第7話

 肉を食べるぞ!食べるべるべる食べるんだぞ!




 おかしいな……前世では、普通に肉を食べてたはずなのに、今のこの飢餓感は何なんだろう……。


 ダロス君の記憶に引っ張られてるのか……?


 なんて頭の隅で冷静に考えながらも、調理を続ける。


 くそ!この包丁全然切れねぇな!この小屋にあるもんだからクソみたいな安物なのか、この世界ではこれが標準なのかもわからんけど!




 とりあえず豚肉みたいに使えばいいか?


 よし!焼こう!


 味付けは何が良いだろうか!?生姜焼きか!?チューブの生姜あるかな!?あるわけねーか!




 っておい、ちょっと待て。




「しまった、重大なミスに気が付いた。」


「どうしました?」




 いつの間にか隣にいたサロメが心配そうに聞いてくる。


 美人だからシリアス顔もキマってるけどさ、よだれ出てるぞ?




「調味料が無いんだ。流石に調味料なしでジビエはどうなんだろう?最低でも塩と、できればスパイス類がほしいな……。ハーブもあれば尚いい」




 ハーブもスパイス詳しくねーけどな俺!


 でも絶対この野性味あふれる肉には、ハーブとかスパイスは必要だろ!




「……わかりました。少々お待ちください。私が手に入れてまいります。」




 サロメが涎を拭きながら宣言する。


 美人は、そんな所作でも奇麗に見えて羨ましいな。




「手に入れるってどうやってだ?買ってくるのか?」


「私のジョブはアサシンです。本邸のキッチンに忍び込むのなんて朝飯前ですよ。」




 朝飯前だな確かに。


 これは突っ込んだ方がいいのか?


 てか朝飯前って言いまわしこの世界にもあるのね。




 たださ、クールなキャラっぽかったのにいきなりそういう事言いだすとどう反応していいかわからないから控えてね?


 今後は構わないけども。




「そうか……。じゃあ任せる!もし怒られたら全部俺のせいにしろ!」


「かしこまりました。全てダロス様のせいで調味料を盗んでまいります。」




 ダロス君の記憶の中にすらない程のキビキビとした動きで小屋を出て行くサロメ。


 さっき拭いたはずの涎また出てるよ?




 じゃあサロメが戻る前に肉以外の準備しておくか。


 まずは薪だな。


 乾燥した木を探してくるか。


 家の周りにあればいいんだが……、木……木か……。




 探してみると、すぐに木が見つかった。


 昨日、イレーヌちゃんちの木を叩き折り、削りだした2号だ。


 そういえば、昨日帰って来てからここに放置してたな。


 ササっと作ったにしては、我ながらいい出来だ。


 胸についてる目のマークもチャーミングだし。




 これ目か?目のつもりでつけたけど、なんか頭が無い分この部分は乳首か何かに見えてきたな……。


 それで2号は、視界共有ができなかったとかあるか……?




 いや大丈夫!多分ジョブレベルが上がったから3号と視界共有できるようになったんだ!そうに違いない!


 消して乳首のせいだとは思いたくない!


 乳首……じゃなかった、2号を燃やすのはやめておいて、適当に落ちた枝を拾ってくる。


 そこそこいいのが集まったし、さっさと火をつけるか。




 あれ?どうやって点火すんだ?


 ライターとか無いよね?


 マッチ……もなさそうだな。


 となると……、もしかしてこの竈とか暖炉の隣に置いてある石は、噂に聞く火打石ってやつか?


 これで点火ってできるんだろうか……?




 ダロス君の記憶によると、確かにこれは火打石で、いつも点火はこれを使っていたようだ。


 しかし、俺の前世の記憶と比べると火打石の火の力はかなり強いらしい。


 火の粉というより、火のショットガンみたいな感じで出るとか。


 試しにやってみると、一発で火が燃え移った。こえーなこれ。




「ふらふらふらふらふらいぱん~、はないから鍋で代用するよ~♪この公爵家はクソだよ~♪」




 ついつい上機嫌で即興の歌を作ってしまう。


 ブロードウェーからスカウトが来てしまいそうな出来に思わずにっこり。


 さっきからニッコリしっぱなしだが。




「戻りました。素晴らしい歌ですね。」


「歌の部分だけ記憶から消せ。今すぐにだ。」


「無理です。」




 後ろにニヤニヤしたサロメが立ってた。


 全く気配を感じなかった……、これがアサシンの力か!?


 クソ!これ使われたら気軽に一人でアレもできない!




「調味料どんなのあった?」


「私も正直よくわからないので、有ったものを片っ端から少しずつもらってきました。」


「へー、少しってどれくらい?」


「こんな感じです。」




 そういうと、サロメちゃんは、どこに持っていたのか大き目のかばんをテーブルの上に乗せ、中から大量の小さい木製の容器を取り出した。


 少しって、容器単位で持ってきたのか。すげーな。




「誰にも見つからなかった?」


「少なくとも何も言われなかったので大丈夫なんじゃないでしょうか?」


「……アサシンもってたら、着替えとか覗き放題なんじゃね……?」


「そういう場所は、アサシンのジョブが持ってるスキルを使うと警報が鳴る魔道具が設置されているので大丈夫です。」




 あ、やっぱそういうこと考える人いるんだ?


 俺が変態というわけじゃないんだよね?そうだよね?




「因みに、この小屋にはそんなものないので、私が本気を出せばダロス様が寝ている間に気が付かれず添い寝することも可能です。」




 ニヤッと笑いながら揶揄ってくる。


 クソがっ!俺が童貞だからってバカにしやがって!そんなもん効かないぞ!




「忍び込まなくていいから、何ならこれから毎晩一緒に寝るか?」




 どうだ!?こっちもニヤっと笑いながら反撃してやったぞ?




「………………………………………………考えておきます。」




 サロメは、顔を真っ赤にしながらそう答えた。


 何なの本当お前?やめて?俺をこれ以上刺激しないで?




 気を取り直して肉を焼くぞ!


 鍋もいい具合に熱されてきてるしな!


 本当は、スパイスなんかをある程度肉と馴染ませて時間かけてからの方が臭み消しになっていいはずだけど、今日はもう待てない!


 できれば今すぐかぶりつきたい位の衝動に駆られてる!




 というわけで!なんかよくわからないスパイスを適当に肉にまぶし塩をふる!


 先に、解体時にとっておいた脂身を使って油を引き、肉を投入!


 ジューっと音と香りを上げながら、肉が焼けて行くのを見ている俺とサロメ。


 何この娘?食いしん坊キャラなの?




 片面を焼いたら、裏返してもう片面だ。


 この世界のイノシシ肉がどんな感じなのか知らないけれど、やっぱり中までしっかり火を通しておいた方が良いだろう。


 まあ、熟成とかも全然していないから、味もそこまで大したものでもないだろうけども……。


 それでも肉は肉だ!食いたいんだ!本能なんだ!




 よし!これはもう十分火が通ったと考えていいだろう!




 大きめの皿2枚に、山盛りで魔猪肉を盛り付ける。


 ナイフとフォークで切り分けたいところだけれど、この小屋にあるステーキ用のナイフは切れ味が0なのがダロス君の記憶よりわかっているので、フォークオンリーだ。


 どうせ野性味あふれる肉なんだ!ワイルドにかぶりつけ!




「さぁ!喰え!」


「いただきます。」




 サロメと2人で肉にかぶりつく。




 あれ?


 旨い……、ただひたすらに旨い……。


 いや、前世の豚肉と大して変わらないくらいだから、それほどでもないのかもだけど、イメージしてたのとは違ったな……。


 臭みも無いし、あーうめぇ……。語彙力ていかするー……。




「……ぐすっ…………ひぐっ……!」


「ん?」




 となりを見るとサロメちゃんが何故か泣いている。


 何故?そんな泣く要素あった?




「大丈夫か?」


「……はい……、久しぶりに美味しい食事ができたので……思わず涙が……。」




 あー、記憶を見る限りダロス君と同じくらいには飢えてたもんねぇ。


 よくあの食生活でそこまで成長できたもんだよ。うんうん。


 ってみてたら、もうサロメの皿の上が空になってる……。


 しゃーない、成長期だろうしな。


 でも、俺より多く盛ったんだが?




「こっちも食べるか?」


「宜しいのですか?」




 まだ食べたそうにしていたので、俺の皿を渡す。


 現時点で、サロメが食べた分の半分くらいしか食べてないけど、俺は前世の記憶も残ってるからか、そこまでの感動は無い。


 腹もいっぱいだし、喰いたい奴が喰うべきだ。




「代わりに今夜俺と添い寝な。」


「私にメリットしかありませんが?」




 ……よく食え。








 食べ終わり、井戸から汲んできた水で洗いものも終えてから、残りの肉について話し合う。




「まだまだ肉あるんだけどさ、日持ちする保存方法って何か心当たりある?」


「私の知識ですと、冷蔵庫に入れるくらいでしょうか。」


「本邸にはあるんだっけ?」


「はい、高級な魔道具なため、もちろんこの小屋には在りませんが。」




 一応公爵家の息子なんだけどね俺。まあ、魂は別人だけど。




「肉とか毛皮ってどっかで売れないのかな?」


「私も詳しくはありませんが、冒険者ギルドで買い取ってくれると聞いたような気がします。」


「そういえば昨日も言ってたな。その冒険者ってなんなの?」


「名前と違って冒険なんてしてないらしいですけれど、傭兵とか、何でも屋ってイメージで大丈夫だと思います。その人たちに仕事を斡旋したり、とってきた物を買い取ったりしてるのが冒険者ギルドだったはずですね。」




 ふーん、その感じだと、確かに俺が取ってきた魔猪(推定)も買ってもらえるかも?


 でも、折角の肉だし、多少は保存食にしておきたいな。




「少しだけ肉で保存食作って、あとは全部売ってしまおう。」


「ダロス様は、保存食なんて作れるんですか?」


「わからない、実際に作ったことはないから。なんか、油で肉を煮ると腐らないらしいぞ。あのイノシシから脂身もいっぱいとれたし、なんとかなるだろ。失敗したらごめんな。」


「私は、全く料理ができないので、その部分に関して文句を言うつもりはございません。」




 ホントにな。


 一応お前使用人だからな?


 美人でおっぱい大きくてちょっと俺の事認めてくれてるからって調子乗んなよ?


 体大事にしろ。




 この料理名は、確かコンフィとかいうんだったっけか?


 まあ、聞きかじっただけの料理だし、なんとなくでいいな!なんとなくで!


 という軽いノリで作り出す。


 確か、低温でじっくり加熱し続ける方がよかったはずなので、竈じゃなく暖炉で作ることにする。


 竈の燃えてる薪をスコップでそのまま暖炉へ投入。


 ついでに薪を追加しておく。


 それらからちょっと離れた所に、鍋に塩と香辛料すこしと、大量の脂身と肉を入れた状態で置いておく。




 これでいいんじゃないかな?ダメならもう諦める……。


 まさかこんなローテクな感じの料理することになると思ってなかったからなぁ……。


 先に知ってたら動画とかで予習してたのに……。




「とりあえず料理は、このまましばらく放置。続いて運搬用の人形を作るぞ。」


「人形で運ぶんですか?」


「どでかい猪もこのちっこい人形の3号君で引っ張ってこれたから、大丈夫だと思う。」




 そう言って、先ほど魔猪の解体に使った3号君を見る。


 なんだか、朝作った時に比べて随分禍々しくなったような……?


 気のせいだろうか……。




「私は何をしたらいいですか?」


「応援でもしてて。」


「応援ですか?」




 サロメにできる事が特に思い浮かばなかったので、適当に返してみただけだったんだけど、何か考え込んでいる。


 と思ったら、俺の耳元に顔を近づけてきた。




「頑張ってくれたら、夜添い寝する時に、ほっぺにキスしてあげますよ?」








 は!?


 あれ?何がどうなった?気が付いたら運搬用人形の4号くんが出来上がっているぞ?


 サロメに耳元で囁かれてからの記憶がおぼろげなんだが?


 それにしても、6足歩行型とは、なかなかセンスが良いじゃないか俺。


 これは、昆虫をモデルにしたタイプだな。


 でも、人型じゃなくても人形扱いでいいんだろうか?


 ……うん、人形生成がちゃんと発動してるから問題ないらしい。




 試しに乗って操作してみる。


 今回は、視界共有なんてことはせずに、車を運転するような気持で操作する。


 多分その方が安全なんじゃないかな。


 車の運転すら暫くやってないけど。




 特に問題なく動かせるようなので、いったん座らせてから操作を解除する。


 替わりに3号を操作してポンポンと4号の荷台に荷物をぶち込む。


 生肉や生革、骨が飛び交う様は、中々スプラッタな光景だった。




 準備はできた!しかし出かける前にやることがある!




「コンフィはどうなったかなぁ?」


「何となく良い感じなのではないでしょうか?」


「悪い感じだとしてもわかんねーもんな俺ら。」




 まあ、じっくり低温で加熱するって言われてたし、もっと長時間やった方が良いのかもだけれど、無人の家で油を火の回りに放置しておくのは怖い。


 後は余熱で何とかしてもらおう。


 失敗したら、その時はその時だ。


 ということで、暖炉の火を消してしまう。




「あら?火消しちゃったんですか?」


「だって、誰もいないのにつけっぱなしだと不安じゃない?」


「私がお留守番してますが?」


「お前も一緒に来るんだよ!一人じゃ不安だろ!」


「えぇ……?私割りと引きこもり歴長いので出かけるの不安なんですけど……。」




 知りません。


 断固たる決意で連れて行きます。


 俺だってこの世界の町とか怖いんだよ。


 手握っててくれ。






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