんはその辺りでウソはつかなそうだとは思ってるから、そういう意味では信用してることになるのか?
「私は、貴方に信じて貰えているという事実だけで、どんな困難にも立ち向かえると思います……。」
顔を赤くしながらそんな事言われたらこっちも照れる。
よし!この娘も俺の大切な人リストに登録完了!
何が何でも守るぞ!まもるもるもるまもるぞ!
「ところで……、」
そう言って、イレーヌちゃんが俺の左右の席に座る女の子2人を見る。
「その方々は、ダロス様の愛人様2人目と3人目ですか?」
なんかちょっとキレてる?
怖いよ?
「紹介してなかったな。この娘はガラテア。女神様の依り代ボディを普段管理してもらうために、魂を付与した人形。」
「……よろしくお願いします。」
「んでこっちが、女神様ボディに魂付与するための実験台兼護衛として作った7号機ことナナセ。」
「よろしくっス!」
「はい?女神様の依り代?魂の付与?人形?愛人であることをごまかす冗談とかではなく?」
違うよ?
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